6話 二国の王
巨大なカマキリが右の鎌を振り下ろした。
私は左の剣で受ける。
カマキリが左を払った。
私は右の剣で上に弾いた。
そのままカマキリの左側から切り込む。
間合いの内側に入り、両手に持った剣を短剣に変化させた。
カマキリの腕の関節を、短剣で切りつける。
カマキリの両腕を落とした。
カマキリは両腕を再生しようと切断面から泡を出している。
しかし、一瞬で再生することは不可能のようだ。
三角形の頭がガラ空きに成っている。
一歩下がって薙刀を具現化した。
とどめを刺す。
そう思った時、カマキリが視界から消えた。
アリアが理魔法を使い、カマキリの上に有った空気を固定して下に降ろしたらしい。
カマキリは押しつぶされて、紫の体液が地面に広がっている。
私が態々腕を落として、完璧な勝利を得ようという時に、これである。
「頭を落としたら終わりだったんですけど!」
「知ってる」
「勝負が済んだから、理魔法を使っても良いかなって」
「良い訳無いじゃない」
「一人でやりたかったのに」
「今更、武器で勝負する必要無くない?」
「それを言ったらお終いでしょ」
「でも、遊びじゃ無いから、全力出さないと」
「う」
「他の誰かにマネ出来ないオンリーワンな特技を磨かないでどうするの?」
「う」
「トリポリさん、意見下さい」
「オンリーワンな特技なんて存在しませんよ」
「マネ出来ない事は存在しません」
「ほらー」
「でも、自分の得意技を持っておくのは良い事だと思います」
「あ、あれ?」
「ですよね」
「アリアは理魔法、ニーナは音魔法」
「それらを主軸にして戦闘を組み立てる方が良いです」
「だな」
「さっきニーナは音魔法を使わなかった」
「その心は?」
「ゼアス、その返しめんどくさい」
「答えは簡単」
「一撃で頭を吹き飛ばせるから卑怯じゃない?」
「虫相手に卑怯とか」
「上から見過ぎだぞ」
「全力出せよ」
「ちょっと強くなると、すぐに調子に乗る」
「きっと魔物の王に音は通用しないぞ」
「え?」
「私の敵の想定が、魔物の王なの?」
「流石にそれは持ち上げ過ぎじゃない?」
「…………」
「確かに、俺がお前を高く評価し過ぎてた」
「悪かった」
「そ、そうよ」
「荷が勝ちすぎてるわ」
「…………」
「…………」
「でも、謝られると、逆に腹立つ」
「そう言うと思った」
「謝って損したぞ」
「ゼアス、ムカつく」
「わがまま娘」
トリポリさんとアリアは顔を見合わせて、笑顔だ。
全然笑えませんが。
旅の始めに私が死にかけるハプニングが有ったが、それも含めて良い旅だった。
シーリスを出発してそろそろ三十日。
移動の旅が終わる。
首都クリアはもうすぐだ。
首都クリアで、賢者シェルミ様を紹介してくれるらしい。
でも、必要な情報は既に得ている。
神獣は、その時が来れば向こうから顔を出すらしい。
まだその時では無い。
私とアリアは、『フィナリスラーウム』に入る事に成った。
アリアも自分に入ってきている少女の名前が解った。
永遠を生きる決心、融合する決心が出来たらしい。
永遠を生きるには、仲間が必要だ。
ゼアスとトリポリさん、シロさんの仲間。
永遠を生きるのに、申し分ないだろう。
首都クリアに着いたら、ゼアスは正体を説明してくれるらしい。
これだけ勿体つけたんだから、さぞかし大変な正体なんだろうな?
ゼアス、ガッカリさせんなよ。
トリポリさん?
彼女は別。
どんな正体でも尊敬できる。
トリポリさんが魔道具で連絡を取ってる。
今までは、コテージの中とか場所を変えてたが、仲間に成ったらそれが無くなった。
ベル、と言う人と連絡を取っているみたいだ。
内容はあと一日で着くというもの。
ゼアス達は要人だ。
仲間の私達も歓迎される。
ちょっと楽しみだ。
遠くに首都クリアの壁が見える。
遠くからでも解る。
シーリスと比べて、桁外れな大きさだ。
これが聖都。
出来てから数百年経っている、歴史ある都市。
「二人はこの街に来た事あるんですか?」
「ふふ、有ります」
「かつてサバスと呼ばれていた時から何年も住んでいました」
「サバスか」
「懐かしい」
「わ、私が情報を伝えてないので、許してください」
「何を謝っているのです?」
「気を遣い過ぎです」
「そうだぞ」
「しかし、立場と言うものが有りまして」
「いずれお前にはもっと砕けたしゃべり方をさせる」
「絶対だ」
「えー!?」
「私だけ蚊帳の外」
「そろそろ正体を、プリーズ」
「お前は砕け過ぎだ」
「えー!?」
街が迫って来た。
壁の出入り口の近くに八人、雰囲気の有る人が待っている。
出迎えか?
