15話 泣くなよー


(レイセ視点です。)


 奴が領域を展開したのに合わせて俺達も領域を展開した。


 俺は黄金の領域。


 アルコルは赤黒い領域。


 アルコルを視認できたのはそこまでだ。


 白い領域の密度が濃い。


 視界は真っ白だ。


 そして、白い領域から物凄い圧が掛かっている。


 領域同士がぶつかり合い、押し合っている。


 が、俺が展開出来ているは俺の手の届く範囲までだ。


 領域は自分から離れれば離れるほど、維持するのが難しくなる。


 やつの領域は俺達二人を範囲内に収め、すさまじい圧を掛けて来ている。


 これまで、俺は領域を、領域内の事象を把握する為に使って来た。


 矢や魔法を領域に固定した事はあるが、領域で相手に干渉しようと考えた事は無かった。


 奴の領域は濃密で凄い圧を掛けて来ている。


 領域の強力な物理干渉だ。


 もし今、俺が自分の領域を解いたら、圧で押しつぶされて死ぬだろう。


 領域を展開するのは、脳にかなりの負担が掛かる。


 俺は全開で領域を維持している。


 それも物理に干渉するほどの領域を食い止めている。


 さっき奴に連続攻撃を叩きこんだ時にもかなり無理をした。


 脳へかなりのダメージを受けている。


 奴の姿を視認できない。


 この建物の中に入った時点で気配を探れないでいた。


 奴の動きを完全に見失っている。


 かなり不味い状況だ。


 そして、領域を展開するのに意識が割かれ、まともに思考できない。


 考えようとするが、奴がかけて来る圧はどんどん強まっていく。


 脳に意思があるなら、脳自体が悲鳴を上げているだろう。


 頭が痛い。


 割れそうだ。


 そして、奴が繰り出した死のイメージが継続して俺の存在感を焼いている。


 領域展開を維持しつつ、存在感を補強する事もしなければいけない。


 肉体も、領域ごと押し込まれ、圧が掛かっている。


 指を少し動かすだけで、かなり体力を使う。


 物理的な負荷に耐えるだけでなく、現状を維持するだけで、根源から力をありったけひっぱり出さないといけない。


 領域同士の激しい押し合いがあるが、音は発生しない。


 辺りは静寂に包まれている。


 俺の心情としては叫び声を上げたい状態だが。


 アルコル:「レイセ!」

 アルコル:「油断するなよ!?」

 アルコル:「必ず何か仕掛けて来る」


 レイセ:「わかっている!」

 レイセ:「随分俺に優しいな」


 アルコル:「まだお前に死なれると困る!」

 アルコル:「それだけだ!」


 身体が重い。


 だが、俺は剣と盾を構えた状態を維持している。


 アルコルもカタナと魔銃を構えた状態だろう。


 突然領域を突き破って斬撃が俺に迫る。


 俺は盾を使って防御した。


 盾は無事だが、受けた左腕が折れた。


 俺は腕の回復のために、根源からの出力を増やす。


 また脳にかなりの負担が掛かる。


 さっき相殺した時より攻撃力が上がっている。


 そして、攻撃の出所がわからない。


 防げたのは、シロさんの未来予知のお陰だ。


 レイセ:「アルコル!」

 レイセ:「突然攻撃が来る!」

 レイセ:「未来予知じゃないと防げないぞ!」


 アルコル:「うるさい!」

 アルコル:「こっちにも来た!」

 アルコル:「なんとか防げたが、防ぐのがやっとだ」

 アルコル:「攻撃を受けた時に奴の思考を読んだ」

 アルコル:「この空間が奴自身だ!」

 アルコル:「今、俺達は奴に呑み込まれている!」


 レイセ:「奴の弱点は?」


 アルコル:「無い」

 アルコル:「思考を読み取れたのは表層だけだが」


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!」


 奴の笑い声が、遠くから、近くから聞こえる。


 領域自体が奴なら、領域に攻撃を繰り出せばダメージを与えられないか?


 いや、無駄だ。


 奴は死んでも生き返る。


 奴は神だ。


 命のストックを無数に持っているんだろう。


 流石は神。


 出来る事が何もない。


 ただ、耐える事しか出来ない。


 俺は、俺達は、どうすればいい?



