24話 押し切る

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

     黒羽学園中等部生徒会長。

     美月は妹。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

      月と太陽の国女王にして、現人神。

      小学六年生。

      美月と友達。

      レイセと婚約している。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと婚約している。

 黒竜:真名、レムリアス。

    白竜と並ぶ最古の神獣。

    レイセと契約している。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

      ファガス。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

      コナル。

 ボーデン・バレット:フレドの補佐。

           守護者。

           閑話に登場。

 フレドリック・ユルロア:連合国クロトの守護者長纏め役。

 リアンナ・ドバスカリ:海洋国家ドバスカリの女王。

            黒沢香織。

            大学生。




 

「みんな、戻った」


「レイセ、おかえりなさい」

「どんな様子だった?」


 ん?


 何か違和感がする。


 反応が軽い。


 九時間待った後の反応じゃない。


「ああ、説明するが、その前に休憩させてくれ」


「休憩ですか?」

「…………」


「向こうにどの位いたのです?」


「やはり察しが良い」

「だが、ボーデン、ちょっと休ませてくれ」


「そうですね」

「申し訳ない」


 俺は五分程かけて、一心不乱に保存食を食べた。


 チョコレートバーの様な、小さくて食べ応えが有りカロリーが高い奴だ。


 二本食べた。


 味は甘いのとしょっぱいの。


 まだまだ味には改良の余地がある。


 今は関係ないが。


「ふう、もうわかっていると思うが、俺は向こうでは九時間粘った」


「やっぱりですね」

「こっちでは五分程です」


「それで?」

「様子は?」


「現実離れした光景が広がってた」


 俺は詳しく説明した。


「フレド、お前が言ってた通りだ」

「難易度が跳ね上がってる」


「だろ?」

「策は?」

「何か考えたか?」


「策は無い」

「策を使えない様に念入りに設定されている」

「これは俺の予想なんだが、どれだけ向こうに居ようとも、帰ってくる時は五分だと思う」

「五分で戻らなければ、死んだか、次に進んだか、だ」

「次の挑戦で、次に進む」

「絶対だ」

「粘る」

「俺が再挑戦して五分経ったら、転送装置を使って進んでくれ」

「言っておくが、相当タフな階層だぞ」


「わかってるわ」


「向こうでは合流出来ないのでしょうか?」


「リビア」

「確認してないが、たぶん合流できない」


「ダンジョンの構造上、複数人で行ければ、交代して休めたのにな」


「そんなに甘く無いって事だな」


「合流出来ないと不安か?」


「ええ」


 フレド、ボーデン、ファガス、コナルは困り顔だ。


 このタイミングでイチャ付くのは不味そうだ。


 控えめにしよう。



 俺はリビアの頭を撫でた。


 プロミが向こうを向いている。


 俺はプロミの頭も撫でた。


 嫌がらない。


 そうか、撫でて欲しかったのか。


 このまま二人を押し倒したいが、我慢する。


 攻略が終わってからだ。




 プロミとリビアは、俺が成果無しで帰って来た事に不安を感じている。


 それが俺にも伝わってきた。


 ファガス、コナル、フレド、ボーデンも緊張を感じている。


 俺達がイチャ付くのを嫌がっている様に見えて、実はそっちの不安が出ている。


 俺はここで仮眠をした後、再チャレンジする。


 次は抜けなければならない。


 次で無理なら、根本的な底上げをしなくては無理だ。


 次に掛かっている。


「悪いが少し仮眠する」

「先に行くか?」


「……」

「貴方が無理ならみんな無理よ」

「貴方が抜けた後行くわ」

「悔しいけど」


「プロミ、あんたがそう言うなら従うぜ」


 みんなは頷いている。


 俺はマジックバッグから毛布を取り出して包まった。



 三時間ほど経ったようだ。


 起きると、みんながトランプしていた。


 ババ抜きだ。


 さっきまでの緊張感が無い。


 その揺るがない感じ。


 悪くない。



「行ってくる」


「ええ」

「死なないで」


「わかってる」


 俺は転送装置の青い光に進んだ。



 また来た。


 さっきと同じ、異様な風景。


 時間制限で水が落ちてこない事を願う。


 さあ、行くか。



 十メートル進んだところで、水人が出た。


 相変わらず、変則的かつ素早い。


 だが、読めている。


