7話 誤魔化す


(レイセ視点です)


 夕方から友介と十夜と会う。


 俺が二人と会う店を予約した。


 それまでは実家にいる。


 美月は寮だ。


 俺は外泊届を出していた。


 夕方まで時間がある。


 今の状況だと、過去に戻る魔道具を使う以外にない。


 俺はほとんど諦めているが、時間があるんだから仕方が無い。


 一応、考えてみる。


 うーん。


 うーん。


 うーん。




 ダメだわ。


 やっぱダメ。


 向こうの世界に戻っても、キシに勝てない。


 と、いうか、勝てる状況を思いつかない。


 強すぎる。


 どんなに過酷な訓練を行ったとしても、あの地点には至らない。


 過去に戻る魔道具を使う以外に何も思い付かない。


 それじゃ、過去に戻るのは確定で、どう使うか再確認する。


 うーん。


 うーん。


 うーん。




 ダメだな。


 何も思い浮かばない。


 青子さんと黒巣が入れ替わったあの日に戻るしか、手が無い。


 過去のキシを殺すのは不可能みたいだし。


 そもそも、黒巣も俺も、追いつめられたら自己犠牲で問題を解決しがちだよな。


 そうならないために、事前に策を巡らせて、最悪を避けてきた。


 思い返せば、何度も何度も、選択を迫られてきたな。


 全てを救う道を探す。


 それが答えだ。


 わかっている。


 わかっているが、今回は無理そうだ。


 なにも思いつかない。


 俺たちの出会いは、なかった事になるだろう。


『ロストエンド』での経験は、すべてなかった事になる。


 もう、完全に諦めるか。


 夕方まで時間がある。


 直樹から着信があった。


 明日は直樹と栄と三人でドライブらしい。


 次から次へと予定が埋まる。


 一人になりたい気もするんだよ。


 断れないしなー。


 もういい。


 夕方までふて寝だ。




 夕方に、予約した店に来た。


 大人の姿になって来た。


 友介も十夜も大人の姿で来る。


 今日は串カツを食べる。


 ビールを飲む。




 二人が来た。


 レイセ:「うおーい」

 レイセ:「おつかれー」


 十夜:「ああ、おつかれー」


 友介:「お疲れー」


 レイセ:「え?」

 レイセ:「お前ら、マジで疲れてない?」


 十夜:「睡眠不足だ」


 友介:「同じく」


 レイセ:「なんで?」


 友介:「なんで、って」

 友介:「決まってるだろ」


 レイセ:「下ネタ?」


 十夜:「そんなわけあるか!」


 友介:「『ロストエンド』が無かったことになるんだぞ」


 レイセ:「わかってる」

 レイセ:「ちょっとふざけただけだ」

 レイセ:「すいませーん、コーススタートしてください」

 レイセ:「あと、生三つ」


 店員:「はーい」


 レイセ:「深刻に考えるなよ」

 レイセ:「青子さんは助かるし」

 レイセ:「どんな改変になるか、まだわからないだろ?」


 十夜:「まあな」


 友介:「でも、最悪を想定してしまうだろ」


 生三つと、エビ串が来た。


 レイセ:「じゃ、飲むぞ」


 十夜:「乾杯」


 友介:「カンパーイ」


 ジョッキをカンと当てる。


 エビ串を一口。


 美味い。


 レイセ:「ん?」

 レイセ:「なんの話だっけ?」


 友介:「最悪を想定してしまうだろ、って言ったんだ」


 レイセ:「ああ、まーな」

 レイセ:「でも、俺たち、改変を認識出来ないからな」

 レイセ:「何事もなかったかのように、普通に過ごすんじゃないか?」

 レイセ:「だから、あまり思いつめるな」


 十夜:「香織との事は?」


 友介:「美月ちゃんは?」


 レイセ:「香織姐とは接点があるから、俺と付き合いが戻れば、もう一回出会うかもな」

 レイセ:「美月とは、俺と接点があれば出会うだろ」

 レイセ:「『ロストエンド』関係なく、俺が黒羽学園に行けば、お前らと出会うな」

 レイセ:「直樹が俺を生徒会に勧誘するかどうかだな」

 レイセ:「たぶん大丈夫だろ」

 レイセ:「納得したか?」


 十夜:「今回は誤魔化されておいてやる」


 友介:「馬鹿がよ」


 アスパラ串とホタテ串が来た。


 美味い。


 美味いから、泣きそうになる。


 こいつら、俺が泣きそうなのに気付いているのか。


 そうかよ。


 そう言って誤魔化すしか出来無いんだよ。


 悪いな。


 レイセ:「オヤジから、芸能活動の利益を受け取ったから、今日は俺の奢りだ」

 レイセ:「一番高いコース頼んだし、ビールは飲み放題だ」

 レイセ:「どんどん飲め」


 十夜:「よし、もう一杯」


 友介:「俺も」





 めちゃくちゃ飲んで、フラフラになって帰った。


 三人ともだ。


 この三人で飲むのも最後かもな。


 三人とも、まっすぐ歩けなさ過ぎて笑う。


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