6話 アルタイル

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。




 

 昨日の夜は楽しかった。


 彼女とは気が合う。



 明日も普通に授業が有る。


 彼女が視界に入っていれば、俺のイライラは少しマシになる。


 教室では、彼女は俺の前の席。


 彼女が真面目に授業を受けるか監視しなくては。



 俺か?


 俺に高校生の授業は必要ない。


 一週間の補習で解った。


 俺は非常に頭が良い。


 全てを熟知している。


 先生の話から、未知の刺激を感じられない。


 まどろっこしくて、イライラする。


 先生を馬鹿にしている訳じゃ無い。


 だが、もっと、こう、なんとかならないか?


 俺が替りに授業してやろうか?


 学校に行くのが憂鬱になってきた。


 起きて直に考える事じゃないな。


 とっとと支度して、朝ご飯食べるか。



 彼女が五階に朝ご飯を食べに来た。


 俺はもう食べ始めていた。


「荷物をそこに置いて、さっさと食べろ」


「え」

「待っててくれてないの?」


「俺はたくさん食べるから時間が掛る」


「和馬さん、おはようございます」


「はい」

「おはようございます」


「貴方、二日目で打ち解け過ぎじゃない?」


「知らんよ」

「さっさと座れ」


 和馬がイスを引いて、手で促す。


「ありがとうございます」


 和馬は会釈で返す。


 青子は恐縮している。


 俺の前の席に食事が用意されている。


 そこに座った。


 青子は手を合わせる。


「いただきます」


 朝食は、ご飯、味噌汁、卵焼き、鮭の塩焼き、漬物、だった。


 味噌汁の具は、ワカメと豆腐。


 普通だろ?


 ホッとするな。



 彼女は機嫌良さそうに食べていた。




 食事を終えた俺達は二人で登校する。




 ビル一階の出入り口に黒猫が一匹。


 何となく、目に留まった。


 青子が、猫を気にしている俺を見て、不思議そうな顔をした。


「どうかしたの?」


「いや」

「別に」


「迷信深いの?」


「わからん」

「何故か目についた」

「行こう」


 二人で学校に向かう。


 黒猫。


 不吉。


 幸運。


 使い魔。


 シュレディンガー。


 理論物理学。


 量子力学。


 二分の一。



 思い浮かんだ単語を挙げてみた。


 単なる連想だ。


 他に何も思い浮かばない。


 いや、もう一つ思いついた。



 箱。


 きっと俺は何かを恐れている。


 得体の知れないイライラはそこから来ている。


 この俺でも、どうすることも出来ないような危機が迫っている。


 そう感じる。



 パンドラの箱。



 すでに開けてしまったのだろう。


 ちゃんと希望が残ってるんだろうな?




 休憩時間に美容室の予約を入れた。


 髪が伸びている。


 切りたい。


 青子に美容室を紹介して貰った。


 俺の持ち物に会員カードが無かった。


 俺は前に何処で切っていたのかわからない。



 抜糸するまで髪を切れなかった。


 今日、帰りに病院によって、抜糸する。


 包帯とはおさらばだ。



 そして青子行きつけの美容室に行く。


 行きつけと言っても、彼女がそこに行ったのは一回だけだ。


 彼女も越してきたばかりだ。




 近くの病院で抜糸した。


 駅前の病院だ。


 学校から近い。


 近すぎて、青子は唖然としていた。


 見つけられなかった理由が解らないらしい。


 まあ、和馬の仕事だからな。



 抜糸は直に済んだ。



 美容室に着いた。


 二人で行く。


 彼女も髪を切って時間を潰すらしい。



 店の手前で離れた。


 青子は恥ずかしいから、別々に行きたいらしい。


 俺も質問されるとやっかいだ。


 他人の様に別々に入る。



 俺は、カタログを見せてもらい、髪形を適当に選んだ。


 昨日は遅くまでゲームしていた。


 眠い。


 直に寝てしまった。



「出来ましたよ」


 起きた。


 うん。


 カタログ通り。


 王子様に磨きがかかった。


 俺は自分の容姿に対しては他人事だ。


 付き合いが短い。


 実感が無い。



 どうやら俺が先に切り終わったらしい。


 店の近くの喫茶店で待ち合わせしている。


 喫茶店に行く。



 三十分後、彼女が来た。


「お待たせ」


 彼女は恥ずかしそうだ。


 彼女の髪は大分短くなっていた。


「なんていう髪形なんだ?」


「ショートのウルフカット」


「…………」


 俺も短めのウルフカットだ。


 男女で長さが全然違うが、同じ髪形にしやがった。


「感想は?」


「垢抜けた」

「似合っている」


「ま、前からしたかった髪形なの」


「そうか」


「貴方も似合ってるわ」


「お褒めに預かり光栄だ、女神様」


「ふふ、笑える」


「タブレット持って来たか?」


「そりゃね」


「コーヒー飲みながら、ポイントを使ってしまおう」


「いいわよ」


 彼女はコーヒーを注文しに行った。


 コーヒーを受け取って帰って来た。


「あの、食事代とか、部屋代なんだけど…………」


「ああ、それな…………」

「心配するな」


「え?」

「どうしたの?」

「その苦虫を噛み潰したような表情」

「眉間の皺が凄いわ」


「お前に監視の任務を言い渡した奴と交渉して、タダにしてやるよ」


「タダにして欲しい訳じゃ無いのよ」

「監視の任務は失敗だし」

「今、貴方に匿われているし」

「そういうのは、キチンとしたいの」


「考えとくよ」



「お前に監視の任務を言い渡した奴と、会った事有るのか?」


「まだ無いわ」


「そんな気がしていた」


「なんて呼ばれてるんだ?」

「そいつ、本名を名乗っていないだろ?」


「何故そう思うの?」


「…………」

「勘だ」

「で?」


「『アルタイル』」

「そう呼ばれてるわ」


「…………」


「何?」

「その沈黙」


「いや…………」


「何か解ったんなら、教えてよ」


「明日、お前の上と会う時にわかる」


「なに勿体ぶってるのよ」

「もう」


「ポイント使い終わったか?」


「帰ってネトゲの続きしようぜ」


「待って、ヒント頂戴」


「ダメだ」

「少しは自分で考えろ」


「もう、意地悪ね」


「明日でいいだろ?」

「もう帰ろう」

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