5話 くそう

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。




 

 夕食は焼肉だった。



 和馬は俺が食べてる間、自分は食べない。


 完全に給仕に徹する。


 青子が恐縮していた。



 タレは、特性ダレとポン酢、岩塩の三種類が用意されていた。


 肉の種類も豊富。


 豪華だ。


 普通は手に入らないような霜降り肉も用意されていた。


 俺達が食べるペースに合わせて、逆算して網に乗せて行く。


 計算され尽くした、完璧な焼き加減。


 しかも、青子の好みがミディアムよりウェルダン寄りと判断して彼女に合わせにいっている。


 流石としか言えない。


 俺は遠慮せずにたくさん食べた。


 青子も釣られて食べていた。


 旨いとそうなる。


 食が細いのではと心配だったが、杞憂だった。


 彼女は幸せそうだった。



 オンラインゲームを始める前に、上に報告したいらしい。


 俺の部屋に移動する。


 移動は屋内エレベーターだ。


 階段は外の非常階段しか無い。


 俺は二階に住んでいる。


 三階と間取りは同じ。



 移動したのは俺の趣味の部屋だ。


 彼女はベンチタイプのイスに座って、電話を掛けた。


「もしもし」

「そうです」

「緊急です」

「結果から話します」

「失敗です」

「監視がバレました」

「……」

「……」

「申し訳ないです」

「以前にも話しましたが、彼は達人級です」

「今日の立ち居振る舞いを見て、貴方よりも実力が上と感じました」

「確信があります」

「いえ」

「そうではありません」

「今、彼が隣にいる為、固有名詞は出せませんが、私が会った事のある誰よりも上です」

「ええ、そうです」

「その方よりも、上です」

「それは……」

「実は怪物に襲われました」

「未知の生物でした」

「ええ」

「そうとしか言えません」

「未知の生物も何らかの『能力』を持ってるようでした」

「私では歯が立ちませんでした」

「彼に助けられました」

「今、私は彼に匿われてます」

「ありがとうございます」

「大丈夫です」

「狙いは何故か私ですが」

「ええ、それは……、彼が居ますので」

「わたしは、彼に匿われながら、彼の監視を続けます」

「ええ、そうです」

「彼は『能力』者です」

「それで、彼はスカウトに応じると言ってます」

「彼に会って貰えませんか?」

「…………」

「はい」

「わかりました」

「伝えます」

「いえ、大丈夫です」

「ええ」

「では、失礼します」


「…………」


「土曜日の午前十時に駅前の喫茶店で待ち合わせる事になったわ」


「そうか」


「俺の『能力』を伝えなくて良かったのか?」


「貴方の『能力』は危険すぎるわ」

「電話じゃ無くて、直接話すわ」

「誤解されると大変だもの」


「なるほど」

「お前は完全に俺を信じてるんだな」


「そうよ」

「貴方に私を騙すメリット無さそうだし」

「で、『能力』はまだ他にも有るのよね?」

「仲間に成るなら、彼には『能力』を説明してね」


「面倒だな」


「順番に一つずつ話してくれれば良いだけでしょう?」

「何か、説明すると不味い理由が有りそうね」


 鋭い。


 その通り。


 嘘を付くのは簡単なんだが、気取られるわずかな可能性すらも避けたい。


「私の手柄にしてくれるのよね?」


「そうなんだが……」


 隠すのはお前の為だ。


 話を変えよう。


「彼、とやらは信用出来るのか?」


「出来るわね」

「彼だけじゃ無いわ」

「私は仲間に命を預けられる」


「そうか」


 頼りに成りそうで安心した。



 明日は金曜日。


 普通に授業が始まる。


 まあいい。


 今を楽しもう。


「ネトゲ、何やる?」


「迷うわね」

「うーん」

「これはどう?」


「それかー」

「まあな」

「一つ選ぶとするなら、そうなるか」


「貴方の趣味が解ってきた」

「私と同じ、これと迷うんでしょ?」


「そうだ」

「その通り」


「でもダメ」

「今回は私の趣味に合わせてね」

「お願い」


 こいつ、こいつ。


 その言い方、狡いぞ!


 腹立ってきた。


「解った」

「合わせる」


 なんなんだ。


 こいつに対して何故か怒れない。


 俺は腹を立てていた筈なのに…………。


 俺から出る言葉は何故か肯定の返事だ。


 これは、きっと過去の俺の感情が戻って来ているのだ。


 そうに違いない。



 昔の俺の所為だ。


 深く考えるな、俺。


 ドツボにハマりそうだ。


 気持ちを切り替えて、気持ち良く彼女とゲームをしよう。


 ゲーム機を起動し、アカウントを作成した。


 次はアバターの作成だ。


「種族は何を選ぶ?」


 モニターを二台横に並べて同時進行させていく。


 彼女も同じ画面だ。


「私はこれ」

「貴方は、これにして」


「お前の俺のイメージどうなっているんだ?」


「でも、それでやってくれるんでしょ?」


「売られた喧嘩は買う主義だ」


「何よそれ」

「どっちなのよ」


「やってやる」


「貴方のそう言う所、好きかも」


「…………」


 やっぱ腹立つ。


 こいつ、天然で言ってるんだぜ。


 誑しめ。


 くそう。


「ふ、髪形はどれが良い?」


「貴方、今、笑った?」


「は?」

「何がだ?」

「俺だって笑う事くらい有るぞ」


「嘘よ」

「ずっと何か怒ってて、笑わなかったわ」


「そうだったか?」


「もう一回笑って」


「嫌だね」

「無理には笑えない」


「もう」

「いつかあなたの事、大笑いさせてやるわ」


「やれば良い」

「俺は、別に無理して笑わない訳じゃ無いしな」

「自然とそうなっているだけだ」


「なんだ、貴方に嫌われてる訳じゃ無いのね」


「当たり前だろ」

「嫌いな奴を匿う訳有るか」


「ほら、すぐイライラする」


「馬鹿な事言うからだ」


「だんだん貴方が解って来たわ」


「お前の物差しで俺を測るな」


「一週間しか記憶の無い人より、確かな物差しですけど」


「ほう」

「旨い事言うな」


「生後一週間の癖に」


「確かに」


「大きな赤ん坊よね」


「そうだな」

「その赤ん坊に助けられたんだよな?」


「その話は狡いわ」


「ふ、そっちこそだろ」


「…………」


 なぜか彼女は嬉しそうだ。


「さっさと始めるぞ」


「そうね、始めましょう」



 俺の灰にする『能力』について、ヒントを出しておく。


 能力名は、ブラック・バ〇ルにちなんで、グレイ・フレイム“灰色の終焉(しゅうえん)”とする。


 彼女の上に会った時に、『能力』を説明しないといけない。


 答え合わせはもうすぐだ。


 それまでに他の『能力』も考えておいてくれ。


 まだ、一切ヒントを出してない『能力』もある。


 使う必要が無かったからだ。


 それを当てるのは諦めてくれ。



 じゃあな。

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