第25話 ゾーン
零維世:黒戸零維世。
レイセの現世の姿。
黒羽高校二年生。
副会長。
芸能活動をしている。
直樹:黒沼直樹。
ベルの現世の姿。
黒羽高校の数学と物理の先生。
有名大学卒のエリート。
十夜:黄山十夜。
ファガスの現世の姿。
有名大学の学生。
香織と付き合っている。
友介:青井友介。
コナルの現世の姿。
有名大学の学生。
美月が好むものが好きになる性格。
美月:黒戸美月。
ニーナの現世の姿。
黒羽高校一年生。
芸能活動をしている。有名人。
美弥子:篠宮美弥子。
アリアの現世の姿。
黒羽高校一年生。
歌と物語にどっぷり浸かっている。
香織:黒沢香織。
リアンナの現世の姿。
一流企業社員。
十夜より年下に見える容姿。
鏡華:黒崎鏡華。
プロミの現世の姿。
黒羽高校一年生。
生徒会長。
零維世と付き合っている。
シロ:黒巣壱白の分かれた半身。
『ロストエンド』のマスターだった。
『能力』者部隊の元隊長。
レミ、ミア:香月姉妹。
灰崎正人を信奉している。
冒険者ランクで表せばS級以上の実力。
スナイパーライフルで後ろから撃たれている。
バスッ。
バスッ。
という音が俺を追いかけて来る。
俺は銃弾を躱しながら、高速で前に進む。
前へ。
前へ。
通行人は、地面を高速で滑って移動する俺に驚いていた。
相変わらず動画撮影されている。
隠ぺい工作が大変そうだ。
ムーンウォークの達人で通用するか?
あれは後ろ向きに進むんだっけ?
くだらない事を考えないとやってられない。
灰崎はクズだ。
正々堂々という言葉とは無縁だろう。
必ず卑怯な手を使ってくる。
間違いない。
俺は今、キラキラと光るナニカを頼りに移動している。
灰崎の居場所や、行って来るだろう攻撃に見当が付いている訳じゃ無い。
一瞬先の取るべき動きを継続してひらめく。
そういう感覚だ。
突然、キラキラと光るナニカの方向が変わった。
俺は交差点を左に曲がる。
攻撃されたのか?
サテライトでは何も感知出来ていない。
今方向が変わった理由はなんだ?
何が起こった?
灰崎の居場所が移動した?
俺が見ている光は、灰崎の居場所を追跡しているのか?
していない可能性もある。
不安定で、あやふやで、不便な能力だ。
だが、自分の意識とは別に体が動くこの感覚を俺は良く知っている。
戦闘中に時々発生する感覚。
意識が研ぎ澄まされた瞬間に、景色が白黒になり、認識が引き伸ばされる。
そして、体が自然と最適解をなぞる。
俺に今必要なのは、考える事じゃない。
ただ集中する事だ。
キラキラと光る能力には続きがある。
ゾーンだ。
意識的にゾーンに入る。
続きはそこにある。
次の交差点を左に曲がる。
矛盾した方向だ。
戻ってしまっている。
だが正解を外れていないと確信がある。
景色が白黒に、高速移動がスローモーションに。
来た。
そう、この感覚だ。
俺は滑らかに、来た方向をUターンした。
ターンして一呼吸後に右に移動。
景色は白黒のままだ。
スローモーションが続く。
何かが起こっている。
俺にも何が起こっているかわからない。
俺は走って来たトラックに向かって移動している。
運転手は俺に気付いていない。
俺はトラックに正面から向かって行く。
そのまま進むのが正解らしい。
景色に色が付く。
俺は運転手の位置を確認しながら、トラックをカットで真っ二つにした。
エンジンが爆発する。
トラックの残骸が、中央にいる俺を左右に避けて滑っていく。
俺は爆風を反射板で防御した。
キラキラと光るナニカが反射板を指示したように感じた。
爆発を防ぐために出した反射板を男が槍で突いた。
男がいる。
突然存在を感じた。
一瞬だけ見えた。
なぜか酷く印象が薄い。
認識は、男だったという事実だけだ。
それ以上は思い出せない。
サテライトでは確認できていない。
前、後ろ、右、左、上空から真下に向かっての俯瞰。
今はどれにも映っていない。
最後の目は俺の眼球の替りをしている。
何も感じられない。
俺は真上に大きくジャンプした。
光がそう指示したように感じた。
刀を具現化し、カットを使う。
振り下ろしによる斬撃を防ごうと、さっきの男が大盾を構える。
見えた。
俺は大盾を構えた男を攻撃するようだ。
相手は灰崎か?
別の誰かか?