(フレド視点です。)


 ハァ、ハァ。


 吸血鬼の騎士数十体を倒した時点で強敵が出た。


 悪魔、ベリアル。


 金棒を持った大男だ。


 空中で反射させて威力を上げていた銃弾全てをこいつに命中させた。


 ベリアルの体に大きな穴がいくつも空いた。


 だが全て回復した。


 不死身らしい。


 理不尽すぎて笑える。


 俺は一人でここに残った。


 武器に成ってくれる仲間がいない。


 攻撃が通らない。


 部分融合で作った大盾で攻撃を防ぎ続けているが、手が無い。


 金棒の連続攻撃が激し過ぎる。


 息が切れる。


 俺はここで死ぬな。


 レイセ達にこいつが加勢しないよう、ここで引き付ける。


 長くは持たないが、やれるだけやる。


 ピナンナ。


 済まない。




 アリア:「諦めてどうする」


 ニーナ:「フレド、頑張って!」


 リアンナ:「そうよ、頑張って~」


 フレド:「うるせえ!」

 フレド:「来たんなら加勢しろ!」

 フレド:「応援なんか意味あるか!」


 ニーナ:「助けてやるか」


 アリア:「嬉しい癖に」


 リアンナ:「素直に喜びなさいよ~」


 ニーナが剣に。


 アリアが盾に。


 リアンナが俺の影に入った。


 ベリアルの金棒を盾で受けた。


 同時に剣で攻撃。


 奴の左腕を切り落とした。


 ベリアルは無言だ。


 左腕は回復しなかった。


 攻撃が通る。


 リアンナのバフが効いている。


 奴の動きを俺の動きが上回っている。


 俺が受けたダメージも回復してくれた。


 はー。


 勝てそうだ。


 もう一度、ベリアルの金棒を受けた。


 同時に喉に剣を突き刺す。


 ベリアルは血を吐いて倒れた。


 そして、黒い霧に成って消えた。


 勝った。


 勝てた。


 武器があるだけで、これほどの違いとは。


 は、は。


 完全に死ぬと思って覚悟してしまった。


 涙が出てきた。


 フレド:「来てくれて、ありがとう」


 ニーナ:「泣くなよー」


 アリア:「ふふ」


 リアンナ:「状況は?」


 フレド:「建物の入り口が見えるか?」

 フレド:「あの入り口からレイセ達が中に入った」


 アリア:「中は広いわ、闇雲に動いても迷うだけ」


 フレド:「ああ、他の仲間を探そう」

 フレド:「他の仲間も、敵が出たらレイセ達を先に行かせた筈だ」


 リアンナ:「建物の構造上、魔物の王がいそうなのは、奥か上なんだけど」


 フレド:「状況が読めないので何とも言えないが、魔物の王は後回しだ」

 フレド:「俺みたいに死にかけている仲間がいるかもだ」

 フレド:「仲間を拾ってからレイセ達に加勢する」


 アリア:「レイセとアルコルは、今魔物の王と戦ってるかしら?」


 フレド:「あれからかなり時間が経っている」

 フレド:「その筈だ」


 ニーナ:「急ぎましょ」


 フレド:「そうだな」


 俺は涙を拭いた。


 休んでいられない。


 先に進む。




 建物の中に入った。


 広場だ。


 複数個所に敵の反応がある。


 どっちに進むべきか?


 ニーナは勘が良い。


 ニーナに決めて貰おう。


 フレド:「ニーナ、どっちに進む?」


 ニーナ:「じゃー、右で」


 アリア:「了解」


 リアンナ:「信用して良いのかしら?」


 フレド:「誰か一人に会えば、状況がわかるかも」

 フレド:「右には魔物の王はいなさそうだしな」

 フレド:「右に行った理由が有る筈だ」


 ニーナ:「そうな」


 リアンナ:「ニーナ、理由は?」


 ニーナ:「ん、勘」


 アリア:「言うと思った」




 右に行くと通路にアスマが立っていた。


 フラフラしている。


 胸から血を流している。


 アスマの前にはワニの様な怪物。


 リアンナはアスマの影に入って回復させた。


 マサト、リク、メイ、オウジが端で倒れている。


 武器に成っていた仲間はそのままだ。


 武器に成ったまま気を失っているのか?


 アスマ:「助かった」

 アスマ:「レヴィアタンの噛み付き攻撃が厳しくて、後退しか出来なかった」

 アスマ:「その前に胸を刺されて死にかけていたしな」

 アスマ:「リアンナが回復してくれなかったら死んでいた」


 フレド:「ニーナ、アリア、武器に成ってくれ」

 フレド:「ワニの怪物を倒してから、アスマに話を聞く」


 ニーナ:「了解」


 アリア:「同じく」


 二足歩行の巨大なワニの怪物が、噛み付き攻撃をしてきた。


 俺は剣と盾で攻撃を防ぐ。


 アスマが側面から奴に攻撃を仕掛ける。


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