8話 関門

黒巣壱白:黒羽学園高等部一年生。

     自分自身の記憶がこの約1週間しか無い。

     四章主人公。

     全ての武道に精通している。

     達人クラス。

     『能力』が有る。

     記憶が無くなる前は『アルタイル』と呼ばれる。

姫黄青子:黒羽学園高等部一年生。

     類い稀な美人。

     『能力』を持っていない、らしい。

     壱白のビルに匿われている。

     『能力』部隊の隊員。

黒戸和馬:壱白の執事にして、後見人。

     出来過ぎる男。

紫幻唯康:ヤスさんと呼ばれている。

     大学生位の年齢。

     『能力』部隊の隊員。

紫幻忠時:トキさんと呼ばれている。

     『能力』部隊の隊員。

     ヤスの1つ下の弟。




 

「なるほど」

「過去を手繰るのにする事は解った」

「ヤスさん、副隊長に連絡して、これから集まる指示を出すように言ってくれ」


「え?」

「今からかい?」


「ああ、今からだ」

「今日済ませる」

「『能力』を使った戦闘が出来るのは他に何人いる?」

「多くは無いだろ?」


「後は副隊長だけだよ」


「『能力』でのサポートは過去を手繰るのに説明の有った二人だけか?」


「そうだね」

「他に『能力』を使える者はいないよ」


「未知の生物、敵がどの位いるか解らない」

「数が多いと、押し込まれる」

「今までは、バレない事を祈っていたが、今は違う」

「一応、お前らの『能力』を確認する必要が有る」


「何故、一応なんだ?」


「お前らの能力によっては、敵にダメージが通らない可能性も有る」

「と、いうか、俺が入院したのは、苦戦したからだ」

「苦戦した時は、ダメージを与えられなかった可能性が高い」


「ん?」

「辻褄が合わないぜ」


「そうだよ」


「この前青子を守れたのは、『能力』が増えたからだ」

「たぶんな」

「予想だが、『能力』を得るには、対価が必要なんじゃ無いか?」


「え?」

「そんな話、初耳よ」


「例外がいるからだろ?」


「やはり、君が『アルタイル』で間違い無いね」


「話を戻すぞ」

「俺は危機に陥った」

「切り抜ける為に対価を支払った」

「そして切り抜けた」

「大怪我したがな」

「対価は記憶だ」

「たぶんもう記憶は戻らない」

「『能力』を無くせれば、あるいは可能かも知れないが…………」


「副隊長はどう言うだろう?」


「そうなると、どういう事だ?」

「他の矛盾が出て来る」


「今日、過去を手繰るんだよね?」

「何故だい?」


「さっきの話に戻って来る」

「サイコメトラーに俺の記憶から敵の情報を手繰らせ、それをテレパスに読ませ敵を探させる」

「今日中に敵を探し出し、各個撃破する」

「今日中にやる」

「後手には回らない」

「ここでお前らの『能力』の説明をして貰う」

「『能力』の説明は昼までに終わらせるぞ」

「先に副隊長に連絡してくれ、時間が無いぞ」


「解ったよ」


「もしもし」

「うん」

「青子の監視対象に会った」

「うん」

「そうだよ」

「実は、……」

「少し言い辛いんだが、……」

「監視対象は、『アルタイル』だった」

「……」

「聞いている?」

「反応してくれよ」

「ああ、元気さ」

「それは大丈夫」

「ふふ、泣くなよ」

「……」

「解っているとは思うが、彼には記憶が無い」

「僕たちの事を覚えてない」

「でも、彼は僕たちの『アルタイル』だ」

「狙われている青子の為に、作戦を立案した」

「そう彼がだ」

「これからそっちに向かう」

「彼の記憶を辿る」

「人員に召集を掛けてくれ」

「君は今本部か?」

「相変わらずだな」

「他の二人は?」

「まあそうか」

「そう伝える」

「じゃ後で」

「『アルタイル』、本部に必要な人員は揃っている」

「僕たちが向かうだけで良い」


「副隊長は、君が考えた手と同じ発想で、君を探していた」


「見つからないんだろ?」


「だね」

「よくわかったね」


「まあ、な」

「俺が大怪我した時に第三者が居たはずだ」

「俺はそいつに手当され、病院に運ばれた」

「そして、そいつが何らかの『能力』を使って俺を隠している」


