9話 お手玉
(レイセ視点です。)
現世の季節は春の始め頃。
桜の散る時期だった。
もう長い事現世に帰っていない。
この戦いが終わって一区切りがついたなら、ゴールデンウイークにはどうするかな。
またバーベキューでもいいな。
目の前の問題から意識が逸れてしまった。
まだ始まったばかりだ。
意識を今に引き戻す。
中に入った。
気配察知が効かない。
やっぱりだ。
そして、死の予感がする。
異様な雰囲気が漂っている。
外の騒がしさに比べて、中は不思議なほど静かだ。
全く音が無い。
静寂。
だが、恐れてはいない。
攻め始めてから、死の予感は常にあった。
今更だ。
それに、仲間が頑張っている。
コナル、ファガス、バルド。
この三人は相当無理した筈だ。
それも、死を覚悟するほどの無理を。
俺も覚悟しなきゃいけない。
この戦いが終われば、『リーベラティーオー』との共闘が終わる。
今度は本格的な戦争になるかもしれない。
この数年仲良くやってきたが、結果はわからない。
しかし、その心配は一旦忘れる。
今、この時に集中する。
今、仲間は頑張っている。
死と隣り合わせの状況だろう。
俺も死を覚悟しなきゃいけない。
俺が死んだら、世界が終わるかもしれない。
その事も今は忘れる。
ただ、乗り越えるために必要な力を出す。
必要なら全部だ。
ありったけ出す。
先の事は考えない。
乗り越える事だけ考える。
ルプリレが心配だが。
ありったけ全部出し切っても、その心配だけは捨て去れない。
ギリギリ、薄皮一枚、残るだろ。
どんなに全力を出しても、きっと戻って来られる。
たぶんだが。
そう信じる。
大扉を抜けても、まだ建物の中じゃない。
建物との間に庭のような空間が広がっている。
城は広い。
庭の様な空間も広い。
城門の大扉から、建物の中に入る為の道は石畳で出来ている。
広い、長い石畳の先に、黒い鎧を身につけた騎士が立っている。
殺気は無い。
人型の魔物なんだろう。
騎士は腰の鞘に入った剣に手を掛けた状態で静止している。
アルコルが魔銃を放つ動作を取ろうとした。
フレド:「俺が相手をする」
フレド:「俺が引き付けるから先に行ってくれ」
アルコルは魔銃を下げた。
ルプリレ:「わかったわ」
ルプリレ:「任せます」
フレドが魔銃を構えた。
フレドが撃つ。
銃弾を鎧の騎士は剣で撃ち落とした。
フレド:「行け!」
鎧の騎士は俺達を追って来なかった。
俺達は横を抜け、先に進む。
(フレド視点です。)
鎧の騎士は、レイセ達を追わなかった。
一騎打ちがお望みらしい。
俺は右手に魔銃とナイフ、左手に盾を装備している。
騎士は右手に片手剣。
左手に盾は装備していない。
一騎打ちは間合いの読み合いだ。
まずは鎧の強度を確かめる。
奴との距離は二十メートル。
俺は魔銃を撃った。
二発は奴を狙い、一発は態と外した。
奴は二発を剣で撃ち落とした。
外した一発をリフレクトで反射して奴の背中を狙う。
奴は後ろを振り返って、剣で叩き落とした。
鎧の強度はわからない。
奴が後ろを見せた隙に瞬間移動。
右手のナイフで背中を狙う。
ナイフが通らない。
やはり鎧には強度がある。
ギン、と音が鳴っただけだ。
奴はまた後ろを振り返って、剣の振り下ろし。
俺は後ろに十メートル飛びのいた。
俺が後ろに下がったのに合わせて、奴は突っ込んできた。
動きが素早い。
奴は左腕のガントレットで俺の腹を横に殴る。
強烈な一撃。
急な動きに反応出来なかった。
そして奴は右手の剣を振り下ろす。
俺は左手の盾で防ごうとしたが間に合わない。
間合いが近すぎた。
左腕を切断される。
痛い。
が、へこたれている場合じゃない。
俺は右手の銃を手放し、右手にハンマーを具現化。
奴が剣で防御する前に、右から左に振り抜いた。
質量のあるハンマーを全力で振り抜いた。
奴は左に吹き飛ぶ。
俺は左腕を再生。
奴を追う。
俺は左側に飛んだ。
奴は地面に激突する前に瞬間移動。
