8話 ギブアップ!!
ニーナ・アイマー:レナメントレアのはぐれ里出身。
未契約だが黒戸美月の人生を追体験した。
黒戸美月の精神が意識の中にある。
五章主人公。
アリア・アランテ:レナメントレアのはぐれ里出身。
異世界の夢を見る。
ニーナとは幼馴染。
リビア:リビア・クロト。
レイセと婚約。
聖国クリアの元代表。
ベル:黒沼直樹。
聖国クリアの守護者。
聖国クリアの守護者と言えば彼を指す。
物理と数学の教師。
クリア・ノキシュは幸せに暮らした。
『最初の冒険者』の通りなら、ヒロインの連れ子と三人仲良く暮らした筈だ。
で?
どうなった?
何故王に成ってる?
余計に解らなくなった。
本人に直接聞くか?
いやいやいや。
無い無い。
直接は無い。
本人も話し難いだろう。
誰に聞く?
一人しかいない。
トリポリさん、じゃ無かった。
リビアさんだ。
もしかしたら、小姑と嫌がられるかもしれない。
リビアさんに限って無いとは思うが。
こういう事って、考え過ぎは無いと思う。
細心の注意を払おう。
朝。
リビアさんは私邸の食堂に居た。
アリアも一緒だ。
いつの間にかアリアはリビアさんと随分親し気だ。
リビアさんの前にアリアが座ってる。
私はリビアさんの隣に座った。
「少し、聞きたい事が有るんですが…………」
「何ですか?」
「改まって」
「『最初の冒険者』を読んだんですが…………」
「え?」
「嘘」
「私まだ読んでないのに」
私はそう言うだろうなと思って、文字盤をすぐに読める様に準備しておいた。
黙ってアリアに差し出す。
アリアは流れるような手つきで受け取って、食事中にもかかわらず読みだした。
「読み終わるまで貸しとくから」
「それで、リビアさん」
「クリア・ノキシュはどう云う
「……」
「『最初の冒険者』が書かれてからしばらくは連絡取って無かったので……」
「詳しくは、プロミに聞いて欲しんですけど…………」
「プロミ?」
「ええ、プロミネンス」
「名前?」
「知らない人です」
「…………」
「アリア」
「アリア!」
「え?」
「何です?」
「プロミの事、話して無いのですか?」
「プロミ様の、何の事です?」
「何も聞いてませんが、話と関係有ります?」
「わ、私が言うのですか?」
「何か釈然としません……」
「婚約者は二人います」
「プロミも婚約者です」
え?
え?
何?
なんて?
「もう一回言ってください」
「良く聞こえませんでした」
「レイセは、私とプロミと結婚します」
「…………」
どうやら、聞き間違いじゃ無い。
二人と結婚するらしい。
人族なら有りなの?
レナメントレアでは重罪だけど。
「ど、同時にですか?」
「そう、同時に」
「…………」
理解できない。
リビアさん。
尊敬できる人と思っていたけど……。
イメージが違ってきた。
「…………」
「何か、私の株が下がった気がします」
「…………」
「おかしいのはレイセですよ」
まあ、確かに。
おかしいのはレイセだ。
アリアは気にせず物語に夢中だ。
リビアさんは、手を叩くと、そうだ!
と言った。
魔道具を取り出す。
連絡用の奴だ。
「ベル」
「一つ頼みごとが有ります」
「え?」
「不満なのですか?」
「ですよね?」
「不満、無いですよね?」
「ニーナに、『最初の冒険者』がどうして王に成ったか聞かれています」
「何?」
「もしかして笑ったのですか?」
「そうですよね?」
「違いますよね?」
「聞き間違いという事にしてあげます」
「そうです」
「貴方も協力者ですものね」
「そう」
「良かった」
「頼みますね」
リビアさんの怖い一面を垣間見た。
明らかに、押し付けてた。
なにか、あやしい。
「自分で話すと都合が悪いのですか?」
リビアさんは何故かその一言に過剰な反応をした。
リビアさんがショックを受けている。
逆に申し訳なくなってきた。
「…………」
「べ、ベルは今時間に余裕が有るらしいです」
「朝食を食べたら、城に行ってください」
「ランも居ますよ」
「本当は、私が話したいのですが、上手く説明する自信が無くて…………」
「ベルは説明が得意ですので…………」
「解りました」
「行ってきます」
「その前に、一緒に食べましょう」
「ですね」
私達は仲良く朝食を食べた。
オムレツとトースト。
野菜のスープ。
王の私邸でも金箔とかまぶしてない。
優しい、落ち着く味だった。
城に向かった。
ベルさんは私室を持っているらしい。
そこに通された。
「どうも」
「はい、おはようございます」
「おはようー」
ちょっと人見知りを発揮した私。
さわやかに返事した、ベルさん。
機嫌が良さそうな、ランさん。
ベルさんはこの国の守護者のまとめ役だ。
守護者と言えばベルさん。
槍を持った白い騎士を想像するらしい。
そして、ランさんは華奢な体格に似合わぬ異名を持っている。
鉄壁。
大盾を多用するスタイルからそう呼ばれている。
「では早速」
「リビアさんに説明を頼まれたんだけど、話していいですか?」
「お願いします」
「簡単に言うと、クリアさんが抜ける前から、リビアさん主導で国造りが始まってたんです」
「え?」
「リビアさんが国造りを主導したんですか?」
「まあ、僕らもですが」
「だね」
「クリアさんは異世界の問題を解決する」
「その後また帰って来る」
「と、リビアさんは確信していたんです」
「私達がそれに乗っかった」
「それって…………」
「そう、クリアさんの為にリビアさんが用意しました」
「クリアさんの器は王に相応しいと僕らは思っていました」
「レイセが戻って来るまでに国は出来たんですか?」
「もちろん」
「あいつが次に顔を出したのは三百年後でした」
ん?