「その行動は、やはり矛盾している」

「目的が見えないぜ」


「……」

「目的は不確定だ、予想できない」

「が、今は関係ない」


 関係は無いが、俺が大怪我した時の記憶を手繰ると必然的に第三者は露見する。



「『能力』の説明をする」

「俺からだ」


「ん?」

「俺達は把握してるぜ」


「青子がまだだろ?」

「俺の『能力』も増えている」


「ああ、そうだった」


「始めるぞ」


「一つ」

「トゥエルブ・サテライト(精鋭六人の鋭い視線)」

「俺を中心として、半径三十キロの任意の場所に見えない目を出現させ、自由に視点を操作できる」

「立体を把握するためには、目は二つ必要だ」

「だからいつも二つ一セットで移動させている」

「通常見ている方向は、前、右、左、後ろ、上から下への俯瞰、そして自由に移動させている一対」

「脳は目で見たものを統合する機能が有る」

「俺はサテライトで見た景色を一つに統合して、認識している」

「それと同時に、サテライトで見たもの全てが版画の様に重なって見えている」


「…………」


「…………」


「…………」


「改めて聞くと、凄い『能力』だ」


「だな」

「脳が処理出来るとは思えないぜ」


「か、監視に気付く訳ね」

「ん?」

「前をサテライトで見てるのはおかしく無い?」


「そうだな」

「今からそれを話す」


 青子の質問を躱せるか?


 関門は二つある。


「二つ、ランプ(煌々と輝く命の灯)」

「俺の両目は、義眼だ」


「嘘でしょう?」


「本当だ」

「俺にも視線が動く仕組みが解らない」

「俺はこの特殊な義眼を通して、この世のあらゆる物体に宿すエネルギーを、輝く炎の様な塊として見ている」


「生命エネルギーを見てるというの?」


「そうだ」

「エネルギーだけが見えている」


「生物だけじゃなく?」


「そうだ」

「無機物もだ」

「通常なら物陰に隠れた敵を排除するのに役立つ」


「僕らはそれで助けられてきた」


「だな」


「この前の未知の生物は、エネルギーがやたらと大きかった」


「君はテレパスに、君の視覚を共有させる気なんだろ?」


「そうだ」

「それと俺の過去から手繰り寄せた情報で探せる筈だ」


「つまり義眼からはエネルギーの炎しか見えていない」

「だからサテライトが必要だ」


「『能力』はまだあと二つある」


 切り抜けたか?


「青子に話した、増えた『能力』以外にもう一つある」

「奥の手だ」

「過去の俺はそれを伝えているか?」


「移動系だよね?」

「聞いてるよ」


「記憶が無くなる前のお前らへの信頼は本物だな」

「三つ、スライド(前動作の完全消去)」

「足や手が、地面や壁に接触している場合、接触部を基準として滑るように平行移動できる」

「しかも高速でだ」

「秒速百二十メートル位かな」


「何度聞いてもイカレた『能力』だな」


「え?」

「そうですか?」

「地味では?」


「青子、僕はこの『能力』を使われると、剣術で彼に勝てない」


「ええ?!」

「ヤスさんが剣術でですか?」


「ああ、剣術でというか、剣術の間合いじゃ無くなる」

「気付いたら、剣の間合いの内側に入られ、挙句後ろに回られ、締め落とされる」


「前動作無しの高速移動と、動作硬直中の高速移動」

「銃器との相性も抜群だ」

「そして動きが気持ち悪いぜ」


「うるさい」

「気持ち悪いは余計だ」

「四つ、グレイ・フレイム(灰色の終焉)」

「エネルギーの炎と同時に、燃え尽きる姿も見えている」

「終焉だ」

「生物も無機物も、朽ちて行く姿が見えている」

「すべての物には終焉がある」

「そして、手で触れた物のエネルギーの炎を、触れた瞬間に燃え尽きさせる」

「一瞬で終焉にする」

「残るのはわずかな灰だけだ」


「…………」


「…………」


「…………」


 二つ目の関門を抜けた様だ。


「俺達の事を一応と言うだけある」


「だね」


「次はお前たちの番だぞ」

「その前に、何か注文するか?」

「その位の時間はあるだろ」


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