7話 伝説の戦士

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約一週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。




 

 眠い。



 青子と、ゲームして、アニメ見て、ゲームした。


 完全にリア充だな。


 爆発しそうだ。



 午前十時は早すぎた。


 午後一時で良かった。


 もう少し、現実逃避したかった。



 昔の俺は、不条理に対して真正面からぶつかれたんだな。


 生真面目な奴。


 俺はイライラし過ぎて、真面目に出来ないぞ。



 そろそろ朝食を食べに行こう。


 もう、九時過ぎだ。


 ブランチって言うべきか?


 オタクの朝は遅い。


 日曜は早い。



 着替えて五階に向かった。



 出かけるから私服だ。


 黒いサングラス。


 ニット帽、薄いグレーでエメラルドグリーンの刺繍が入っている。


 薄いグレーのパーカー、下はダークグレーのズボン。


 上に、ダークグレーのジャケット。


 薄いグレーのスニーカー、エメラルドグリーンのラインが入っている。



 彼女が来た。


 黒いサングラス。


 ニット帽、薄いグレーでエメラルドグリーンの刺繍が入っている。


 白い襟無しシャツ、シャツのボタンステッチがエメラルドグリーンになっている。


 下はダークグレーのズボン。


 上に、ダークグレーのジャケット。


 薄いグレーのスニーカー、エメラルドグリーンのラインが入っている。



 うん。


 ダメだ。



 テーマが丸かぶりしている。


 と、いうか、サングラスとニット帽とジャケットとズボンとスニーカーが全く同じだ。


 同じブランド。


 これは恥ずかしい。


 どうしよう?


 お互いセンスが良い訳じゃ無いのに、そんなに被るもんか?


「おい、好きな色は?」


「…………」

「薄いグレー」


「その色に合うのは?」


「エメラルドグリーン?」


 解った。


 永遠にかぶり続ける。


 仕方ない。


「悪いが、お前はサングラスとニット帽を止めてくれ」


「えー」

「目立つから付けときたい」


 素顔の方が目立つとか、生意気な。


 芸能人か。


「悪いが、俺と丸かぶりは避けたい」

「頼む」


「貴方が外して、私が付けるんじゃダメなの?」


「ちょっとお前の上を驚かせたい」


「驚く?」


「ヒント出したろ?」

「まだ見当付かないか?」

「わし座のアルタイルは、彦星だ」


「ヒントはもう良いの」

「だから、なんで勿体ぶるのよ」


「俺の監視が単独で務まる訳無いだろ」

「お前の上、油断し過ぎ」


「先輩の悪口は見過ごせないわね」


「お前の先輩が一回でも自分で確認していたら、こうは成らなかった」

「俺のテストに受かるか試してやる」


「貴方、何様のつもりよ!」


「ペアルックじゃ、喧嘩していても迫力に欠けますね」


「…………」


「…………」


 和馬、今声を掛けるのか?


 他のタイミング無かったか?


「ホットドックにしました」

「時間が有りませんよ」

「早く食べて下さい」


 お前は全く、なんでそんな手早く食べ終われる奴を用意してるんだよ。


 用意良すぎだろ。


 どうなってるんだ、全く。



 二人、急いで食べて、喫茶店に向かった。



 時間通りに店の前に着いた。


 が、普通は中で待つ。


 奴はもう中にいる。


 テストは合格点をやろう。


 中に入る。



「連れが先に着いている筈なんですけど」


「姫黄様ですか?」


「ええ」


「二番のテーブルです」


 他に客は一人も居ない。


 実は貸し切りだ。


 彼から俺が見えた様だ。


 まさか、という緊張が伝わってくる。


 鈍くは無い様だ。


 そりゃそうか。


 黙って彼の前に座る。


 窓際の席だ。


 青子は彼の隣に座った。


「黒巣君、紫幻唯康さんよ」


「ヤスさん、彼が黒巣壱白君です」


「俺はこの約一週間より以前の記憶が無い」

「彼女から聞いているか?」


「ええ、存じています」


「お前、俺の本名を今知ったのか?」


「プライベートは完全に秘されていました」


「俺はどの位連絡を絶っていたんだ?」


「二か月ですね」


「未知の生物の情報は?」


「ありません」


「連れに連絡しろ」

「ここに呼べ」

「もう、狙撃の必要は無いだろ」

「あと、握りこんだ暗器は仕舞っていいぞ」


「解りました」

「連絡します」


「!?」


「青子、俺が『アルタイル』だ」


「!!」


 俺はニット帽を取り、サングラスを外した。



 紫幻唯康。



 大学三回生って所か?


 若い。


 俺が言って良いか知らんが。


 そして、美しい顔立ち。


 格好いいと言うより、美しいという表現が相応しい。


 戦闘能力は、俺を百点として、八十五点くらいだろう。


 青子が俺より一つ下のステージなら、彼は俺と同じステージになる。


 十回戦って、四回は辛勝だ。


 俺が負ける事は無い。


 あと、彼にはハンデが有る。


 左腕が不自由の様だ。


 生身の腕だが、ぶら下がっているだけという感じだ。


 もしかしたら、義手より扱い難いかも知れない。



 まあ、『能力』を抜きにした場合の戦闘力の話だ。


 『能力』は、相性によっては実力差を簡単にひっくり返す。


 しかも、過去の俺が仲間に選んだ男だ。


 俺と同格扱いしたい。



 彼は竹刀を入れるケースを隅に立てている。


 中身は真剣か?


