14話 それで行く

 レイセ:主人公。黒

     戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

    四足移動。

    背中に羽根がある。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 リビア:元守護者。

     レイセと北の大地に旅立った。

     聖国クリアを立ち上げた。

 ボーデン・バレット:傭兵団ラーウム所属。

           ソロのBランク冒険者だった。

           閑話に登場。

 ラトス・ミュラ:元ルピアスの将。

 クルダム・ゼロス:ノスヘルの代表。

          文官。

 セムリス・リルム:クルダムの腹心。

          文官。

 ニシエラ・ラドラルフ:クルダムの腹心。

            文官。

 フレドリック・ユルロア:ノスヘルの騎士。

             副騎士団長。

 ピナンナ・ラクトリ:ノスヘルの騎士。

           騎士団長。



 ノスヘルの壁はもうすぐだ。



 プロミが見えた。


 赤い光を放っている。



 敵の強者と一騎打ちの最中だ。



 俺はレムリアスから降りて走った。




 強者の槍とプロミの薙刀を掴んで止めた。


「聞け!!」

「俺は『最初の冒険者』クリア・ノキシュだ!!」

「今から怪物がやってくる!」

「戦闘を中止して逃げろ!!」

「お前、敵の将だろ?」

「魔物の王と同等の化け物がここに向かっているぞ」


「そんな嘘に騙されるか」


「間に合わなかった」

「今来た」


 手を放した。


 将は後退した。




 仮面の男が空から降って来た。


「プロミ、リビアは?」


「怪我人の手当てしてるわ」


「仮面の飛ぶ斬撃は防御不可能だ」

「斬撃は倍速で反射する」

「手で触れられると一瞬で灰になる」

「そして、動きが異様に洗練されている」

「死角が無い」


「は?」

「何それ?」


「マジだぞ」


「そんなの連れてこないでよ」


「悪いな」


 斬撃が飛んで来た。


「プロミ」

「絶対に躱せよ」

「結界は無駄だぞ」


「うるさいわね」

「試させて」


「射線に入るなよ」


 プロミは結界を限界の大きさで四十五枚重ねて展開した。


 結界を透過するように切り裂いて斬撃が飛んでくる。


「倍速で反射してくるぞ」

「躱せよ」


「無茶苦茶ね」


 ギリギリで躱した。



 連撃が飛んでくる。


 躱しながら会話する。


「体術は試すなよ」

「触れられると灰になる」

「即死だ」


「どうやって知ったの?」


 右腕を見せた。


「掴まれた瞬間、左手で切り落とした」

「掴まれた腕が灰になった」


「よく死ななかったわね」


「黒竜が割って入ってくれた」

「近距離はダメだ」

「斬撃を躱しながら遠距離から追い込むしかない」


「斬撃で撃ち落とされるが、それで動きを止めるしかない」


「レイ!」

「仮面を狙ってくれ!」


 『光の旋律』は伊達じゃない。


 『光の旋律』とは彼個人の呼び名でもある。


 光の矢が仮面の男を穿うがった様に見えた。



 速すぎて視認できない。


 後からキンと言う金属音が鳴り響く。


 金属音は連続で鳴っている。



 だが仮面の男は無傷だ。


 刀で全て切り裂いている。



 壁の上のレイに斬撃が飛んで行った。


 金属音は止まってしまった。


 打ち返す余裕が無いのだろう。


 壁の結界は砕けた。



 プロミが矢を放とうと構えた。


 足が止まっている。


「プロミ!」

「円の軌道で回り込みながらだ!」

「躱せないぞ!」


「そんなことしたら、被害が広まるじゃない!」


「みんな!」

「今から斬撃が周囲にばら撒かれる!」

「死ぬ気で下がってくれ!!」

「一応警告した」

「お前の命には代えられない」

「矢を放つなら、お前も躱す事を考えてくれ!」


「…………」


 プロミは連続で矢を放った。


 男を中心に、円状に動きながら射っている。


 この距離で躱しながら攻撃するにはそう動くより他は無い。


 斬撃が周囲にばら撒かれる。


 やはり、躱せない兵士たちが死んでいく。


 しかし、集中して放たれると、躱せなくて順番に死ぬ事に成る。


 これしか足止めする方法が無かった。


「躱せない奴は下がれ!!」


 阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図だ。


 だが構っている余裕はもうない。



 白い光の帯が天に向かって立ち昇った。


 男に向かって倒れてくる。


 リビアだ。



 仮面の男は光を斬撃でかき消した。



 リビアも矢を連続で放つ。


 レイの矢も再開した。


 ボーデンも魔法の矢を打ち込んでいる。


「ラトス!」

「みんなを下がらせろ!」


「やっている!」

「見ればわかるだろ!」


「視力が落ちてる!」

「いいからさっさとやってくれ!」



『『ザ・ビュー シーン アット・ジ・エンド(最終到達点)』』

 

