3話 女神に見える

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     隠し事が有る。

     壱白を監視している。




「貸せ」


「なに?」

「怒ってるの?」


「いや」

「お前にじゃない」

「気にするな」


「そう」


「まだ持てるぞ」


「もう十分よ」

「ありがとう」


 彼女のアパートに着替えを取りに来た。


 女のわりに着替えが少ない。


 気がする。


 前の俺は女性についてあまり詳しく知ら無いらしい。


 一般的な女性の着替えの量というのはどの位なんだ?


 イメージ出来ない。


 俺の知識の量は半端じゃない。


 大抵の事は知っている。


 女性関係はきっと弱点だったろう。


 そんな気がする。


 前の俺は青子に惚れていたんだった。


 本当だろうか?


 弱点は青子だったのか?


 青子目当てで入学したか?


 でも、追ってきたのは彼女の方だろ。


 辻褄が合わない。


 どうなっている?


「お前、俺を監視するために入学したんだよな?」


「……」

「詮索しないって言ったのに……」

「ええ、そうよ」


 この場合、どうなんだ?


 やっぱり辻褄が合わないぞ。


 俺は彼女が特殊だと前から知っていないとおかしい。


 俺の目から見て、彼女は明らかに異常だ。


 偶然出会うとは考え難い。


「お前、自分の『能力』について明かす気は有るか?」

「交換に俺のを話す」


「残念だけど、私に『能力』は無いわ」

「交換にならない」


 はあ?


 お前に『能力』が無いだと?


 そんな訳あるか。


 嘘つくな。


「嘘を付くな」

「お前に『能力』が無い訳無いだろ」


「無いわよ!」

「昔は有ったらしいけど、使えなくなったわ」

「それでどれだけ苦労してきたか!」


「解った」

「悪かった」

「怒るな」


「もう」


 益々おかしい。


「お前、俺を監視する理由は?」


「詮索しないんでしょ?」

「話せないわよ」


 本当に不器用な奴だな。


 好感は持てるけどな。


「そうか」

「聞かされてないんだな」


「もう」


「監視はバレたんだ」

「俺が会いたがっていると報告しろ」


「良いけど」

「指示を出したのはもっと上よ」


「じゃ、そいつに会わせろ」


「今は無理ね」


「理由は?」


「話せると思う?」


「連絡取れないんだな」


「もう」

「なんでわかるのよ」


「仕方ない」

「とりあえずお前の上と話したい」


「気の良い人だから、来てくれると思うわ」

「貴方、スカウトされるかもね」

「私ならそうするわ」


「随分俺を買ってるんだな」


「貴方の立ち居振る舞いを見てスカウトしないなんてあり得ないわ」

「人間と思えないって感想を持ったの貴方が初めてよ」


 人間とは思えないか。


 それは俺のセリフだ。


 俺がそう思っている事に彼女は気付いていない。


 続けてしゃべっている。


「控えめに言って天才ね」


 お前に比べたら俺は凡人だ。


 何故『能力』が使えない?


 怪物共はきっとお前の『能力』を狙っているぞ。


 そうとしか考えられない。


 俺に彼女がどう見えているかは教えられないな。


 彼女は自分の本質を理解していない。


 伝えるとショックが大き過ぎるだろう。


 何とかはぐらかしておきたい。



「いつからあのビルに戻って来ていたの?」


「一週間前からだ」


「貴方の執事は何者なの?」


「俺に解る訳無いだろ」


「そう…………」

「有能過ぎるわ」

「有能過ぎて不気味」


「俺もそう思う」


「入院したって情報が有ったのに、場所を特定出来なかったわ」

「戻って来ていたのもわからなかった」

「彼は四階に住んでるのよね?」

「不安だわ」


「そんな事、話して良いのか?」


「実は、投げやりになってるの」

「任務に失敗したし」

「もう、どうでも良くなってきた」


「俺をスカウトするなら、お前の紹介って事で仲間になってやる」

「気を落とすな」


「任務の失敗は貴方の所為なんだけど…………」


「手柄に成るならそうしとけ」


「ふふ」

「そうさせて貰うわ」


 お前が笑うと、俺の得体の知れない怒りが和らぐ。


 不思議な気分だ。




 俺のビルに着いた。


 一階は不動産会社の事務所に成っている。


 入り口に男が立っていた。


 執事。


 後見人。


 有能過ぎる男。


 おそらくだが、青子の使う家具は全て揃えられている。


 しかも、彼女の好みに合っている筈だ。


 電話してから一時間位しか経っていない。


 そして、この有能な執事は、いつも俺の想像を超えて来る。


 今は思い当たらないが、他にも何か用意しているだろう。


「おかえりなさいませ」


「うん」

「ただいま」


「青子、こいつが執事の黒戸和馬だ」


「和馬、彼女が姫黄青子だ」


「始めまして」

「以後、お見知り置きを」


「黒戸さん、お世話になります」


「和馬」

「部屋は用意出来たか?」


「はい」

「青子様のご趣味に合えば良いのですが…………」


「そんな、お気遣い無く」


「青子、そいつのその言葉は嘘だから気にするな」


「え?」

「どういう事?」


「こいつは、趣味に合わないかもなんて心配はしていない」

「お前が来ることも、どんな趣味なのかも全部把握している」


「電話では、私の名前言ってなかった筈だけど」


「こいつは何故か解っていた」

「わからなかったら聞いてくるからな」


 和馬はさわやかな笑みを浮かべていた。


 否定しない。


 俺の想像通りらしい。


 この得体の知れない執事は、もしかしたら青子の特殊性に気付いているかもな。


 過去の俺が、青子に気が合ったのも把握していた筈だ。


 俺が女性を連れて来ると言ったら、ピンと来たんだろう。


「五階にお食事の準備が整っています」

「いつでもお声がけ下さい」


「うん」

「三階を案内した後、呼ぶ」


「では、ごゆっくり」

「私は仕事を片付けてしまいます」

「青子様、貴方はまるで天から使わされた女神の様に美しい」


「まあ、お上手ですね」


「言わずにはいられませんでした」

「しばらく失礼します」


 俺と同じ感想を言いやがった。


 そして、すでに食事の準備が出来てた。


 やはり想像を超えて来る。


「青子、お前、ああいうの言われ慣れて無いのか?」


「普通よりは多いかもね」

「でも、面と向かって言う人はそう多く無いわ」


「そうか」

「俺もお前が女神に見える」


「ふふ、記憶が無くなっても言う事は同じね」


「そりゃそうだろ」

「お前の場合お世辞に成らないからな」

「単なる事実だ」


「お世辞に成らない、単なる事実」

「ふふ」

「それも、前に聞いたわ」


 事実なんだから、どうしようも無い。


「お前はもっと自分を自覚しろ!」


「ふふ」

「そんな、怒る事無いじゃない」


 冷静でいられる訳ないだろ。


 くそっ、もういい。


 さっさと三階を案内してしまおう。

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