23話 攻略再開

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

     黒羽学園中等部生徒会長。

     美月は妹。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

      月と太陽の国女王にして、現人神。

      小学六年生。

      美月と友達。

      レイセと婚約している。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと婚約している。

 黒竜:真名、レムリアス。

    白竜と並ぶ最古の神獣。

    レイセと契約している。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

      ファガス。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

      コナル。

 ボーデン・バレット:フレドの補佐。

           守護者。

           幕間に登場。

 フレドリック・ユルロア:連合国クロトの守護者長纏め役。




 

 この世界の魔法は体系化された。



 俺がプロミの宮殿で二百年間素振りしている間に、冒険者ギルドが出来、飛躍的に体系化が進んだ。


 結界も魔法に組み込まれた。


 結界は防御魔法だ。


 魔法には属性がある。


 火、水、土、風、樹、雷、金、光、闇、ことわりなどの属性だ。


 属性には、ゲームなんかでは、力関係、すくみの関係が有るが、この世界には特に無い。


 自然の法則がそのまま魔法に影響している。


 理の属性だけが、少々特別だ。


 理の属性は、時間や空間、その他物理法則に干渉する。


 例えば、人が空を飛ぼうと思ったなら、風をいくら起こしても限界がある。


 風だけで自由に飛ぶことは出来ない。


 だが、理の魔法を使えば、空を自由に移動できる。


 飛ぶ、とはまた違った概念の移動になるが。



 体系化された為、一般的に使用される魔法には名前が付いた。


 俺達『フィナリスラーウム』は戦闘能力において世界の最前線にいる。


 その筈だ。


 ボーデンが使う『ファイヤーボール』は、一般的な『ファイヤーボール』から逸脱している。


 彼が使う『ファイヤーボール』は、完全にレーザービームに成っており、威力が段違いだ。


 魔法が体系化された世界の中で限界突破している俺達だが、理の魔法を使える者がいない。


 大問題だ。


 出来るのなら、早急に修得を目指さなければならなかった。



 なぜ放っておいたのか?


 修得出来なかった。



 使おうと思っても、イメージ出来ないからだ。


 他の属性魔法は想像力を発揮して使用できる。


 今どこかにある物の延長上の力だ。



 対して、理は、発想力のみ必要だ。


 何処かに形ある自然現象を延長して発揮する類の魔法では無い。


 それゆえに、手つかずに成ってしまっていた。



 成ってしまっていた。


 そう、過去の話だ。


 少し考えれば解るだろう?


