第26話 解決策



 レイセ:黒戸零維世。

    レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

    連合国クロトと聖国クリアの王。

 アリシア:『悠久の旅人』のエース。

     クリアの孫。

 ジーク:聖国クリアの戦士。

    レイセに認められ、鍛えている。

    クレラメイと融合した。

    真理への到達者。

 プロミ:プロミネンス。

    ルビー・アグノス。

    黒崎鏡華。

    月と太陽の国アウグストラの女王。

    現人神。

    レイセと結婚している。

 アリア:『フィナリスラーウム』所属。

    ニーナ、プロミと親友。

    ダズに交際を迫られているが、保留中。





(レイセ視点です)


 レイセ:「うん」

 レイセ:「美味い」


 プロミ:「美味しい」


 アリシア:「ほっとする」


 ジーク:「そうなー」


 アリア:「良い香り」


 ナナ:「ありがとうございます」


 ナナは笑顔でそう言いながら、アップルパイをテーブルに並べた。


 皆は礼を言う。


 ナナは退室した。


 さっくりとした生地にしっとりとしたリンゴ。


 甘さ控えめなクリームとジャム。


 皆が飲み物に砂糖を入れない事を考慮した自然な甘さ。


 皆は食べ終わるまで無言だった。


 美味しい。


 レイセ:「ふー、それで、どこまで話したっけ?」


 プロミ:「仮面の男に接近出来た場合の想定、だったわ」


 アリア:「一撃離脱なら、戦闘は長引かないって事かな?」


 レイセ:「そうだな」

 レイセ:「長引かないって言うか、長く出来ない」


 ジーク:「接近戦でも分が悪いんです」


 アリシア:「一応確認するか」

 アリシア:「理由は?」


 レイセ:「まず、仮面の男はダンジョン攻略者だ」

 レイセ:「存在感にダメージを与えるのに慣れている」


 プロミ:「霧化は通用しない?」


 レイセ:「そうだ」

 レイセ:「奴の剣撃に耐える手段は、シロさんの盾のみだ、たぶん」


 俺はホワイトボードに書いた仮面の男の『能力』のいくつかに〇を付けた。


 レイセ:「奴の『能力』に欠点は無い」

 レイセ:「すべてが補い合うように作用している」

 レイセ:「だが、特に厄介なのはこの〇を付けた『能力』だ」

 レイセ:「反則に近い」


 俺が〇を付けたのは、トゥエルブ・サテライトとスライドだ。


 スライドには◎を付けた。


 レイセ:「奴は即死『能力』を持っている」

 レイセ:「間合いの内側に入られて手で掴まれたら、俺の負けだ」

 レイセ:「立会人が死ぬのを防いでくれても、勝負は俺の負けだろう」


 レイセ:「間合いの内側に入られ無いように立ち回らなければいけない」

 レイセ:「仮に奴と武器で打ち合えた場合、奴が武器を振り終わった後の隙も、奴はスライドで硬直無しに移動出来る」

 レイセ:「それも高速で移動してくる」


 レイセ:「奴以上の手数が無いと、隙を突かれて間合いの内側に入られる」


 レイセ:「奴は、踏み込みしたままの姿勢で移動出来る」

 レイセ:「手数で上回るのは簡単じゃない」


 レイセ:「そして奴には死角が無い」

 レイセ:「サテライトで全方位を視認している」

 レイセ:「おそらく瞬間移動でも不意を突けない」

 レイセ:「奴の身の熟しは俺以上だ」

 レイセ:「姿勢を崩す事も出来ないだろう」


 レイセ:「加えて、ストレングスとヒールがある」

 レイセ:「力の融合を全開にしても腕力に差があるとは考え難い」

 レイセ:「生半可な攻撃もあっという間に回復する」


 レイセ:「連続で接触しようとしても、俺の”怠惰”で弱点を見つける前に押し負ける」

 レイセ:「それが俺とジークの結論だ」


 ジーク:「接近しては離れるを繰り返し、時間を稼いで”怠惰”で勝機を探るという結論ですね」

 ジーク:「手数で勝負するにも、片手が盾で塞がる状態では不可能でしょう」

 ジーク:「むしろ分かっていても防げない様な単発で隙が少なく、強力な攻撃で一撃離脱を繰り返すというのが僕らの考えです」


 プロミ:「防げない様な単発で隙が少なく強力な攻撃って、どうするの?」


 レイセ:「光の攻撃を全力でやる」


 プロミ:「……」

 プロミ:「それしかない、か」

 プロミ:「最終的に”怠惰”の性能に頼るなら、出たとこ勝負も良いとこね」


 レイセ:「あまり厳密に想定してもその通りには行かないだろ」

 レイセ:「確実に解る事だけで予想を立てる」


 アリシア:「接近戦はわかった、って事にして、話を先に進めましょ」


 プロミ:「そうね」

 プロミ:「あとは…………」

 プロミ:「どう近づくか、かな?」


 レイセ:「うん、そこが一番見えていない」

 レイセ:「近づけるイメージが無い」


 プロミ:「ダメじゃない」


 レイセ:「ああ、お手上げだ」

 レイセ:「だから、何か手が無いか実際に再現して確認してたんだ」


 アリシア:「それでさっき試したのね」


 ジーク:「王が俯瞰できるように再現する、ってのが狙いな」


 プロミ:「なにか閃いた?」


 レイセ:「閃かなかったから、一から説明してるんだ」


