7話 最初の冒険者

 ニーナ・アイマー:レナメントレアのはぐれ里出身。

          黒戸美月の夢を見る。

          主人公。

 アリア・アランテ:レナメントレアのはぐれ里出身。

          異世界の夢を見る。

          ニーナとは幼馴染。

 シロ:『ロストエンド』マスター、黒巣壱白の偽名。

    肩から刀をかけている。

    一応管理者。




 昨日は昼に着いて、レイセ、兄貴の家に案内された。


 王の私邸。


 クソ広い。


 しばらくここで暮らすように、との事。


 何とゲストルーム一室ずつにお風呂が付いていた。


 ホテルの様だった。


 早速利用させてもらった。


 ベッドはフカフカだ。


 過剰な装飾も無く、品が良かった。


 ここにしばらく滞在出来ると思うと心が弾む。



 昨日の夕方は、バーを貸し切っての懇談会だった。


 大々的な宴は他国が集まってから行われるらしい。


 懇談会は私達四人の為だ。


 戦争の前なのに、誰も慌ててなかった。


 私はカウンターに座ってちびちびとお酒を飲んで過ごした。


 騒いでいるアリア達に混ざる気は無かった。


 嬉しそうにはしゃぐ皆を眺めて過ごした。


 楽しく無かった訳じゃ無い。


 あの時、私の心は満たされていた。


 更に何かを必要とする気分では無かった。




 そして今、朝に成って少し後悔し始めてる。


 いろんな人と話をし、情報を集めておくんだった。


 少し恥ずかしいが、今、こう思ってる。


 美月の兄、レイセの事が知りたい。


 そしてこうも思ってる。


 兄の人生は、良い歌に成る。


 兄の結婚式で私は歌を歌うのだ。


 その頃には私はきっと融合してる。


 そんな気がする。



 今日は完全にオフだ。


 アリアとも約束してない。


 こういう日、いつも私は歌を歌って過ごしてきた。


 でも今日は違う。


 昨日の八人もしばらく守護者の務めを休んで英気を養うと言ってた。


 もしかしたら、会えるかもしれない。


 レイセの話を聞けるかも。


 城にいるかな?


 行ってみよう。



 まず、朝食を屋台で食べようと思い、外に出た。


 朝から屋台のやっている大通りを目指す。



 しばらく歩くと大通りに出た。


 綺麗な街並みだ。


 私に絵心は無いが、絵にして部屋に飾っておきたいと想像した。



 きょろきょろしながら歩く。


 田舎者の不審な挙動だが、気にしない。


 なんせ私は王の妹。


 怖いものなど無いのだ。




 さらにしばらく歩くと、良い感じに行列が出来ている屋台が有った。


 ホットドックを売ってるらしい。


 早速後ろに並ぶ。


 しばらく待つ。


 先頭が動いた。


 一つ前に並んでいた人が前に詰めてくれない。


 新聞を読むのに夢中だ。


「すいません」

「前に詰めて貰って良いですか?」


「あ、すいません」


 新聞を読んでいた男が、新聞を畳んで鞄に仕舞った。


 顔を上げた男の顔に見覚えがあった。


「あの、カー様じゃないですか?」


「あー!」

「ニーナ様」

「奇遇ですね」


 カー様は琥珀聖と呼ばれる、魔導士タイプの守護者だ。


 一昨日は金属の弾をレイセに向かって撃っていた。


 土、金、属性の魔法を得意としているらしい。


 虫の観察記録を纏めて博士の様に扱われてもいる。


「様は止めて貰って良いですか?」

「僕も様つけしないといけなくなる」


「ええ、そうします」

「ここのホットドックは美味しいですか?」


「まあ、そこそこかな、僕は週に八食はするけど」


「ふふっ、期待できそうです」


 週八食でそこそこって、なら美味しい奴はどんだけリピートするんだろ?