 俺だぞ。


 発想力の権化。


 発想力=俺だぞ。


 この俺に発想出来ない筈が無い。


 今回、予期せぬ所から、ブレイクスルーを起こした。


 流石俺。



 革新を確信した。


 完全に調子に乗った、ダジャレだ。


 さあ、笑え。



 俺はダンジョン攻略の為、保存食を入れておくバッグを取り寄せた。


 魔道国ネストロスに、マジックバッグなる便利な魔道具が存在することを嗅ぎ付けた。


 腰にぶら下げる小さな巾着袋の中に、一年分位の保存食を詰める事が出来る。


 理魔法を付与した魔道具だ。


 めちゃくちゃ高価だ。


 品薄で一般には出回っていない。


 俺は宰相リトアニに連絡を取り、七つも確保した。



 最初、七つ購入したいと言ったら、リトアニは断って来やがった。


 ダンジョン攻略に使うとバレてしまった。


 攻略が成功すると国力に差が出てしまう。


 時間のかかる、困難極まる交渉に成った。


 だが、まあ、ハッキリ言って、若干こっちが優勢で交渉した。


 商業都市ノキシュがあるお陰で比較的強く出る事が出来た。


 リトアニはもう友人だ。


 仲間だ。


 魔道国に害するつもりが無いと信用して貰うのに時間が掛った。


 信用を得たのと引き換えに、いつの間にか攻略レポートを書いて渡す約束をさせられてしまった。


 ポーカーの時の様な一方的な勝ちには出来なかった。


 リトアニ。


 出来る宰相だ。



 話が逸れた。


 つまり、マジックバッグを手に入れた。


 手に入ったから、使ってみた。


 そうすると、物理法則に矛盾が出る感覚を理解してしまった。



 一発だ。



 袋の外側から見た体積と、中に手を入れた時の体積が違うという不可思議な感覚。


 物理法則を矛盾させても、この世界では成立する。


 世界の懐が深い。


 ビビッと来た。


 部分的に矛盾を発生させても、無理やりつなぎ合わせれば、何とか世界が許容する。


 俺は、ライトノベルの主人公の様に、空間に物を出し入れ出来るように成った。


 ダンジョン攻略の準備を整えるだけで、理魔法を修得した。


 旨く行き過ぎた感覚があった。


 悪い予感がする。


 久しぶりだ。


 今回は特にだ。


 たぶん、ダンジョン攻略は、パパっと終わらないだろう。




 とにかく、つまり保存食の準備が出来た。


 俺達一同は、セラリアダンジョン攻略を本格的に開始する。


 二週間掛けて、六十階層にある、手を置く台座を出現させるところまで漕ぎ着けた。


 二週間じゃ無かった。


 前に台座を出現させてから、五十年以上経っている。


 やっと始められる。



 俺、プロミ、リビア、フレド、ボーデン、ファガス、コナルで挑む。


 七人で台座に手を置いた。


 大きな音と共に、地面が動き、階段が出現した。


 みんなで降りて行く。


 深い。


 真っ直ぐ降りて行く。


 踊り場に出た。


 先に一本の通路が有る。


 通路の先は円筒形の空間に成っていた。


 空間の中央には、ゲームでよくあるあれが有る。


 転送装置だ。


 たぶんあの青い光の中に入ると、別の場所に転送される。


 青い光の大きさは、一人分だ。


「みんな、俺から行く」

「ちょっと様子を見て来る」

「待っててくれ」


「レイセ、気を付けてね」


「ああ、行ってくる」




 転送先は迷宮では無かった。


 水の壁と水の壁の間に細い通路が有る。


 天井は無い。


 空が見える。



 それが目に入った。



 転送先は十畳くらいの丸いステージの中心だった。


 屋根がある。


 円筒形。


 中央の転送装置の上に屋根がある。



 屋根がなんだ、と思うだろ?



 支えている筈の柱が無い。


 屋根が宙に浮いていた。



 ステージから見える、延々と続く細長い通路。


 通路の幅は、武器を振り回す事を考えるなら、少し狭い。


 左右の水の壁は高さ三十メートル程ある。


 モーセが海を割って道を作った所を想像すると解り易い。


 水は通路に流れてこない。


 さりとて、何かバリヤーの様な物で遮られている訳でも無さそうだ。


 飛沫が飛んできている。


 通路に出て、右手で、右側の水に少しだけ触れる。


 手は、すごい勢いで、後ろに流された。


 体ごと、後ろに弾き飛ばされた。


 凄まじい勢いで、水は流れている。


 もう一度言う、後ろに流れている。


 さらにもう一度言う、俺がこれから進む方向と逆方向に、すさまじい勢いで水が流れている。


 一本道だ。


 これからの予想が付く。


 前に敵が出るんだろ?



 通路を十メートル程進んだところで、目の前の空中に水の塊が出現した。


 水の塊は、人型になった。


 二メートル程。


 これまでにダンジョンで出て来た奴の中では小さい。


 奴は二刀流。


 双剣じゃない。


 刀身は長い。


 左右で薙ぎ払って来た。


 奴の剣が左右の水に触れた瞬間、剣速は加速する。


 加速する場合と、水に触れずに加速しないパターンがあり変則的に過ぎる。


 奴は慣れた感じで攻撃してくる。


 俺は左手に盾、右手に剣を装備し、戦闘態勢を取った。


 奴は常に攻めて来る、こっちの攻撃を防いだ刃がそのまま攻撃に成ってしまう。


 水壁のせいだ。


 俺は攻めに転じられない。


 防戦一方だ。



 手出しできないで防御を続けるしか無かった。


 面倒臭くなってきた。


 霧化して抜ける。



 そう思って、霧化しようとするが、出来ない。


 散って行かない。


 この空間では、霧化が封じられている。



 結界を展開し、ブルドーザーの様に押し出して進めないか試す。



 攻撃力が高い。


 結界が叩き割られる。



 結界を足場にして、奴の上を通り抜けられないか?


 ダメだ、奴は水壁に流されずに、水を上に滑って来る。


 避けられない。


 観念して、まともに打ち合う。




 六時間打ち合った。


 倒せない。


 弱点らしい物も見当たらない。


 そろそろ、一旦戻るか?



 いや、まだだ。


 もう少しだけ粘る。



 更に三時間粘った。


 奴の攻撃に慣れてきた。



 隙を突いてまともに一撃入った。


 普通なら、これで勝ちだ。


 まともに一撃入ったら、普通は勝負が着く。


 だが、こいつは普通じゃ無かった。


 一撃まともに入ったのに、手ごたえは全く無かった。



 水を切った。


 その感覚だけだ。



 そして、俺は油断してしまった。


 奴の攻撃を受けそこなった。


 体が左の水壁に触れた。


 凄まじい勢いで後ろに弾き飛ばされ、転送装置の上の屋根に叩きつけられた。


 体のダメージはそれほどでもない。


 それ以上に精神にクる。


 振り出しに戻された。


 十メートルしか進めず、九時間粘って、挙句に振り出しに戻ってしまった。


 無敵の敵を延々と後退させ続ける階層。



 これは時間が掛るぞ。




 一旦戻ろう。

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