第4話 最終確認



 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    『リーベラティーオー』の纏め役。

    プロンシキの元英雄。

    死兵使い。

 バランサー:管理者。

       黒戸和馬。

       零維世の父親。

       クロスグループの創始者。





(キシ視点です。)


 戦争が始まる。


『リーベラティーオー』と『フィナリスラーウム』との、一回目の戦争だ。


 一回目と表現しているのは、おそらくだが、今回は引き分けになるからだ。


 二回目がある。


 引き分けとわかっていて戦争を行うのは非効率的だ。


 戦争はこちらから仕掛けたが、その指摘を『フィナリスラーウム』はしてこない。


 無駄だとわかっているからだ。


『リーベラティーオー』と『フィナリスラーウム』が対立しているのは、リーダー同士の仲の問題じゃない。


 契約解除を狙っているかどうかにある。


 一度は永遠に生きると誓っても、実際に生きて見て無理だと悟る事を誰が責められる?


『フィナリスラーウム』の人間も、永遠に生きることが出来ると本気で信じていない筈だ。


 自ら終わりに向かって進まないだけだ。


 そもそも、人は終わりを意識しないと生を実感できないのでは?


 そして、生を実感出来なくなった時、命を無駄にし始める。


 僕は契約解除を約束する『リーベラティーオー』の纏め役だが、契約云々に囚われていない。


 寿命以外の理由で死ぬ可能性が有るのに、終わりを求めるなんて馬鹿馬鹿しい。


 僕が求めるのは運命への叛逆だ。


 僕の仲間は、僕が世界に都合よく回る為の生贄になったような物だ。


 自分だけの所為では無い筈だ。


 改変は常に起こり得る。


 物語を選定しているクズは、僕の仲間を生贄にすることを選んだのだ。


 必ず報いを受けさせる。


 どんな手を使ってでも。


 そして僕はまた間違いを犯してしまった。


 自分の後を引き継ぐ誰かを用意したいと願ってしまった。


 間違っていた。


『フィナリスラーウム』


 最後の灰色。


 強い意思を感じる良い名前だ。


 色は重要じゃない。


 肝心なのは最後という部分。


 全ての連鎖を終わらせる意思が込められている。


 解放では弱い。


 楽になりたいだけだ。


 自分が死んでも、自分自身の力で完結させなければいけなかった。


 僕は替りを用意した。


 僕の役目は終わるだろう。


 僕の願いは叶わない。


 このままでは。


 そこでだ、僕は一つの賭けに出る事にする。


 一世一代の大勝負。


 やれることをやるだけだ。




 それにしても、『復讐者』は間に合うのかな?


 ダンジョン攻略が完了していない。


 こちらから仕掛けたのは、むこうが完了した気配を察知したからだ。


『復讐者』の目で、むこうの動きが収束しているとわかった。


 なんらかの手を打たれる前に、むこうを釘付けにする必要があった。


 戦争中も、上手い事言って時間を引き伸ばさないといけない。


 時間が間に合っても、枚数はむこうの半分ってところだろう。


 コインを集め始めた時に、魔物の王の配下が攻めて来たのが痛い。


『フィナリスラーウム』に助けを求めなかったからな。


 二回目の戦争時には決着を付けないといけない。


 こちらの手の内を晒してしまうと勝てなくなる。


 その頃には僕はいないだろうけど。


 流れ的には、僕はこの戦いで死ぬだろうしな。


 嫌だ、嫌だ。


 損な役回り。


 人生送りバントだった。


 そういう場合、拾う神がいる筈なんだが。


 誰も拾ってはくれなかった。


 からかわれただけだ。


 性根が腐っていることは、神にもお見通しらしい。


 やってらんないよね、まったく。




 ここ数十年の行動に間違いが無かったか、不足している部分はないか?


 少し過去を振り返ってみる必要がありそうだ。


 まだ少し時間が有る。


 最終確認だ。


 修正がまだ間に合うかもしれない。





     ※        ※     





(ここから話は、カハでキシとレイセが一騎打ちを行った直後まで戻ります。キシ視点です。)