白髪まじりの短髪で黒眼鏡、灰色のマスク、黒のジャケットに白のTシャツ、灰色のズボン。
中肉中背。
どこにでもいそうな普通の男。
灰色の大盾を構えていなければ。
男の存在に全く気付かなかった。
男は真っ二つになったと同時に消滅した。
やはり気配が無い。
何も残らない。
異様な状況。
おそらく不意打ちに光が反応し、俺はジャンプしたんだろう。
そうとしか思えない。
俺は考えてしまった。
集中が途切れた。
不味い。
気が付くと俺は右手で、ナイフを持った手を掴んでいた。
ギリギリだ。
間に合った。
景色が白黒に、動きがスローモーションに、視界の端がキラキラ光る。
俺は左手で短剣を持った手を掴んだ。
掴むと男を認識出来るらしい。
テレパシーで思考を読む。
二人は全くの同一人物。
やはり灰崎だ。
注視と逆の特技。
存在感が希薄になる。
それも並みの効果じゃ無い。
車掌がドアの中に客を押し込んでいる電車の中でさえ、誰にも気付かれない。
途轍もない隠密性。
更に、自分と全く同じ分身を具現化している。
存在感の強度は少ないが、複製の精度がずば抜けている。
キシ・ナトハ・ソアミ・カジャーに次ぐ具現化能力だ。
見方を変えれば、それ以上かもしれない。
そしてクズさも同等かそれ以上だ。
キシは認識の意表を突いては来るが、太々しく姿を現す。
灰崎は全く姿を認識させず、一方的に攻撃してくる。
いやらしさの種類が違う。
和馬が俺を鍛えた理由がわかった。
未来予知が無くては、絶対に勝てない。
レイセでも無理だろう。
本体に辿り着く前に力尽きる。
存在感を認識できないが、灰崎が創り出している分身の数は両手じゃ足りない。
思考を読んだ限り、分身を創り出す数に制限が無い。
分身を無駄に作り込んで態と情報を残す自己顕示欲と、存在感を消して絶対的な安全を確保する慎重さ。
相反する矛盾した感情を両立させる高度な特技と具現化能力。
卓越した存在だが、尊敬する気が起きない。
灰崎に対する不快感で全身が粟立つのを感じた。
こんな奴に信奉者がいたとは。
未来予知を使い、消耗戦に持ち込ませず、本体を最適手で詰みに追い込まなくては勝てない。
二体の分身が同時に口を開く。
聞こえてきたのは、やつの少し神経質そうな見た目とは裏腹に、穏やかな、落ち着いた声だった。
灰崎の分身:「「どんな手品を使って攻撃を躱しているんですか?」」
シロ:「わからないと不安か?」
灰崎の分身:「「ふふ、その通りです」」
灰崎の分身:「「手品のタネに見当が付きません」」
灰崎の分身:「「不確定要素は排除したいのが人情でしょう?」」
シロ:「人情ね」
シロ:「常識的な感情を持ってるようには見えないな」
シロ:「違和感が酷い」
灰崎の分身:「「貴方は触れると感情が読めるのですよね?」」
灰崎の分身:「「貴方に与えたヒントと交換に、僕にもヒントをくれると助かるのですが……」」
シロ:「お前が分身に残した感情からは自己顕示欲と臆病さしか読み取れないぞ」
灰崎の分身:「「特技や能力の話をしています」」
灰崎の分身:「「感情の話はしていない」」
灰崎の分身:「「フェアにお願いします」」
シロ:「俺が不意打ちを躱せる以上、お前の特技や能力は開示しても問題無いだろ」
シロ:「どのあたりがフェアなんだ?」
灰崎の分身:「「正義にしがみ付いているなら、フェアって言葉に乗って来ると思ったんですが」」
灰崎の分身:「「宛が外れたかな?」」
シロ:「お前は自分が悪と自覚があるんだな、意外だ」
灰崎の分身:「「善では無いと自覚はありますが、悪であるとも思ってませんね」」
灰崎の分身:「「僕は自分の適性にしたがって能力を最大限まで高め、自身が一番実力を発揮できる戦い方を行っているに過ぎません」」
シロ:「……、ゲームじゃないんだ」
シロ:「適性とは自身の性格や好みが反映されるもんだ」
シロ:「運命を他人の所為にするな」
シロ:「その運命はお前が選んだんだ」
灰崎の分身:「「……、今更後戻りする気は無いですね」」
灰崎の分身:「「ヒントは?」」
シロ:「増えた能力は未来予知だ」
シロ:「最適解を閃き続ける」
灰崎の分身:「「貴方が一人で来た理由がわかりましたよ」」
シロ:「そうだろうよ」
灰崎の分身:「「僕は、僕の全力を出す!!」」
シロ:「来い」
俺は右足でナイフの方の足を払って転ばせ、奴の手に持った短剣をナイフの方の体に突き立てた。
そのまま流れるように右手にダガーを具現化し、ナイフの分身の首を切り裂く。
急所を突かれた分身二体は消滅した。
俺は何もない空間を左掌で下から上にかち上げる。
ナイフを持った腕を下から上に突き上げた様だ。
俺は、触れて認識が可能になった分身に右手のダガーで留めをさそうとする。
ダガーを分身に突き立てようとした瞬間、景色が白黒になり、認識が引き伸ばされる。
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