4話 オタク

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     壱白を監視している。

     『能力』を持っていない、らしい。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。




 

「どうだ?」

「趣味に合いそうか?」


 白、茶色、その他は落ち着いていてそれでいてカラフルな家具、北欧系。


 家具の大きさは、彼女の体格にマッチしている。


 彼女は薄い水色の革のソファーに腰を掛け、手触りを楽しんでいる。


 機嫌が良さそうだ。


「黒戸さん、どうやって私の趣味を調べたのかしら?」


「わからん」

「あいつはちょっとどうかしている」

「まだリビングを見ただけだろ、驚くのは早いんじゃ無いか?」


「これ以上が有るって言うの?」

「まさかでしょ」


 青子はまだあいつを解っていない。


 たぶんそのまさかだ。


「俺が見るのはリビングだけで良い」

「お前は他の部屋を確認して来いよ」


「来たばかりだからそんなに気にしなくて良いのに……」

「わかったわ」


 彼女は部屋を順番に見て回る。


 リビングは三十畳。


 六人家族がそれぞれの部屋を持って、不便なく暮らせる間取りに成っている。


 部屋を全て確認するのには、少し時間が掛るかもな。



 彼女の動きが止まった。


 気配で解る。


 戻ってきた。


「青子、どうした?」

「何かあったか?」


「ふう」

「貴方の言った通りだった」

「驚いたわ」


「その部屋に行っていいか?」


「ええ、でも、私の趣味を馬鹿にしない事」

「良いわね?」


 なんだよ。


 何が有るんだ?



 部屋に入る。


 棚が目に入った。


 漫画、小説、フィギュアがずらり。


 空いた壁には、有名な漫画の複製原画が飾られている。


 デカいテレビが二台、ゲーム機はほぼ全て揃えられ、ほとんどが二台ずつある。


 ゲーミングPCも二台。


 プロジェクター、スクリーン完備。


 座り心地の良さそうなリクライニング。


 ソファー。


 ベッドも有る。



 なるほどな。


 きっと、俺の部屋にもゲーミングPCとゲーム機、テレビが一台ずつ増えているだろう。


「俺の部屋にも漫画が揃っている」

「ここに無いのもある」

「あとで見に来るか?」


「つまり、同じ趣味って事?」

「…………」

「意外」


「こっちのセリフだ」

「完備されていないゲーム機は、お前のアパートに有るからだろ」

「お前のアパートから、ゲーム機を持って来ないとな」


「最近はゲーム機を使ったゲームを出来ていないけどね」


「今、何のゲームしてる?」


「F〇Oよ」

「解る?」


「当たり前だろ」

「むしろそれしかしていない」


 彼女は嬉しそうだ。


 俺も嬉しい。


「携帯を壊してどうしていたの?」


「俺はタブレット派だったみたいだ」


「ふふ」

「私もよ」


「俺は入院中もタブレットを手放さなかった」

「この前のPU2もちゃんと引けた」


「私も引けた」


「ローマ」


「ローマ」


「お前、リビングの荷物にタブレットが有るんだろ?」

「持ってきてくれ」


「いいわよ」

「見比べましょう」


「貴方、お金持ちだから凄そうだけど、私のカ〇デアも結構やるわよ」


「いいから」

「早く見たい」


 彼女はリビングまで行って戻ってきた。


 俺はソファーに座る。


 彼女も隣に座った。


 お互いにタブレットを見せ合う。


 無記〇霊基を一つ持っていやがる。


 凸カレも有る。


「大体、似たような戦力ね」


「俺の資金力と同等だと?」

「お前めちゃくちゃだな」


「うるさいわね」

「趣味にはお金をかけるのがオタクというものよ」


「貴方はお金持ちの割にはそれ程でも無いわね」


「学生が使って良い金額を遥かに超えていると思うが」


「まあ、確かにそうだけど」


「フレンド枠空いているか?」


「いつもは空いて無いけど、たまたま昨日レベルが上がったの」

「昨日でカンスト」


「申請したぞ」


「うん」

「許可したわ」


「よろしく、七夕さん」


「グラ〇ルゾンちえみさん、よろしく」


 お前、その名前怒られ無いか?


 俺は知らんぞ。


 いや、怒ろうにも怒れないかもな。



 俺に怒るなよ。



「お前、ストーリー二部五章まで進めてるか?」


「当然でしょ」

「難易度が高くて楽しいわね」


「そうだな」

「達成感が良い感じだ」


「ストーリーが面白い」


「そうね、面白いわ」


 俺達は噛み締めるように言った。


「ブラック・バ〇ル、好きか?」


「あの演出、最高ね」


「俺が怪物を消した『能力』は、ブラック・バ〇ルに似ている」


「え?」

「ア〇ラス院の七大兵器に、似てるって言ったの?」


「ああ、パクリだ」


「神も殺せる、世界を滅ぼす事の出来る兵器と、似た『能力』なの?」


「そうだ」


「妄想じゃ無くて?」


「そうだ」

「クドイぞ」


「私は、一瞬で消えたから、どこかに転移とかさせたと思ってたけど、違うのね」


「違う」

「即死だ」

「わずかな灰しか残らない」


「何故急に話す気に成ったの?」


「説明が面倒だから言わなかっただけだ」

「ブラック・バ〇ルと同じと言えれば、楽だ」

「お前に俺の目の届かないところに行かれて死なれると迷惑だ」

「俺の目の届くところに居ろ」

「俺は強い」

「ブラック・バ〇ルだぞ」


「なんだか、立場があべこべね。私が監視してたのにね」


「お前は狙われている」

「大人しく守られていろ」


 少しは信用してくれたか?


 信用を得るには、『能力』を話さないといけなかった。


 俺には黙っておきたい事実があり、『能力』の詳しい説明をする訳には行かなかった。


 ブラック・バ〇ルと同じか。


 我ながら、良い逃げ方だ。


「お前も神ジ〇ナ持ってないのか」


「そうなの」

「次にPUが来たら、単独じゃなくても出るまで引くわ」


「俺も同じ気持ち」


「引けなかった理由を当ててやろうか?」


「ジ〇コで資金が尽きた、でしょう?」


「たぶんな」


「ふふ」

「貴方みたいな超越者と趣味が同じなんて、嘘みたいね」


「超越者は大げさだ」

「ちょっと武道が達者なだけだ」


 本当の超越者はお前だ。


「話は変わるが、ゲーム機やテレビが二台ずつあるのは、並んでやれって事だ」


「オタクの夢ね」


 たぶん、オタクカップルのな。


「まあ、な」


「オンラインゲームとか始めてみるか?」


「楽しそうね」

「やるわ」


「その前に夕飯にしよう」

「もう良い時間だ」

「五階に移動するぞ」


「五階はどうなってるの?」


「一フロア丸々、ゲストルームに成っている」

「ちなみに、一番上の十階はサンルームだ」


「雨でも洗濯物を干せるって事?」


「そうだ」


「どの階の一室にも乾燥部屋があるから、どちらかを使ってくれ」


「ああ、下着とかね」


「せっかく言及を避けたのに、言うなよ」


「私は恥ずかしく無いけど」


「からかうな」

「俺が気まずい」


「ふふ」


 そうだ、笑っていろ。


 俺の怒りを鎮められるのは、今の所お前だけだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る