5話 内緒です

 ニーナ・アイマー:レナメントレアのはぐれ里出身。

          異世界の夢を見る。

          主人公。

 アリア・アランテ:レナメントレアのはぐれ里出身。

          異世界の夢を見る。

          ニーナとは幼馴染。

 ゼアス:レイセの偽名。

     堂々と偽名と宣言している。

     連合国クロトの幹部らしい。

     嘘ではない。

 トリポリ:リビアの偽名。

      偽名と宣言。

      連合国クロトの幹部らしい。嘘ではない。

 シロ:『ロストエンド』マスター、黒巣壱白の偽名。

    肩から刀をかけている。

    一応管理者。



 黒戸美月。


 それが彼女の名前だ。


 そして、私の名前に成るだろう。


 長い、短い夢。


 彼女の人生を、始めから、終わりまで、全部見た。




 彼女の人生は、途中まで空虚だった。


 両親がおらず、兄だけいた。


 義父は家に居なかった。


 兄は優しかったが、本気で生きてはいなかった。


 決定的に、生きる情熱が感じられなかった。


 彼女は、何をやっても人並みに出来た。


 だがすぐに他が気に成った。


 もっともっと情熱を注げる何かが他にある。


 情熱を求めてるだけ。


 打ち込めるものが有れば何でも良い。


 その何かに惚れこんではいなかった。


 上手く行き過ぎると、直に飽きた。



 友達は多かった。


 ただ、親しい友人は出来なかった。



 ある日変化が訪れる。


 黒崎鏡華だ。


 彼女は、兄の価値に気付いていた。


 それからの日々は色鮮やかに見えた。



 そして、打ち込める物も見つかった。


 芸能界。


 彼女は、自分の容姿が優れているせいで、ハンデを貰っている様な居心地の悪さを感じていた。


 この世界では、むしろ必要条件だ。


 有っても普通。


 フェアだ。


 これだ、という感覚を初めて持てた。



 ゼアスも、異世界の夢を見ていた。


 ゼアスがこっちに帰ってきているのだ、向こうに行っても戻って来れる筈だ。


 兄のいる時代から、百年経っている。


 彼女が芸能界で活躍する姿を見せられなかった。


 残念だ。


 戻ると、兄の人生を知ることに成るだろう。


 中学三年生で、直木賞の候補に成っていた。


 きっと何か偉業を残している筈だ。


 彼女はそれを超える。




 この世界に娯楽は少ない。


 私が歌えばすぐに人が集まる。


 私も、向こうの世界で、娯楽の溢れた世界で勝負したい。


 かくれ里の孤児院は気に成る。


 調べものが済んだら帰るつもりだった。


 でも自分に嘘は付けない。


 孤児院の事は後で考える。


 私は、私が心動かされた事を歌で伝えたい。


 異世界で通用するか試したい。


 契約するには、神獣を探さなけれはいけない。


 どうすれば良い?


