2話 瞬殺
黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。
自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。
四章主人公。
姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。
類い稀な美人
彼女と昼食を食べた。
彼女は白ワインを使ったあさりのスープパスタを食べていた。
なんだこの学校、メニューが幅広過ぎる。
流石はマンモス校といった所か。
俺か?
唐揚げ定食。
定番だ。
俺はこの学校に慣れていない。
一週間の補習では学食がやっていなかった。
普通は一回目の学食では冒険しないだろ?
唐揚げ定食に間違いは、まー無い。
安心して注文できる。
案の定、旨かった。
「ここの学食はイタリア料理が豊富なの」
うん。
そんな気がした。
俺の学食のイメージは間違っていたらしい。
食事を終えた彼女は満足気だった。
機嫌良さそうな彼女を見ている間、俺は自分のイライラした感情を忘れる事が出来た。
「ついでに学級委員の仕事も説明して良い?」
「?」
「貴方も学級委員なの」
「立候補してたのよ」
ああー、面倒。
何やっているんだ過去の俺。
もう一度教室に戻る事になった。
校舎を案内してくれていた間、彼女は俺を監視していた。
そう、監視だ。
監視と言う表現がしっくりくる。
普通、案内する時は前を歩いて、時々振り返っては説明をする。
普通はそうだろう。
だが彼女は俺に前を歩かせ、後ろからついてきていた。
何故か?
俺を視界の中に入れておきたいからだ。
彼女は俺から目を離せない。
俺には彼女の緊張が伝わっていた。
そして、俺が背中を見せている間、時々彼女は携帯でメッセージを送っていた。
定期的な報告が必要なようだ。
考え過ぎでは無いかって?
そんな事はまずありえない。
彼女の歩き方で解る。
彼女は一見モデルの様だが、歩き方は軍人に近い。
武道もそこそこやっている。
俺には確信がある。
俺に残された記憶から考えて、間違いが無い。
俺の身のこなしを百点としたならば、彼女は六十点位だ。
そんな事が解る俺は達人クラス。
思いつく限り全ての武道に精通している。
これも間違いが無い。
実力の差は歴然だ。
彼女も解っている。
だから警戒されている。
思いつく限り全ての武道に精通してる俺とは何者なのか?
俺にも見当が付かない。
この一週間、後見人以外からの接触は無かった。
まず間違いなく、監視は無かった。
軍人の様な歩き方をする彼女の目的は何なのか?
まあ、俺の失った記憶と関係が有るのだろうな。
邪魔くさい。
イライラする。
俺のこの怒りは何処にぶつければ良いんだ?
教室に戻ってきた。
彼女の説明を受ける。
体育なんかで荷物を持ち運べない時に、貴重品を預かって先生に渡す役目が有るらしい。
割と責任重大だ。
それにしても。
軍人の様な身のこなしをする十五歳の少女か。
俺自身の事もそうだが、この世の理不尽さ、不条理さに腹が立つな。
彼女の説明は終わった。
彼女は話を引き延ばしたいようだ。
俺もそれに協力したいが、話題が尽きた。
きっと彼女は、そういう任務なんだろう。
気の毒なので、一緒に帰るか? とか、方向は一緒か? とか聞いてみた。
質問を絞り出した。
その時だった。
午後二時四十分頃。
突然窓が割れた。
中に人型の影が入って来た。
怪物だ。
怪物は両腕が途中から無い。
青子は見えない何かの力で拘束され、宙に浮いている。
怪物は喋った。
『やっとだ、ついに手に入れた』
『俺達の念願が、ついに叶う』
俺の事は眼中に無いらしい。
彼女を探していた様だ。
俺は素早く怪物に近づく。
青子は声を上げる事すら出来ずにいた。
怪物は警戒していない。
馬鹿なんだろう。
俺は躊躇せずに近づく。
怪物はもう目の前だ。
怪物は俺が近づいている事に、やっと気づいた。
眼中に無いからと言っても、近づかせ過ぎじゃ無いか?
今更気付いても、もう遅い。
この間数秒。
奴はやっと攻撃してきた。
俺は、怪物の見えない力をひょいと躱し、奴の頭を鷲掴みした。
瞬間、怪物は灰になる。
拘束が解けて落下する彼女を、お姫様抱っこ。
さて、これからどうしたものか?
「…………」
「…………」
抱き心地は悪くない。
柔らかい。
そして、軽い。
ちゃんと食べているのか?
さっき食べている所を見たんだった。
一応食べていたな。
でも軽すぎる。
もっと食べた方が良いんじゃ無いか?