 キシ:「青年の管理者が邪魔をしてくれた件について埋め合わせはあるんですか?」


 バランサー:「『ロストエンド』に呼んで、マスターの話を聞かせただけでは足りていませんか?」


 キシ:「なるほど」

 キシ:「先に済ませていたと?」


 バランサー:「貸し借り無しになりましたね」


 キシ:「面白い方だ」

 キシ:「自分が死ぬかもしれないのに中立を守るとは」


 バランサー:「死に向かって進む貴方には言われたくない言葉です」


 キシ:「そうかもね」


 バランサー:「宿に着きました」

 バランサー:「一晩守護します」

 バランサー:「ゆっくり休んで下さい」


 キシ:「ありがとうございます、はー、タバコ吸いてー」





 スー、ハー、スー。


 ハーーー。


 落ち着いて来た。


 考えを整理する。


 状況確認だ。


 レイセとの一騎打ちを圧勝した。


 向こうはそう思っている筈だ。


 だが、一騎打ちを行ったからこうなっただけだ。


『フィナリスラーウム』は『リーベラティーオー』より人数が多い。


 僕の能力は人数で簡単に埋め合わせが効く。


 実際の所、総合力で対等に持っていかなければ、その後が続かない。


 今は負けているだろう。


『フィナリスラーウム』との一回目の戦争が引き分けになるよう持っていく為に必要なのは?


 人数だ。


 即答できる。


 人数だけでも対等に持っていく。


 そうしないと最終的に負ける。



 これから先に行う事は二つ。


 チーム人数の増員。


 コインの確定。


『フィナリスラーウム』との次の戦争までに、チームに必要なのはこの二つだ。


 その上で、個人的にやっておかないといけない事がいくつか。


 真に『復讐者』を押し上げる為に必要なのは、実は、三席目じゃない。


 その為に必要なことをやる。


 三席目が手に入ったら楽なのは確かなんだが。


 狙っていくがそうなりそうにない。


 さっきの一騎打ちでそう感じた。


 道は険しい。



 この先の流れは、『フィナリスラーウム』との戦争の引き分け。


『フィナリスラーウム』との共闘による魔物の王との戦争。


 南大陸のコイン争奪戦。


 南大陸のコイン枚数争いでは、どこかの時点で『フィナリスラーウム』と二度目の戦争になる。



 二度目の戦争に勝利する事。


 そこに焦点を合わせて動く必要がある。


 そして、おそらく僕は二度目の戦争に参加できない。


 何処かの時点で死ぬだろう。


 理由は明確じゃない。


 確信めいた予感。


 そのつもりで動かないといけない。




 まずは一旦、新生ロベストロニア帝国に戻る。


『ディープフォレスト』の主要メンバーも連れて行く。


 戻って、ダンジョン攻略の指示を出した後、南大陸の大迷宮ラムタートに向かう。


 魔道国家ネストロスから『マギ』が移動してきて、その顔合わせも忘れてはいけない。


 その後、迷宮都市ラムタートの街にいる四チームを『リーベラティーオー』に引き抜く。


 全チーム引き抜けるとは思っていない。


 だが、残っているチームで使えるのはこの四チームだけだ。



 これは賭けだ。


 遠隔で数十人を操作しながら、単独で大迷宮に向かい、勧誘活動を行う。


『フィナリスラーウム』が大迷宮ラムタートに来たら、今度は太刀打ちできない。


 それに、ダンジョン攻略が遅れる可能性が出て来る。


 二度目の戦争に辿り着く以前に、最初の戦争で引き分けに持ち込めないかもしれない。


 逆に、あっさりと一回目の戦争に勝ってしまって既定路線から外れてしまうかもしれないが。


 運命に選ばれた男が相手だ。


 悲観的な位がちょうど良いだろ。



 二度目の戦争時に僕はいない。


 僕が死んでも『リーベラティーオー』がバラバラにならないように手を打つ。


 個人的にやらないといけない事の一つだ。


『復讐者』仮面の男がリーダーシップを発揮するだろうか?


 しないだろう。


 彼はリーダーシップを取ることは無い。


 僕は、僕の替りにチームをまとめる誰かを用意しないといけない。



 僕が死ぬと死兵が消える。


 その問題も解決しないといけない。



 更に欲を言えば、死んだ後に世界が破滅する所を見届けたい。


 この問題については実現方法を思いついていない。


 なにか手を考えないと。



 夕ご飯までまだ時間があるらしい。


 このままゆっくりと考え事をするか。


 新生ロベストロニア帝国に戻ったら忙しくなる。



 それにしても、僕の思想を引継ぎ、『復讐者』をサポートする人物、か。


 自分の替りを用意するって言ったって、そんなやつ見つかるもんか?


 ちなみにこの問題も実現方法を思いついていない。



 はー。


 まー、なんとかなるだろ。

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