 もう一度、黒い空間を広範囲に展開する。


 目からも血が垂れる。


 俺は霧に成って近づいた。


 攻撃する時は霧化を解かないといけない。


 強く光る長槍で貫く。


 だが、斬撃で柄を切り落とされていた。



 もっと近づく。


 霧に成って。


 大剣を振り下ろした。


 刀で切り落とされる。


 じきに霧になる。






 矢の攻撃は続いている。



 神獣達を使って反撃に転じられないか考えたが、上手い手を思いつかない。


 神獣を具現化してしまうと、逆に奴の盾になってしまう。


 

 矢を浴びせ続けるしか手立てが無かった。



 ばら撒かれる斬撃と矢の雨を霧で通り抜けつつ攻撃を浴びせる。




 全て刀で両断している。


 すさまじい刀術だ。



 観察していた敵の将達も矢で加勢し始めた。






 二時間経った。


 男は無傷だ。



 俺は限界を超えていた。


 近づけるのは俺だけだ。


 奴が音を上げるまで付き合う。


 そう決めた。






 さらに三時間ほど経った。



 男は空中を蹴って退却した。



 たぶん奴は本気じゃ無かった。


 向かって来なかったのは様子を見ていたからだろう。







 残った敵兵は二千程。


 こっちは五百に満たない。


 ノスヘルの壁がズタズタにされ、崩れ落ち、内部が丸見えになっている。


 西側の建物の多くが切られて倒れている。



 敵兵は引き上げていく。




 俺はひどい頭痛に見舞われていた。


 霧に成るのはいい。


 霧から元の姿に戻るのに、脳に負担が掛かる。


 散ってしまった自分の意識を引き戻すのには強いイメージ力が必要だ。


 それを使い過ぎた。



 平衡感覚が狂っている。



 引き上げていく敵兵を見て、気力が尽きた。




 地面が俺に向かって倒れてくる。




 俺は意識を失った。










 目が覚めた。



 どうなった?



