9話 突破口はある筈だ


(レイセ視点です)


 昨日は夜までドライブに付き合った。


 途中、泣きそうになったが、なんとか耐えた。


 二人は、俺の様子が変だと気付いていたが、詳しく聞かなかった。


 言えないって事がわかるらしい。


 言えないんだよ。


 言えるわけない。


 本当は、態度に出すのもダメなんだ。


 俺は弱い。


 態度に出てしまっている。


 気を引き締めないとな。


 昨日は、たくさん飲んだが、途中で自制した。


 栄の方が飲んでいたな。


 最後は、景色のいい所から夜景を見て、解散した。




 今日は朝から実家にいる。


 俺の事を信じているらしい。


 俺はそれを裏切る事になる。


 だが、もうすこし、もう少しだけ、粘ってみる。


 考えに漏れが無いか、一日ゆっくり考える。


 まだ時間があるんだ。


 最悪の選択をするにしたって、悪あがきしても罰は当たらない。


 考えるにあたって、ヒントが無いのが辛い。


 なにをどう考えたらいいのかわからない。


 突破口があるとして、ヒントとなりえるのは、『ロストエンド』が出来たあとの事だろう。


 俺は、自分の行動を思い返してみることにした。


『ロストエンド』に手をかける鏡華。


 俺も『ロストエンド』に入った。


 クリアがダンジョン攻略をして、案内人になった。


 魔物の王と戦って、退けた。


 案内人を辞めて王都に行った。


 エウェルと結婚して、行商で儲けた。


 山でレムリアスに会った。


 契約した。


 一旦現実世界に戻って、またあの世界に行った。


 プロミと二百年訓練した。


 リビアと再会して、魔物の王の配下を一人殺した。


 北の大地で傭兵になった。


 戦争で勝って、他国に攻められた。


 仮面の男を防いで、王に推された。


 北で王になって、ダンジョン攻略を再開した。


 コナルとファガスを鍛えた。


 それから………。





 俺は自分が行ってきたことを順番に思い出した。


 が、それが答えに近づいているのかわからない。


 やはり、なにも思いつかない。


 相談したいが、出来ない。


 相談してしまうと、今選ぼうとしている手段が使えない。


 話せない。


 七日目に全員で集まると言ったが、その前に、過去に飛ぶ。



 後、二日。


 もう少し考える。




 そうだ、散歩に行こう。


 夕方だが暑い。


 暑いが、歩く事に集中すると、何か思いつくかも。




 しばらく歩いた。


 目的地は無かった。


 無かったんだが、紫幻流道場の近くまで来た。


 あいつらはいるのか?


 ちょっと顔を出すか。


 道場の中に入る。


 いやがった。


 二人とも。


 ヤスとトキ。


 素振りしてやがる。


 真面目だな。


 こいつら。


 レイセ:「よー」


 ヤス(ダズ):「おー」


 トキ(フレド):「あー」


 レイセ:「熱心だな」


 ヤス:「することが無い」


 トキ:「だわ」

 トキ:「お前、なんか思い付いたか?」


 レイセ:「無理」


 ヤス:「そうか」


 トキ:「だよなー」

 トキ:「俺も、なーんも思いつかん」


 レイセ:「着替え、あるか?」

 レイセ:「俺も体動かすわ」


 トキ:「道着とかはあるけど、下着は無いぞ」


 レイセ:「それは空間に入っている」


 ヤス:「なら、大丈夫だな」

 ヤス:「お前も素振りしていけ」


 レイセ:「だな」




 そのまま、三時間くらい素振りした。


 気持ちはスッキリしたが、アイデアは浮かばなかった。


 二人は詳しく聞かなかった。


 無言だった。


 夜になって、道場を去った。


 二人には、食事に誘われなかった。


 状況を理解したんだろう。


 状況は悪い。


 和やかに食事できない。


 今日は顔に出てなかった筈だが、何年も一緒に生活していたら、わかるだろ。


 しまったな。


 行かなきゃ良かった。


 最後かもしれなかった。


 顔を見られて良かった。


 俺の気分は晴れだ。


 ぐっすり眠れそうだ。



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