 俺は一度掴んだ感覚を忘れない。


 斬撃ではこいつを後退させられない。


 打撃で応戦する。


 後は大技だ。


 隙を作って大技を叩き込み、大きく後退させる。



 俺は両手持ちハンマーを振り、奴を狙う。


 奴は両手の剣をクロスさせ防御する。


 最大限まで光らせた両手持ちハンマーの攻撃は強力だ。


 三メートル後退させた。


 三メートルだけだ。


 しかし、塵も積もれば山となる。


 すでに五キロは後退させた。


 四時間ほどで五キロだ。


 一方的に攻めている。


 完全に圧倒している。


 油断は禁物だ。


 左右の水に触れると十中八九振り出しに戻る。


 そして、道がどこまで続くかわからない。


 耐久戦。


 精神戦だ。



 更に四時間経った。


 同じペースを維持している。


 十キロほど進んだ。


 道が一段下がっている。


 二十センチほどの段に成っている。


 もしかして、これで一階層降りた事に成るのか?


 わからない。




 だが、戦闘は続く。


 八時間で一階層。


 休憩無しだ。


 まさかだが。


 嘘で有って欲しいが。


 七十階層まで続くのか?




 あたり前だが、一日は二十四時間だ。


 八時間で一階層なら、七十階層まで降りるのに七十二時間かかる。


 七十二時間、三日。


 このペースを三日。




 無理だ。


 持たない。



 逆にペースを更に早めないと、集中力が切れてしまう。


 ペースを早めるにはどうすれば良い?


 何か有るだろ。




 そうだ。


 手が足りないなら、足せば良い。


 俺は腕を二本部分融合で作り出した。




 ペースは早まっている。


 更に一日半で六十八階層まで降りた。


 まあ、六十八階層じゃ無くて、六十一階層のままの可能性もあるが……。


 水人はもう目じゃない。


 後はミスしない事だ。


 一瞬のミスが、全ての崩壊に繋がる。


 ここだ。


 ここが正念場だ。


 六十九階層に降りた。




 水人が強く輝き出した。


 嘘だろ。


 もういい。


 勘弁してくれ。


 ここから更に強くなるのか?




 更に更に一日経った。



 六十九階層のままだ。


 奴は強くなった。


 進めない。


 一進一退が続いている。


 俺は眠気を感じ始めている。


 不味い。



 だが、どうしようもない。


 このまま耐えるしか……。


 おっと、危うく、思考停止するところだった。


 奴が輝くなら、俺もやる。


 全力を今出す。


 俺は全ての攻撃を強く輝かせて、攻め続けた。


 一気だ。


 一気に行く。



 はぁ、はぁ、押し切った。


 押し切ったぞ。


 七十階層に降りると、水人が消えた。


 転送装置が有る。



 迷わず中に入った。



 広い空間に出た。


 眠たい。



 腹も減っているが、今は眠気が勝っている。


 空間の様子とかはどうでも良い。


 眠い。


 毛布だ、毛布を出すぞ。



 出した。



 熟睡した。



 周りを見渡す。


 七人揃っている。


 安心した。


 みんな寝ている。


 静かな寝息だ。


 イビキをかく元気も無さそうだ。


 俺は保存食を出した。


 甘い奴が食べたい。


 飲み物も出した。


 ミルクだ。


 空間にしまうと時間経過しない。


 新鮮なミルクだ。


 クッキーの様な保存食に合う。


 保存食を食べた後は、更に水を飲んでおいた。




 この空間は、二十畳くらいの円筒形に成っている。


 中心に転送装置があり、端に一本通路が有る。


 通路の先には、また二十畳くらいの円筒形空間が有る。


 転送装置も有る。


 眼鏡の様な形状だ。


 今更だが、この空間は安全そうだ。




 満腹に成ったらまた眠たくなってきた。


 もう少し、眠ろう。



 また目が覚めた。


 まだみんな起きていない。


 俺だけだ。


 暇になった。



 何か食べるものを作ってやるとするか。


 カセットコンロの様な魔道具を出す。


 二口コンロだ。


 大きめの鍋を魔道具で温める。


 温まって来たら、油を入れ、鶏肉を入れる。


 鶏肉を炒めながら、塩コショウをする。


 切ったニンジン、ジャガイモ、玉ねぎを入れて、更に炒める。


 火が通ったら、水を入れる。


 材料が浸る位入れる。


 コンソメを入れて、しばらく煮る。


 鍋をもう一つ出す。


 小さめの鍋だ。


 魔道具のもう一口の上に鍋を置き、バターを焦げない様に溶かし、小麦粉を入れて炒める。


 牛乳を入れ、ヘラで混ぜる。


 ホワイトソースが出来た。


 ジャガイモに箸が刺さるように成ったら、ホワイトソースを入れる。


 しばらく煮る。


 味を確かめつつ、塩コショウする。


 出来た。


 クリームシチューだ。

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