 プロミ:「本番じゃ無いからでしょ」

 プロミ:「追い詰められないと閃かないんじゃない?」


 レイセ:「真剣にやってるって、無理言うなよ」


 プロミ:「ホントに?」


 レイセ:「お前、一回戦った事あるだろ?」

 レイセ:「あの時も俺には”怠惰”があったんだ」

 レイセ:「でも、実力が違い過ぎてどうにも出来なかった」

 レイセ:「お前も”怠惰”だろ?」

 レイセ:「どう思うんだよ?」


 プロミ:「まー、確かに強かったわね」

 プロミ:「手が出せなかった」

 プロミ:「私は良いのよ、貴方の話でしょ?」


 レイセ:「この中じゃ、お前しか共感できないだろ」

 レイセ:「なんで他人事なんだよ」


 アリア:「珍しく、言い合いになってるね」


 アリシア:「ね」


 ジーク:「うーん」

 ジーク:「もう一回試します?」


 レイセ:「そうだな」

 レイセ:「今度は、ジークが仮面の男役で、俺が相手する」

 レイセ:「みんなは見ててくれ」

 

 荒野に移動した。


 俺はジークから距離を取った。


 百メートルって所だな。


 プロミ:「仕方ない、手伝ってやるか」


 アリア:「観察するだけでしょ?」


 アリシア:「レイセが閃かないのに、私が閃くかな?」


 プロミ:「ふふ、どうかしらね?」


 ジーク:「あれ?」

 ジーク:「急に機嫌が良くなりました?」


 プロミ:「あいつを追い込む手を思いついたわ」


 プロミ:「聞こえるー?」


 レイセ:「聞こえるぞー」

 レイセ:「なんだー?」


 プロミ:「一撃離脱する為に問題になってるのはー?」


 レイセ:「近づく手段が無い事だー」


 プロミ:「なぜ近づけられないのー?」


 レイセ:「奴の攻撃の手数が多過ぎるんだー」


 プロミ:「手数が足りないという原因に対して、どんな対策があるー?」


 レイセ:「わかったー」

 レイセ:「試してみるー」


 ジーク:「今ので思いつくなら、再現の必要ないなー」


 アリア:「流石、操り方がわかってる」


 アリシア:「機嫌が良くなるはずだわ」


 プロミ:「まーねー」


 はー。


 してやられた。


 結局自分で絞り出すのかよ。


 大袈裟に考え過ぎた。


 あれで思いつくなら、考えを整理すれば思いついた筈だ。


 プロミは俺に疑問を投げただけだ。


 あいつは実は何も考えてない。


 くっそー。


 俺より俺が解っている。


 尻に敷かれる運命なのか?


 肝心なところを絞り出したのは俺なのに、全部あいつのおかげになってしまう。


 ま、良いけどね。


 やせ我慢でも、心が広い風を装う。


 やせ我慢だけど。


 愛しい人。


 頑張るよ。


 ってね。


 この後、俺はジークの遠距離魔法をちょっとした工夫で乗り越え、一撃離脱の手段を示した。


 手数を増やせば良いだけだ。


 手段はたくさんある。


 レイセ:「上手く行きそうだな」


 プロミ:「初めて試したんでしょ?」

 プロミ:「なんでできるのよ気持ち悪い」


 レイセ:「気持ち悪い、じゃない」

 レイセ:「凄い、だろ?」


 プロミ:「凄いけど気持ち悪い」


 レイセ:「じゃー、もう、それで良いよ」

 レイセ:「疲れたー」


 プロミ:「私も参考になったわ」

 プロミ:「一つ閃いた」


 レイセ:「凄い?」


 プロミ:「気持ち悪い」


 レイセ:「わかった、わかった」


 アリア:「解決したみたい」


 アリシア:「もー、結局自分で解決するんじゃない」

 アリシア:「なによ、もー」


 ジーク:「アリシアと検証できて楽しかったけど?」


 アリシア:「今、そういうの良いから」


 ジーク:「あの二人のようには行かないか」


 アリア:「頑張って」


 アリシア:「応援しなくていいのよ」


 レイセ:「今日、夕飯何食べる?」


 プロミ:「作ってくれるの?」


 レイセ:「え?」

 レイセ:「そういう意味で言ってな……」


 プロミ:「中華料理が食べたい」


 レイセ:「え?」


 プロミ:「え?」

 プロミ:「なに?」


 レイセ:「中華料理は珍しい」


 プロミ:「貴方何故か中華料理避けるから」


 レイセ:「手間がかかるんだ」


 アリア:「炒める料理が多くて、準備は材料を切る事くらいじゃない?」


 レイセ:「そんな事無いぞ、フカヒレとか下準備めっちゃ必要だぞ」


 アリシア:「なんでそんな必死なのよ」


 プロミ:「どうせ下準備が済んだ状態で用意出来てるんでしょ?」


 レイセ:「出来てる、な」


 プロミ:「決定ね」


 レイセ:「承知しましたー」


 プロミ:「私、エビが食べたい」


 レイセ:「エビチリでいいでしょうか?」


 プロミ:「エビは大き目ね」


 レイセ:「ご用意致します」


 ジーク:「力関係は明白だな」


 アリシア:「そうね」


 アリア:「尻に敷かれてないつもりなのが凄い」


 プロミ:「いつか理由話しなさいよ?」


 クリアとカーミュは女性口説く時中華に誘っていた。


 バレるとは思わなかった。


 はーあ。


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