 俺と対峙する役を引き受けたのは、近接戦闘に自信があったからか?


 反対に、狙撃を選んだ奴が遠距離戦闘に自信があったからか?


 若しくはその両方か?


 どっちも当たっていないとは、考えにくい。



「…………」


「せ、説明してください」


「青子、急に敬語になるなよ」


「それは命令でしょうか?」


「…………」

「なんでだよ」

「普通の会話だろ」

「そうだ、まずお前の先輩から話し易くしてやろう」

「紫幻、俺はお前をヤスさんと呼ぶ」

「お前は年下と話すときの口調な」


「!?…………」

「うーん、む、難しい注文だ」

「君は、本当に記憶をなくしてるんだね」

「君が軍規を乱す発言を許すなんて」

「こ、この口調で良いのだろうか?」


「口調はそれで良い」

「軍規は知らん」


「!!」

「い、今、知らんって言ったのかい?」

「副隊長が聞いたら卒倒しそうだ」


「青子、普段通り話せ」

「もう、命令という事にしてやる」


「わかったわ」


「ヤスさん、本当に彼が『アルタイル』なの?」


「信じられないかい?」


「ええ、高校一年生よ」


「君だってそうだろ」


「私は、何故か無理やり『能力』部隊にねじ込まれた、見習いです」

「彼は伝説の戦士」

「私達の部隊長」

「全然違います」


 伝説の戦士って、真顔で言うなよ。


 頭痛くなりそうだ。


 責任が酷い。


 だから嫌だったんだよ。


 くそう、なんでこんな事に。


 ムカついてきた。


「もう一人はまだ来ないのか?」


「え?」

「イラ付いてるの?」

「何で?」


「うるさいな」

「部隊長は面倒だろ」


「『アルタイル』なのよね?」


「たぶんな」


「私、どんな任務だろうと命を懸けて戦い、任務達成率百%って聞いてたんだけど」


「青子、その通りだよ」


「ですよね」


「俺は簡単に命を懸ける奴は、腹立つ」

「昔の記憶は、戻る気配が無い」


「…………」


「…………」

「副隊長にどう説明しましょう?」


「ほんと、どうしよう?」


「俺を見つけた事を報告しなきゃ良いだろ」


「そんな訳に行くか!」


「おお、大きい声も出るんだな、ヤスさん」


「副隊長は君を妄信してるんだ」


「…………」


「…………」


「御取込中悪いんだが…………」


「やっと来たか、トキ」


「あ、私、彼の隣に移動しますね」

「トキさんは私が座ってた所にどうぞ」


「正直、帰りたいんだが」


「ダメです」


「ダメだ」


「ダメに決まっているだろ」


「『アルタイル』の命令だ」

「トキ、居てくれ」


「み、見間違えじゃ無いんだな」

「まー、見つかって、良かった、良かった」


「…………」


「…………」


「副隊長への説明で悩んでるんだろう?」


「そうだ、良い案あるかい?」


「説明と言うか、『能力』で過去の記憶を手繰れば、思い出せるんじゃ無いか?」


「そうですよ!」


「そうだ、それで行こう」


「もし記憶が戻るなら、そうする方が良いのか?」

「俺の昔の性格って、窮屈そうじゃ無かったか?」


「確かにそう感じる事もあったぜ」


「お!」

「お前その話し方」

「気が合いそうだ」


「自己紹介してくれ」

「ヤスさんとは兄弟だよな?」


「そうだ、俺は紫幻忠時」


「名前の一文字目の読みがヤスとかぶってるから、トキって呼ばれてる」


「ヤスのが一つ年上だ」


「トキさん、これからよろしくな」


「ああ、よろしく」

「まさか『アルタイル』に自己紹介する事に成るとは…………」


 トキさんも見た目が良い。


 美しいって言うより、格好いいって感じだ。


 でも兄弟って直にわかる。


 トキさんの左足は義足の様だ。


 戦闘能力はヤスさんと同等、俺を百点としたとき、八十点位だ。


 俺と同格と扱うぞ。



 …………。


 面倒な状況だ。


 俺は自分の監視を青子に間接的に命じたのだろう。


 それは良い。



 未知の生物の正体は?


 青子は何に狙われている?


 過去の俺はそれを感知していた筈だ。


 だから、保険で監視を命じていた。


 青子が俺から離れなかったから、この前の襲撃から守れた。



 状況は切迫しているのでは?


 俺の記憶どうこうは確かに重要だが、敵の正体がもっと重要だ。


 『アルタイル』だった事はこれからに利用するだけだ。


 部隊長と言う立場は一旦置いておこう。



 シンプルに行く。


 俺の最優先事項は何か?


 青子を守る事だ。


「解った」

「過去を手繰るとはどういう事だ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る