 俺は起き上がろうとした。


 体がベッドに固定されている。


 目がかすんで良く見えない。


 頭痛は相変わらずだ。


 傍に誰かいる。


「なあ、あれからどうなった?」


「心配しないで」

「大丈夫ですから」

「もう少し眠って下さい」


「そうか」

「大丈夫か」

「お前の大丈夫は少し不安だ」


「和平交渉が進んでいるわ」

「貴方は眠ってて」


「…………」

「もう少し眠る」

「結局何人死んだ?」


「…………」

「教えたら眠ってくれますか?」


「悪かった」

「余計眠れなくなる」

「寝るよ」






 また目が覚めた。


 視力が大分戻っている。


 頭痛も随分ましだ。


 体が固定されたままだ。


 手で引きがそうとして気付く。


 両腕の部分融合が解けている。


 具現化しようとすると頭に鋭い痛みが走る。



 無理そうだ。



 気配察知も鈍っている。




「誰かいないか?」


「起きたんですね」

「今行きます」


「拘束を解いてくれ」


「今外します」


 固定具が外れた。


「何故固定を?」


「…………」

「部分融合が暴走していました」


 部屋の壁が数か所崩れていた。


「怪我は無いか?」


「ええ、大丈夫です」


「そうか」

「立ち上がらせてくれ」

「両腕を具現化出来ない」


 寝返りを打ってベッドに座る。


 リビアが両脇を掴んで引き上げてくれた。


 足には力が入る。


 足は大丈夫そうだ。


「プロミは?」


「貴方の代理で、和平交渉中です」


「俺の代理か」

「どういう話になってるんだ?」


「俺が説明しようか?」


「フレド、いたのか」


「体調は良く無いみたいだな」


「ああ、全快には程遠い」


「だが説明させてもらう」

「急いでるんでな」

「セラリアが滅んだのは魔物の王が配下を差し向けたせいだった」

「仮面の男も、魔物の王も、跳ねのけてかないとまた滅ぶ」

「強い王の元にひと纏まりになって、困難に立ち向かおうという流れに成っている」


「それで俺か」


「そう、あんただ」


「今回参加した十三都市以外も同じ考えなのか?」


「基本的にはそうだ」


「例外は?」


「あんたが戦うのを見ていない奴らの中には納得しない奴もいる」

「手合わせして欲しいとよ」


「わかった」

「回復したらな」

「それで、決心は付いたのか?」


「俺の話か?」

「ピナンナの頼みは断らない事にしている」


「はっ、そうか」


「そう喜ぶなよ」

「照れくさいぜ」


「お前は雑に扱っても良心が痛まないからな」


「上げてから下げるなよ」

「良い性格してるぜ」

「そんな先の事よりも、あんたの意識が戻ったんだ」

「早くプロミと交代してくれ」


「あいつが交渉していれば大体上手く行く筈だろ?」

「違うのか?」


「行く訳無いだろ」

「何言ってんだ!」

「他国の女王だぞ」

「クルダムとプロミで揉めてんのに、他都市とも揉め始めてる」


「俺も都市間の交渉なんてした事無いぞ」


「あんたが王だ」

「しっかりしてくれ」


「むう」

「リビア、補佐してくれ」

「得意だろ」


「聖都では、私が行くとみなが黙ってくれました」

「でも、ここではそうは行かないでしょう?」

「ここからが貴方の器の見せどころではないでしょうか?」


「ああ、そうだった」

「器ね」

「俺の器」

「お前の決めた俺の器」


「もう」

「子供では無いのです」

「駄々を言わないで」


「ちょっといじめてみたくなった」

「ごめん」


「なにいちゃついてんだ」

「さっさと行くぞ」





 執務室に急ぐ。



 俺の国か。


 俺が火種を作り、それが国になるまでに五年程しか経っていない。


 とんとん拍子に話が進む。


 やはりおかしい。



 上手く行き過ぎている。



 まだ何か有るのか?


 考えすぎか?


 嫌な予感がする。


 俺の嫌な予感はよく当たる。


 俺の国にこれから何か有るのか?



 俺の国。


 …………。


 何と呼ぶ?


「俺の国には名前が付いたか?」


「クロトです」


「…………」

「俺の苗字を聞いたんじゃ無いんだが」


「私の名前でもあります」

「貴方の気持ちが少しわかりました」

「誇らしい」


 うん、前向き。


 リビアらしいのか?


 聖都に俺の名前を勝手に付けた反省が活かされていない。


 だが、かわいいから許す。


「お前がそれで良いなら、それで行く」


 プロミは怒るだろうが、名前なんてただの記号だ。


 シェイクスピアだっけ?


 間違っている気もする。


 中学生の知識なんてそんなものだ。


 所詮俺は中学一年レベル。


 仕方ない。


 王になんて成るつもりなく生きてきたんだ。


 これから頑張るしかない。


「名付けたのはプロミか?」


「貴方の世界の、運命の女神の名でもあるんですよね?」

「素敵です」


「あいつそういうの好きそうだな」


 プロミまで俺の名前を気に入っているとか。


 まあ、そういうかわいいところも有る、あいつも。


 かわいいから許す。



 上から目線は二人に失礼か?


 かわいいんだから仕方ない。


 この二人はこれからもこういう事するんだろうな。


 もう何か他にもやっている気がする。


 かわいいと思える範囲で頼む。



 着いた。


 言い争う声が聞こえる。


 フレドがドアを開ける。


 俺の部屋のつもりなんでノックは無しだ。


「…………」


「…………」


「なんだ?」

「急に黙るなよ」


「今問題が解決したのよ」


「悪かった」

「それで?」

「何を決めたらいい?」


「私とこいつの役割よ」


「クルダム、お前は文官のトップ、宰相だ」


「それは解っています」

「そういう約束でした」

「彼女は他国の女王ですよ」

「何故彼女が貴方の代わりを?」


「婚約しているからな」


「なっ!?」

「リビア様と結婚するつもりなのでは?」


「二人と結婚するつもりだ」


「…………」

「正妻は?」


「二人とも正妻だ」


「…………」

「頭が痛くなってきました」

「跡継ぎの順位で揉めますよ?」


「かもな」

「お前が悩む必要はない」

「聖国の王に成る時に正式に結婚するつもりだ」

「その頃にはお前は年寄り、引退してる」


「聖国クリアですか?」


「そうだ」


「…………」

「頭がどうかなりそうです」

「少し頭を冷やして来ます」


 部屋を出て行った。


 俺は自分のイスに座る。


 先に説明してやっていれば良かったな。


 流石に気の毒だ。


「あいつが年寄りになるまで結婚しないの?」


「この国が落ち着くまで帰れないだろ」


「跡継ぎはどうするの?」


「契約者は生殖能力が無い」

「解っていて聞くな」


「そう言ってやれば良かったのに」


「フレドが契約者の情報を喋っていない」

迂闊うかつに言えるか?」


「まー、そうよね」

「フレド、意図は?」


「この国には契約者が少ない」

「契約者同士での暗黙の了解ってやつで情報を喋れない」

「寿命が無いとは言えなかった」

「伸びるとだけしか言ってない」

「寿命が無いと知ったら俺達が危険だった」

「それほどの魅力がある」

「クルダムが知ったら、契約者になるぞ」



 問題は多そうだ。

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