でも、完全武装だ。
違和感がある。
矢がゼアスに向かって飛んできた。
待っていた一人が射った。
ゼアスは躱した。
ゼアスは距離を詰める。
矢がどんどん放たれる。
金属の弾もゼアスに向かって飛んでくる。
魔法使いもいるらしい。
ゼアスと八人で戦闘が始まっていた。
私達はそれを眺めている。
トリポリさんとシロさんが焦ってない。
流れを見守ろう。
蒼い一人がゼアスに向かって突進してきた。
追いかけて、紫の人も。
白い騎士は歩いて近づいて来る。
その隣に大盾を持った少女。
もう一人の赤い魔法使いは火炎を撃って来た。
ゼアスは盾で防ぐ。
蒼い騎士が右から左に剣を払った。
ゼアスは左の盾で受ける。
ゼアスは右の剣で突いた。
蒼い騎士が盾で受ける。
紫の双剣使いがバツ時に切り上げた。
ゼアスは後退して躱す。
後退した先で、白い騎士が槍を突き出した。
ゼアスは剣で下へ払う。
大盾の少女が注視を使った。
非常に強力だ。
私にも効いている。
そこで全員が静止した。
「カイン、満足したか?」
「クソっつ!!」
「ダズ、良く時間作れたな」
「お前はマイペースだな」
「お久しぶりです」
「兄貴っ」
「ベル、ラン、久しぶり」
「さっさと結界を解いてくれ」
敵全員の首の裏、死角に六角形の結界が出来ていた。
全員の首の裏に結界を作った事で勝負が決着したらしい。
「カイン、返事は?」
「…………」
「わかった」
「降参だ」
結界が消えた。
「手荒い歓迎だな」
「カインがどうしても実力を試したいと聞かなくてな」
「それでまんまと言う事を聞いたのか?」
「ああ、悪いか?」
「お前が親代わりなんだろ?」
「一応な」
「親バカだな」
「お前が言うな」
「俺をガキ扱いするな」
「調子はどうだ?」
「お前そればっかりな」
「それで?」
「準備は整った」
「玉座に座る」
玉座?
え?
トリポリさんとアリアの顔を見た。
頷いている。
シロさんは相変わらずイライラしてるけど。
ゼアスが、王?
王!
バッカじゃない?!
ゼアスの近くに全員が集まった。
「聞いていたか?」
「私に言ってるの?」
「そうだ」
「俺の名は、レイセ・クリア・クロト・ノキシュ」
「連合国クロトの王にして、聖国クリアの王、になる予定だ」
二国の王!
「私は、リビア・クロト」
「聖国の元代表で、レイセの婚約者です」
「まだ結婚してなかったの?」
「ああ、意外か?」
「うん」
「妹の前で結婚式を挙げられそうで良かった」
「なんだ」
「気付いてたんだ」
「シロさんをもっとよく観察してみろ、見覚え有るだろ」
「それに、お好み焼きのマヨネーズとソースの掛け方がキモかった」
「文句あるのかよ、兄貴」
「美月には何も話してないでしょ?」
「こっちに来ないと理解できないだろ?」
「そうだけど、だけど…………」
「ふふ、噂の美月ちゃんに会えそうです」
「美月より私のが歌上手いんですから」
「ふふ、そうですね」
「きっと歌は貴方ですね」
「私以外に兄貴って呼ぶとは」
「ラン」
「気にするな」
「何それ、どういう事?」
「ベル、ラン、カーとは、兄弟の様に接してきたんだ」
「…………」
「なんか複雑」
「妬くな、妬くな」
「調子に乗るなよー」
「立ち話はやめて中に入って落ち着きましょう」
「魔物も徘徊しています」
あの兄の国か。
美月の兄が王。
向こうに戻らなくても、兄は偉業を成していた。
流石、私達の兄。
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