俺は同じタイミングで領域を展開。
左後ろに空間の歪を感知し、そこに向かってハンマーを振る。
奴は左腕のガントレットでハンマーを上に逸らして、右手の剣で切りつけて来る。
俺は結界を最大数展開。
左手に盾を具現化。
奴の右の振り下ろしを防ぐ。
結界は砕かれ、盾で止まる。
俺は右腕のハンマーを右から左へ。
奴は左のガントレットで防ごうとするが、構わず振り抜いた。
奴の左腕が折れた。
そのまま奴は左に吹き飛ぶ。
奴は地面に着地し、左手を瞬時に回復させた。
俺は両手でハンマーを振り上げて突進。
俺の振り下ろしを奴は片手剣で防いだ。
奴の右腕が折れた。
同時に奴の左拳が俺の右脇腹に。
奴の左の威力で俺は左に吹き飛ぶ。
ハンマーは奴の頭に命中しなかった。
俺の右脇腹の骨数本が折れた。
俺は地面を転がりながら、右脇腹を回復させる。
奴は右腕を回復させ俺を追ってくる。
地面を転がりながら、右手に魔銃を構える。
でたらめに数発撃った。
時間稼ぎだ。
何発かが、奴に向かって飛ぶ。
奴は剣で叩き落とす。
俺はその隙に立ち上がり、盾を具現化する。
大盾だ。
奴は剣を右横に固定。
剣からは、禍々しい光が迸っている。
強力な一撃が来る。
一呼吸の溜めの後、奴は突進しながら右を左に振り抜いた。
俺は大盾で受けた。
奴の片手剣は、俺の大盾をバターの様に切り裂いた。
俺の腹も直撃を受ける。
俺の体は、水。
俺の体は、砂。
俺の体は、風。
俺の体は、炎。
奴の攻撃は、俺を透過して抜けていった。
出来た。
はじめて成功した。
成功しなければ死んでいた。
俺は右足で奴の右腕を蹴り上げた。
奴は片手剣を手放した。
俺は右拳で奴の頭を殴った。
兜をかぶっているが関係ない。
思い切り振り抜いた。
右手の皮が剥けたが関係ない。
奴も右腕で殴り返してきた。
俺の頭が右に傾く。
俺は更に右拳で奴の頭を殴った。
奴も殴り返して来る。
俺の頭が右に跳ねる。
俺の頭が右に振れたと同時に、その横を銃弾が通過する。
殴り合っている間、リフレクトで何回も反射させた。
威力は数十倍だ。
俺の顔が右に振れなければ、俺が当たっていた。
銃弾は奴の額に命中した。
奴の兜を銃弾は貫通した。
俺はハンマーを具現化した。
両手で振り上げて、奴の頭に振り下ろした。
全力の振り下ろし。
奴の頭が、兜事潰れて、奴は石畳に寝ころんだ。
はー。
強かった。
しかし、頭を潰したんだ。
もう起き上がれないだろう。
俺はその場に座り込んだ。
疲れたー。
そうだ、魔石を潰しておかないとな。
こいつらは回復するんだった。
ああああ。
立つのがしんどい。
俺は鎧を外そうと、手を掛ける。
軽い。
中を見る。
空だ。
俺は蜃気楼化した。
俺の体を片手剣が通過する。
俺は振り返って、両手剣を振り下ろした。
赤い目をした牙の生えた男を両断した。
頭を潰した筈なのに、もう回復していやがった。
両断した奴の体から、魔石を取り出して砕いた。
しぶとい。
気持ちが途切れた。
増強剤を打つ。
ふー。
一人片付けるのにかなり時間が掛ってしまった。
後を追わないとな。
そう思った時だった。
目の前に鎧のやつが三体並んで立っていやがる。
三人とも、剣を構えて準備万端だ。
笑わせてくれる。
準備万端なのは俺も一緒だ。
俺は魔銃を撃った、でたらめに。
数発が三体に向かって飛ぶ。
それぞれが銃弾を剣で撃ち落とす。
剣を下げたタイミングで、空中で反射させていた銃弾が鎧三体の頭を打ち抜く。
さっきの一体の時に予備を準備していた。
威力は数百倍。
鎧三体の頭は吹き飛んだ。
今も空中で数発お手玉している。
念のためだ。
魔石を砕かないとな。
のろのろと動く。
俺は完全に分断された。
三体の鎧野郎から魔石を取り出して砕いたタイミングで、更に六体出やがった。
やれやれだ。
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