8話 信じる


(レイセ視点です)


 朝から直樹と栄(ジーク)とドライブだ。


 目的地は無いらしい。


 車を走らせるだけ。


 今、このタイミングですることじゃないと思うのだが。


 何か考えがあるのか?


 俺と栄は免許を取っていない。


 年齢操作出来るが、教習所で習った訳じゃない。


 運転は直樹だけになる。


 ビールと酒のアテを持っていこう。


 正直、一人になりたい気分だったが、仕方ない。


 せっかくだから、楽しんでやる。




 直樹と栄が車に乗って俺の家まで来た。


 栄は大人の姿だ。


 俺も年齢を操作した。


 直樹と合わせて、三人とも同世代に見えるだろう。


 俺は車に乗り込んだ。


 レイセ:「どっちに向かうんだ?」


 直樹:「西です」

 直樹:「高速道路を使います」


 栄:「目的地があるんですか?」


 直樹:「無いよ」

 直樹:「無いんだけど、高速使いたかったんだよね」


 レイセ:「なんで?」


 直樹:「車見て気づかない?」

 直樹:「新車なんだけど」


 レイセ:「ずいぶんデカいワンボックスだよなー」


 栄:「え?」

 栄:「買ったんですか?」


 直樹:「みんなと出かけたかったんですよ」


 レイセ:「ふーん」


 直樹:「運転に慣れるためのドライブです」


 栄:「へー」


 直樹:「反応が薄い」


 レイセ:「なかった事になるかも、って言わなきゃいけないのが」


 栄:「ですねー」


 直樹:「たぶん、なんとかなります」

 直樹:「そうなったとき、今日を無駄にしたことを後悔したくないんです」

 直樹:「みんなでキャンプとか行くんです!」


 レイセ:「そうかよ」

 レイセ:「俺は諦めたけどな」


 栄:「そう言って諦めないのが、王だからなー」


 レイセ:「王、言うな」

 レイセ:「今回はマジで手が無い」

 レイセ:「お前、そろそろ俺の評価下げろよな」

 レイセ:「俺は出来る事やって来ただけだぞ」


 俺は、空間からビールを取り出した。


 空間からサラミを取り出した。


 缶ビールの蓋を開ける。


 プシュっと音がした。


 直樹:「え?」

 直樹:「飲むんですか?」


 レイセ:「え?」

 レイセ:「じゃない」

 レイセ:「栄も飲むよな?」


 栄:「飲みます」


 直樹:「おい」

 直樹:「先輩が運転してるのに」


 栄:「いいじゃないですか」


 直樹:「へーえ」

 直樹:「そんな気してたけどね」


 栄:「あ、そこ左でした」


 直樹:「あー、Uターンするわー」


 栄も空間からビールを取り出した。


 俺はサラミの入ったケースを手渡す。


 レイセ:「最近、黒竜、じゃなかった黄金竜か、どっちでもいいか、とにかく竜が解毒してくれない」

 レイセ:「ドロドロに酔うから、介護よろしく」


 直樹:「いやですよ」

 直樹:「自分の世話は自分でしてください」


 レイセ:「どうせ、鏡華からお前に連絡行ってるだろ?」


 直樹:「知ってたんですね」


 レイセ:「予想通りだな」


 栄:「様子がおかしい」

 栄:「みんな気づいてます」


 レイセ:「まあ、そうなるよな」


 俺はビールをもう一缶開ける。


 直樹:「飲むペース考えてください」


 レイセ:「俺みたいなやつを信じるなよ」


 直樹:「すべて上手く行きます」


 レイセ:「チッ」


 栄:「まあ、まあ」






 それからしばらく無言だった。


 直樹は俺を信じている。


 栄もか。


 恐らく、全員が俺を信じている。


 手が無いのは変わらない。


 どうにも出来ない。


 俺は、お前らを生かす為に出来ることをするだけだわ。


 俺に出来る事。


 逃げられないしな。


 どんな改変を予定してやがるんだか。


 バランサーに確認できないかな?


 バレたら不味いわ。


 こいつら俺を信じてやがるから。


 はーあ。


 ビールが上手い。


 泣きそうだわ。




 レイセ:「トイレ行きたい」


 直樹:「ちょっと待ってください」

 直樹:「次のサービスエリアはもうすぐです」


 レイセ:「今したい」


 栄:「我慢してください」


 レイセ:「急いでくれ」


 直樹:「そこでしないでくださいね?」

 直樹:「新車ですから」




 直樹:「着きました」


 レイセ:「お前、駐車に何分かかってるんだ」


 直樹:「運転苦手なんですって」


 レイセ:「はー、漏れる」




 全て上手く行きます。


 か。


 トイレで顔を洗ったらバレないか?



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