「…………」


「…………」


 まあ、そこを掘り返したりしない。


 もし、ここのホットドックが上手かったら、お薦めを聞くかも。



「百歳そこそこなのに、僕達に追いついたとか」


「気に成ります?」


「そりゃね」

「同じ魔法タイプだし」


「風魔法の一種、音魔法を使います」


「へー、それって直接ダメージを与えるの?」

「それとも支援系?」


「よくぞ聞いてくれました」

「両方です」


「マジで!?」


「ですです」


「私も『フィナリスラーウム』に入りました」

「戦争にも参加するので、その時に披露します」

「それより、レイセの事を聞きたいのですが……」


「クリアさんがどうしたの?」


「んー、こっちの世界ではどんな人だったのかなと思って?」


「ふふ、興味本位って事かい?」


「まー?」


「一言で言うと、僕たちの兄貴」

「命の恩人さ」


 丁度、私達が買う番になった。


「ちょっとまってね」


 カーさんはホットドックを受け取り、マスタードをかけている。


 ケチャップはかけないらしい。


 二つ受け取っている。



 私も一つ買って、ケチャップとマスタードをかけた。


 ベンチに移動する。


 二人で並んで、無言で食べた。



 美味しい。


 無言に成る。


 ソーセージがジューシーだ。


 週八。


 行けるかもしれない。


「ベル、ラン、僕はクリアさんに拾われたんだ」

「その時僕らは日本語しか話せなかった」

「そういう話が聞きたいんだよね?」


「そうです」


「懐かしい話だけど、よく覚えてる」

「僕達三人は魔物の王に、牢で飼われてた」

「ベルが機転を効かせて牢を破り、外の世界に逃げる事ができた」

「牢の中にはもっと沢山の子供がいたが、たぶん助かったのは僕ら三人だけだ」

「僕らは牢に時々投げ込まれる魔物を食べて生きていた」

「獣の様に」

「身体能力は自然と高くなっていたようだ」

「でもね」

「外の世界には通用しない」

「ヤバい奴に見つかったら死んでいた」

「その当時は、索敵が出来なかったしね」

「三人で何処を目指して良いか解らず、途方に暮れていた時に、クリアさんが現れた」

「今では想像できないかもしれないけど、クリアさんは敬語で話してた」

「とても丁寧で、親切」

「優しかった」


「へー」

「意外です」


「当時、守護者は案内人と呼ばれていたんだ」

「兵士と結界師の寄宿舎に部屋を借りてくれて、僕らに言葉を教えてくれた」

「一緒に寝泊まりして過ごしてたんだ」

「クリアさんは、夢にうなされてた」

「目が覚めても涙が止まらないと言っていたな」

「僕も実際に泣いている所を見たよ」


 ああ、そうか、私が兄を思って泣いてたのと同じだ。


 兄も、美月を思って泣いてたのか。


「僕達三人が一人前に成った後、クリアさんは案内人を去ったんだ」

「王都、今の商業都市ノキシュに旅に出た」

「王都の図書館に神獣のヒントがあると思って」

「僕達を置いて、美月ちゃんを探す旅に出たんだ」


「…………」


「でも、それはクリアさんの話さ」

「その後、クリアさんは王都で恋に落ちる」

「『最初の冒険者』は読んだ?」


「いえ」

「凄いらしいですね」

「高価なんでまだ読んでません」


「著者は、クリア・ノキシュ」

「主人公の名もクリア・ノキシュ」

「冒険者ギルドを実現させてしまった、嘘みたいな物語さ」

「クリアさんのその後は、あれを読めば大体解った」

「この街にも、支店がある」

「すぐそこだ」

「今、文字盤もってる?」


「持ってます」


「僕が、『最初の冒険者』を奢るよ」

「クリアさんの選択を怒らないでやってね」

「結局、クリアさんは僕らの前に戻って来た」

「リビアさんの言ってた通りにね」


「?」


「戦争までまだ大分時間が有る」

「物語を読んでから、また誰かに話を聞くと良い」

「じゃ、支店に行こう」



 支店で『最初の冒険者』をダウンロードした。


 カーさんは、訓練が有ると言って城に向かった。


 私は私の部屋に戻った。




 『最初の冒険者』を読んだ。


 外への憧れと、愛する人への思いの詰まった物語。


 挿絵も凄かった。


 一気に読めてしまった。


 読み易い様に一文が短く、難解な表現は避けていた。


 ダンジョン攻略をした今なら嘘も多いと解るが、真に迫る何かが有った。


 ヒロインにプロポーズしてOKされたところで泣いてしまった。


 不覚。


 感動した。


 もし里でこれを読んでいたら、百歳までに抜け出して外の世界に出ていただろう。


 その位の影響力が有った。



 きっと実話をもとにしている。


 そうに違いない。


 そしてその人と、幸せに暮らしたのだ。



 レイセ。



 兄貴。



 お前。



 一回結婚してるじゃん!

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