26話 心の海

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

     黒羽学園中等部生徒会長。

     美月は妹。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

      月と太陽の国女王にして、現人神。

      小学六年生。

      美月と友達。

      レイセと婚約している。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと婚約している。

 黒竜:真名、レムリアス。

    白竜と並ぶ最古の神獣。

    レイセと契約している。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

      ファガス。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

      コナル。

 ボーデン・バレット:フレドの補佐。

           守護者。

           閑話に登場。

 フレドリック・ユルロア:連合国クロトの守護者長纏め役。

 リアンナ・ドバスカリ:海洋国家ドバスカリの女王。

            黒沢香織。

            大学生。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 エーシャ:エウェルとクリアの娘。

      クリアとは血が繋がっていない。





 転送装置に入った。



 八十一階層に辿り着いた。


 七十一階層の中間地点と同じだ。


 中央に転送装置の有る円筒形の空間。



 静かだ。


 みんな寝ている。


 他の六人全員揃っている。


 やっぱりな。


 さー、俺も寝るか。



「王、起きてくれ」


「なんだ?」

「寝過ぎたか?」


「いや、そうじゃ無いんだが……」


「レイセ」

「何か食べる物作ってくれ」


「わかった」

「用意した食材からは、カレー、肉じゃが、ビーフシチュー、ステーキ、ポトフ、ハッシュドビーフ、味噌汁、麻婆豆腐、炒飯、サラダ、なんかが作れる」

「他も出来そうだが、俺が面倒だ」


「肉じゃがってどんなです?」


「リビアに作った事無かったっけ?」


「無いと思いますよ」


「じゃ、肉じゃがとサラダ、味噌汁な」


「白米有るんだよな?」


「ファガス、無論だ」


「醤油作っといてよかったわ」


「そうだな」


「醤油味なんですね」


「んー、というか、砂糖醤油かな」

「みりんも入ってるけど」


「へー、砂糖ですか」

「珍しいですね」


「ボーデンの感覚は正しい」

「連合国では砂糖はお菓子にしか入って無いからな」


「甘辛い味と牛肉は合うんだ」

「今度すき焼きを振る舞わないとな」


「お好み焼きとは違うんですか?」


「全然違うわ」

「名前が似てるけど、食べ物としては似ても似つかないわ」


「は、ザ・外国人って感じの会話だな」


「外から来ているのはあんたらだけどな」


「確かに」


「で、どうだった?」


「またかレイセ」

「なんの話だ?」


「七十一階層から八十階層までの事だ」


「いつも通りだ」

「めちゃキツい」


「だな」


「だぜ」


「そうね」

「でも慣れてきたわ」


「同じく慣れてきました」


「ですね」

「何とかなりそうです」


「そうか」

「言い難いんだが……」

「実は、その攻略法は間違ってるかもしれない」

「実は、砂人は倒せるんだ」


「え?」


「うそ」


「マジか?」


「そうなんです?」


「レイセ」

「お前が水人を倒せないと言ったから信じたんだぞ」


「だな」

「悪かった」

「俺の思い込みだった」

「倒せる」


「でも、どうやってだ?」

「奴等タフ過ぎないか?」


「魔物の王を切るのと同じだ」


「だから、そのやり方、まだ聞いてないわ」


「たぶん魔物の王の方がタフだ」

「まだ魔物の王への方法は話せない」

「簡単に言うと、存在感に負荷を与える」


「だから、それはどうやるんだ?」


「存在感に負荷を与えるイメージで攻撃する」

「としか言えない」

「俺達の攻撃は、二重になっている」

「と、思ってくれ」

「物理干渉と存在干渉の二つだ。」

「武器で存在感に負荷を与える事ができる」


「その説明で解るの、私だけじゃ無い?」


「だろうな」


「次の階層から、もっと手強い敵が出て来るかもしれない」

「この前言ってた、俺の予想の答えを今言わないといけなくなった」


「予想って、あれか、この世界は、ってやつか?」


「そうだ」

「リビア、フレド、ボーデン」

「特にお前らは受け入れられないかもな」


「リアンナなら、上手く説明してくれるんだろうが…………」

「この世界はたぶんだが、『心の海』で出来てる」

「『集合無意識』の中に在る世界だ」


「『集合無意識』とは何です?」


「人の意識は無意識下で繋がってるという、心理学者ユングの考え方だ」

「こっちの世界の人間は、向こうの世界の人間の無意識から出来ている、かもしれない」


「つまり、私たちの世界は、精神そのもので出来ているということですか?」


「そうだ」

「『トゥルーオーシャン』の人間は嘘を付くのが下手だ」

「精神そのものだからだ」


「…………」


「…………」


「…………」


「つまり、どういう事だ?」


「俺達の世界より、『トゥルーオーシャン』の方が精神の影響を受けやすい」

「と、言うか、もろに影響を受ける」

「ちょっと試すか」

「俺達は、水人と砂人と戦った」

「そのイメージを掴んでる」

「まず俺は霧に成る」


 霧に成った。


 戻る。


「水に成る」


 俺は人の形をした黒い水の塊に成った。


 戻る。


「砂に成る」


 俺は人の形をした黒い砂の塊に成った。


 戻る。


「解るか?」

「たぶん俺達は自由自在だ」


「レイセ、お前」

「お前」

「そんな」

「そんな事」


「ファガス、すまん」


「何を謝ってるんだ?」


「レイセは、ファガスの奥さんの寿命を延ばそうと思ったら出来たのよ」

「きっと、その場しのぎにしかならないだろうけど、少しなら可能だった筈よ」

「教えていたら、ファガスが自分でやったかもね」


「済まない」

「取り乱した」

「すべての責任をレイセに取らせる気は無いんだ」


「ファガス、ありがとな」


「『集合無意識』ね」


「だから、精神を鍛えてたのか?」


「そうだ」


「なるほど」

「考えがあったんだな」


「俺はご飯作るから、みんな自由に考え事しておいてくれ」


 俺はご飯を炊き、肉じゃがを作り、味噌汁を作り、サラダを作った。


 手順が手抜きだって?