ふう。
隠し事の多そうな彼女に質問しても、どうせまともな答えは帰って来ないだろう。
しかし、一応質問してみるか。
反応で何か解るかもしれないしな。
「今の化け物に心当たりは?」
「無いわ」
これは本当だろう。
反応が素直だ。
表情を作っていない。
試してみるもんだな。
俺にも心当たりは無い。
見た事の無い生物だ。
俺の知識には無い。
拷問して何か吐かせた方が良かったのか?
あの時は反撃の余地を与えたくなかった。
危険を排除するのを優先した。
「降ろしてくれない?」
俺は彼女を立たせた。
「怪物は何処に消えたの?」
「さあな」
隠し事が多いのはお互い様だったな。
しかし、この状況、面倒だな。
腹が立つ。
ああー、邪魔くさい。
仕方ない。
考えを整理する。
一つ、彼女は狙われている。
一つ、俺は彼女に監視されている。
俺は彼女を守りたい。
俺は、監視される事に心当たりが無い。
俺は、隠し事が有ってもボロを出すような間抜けじゃ無い筈だ。
記憶は無いが、昔からそうだろう。
監視されるに至る可能性が思い当たらない。
監視される理由には特殊な事情が有りそうだ。
そっちは考えるのを止めよう。
彼女を守る。
何故なら、彼女は特別だ。
化け物が狙う理由に心当たりがある。
青子をどうやって守ろう?
一つ思いついた。
「怪物が言っていた言葉を覚えているか?」
「…………」
彼女は答えない。
だが、覚えている筈だ。
「お前は狙われている」
「俺達とか言ってやがった」
「まだ他にもいるぞ」
「…………」
「お前、俺のビルに引っ越してこい」
「守ってやる」
「…………」
「俺を監視するなら、近くに住んだ方が便利だろ?」
「!?」
「気付いていたの?」
「当たり前だろ」
「お前、スパイとか向いてないぞ」
「誰に倣った?」
「私が劣っている様な言い方」
「貴方が異常過ぎるのよ」
「背中に目でもついてるんじゃ無い?」
勘は悪く無いな。
「事情は詮索しない」
「来るか?」
「…………」
「今みたいな奴に狙われて、切り抜けられる自信有るのか?」
「俺が居なきゃ、連れ去られていたと思うが」
「…………」
「上に確認を取るわ」
「バレちゃったし」
「報告しないと」
「貴方、何者なの?」
「知らん」
「記憶が無い」
「俺が知りたい」
「どんな『能力』を持ってるの?」
「当てたら教えてやる」
「たぶん一つじゃ無いでしょ?」
「正解だ」
「で?」
「解りそうか?」
「見当もつかないわ」
「『能力』ね、俺の他にも『能力』を持った奴がいるって事だな?」
「…………」
迂闊だな。
かわいそうになってきた。
話を変えよう。
「まず、お前の着替えを取りに行く」
「帰る方向は同じだからすぐだろ」
「着替えだけで良いの?」
「家具とかか?」
「いらないさ」
「執事に用意させる」
「今さらだが、一人暮らしだよな?」
「ええ、その通りよ」
だろうな。
俺は携帯電話を取り出した。
「和馬、俺のビルに女性が一人越して来る」
「三階だ」
「必要な物を揃えてくれ」
「はあ?」
「いるかそんなもん」
「女性を住まわせるが、囲うんじゃない」
「変な気を回すな」
「…………」
「お前、今の、態とか?」
「いいから言った通りやれ」
「今から帰る」
「じゃあな」
「携帯、有るじゃない!」
「新しく買ったんだった」
「番号を交換しよう」
「調子良いわね」
「私の番号は貴重なのよ」
「ふん」
「俺のもだぞ」
「前は謙虚で紳士な王子様って感じだったのに……」
「今は随分ワイルドね」
「なんだ?」
「言いたい事はハッキリ言え」
「悪口は言いたくないわ」
「上品でいたいの」
嫌味は良いのかよ。
「命の恩人に対して言っていいセリフか?」
「…………」
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「お前、俺の住所知っているよな?」
「うん」
「お前三階な」
「あのビルの一フロア全部って事?」
「当り前だろ」
「間取り知らないのか?」
「知っているけど、豪華過ぎない?」
「不満か?」
「そうじゃ無いけど」
「気が引けるわ」
贅沢は敵だ、とでも言うつもりか?
戦時中か!
「お前、無駄に苦労してそうだな」
「俺が贅沢させてやる」
「余計なお世話よ」
「ダメだ」
「食事の用意は執事にさせる」
「洗濯もさせる」
「お前は働くな」
「俺の監視だけやっとけ」
「ふふ、なによそれ」
そうだ、笑っとけ。
お前にはそれが似合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます