第26話 満月


 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。

 直樹:黒沼直樹。

    ベルの現世の姿。

    黒羽高校の数学と物理の先生。

    有名大学卒のエリート。

 十夜:黄山十夜。

    ファガスの現世の姿。

    有名大学の学生。

    香織と付き合っている。

 友介:青井友介。

    コナルの現世の姿。

    有名大学の学生。

    美月が好むものが好きになる性格。

 美月:黒戸美月。

    ニーナの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    芸能活動をしている。

    有名人。

 美弥子:篠宮美弥子。

     アリアの現世の姿。

     黒羽高校一年生。

     歌と物語にどっぷり浸かっている。

 香織:黒沢香織。

    リアンナの現世の姿。

    一流企業社員。

    十夜より年下に見える容姿。

 鏡華:黒崎鏡華。

    プロミの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    生徒会長。

    零維世と付き合っている。

 シロ:黒巣壱白の分かれた半身。

    『ロストエンド』のマスターだった。

    『能力』者部隊の元隊長。

 レミ、ミア:香月姉妹。

       灰崎正人を信奉している。

       冒険者ランクで表せばS級以上の実力。






 分身二体があっという間に消された。


 未来予知とは……。


 最悪の相性だ。


 僕の適性は自分の気配を消す事に特化している。


 僕の気配消しに対応するような者には今まで出会った事が無い。


 彼との戦闘は未知の体験になる。


 僕は事前に十分な準備を行い、勝つべくして勝つタイプだ。


 臨機応変な動きには苦手意識がある。


 今回、彼が来ることは想定外だった。


 そもそも、計画段階では彼に警戒していなかった。


 未来予知とは……。


 何度考えても最悪の相性だ。


 しかも、実眼で見ていない。


 能力を使い、実眼を使わずに攻撃を躱して来る。


 動きに脈絡が無く、隙が無いというよりむしろ隙しか無い。


 攻撃を仕掛ける為の切っ掛けが掴めない。


 何を頼りに攻撃して良いかわからない。


 なのにだ。


 すべての攻撃を紙一重で躱していく。


 当たりそうで当たらない。


 地面を滑る能力。


 この能力の所為でこちらの攻撃が当たらない。


 分身で取り囲んで攻撃を繰り返しているが、効果は無い。


 僕の戦闘はいつも一撃必殺だった。


 分身を創り出すのは、只の保険だ。


 攻撃を繰り出した後、相打ちで反撃を受けそうになった経験から保険の為に身につけた。


 攻撃は当たらないが、むこうも反撃する余裕は無いだろう。


 このままだと持久戦になる。


 振りかかった火の粉を払いのけ、余裕を持って結果を待つつもりだったが、予定変更だ。


 持久戦の経験は無いが、準備だけは整えてきた。


 このままここで戦闘を続け、レイセが死ぬのを待つ。


 

 彼は僕を気絶させたいらしい。


 殺す気は無いようだ。


 随分甘い判断だ。


 僕は殺す気で戦闘を行っているのに……。



 戦闘を始めた時は夜だった。


 それから日が昇り、沈む。


 曇りだった空は晴れ、月が出ていた。


 満月だ。


 戦闘の場は有名なホテルの玄関付近に移っていた。


 ここは人払いが完了していた。


 計画の終わりは近い。


 レミとミアが来るはずだ。



 彼の攻撃は僕には届かず、僕の攻撃も彼には届かない。


 ヒヤリとしたのは、彼の能力が未来予知と解った時だけだった。


 危ない場面は一度も無かった。


 僕の計画は成功だ。


 なのに。


 なのに。


 月明りを遮るあの影はなんだ?


 何故だ?


 何故こんな事が?


 僕は、僕は、こんな目に遭う程の事は……。


 話が違う!



 月には大きな鳥の足に摑まる二人の影が映っていた。



 *        *



 レイセ:「後ろだ!」


 灰崎:「な!」


 灰崎の隠密は解けていた。


 灰崎は背後に分身を滑り込ませ、攻撃を躱した。


 紫の狗がそこを通過する。


 俺とプロミは地面に着地した。


 フェニックスは霊体化する。


 灰崎:「話が違うぞ!」

 灰崎:「二人はどうした?」


 紫の狗は大きく口を開いた。


 狗の喉の奥から手が出て来る。


 黒い爪の生えた、白い腕。


 這い出て来る。


 ズルリ。


 ズルリ。


 物凄い気配。


 圧倒的存在感だ。


 俺達はその場を動けない。


 殺気で皮膚がビリビリと痛い。


 処刑人と狗は去った。


 這い出てきた白い塊が人の形に変形する。


 ぐにゅ。


 ぐにゅ。


 白い服、白い髪、黒く長い角。


 ???:『呼んだか?』


 レイセ:「まさか、本人か?」


 プロミ:「ロレアムド・アザイラス!!」


 シロ:「魔物の王か!」


 ロレアムド:『あ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ』


 その声に怖気が走る。


 長い時間聞いてはいけない。


 気が変に成りそうだ。


 灰崎:「二人はどうしたと聞いている!」


 ロレアムド:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、解らないのか?』

 ロレアムド:『本当にか?』


 灰崎:「さっさと答えろ!」


 ロレアムド:『どの世界でも人間の味は変わらないな』


 灰崎:「キサマッ!」


 ロレアムド:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、お前の役目は終わった』


 ロレアムドがそう言い終わったと同時に灰崎の胸を白い腕が貫いていた。


 いつの間にか瞬間移動し、灰崎は殺された。


 ロレアムドは灰崎の胸から腕を引き抜く。


 ロレアムドは手に握った心臓にかぶりついた。


 咀嚼音が辺りに響く。


 俺達は一歩も動けないでいる。


 ロレアムド:『普通の男だった』

 ロレアムド:『自分の愛する者を助ける為に他を売り払った』


 レイセ:「……」


 ロレアムド:『命乞いはしないのか?』


 プロミ:「……、シェルミはどうしてる?」


 ロレアムド:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、大切に預かっているとも』

 

 レイセ:「プロミ、おびき出された」


 プロミ:「そうね」


 シロ:「……」


 ロレアムド:『…………』

 ロレアムド:『絶望が薄い』

 ロレアムド:『初めての経験だ』


 レイセ:「俺はこの光景を見た事がある」

 レイセ:「お前の予定に無いんじゃ無いか?」


 ロレアムド:『なるほど』

 ロレアムド:『興味深い』


 プロミ:「……」

 プロミ:「信じて良いのね?」


 レイセ:「ああ、大丈夫だ」


 ロレアムド:『遊んでやる』


 レイセ:「シロさん盾だ!」


 シロさんが盾になり、プロミが剣になる。


 シロさんを通して、キラキラと光るナニカが見えた気がした。


 ロレアムドの腕から先が無くなり、無くなった部分が瞬間移動して腹を突いてきた。


 その突きを盾が遮っていた。


 部分的に空間を飛び越えて来ている。


 凄まじい威力の抜き手に、盾ごと吹き飛ばされる。


 ドゴン。


 ビルの壁面に叩きつけられた。


 叩きつけられた壁面にクレーターの様な凹みが出来る。


 畳み掛けて来ない。


 ロレアムドは腕を上にあげている。


 掌に槍が出現する。


 禍々しい光を放つ、白い槍。


 投げる気だろう。


 動きが速すぎて投げた瞬間がわからなかった。


 運動能力に大きな差がある。


 キラキラと光るナニカの未来予知を使い、とっさに剣で槍を弾く。


 今の接触で解った。


 まともに受け太刀すると、プロミが持たない。


 斜めに逸らす事でもギリギリだろう。


 俺の額から冷汗が流れ落ちる。


 戦いにならない。


 まだ無理だ。


 魔物の王と戦うには力不足だ。



 夜空を見上げると、ビルに遮られ、月が隠れている。


 月が見えない。


 位置が悪い。


 もう少し、俺が左に行かないとな。



 ロレアムドが槍を連続で投げてきた。


 バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ。


 斜めに連続で弾く。


 少しずつ左に移動する。




 月が見えた。




 俺の影が後ろに長く伸び、影が俺の隣に直立する。


 シングライト・クルフェミュア。


 黒戸和馬。


 和馬はレムリアスの口に手を突っ込む。


 中から本を一冊取り出す。


 しっかりした装丁の絵本だ。


 クリアが小屋で見つけた、あの意味ありげな絵本。


 和馬は俺の視界を遮るよう絵本を開いた。


 絵本は高層ビルが描かれた見開きのページだ。


 俺から見ると、絵本の景色と、実際の景色が一致する。


 景色の中に魔物の王も入っている。


 ロレアムド:『まだそんなものを創り出す力が残っていたのか』


 シングライト・クルフェミュア:「お生憎様です」


 ロレアムド:『ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ならばこの先をどう進む?』


 レイセ:「この先は誰にも予想出来ない」

 レイセ:「道は自分で切り開く」


 ロレアムド:『楽しみに待っているとしよう』


 和馬は絵本を閉じた。


 ロレアムドは絵本の風景に取り込まれた。


 ロレアムドは絵本を通して、『トゥルーオーシャン』に送り返された。


 絵本が燃え上がる。


 直ぐに灰になった。


 バランサー:「私が手を貸せるのはここまでです」


 レイセ:「ああ、助かった」


 シロ:「奴は何故この場所に俺達をおびき寄せたんだ?」


 バランサー:「……」


 レイセ:「未来の可能性は無限に広がっているが、一定条件を満たすと同じ結果を導き出す」


 プロミ:「それがこのビルの前なのね?」


 レイセ:「たぶんな」

 レイセ:「ロレアムドの経験から、勝ちが確定する場所だったんだろ」


 シロ:「その条件を和馬が逆に利用したのか」


 バランサー:「ふー、まあ、そうです」


 レイセ:「俺が生まれた時に広がった無限の可能性は、今どの位に減ってるんだ?」


 バランサー:「絵本は一冊しか用意できませんでした」


 レイセ:「そんな事だろうと思ったよ」


 シロ:「で?」

 シロ:「この先どうするんだ?」


 プロミ:「そうよ、キシ達と引き分けるにはどうするの?」


 レイセ:「あー、それな」

 レイセ:「『トゥエルブ』って知ってるか?」


 プロミ:「知ってるけど」

 プロミ:「え?」

 プロミ:「つまり?」


 レイセ:「遊間に助けて貰う」


 シロ:「自分で切り開くんじゃ無かったか?」


 レイセ:「うるせー」

 レイセ:「あの状況でそんな事言えるか」

 レイセ:「カッコつけさせろ」


 シロ:「やれやれだ」


 プロミ:「ふふふ」


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