 そこまで考えて、目が覚めた。




 目が覚めると、夕方だった。


 アリアが私の顔をじっと覗き込んでいた。


「おはよう、アリア」


「朝焼けじゃ無いわ、夕方よ」


「知ってる」

「おはようの気分だったの」


「そう」


「ゼアスとトリポリさんは?」


「コテージで内緒話してる」


「シロさんは?」


「二人と相談」


「ふーん」


「どう?」

「立てそう?」


「たぶん大丈夫」

「ショックが大きかっただけだから」


「そう」

「アリア」

「おでこ貸して」


「え?」

「なに?」

「おでこ?」


「そう、おでこ」


「貸すって、どうするの?」


「私のおでこと貴方のおでこをくっつけるの」


「…………」

「嫌な予感がする」


「良いから」

「痛くしないから」


「怖い、怖い」

「絶対何かあるじゃない」


「はやくして」


「なに怒ってるの?」

「逆ギレしないでよ」

「わかった、やるわ」


 私は髪をあげて、おでこをアリアのおでことくっつけた。


 私は死にかけた時の、限界を超えた状態のイメージをアリアに流し込んだ。


「うっつ…………」


「ゼアスが言ってた、限界を超えるイメージって、たぶんこれよ」


「うん」

「そうね」

「…………」

「もしかして、傷が直ったのって、ゼアスさんの力じゃ無いの?」


「正しく伝わって良かった」

「そう」

「たぶん私がゼアスを信じたから、私の力で直った」

「もう私は即死じゃなきゃ死なないわ」

「痛みで冷静さを失わなきゃだけど」


「うん」

「私も出来そう」


「眠っている時、また夢を見たわ」

「いつもより鮮明で、少女の名前が解った」

「私は契約する」

「契約して、融合して、彼女と彼女の世界に一緒に帰る」

「そうしたい」


「そう」

「私はまだ決心が付かないわ」

「貴方、決心早過ぎ」


「そうね」

「ゆっくり考えて」


 ゼアスとトリポリさん、シロさんがコテージから出てきた。


「目が覚めたのか?」

「気分は?」


「落ち着いてる」


「そうか」


「危険な目に合わせてごめんなさい」


「いえ、良いんです」

「仕方無かったです」


「そう、そう言ってもらえると気が楽になります」


 トリポリさんは全然気楽そうにはしてなかった。


 シロさんはイライラして、舌打ちしてた。


「死にかけたお陰で、面白い感覚を掴めました」

「見ててください」


 私は意識を集中した。


 風だ。


 風に成るイメージ。


 意識が拡散する。


「お、おい!」

「無茶するな!」

「すぐに戻れ!」


「そうです」

「戻って!」


 ゼアスが焦ってる。


 面白い。


 トリポリさんも焦ってる。


 シロさんは今にも怒りが爆発しそうだ。


 トリポリさんを困らせたくない。


 シロさんを怒らせたくない。


 ゼアスは、別に。


 戻ろう。



 戻る方が、難易度が高いらしい。


 より、意識を集中させた。


 戻った。


「どうです?」


「ま、まあまあかな」


「気分は大丈夫です?」


「はい」


「ふふ、普通は吐くほど辛いのですよ」


「これがですか?」


「弟子が生意気とは、こういう気分でしたか」


「ベル以上だな」


「私も出来そうですけど…………」


「え?」

「アリアもですか?」


「はい」

「さっき限界を超えるイメージをニーナから貰ったので」


「…………」


「…………」


「…………」


「イメージを貰うってどうやるんだ?」

「やって見せてくれ」


「誰に送りましょう?」


「俺に頼む」


 シロさんが名乗り出た。


「おでことおでこをくっ付けて念じるんです」


 二人はおでことおでこをくっ付けた。


「っ…………」


「こんな感じでしょうか?」


「…………」


「…………」


「死と再生のイメージだ」

「俺も理魔法が使えるようになった」


「シロさん、ホントにか?」


「あー、マジの奴だ」


「まー、そういう事もあるかな」


「その一言で済ませるつもりですか?」

「嘘でしょう?」


「だって仕方無いだろ、出来る様になったんだし」


「そんな、馬鹿な」


「この感じだと、俺達、追いつかれたぞ」


「えー!?」

「納得いきません」


「全て追いつかれた訳じゃ無い」

「十四日間耐えられると思うか?」


「それは流石にすぐには…………」


「だろ?」


「十四日って何ですか?」


「内緒です」


「これも追いつかれると俺達の自信が砕ける」

「勘弁してくれ」


「です」


「それにしても、声を掛けて正解だったな」


「それはまだわかりませんよ」

「取り込んだ気に成らないで下さい」


「そろそろ、正体を教えてくれても良いですよ?」


「はっ、推理してみろよ」


「解らないから聞いてるんです」


「え?」

「ニーナ、解って無かったの?」


「え?」

「アリア、もう解ってるの?」


「シロさんの事はわからないけど、二人はわかるわ」

「レイセ様とリビア様」


「?」


「そうか」

「貴方がシーリスで歌っている間に私が集めた情報を、全部教えてなかったわ」

「説明するとね…………」


「ちょっと待て」

「面白いから首都に着くまで内緒な」


 アリアは笑顔になった。


「そうですね」

「面白そうです」


「だろ?」


「です」


「ちょっと、かわいそうな気もしますが」


「そうですよ」

「教えて下さい」


「お前が誰に調子こいたか思い知らせてやる」

「俺だけ呼び捨てだし」


「ゼアス」

「気にしてたんですね」


「俺って、威厳とか無いのか?」


「常に、泰然と、自然としていられるのが、貴方の凄い所です」


「つまり、威厳、無いんだな?」


「う、まあ」


「それって、実は大問題じゃ無いか?」


「私が横に立っていれば問題ありませんよ」


「お前、自分には威厳があると?」


「私には敬称が付いています」


「くっそー」


「あははっ」


「アリア、笑うな」


「ふ」


「シロさんも」


「笑わずにいられません」


「だな」


「?」


「よくわからないんですが」


「ニーナ、お前は解らなくていい!」


「そろそろ、夕飯にするか」


「何が食べたい?」


「あ、今日は私が作ります」


「え!?」


「なんです?」


「いや、……」

「何を作る気だ?」


「グラタンです」


「……」

「俺も手伝わせてくれ!」

「頼む!」


「良いですよ」

「では、道具を出して下さい」



 ゼアスは空間から道具を出して並べた。


 ゼアスは必死に何かを守っている。


 そんな動きだった。


 私は、トリポリさんの性格が解ってきてる。


 きっと、刺激の強い味が好きな筈だ。


 ゼアスが必死で方向修正したお陰で、美味しいグラタンが食べれた。


 二人は仲が良いな。


 羨ましい。


 そう思った。

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