 知るか。


 それどころじゃない。


 みんな意外とあっさり受入れやがった。


 俺の方が動揺するわ。




 料理が出来た。


 食べるか。




 精神体でも腹は減るらしい。


 まー、意識が極まれば食事の必要が無くなりそうだが。




 味気ないかもな。


 味気ないか。


 そのままだな。


「みんな、出来たぞ」


「レイセ、肉じゃが美味しいです」


「そうね」

「レイセのは特に美味しいわ」

「なんでだろ?」


「俺はわかるぞ」

「出汁が効いてるんだ」

「だろ?」


「そうだ」

「ファガスその通り」


「へー、ファガスわかるのね」


「まあね」


「おっと、作った俺を褒めてくれよ」


「はい、はい」

「すごい、すごい」


 ドヤり過ぎた気もする。


 プロミが嫌そうじゃ無くて良かった。


「御代わりあるからな、言ってくれ」


「レイセ、肉じゃがとご飯と味噌汁とサラダ頼む」


「全部かよ」

「コナルは相変わらず食い意地はってんな」

「感心するぜ」


「フレド、お前も食っとけ」

「ボーデンは食が細い、俺と勝負するか?」


「嫌ですよ」

「負けでいいです」

「私は貴方が苦手なんですから気を付けて下さい」


「遠慮すんなって」


「してません」


 コナルはマイペースだな。


「レイセ」

「私も肉じゃが下さい」


「あ、私も」


「わかった、順番にな」



 食べ終わった後、もう一度睡眠を取った。


 徹夜が続いている。


 寝溜めにも限界がある。


 なんとなくだが、次も似たような感じだろう。


 しっかり寝ておかないとな。



 目が覚めた。


 みんな保存食を食べている。


 俺も食べよう。



 食べた。


 そろそろ様子を見に行くか。


「みんな、様子を見て来る」


「うん、お願い」


「頼んだ」


「ああ、行ってくる」


 俺は、青い光の中に入った。



 何もない空間に、細い道が一本どこまでも続いている。


 それが目に入った。


 細い道の左右は風が吹いている。


 嵐だ。


 鋭い風が渦巻いている。


 右手で風に触ってみる。


 指が四本切断された。


 今までの水や砂の代わりに風に成っている様だ。


 ただし、風は後ろに戻して来ない。


 そのまま仕留める気らしい。



 やり直しはもう効かない。



 通路を十メートル進む。


 風人が出た。


 吹きすさぶ風が人の形を作っている。


 武器は槍だ。


 左右の壁を使って来ない。


 突きはものすごい速さだ。


 緩急が無い。


 圧倒的な速さで攻めて来る。


 そして、俺が壁に触れる様に誘導してくる。


 奴を押し込むよりも、倒して進む方向で考え無いといけない。


 たぶんこの先、こいつらを倒せる事が重要になる。




 一旦引く。




 俺は八十階層の中間地点に戻った。



「ただいま」


「どうだった?」


「今度は風だ」


「わかって来たわね」


「ならその次は火でしょうか?」


「そうだな、そんな気がするな」


「風は後ろに戻すんじゃない、鋭く切断してくる」


「かー、ついにかよ」


「なら、火は、触れると灰になる、とかか」


「この階層で、エレメント人を倒せるように成ってくれよ」


「押し込むのは禁止ですか?」


「禁止とまでは言わないが、百階層くらいで必要になりそうだろ」


「はー、やるしかないな」


「そうだな、ファガス」

「そうしてくれ」


「今回は余り疲れてない、少し休憩したら出発する」


「今度は俺からだ」



「じゃあ、行ってくる」


「レイセ」

「慣れてきたからって油断するな」


「ああ、肝にめいじる」


「行ってこい」



 油断するな、か。


 誰に言っている。


 俺はお前らが心配だ。


 ちゃんと倒せるように成っていてくれよ。


 頼むぞ。



 十メートル進んだ。


 風人が出てきた。


 さっさと勝負を着ける。


『『ザ・ビュー シーン アット・ジ・エンド(最終到達点)』』


 黒い空間が広がる。


 俺は空間が広がるのと同じ速さで突進した。


 大剣を振り下ろす。


 風人は柄で受けようとした。


 関係ない。


 そのまま武器を切断し、風人を頭から両断した。


 存在感ごと切断した。


 もう、元には戻らない。


 風人は必死に一塊に成ろうとしている。


 俺は、大剣を左右に翻し、風人をバラバラに切り裂いた。


 風人の破片が地面に散らばる。


 復元できない風人の破片は、やがて消えた。




 俺は九十階層まで走り抜けた。

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