今、あいつって言った?
聞き間違いかな。
本人の知らないところで国造り。
三百年。
リビアさんが言いたがらない訳だ。
重い。
思いが重い。
それで良く、プロミさん?
と、揉めないな。
「三百年後に顔を見せましたが、魔物の王の配下達を一人で皆殺しにして、リビアさんを連れて、北に旅立ちました」
「僕らには、一言も無かった」
「話したのはダズさんだけです」
まだ続きは長そうだ。
でも、もうお腹いっぱいに成って来た。
「貴方方が国造りをしている間、レイセはどうしてたんです?」
「結婚して、行商を成功させ、奥さんが老衰で亡くなるのを見届けたらしいです」
「その後、契約して、プロミさんと戦闘訓練をしてました」
また出てきた、プロミさん。
「プロミさんって何者なんです?」
「あれ?」
「聞いていませんか?」
「ルビー・アグノス」
「月と太陽の国女王」
「現人神」
「そして、黒崎鏡華」
黒崎鏡華。
鏡華。
あの鏡華?
「鏡華ってあの?」
「そうですよ」
「ちなみに、僕は黒沼直樹です」
「解ります?」
ち、ちょっと待て。
よく考えろ私。
あの不自然な集まり。
あれ、もしかして。
まさか。
ひょっとして。
向こうに戻っても、百年経ってない?
行き来出来る?
そういう事?
「じゃ、じゃあ、黄山十夜さんは?」
「こっちじゃ、ファガスって呼ばれてます」
「青井友介さんは?」
「コナルですね」
「もしかして、黒沢香織さんも?」
「リアンナ・ドバスカリ」
「海洋国家ドバスカリの女王です」
「ファガスと婚約してます」
「…………」
「融合すると、帰れるんですね?」
「ですね」
「時間はどうなります?」
「一秒も経っていません」
「この世界に来ている間は時間が静止しています」
「どうです?」
「辻褄は合いそうですか?」
「物理の先生としての意見を聞きたいです」
「物理は理論を再現して初めて使える物に成る」
「逆に実現している事を疑うのは摂理に反します」
「…………」
「難しいです」
意識を戻そう、情報が多い。
感情が追い付かない。
鏡華と零維世。
結婚するのか。
そうか。
「美月ちゃんは何歳の時にこっちに来ましたか?」
「たぶん十五歳かな」
「高校一年生でした」
「ふむ」
「今の状況は僕らにとって好ましい」
「貴方に会えたからです」
「今の状況を確定させる為に貴方から情報を引き出さないといけないかもしれません」
「今、王は、零維世は中学一年生です」
「な?!」
「こっちに飛ばされる時期はランダムです」
「重なった方でしょう」
「これからは、僕が質問します」
「向こうで零維世は何をしました?」
「僕は?」
わー、ややこしい。
兄貴が中学一年って、何してたっけ?
「間違って伝え忘れたらどうなります?」
「たぶん、辻褄を合わせる為に改変が起こります」
改変?
ギ、ギブアップ。
「すべての世界は過去が未来、未来が過去を変化させます」
「物語の辻褄を合わせる為、改変が起こります」
「この世界には管理者がいます」
「その管理者が物語を選んでいます」
だから、ギブアップ。
「黒戸和馬は管理者の司会進行役です」
「人間ではありません」
はー、笑うわ。
「ギブアップ!!」
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