19話 世界の大きさ


(ローク視点です。)


 サタンの姿が変化する。


 俺たちの完全融合状態と似ている。


 魔獣と一体化したような姿になった。


 サタンの体からは、水蒸気が立ち上っている。


 どうやら、体温が上昇しているらしい。


 シュー、シューと音が鳴っている。


 サタンは笑っている。


 サタン:「再開だ」


 ローク:「そのようだな」


 サタン:「踏ん張れよ?」

 サタン:「じゃなきゃ、一瞬で終わるぞ?」


 ローク:「かもな」


 サタンが拳を振り上げた。


 瞬間、大盾を前に構える。


 俺の体を、ガドルとサリーンが支える。


 サタンは拳を振り下ろした。


 拳が大盾を打ち付ける。


 衝撃で五メートルは後退した。


 ガドルとサリーンごと、五メートル後ろにズラされた。


 後から遅れて爆音が響く。


 防御出来たが、衝撃は受けた。


 全身が重怠い。


 防ぎきっても、衝撃を消し去ることは出来ない。


 何発も受けると体に限界が来る。


 理屈では。


 だが、この理屈は通用しないだろう。


 限界を超える動きをしないとな。


 サタンは大きく踏み込んできた。


 一歩で目の前に移動した。


 今度は左拳を下から前に突き出した。


 俺は大盾で防御。


 サリーンとガドルが俺を支える。


 さっきと同じだ。


 また五メートル後退させられた。


 続けて、サタンは一回転して右足で蹴りを入れてきた。


 慌てて大盾を構え直す。


 凄まじい衝撃。


 七メートル後退した。


 三人で踏ん張って、吹き飛ばされないように耐える。


 それしかできない。


 手がない。


 防ぐ以外に何もできない。


 フレアで出来た盾はまだ持っている。


 ニックで出来たハンマーを使う場面がない。


 サタンの体から立ち上る水蒸気はさらに増えてきた。


 もしかしたら、奴は無理をしているのかもな。


 肉体に負荷を掛けて、限界以上の力を出しているのでは?


 俺たちのやり方と一緒だ。


 リスクのある力の出し方だ。


 勝負が長引けば、自滅するかもな。


 反撃出来なくていい。


 このまま防ぎ続ける。


 そうすれば、勝てる。


 奴は、右拳を振り上げた。


 三人で防御態勢を取る。


 ローク:「来い!」

 ローク:「二人とも、限界以上を出すぞ!!」


 サリーン:「了解」


 ガドル:「わかった」


 サタン:「盾ごと吹き飛ばしてやる!」

 サタン:「オラァアアア!!!!」


 根源の核を握りしめ、限界以上の力を引っ張り出す。


 五千パーセントか?


 いやもっと引き出す。


 サタンの全力の拳を三人で受ける。


 今度は後退しなかった。


 衝撃で体がズレたりしなかった。


 はじき返した。


 サタンの体には、さっき防いだ時よりも負荷がかかった筈だ。


 サタンは連続攻撃してきた。


 左拳で突いてきた。


 盾に衝撃を受ける。


 盾は壊れない。


 盾を左手一本で支えて、俺の体をサリーンとガドルが支えた。


 俺は右手に持ったハンマーを下から上に振り上げた。


 サタンの顎をかち上げる。


 サタンの頭が上に跳ね上がる。


 想定外の反撃は効く筈だ。


 俺が反撃するのは想定外だろ。


 一瞬、サタンの全身が宙に浮いた。


 だが、耐えやがった。


 サタンの全身から水蒸気が出ている。


 サタンの体にヒビが入ってきた。


 肉体が崩壊しかけている。


 このまま、このまま防御を続けていれば、勝てる。


 そう考えを巡らせた。


 その思考の間に、家族の笑顔を思い出す。


 娘。


 妻。


 走馬灯のように、過去の大事な場面を思い出す。


 思考が今、ここに維持できない。


 集中力が下がっているのか?


 俺は、俺は何を考えている?


 俺は、俺は、俺は。


 サタン:「どうやら、限界みたいだな」


 俺は立っているのがやっとだ。


 意識を引き戻せない。


 サリーン:「ローク!」


 ガドル:「しっかりしてくれ!」


 ローク:「明日が詩織の誕生日なんだ!」


 サリーン:「娘さんの話?」


 ガドル:「意識が飛んでしまっている?」


 ダメだ。


 ダメだ。


 ダメだ。


 もう、限界だ。


 奴より先に、俺に限界が来た。


 思考が散る。


 頭が重い。


 考えが定まらない。


 なぜだ?


 なぜこんなことに?


 違う。


 自分で選んだんだ。


 そうじゃない。


 落ち着け。


 俺が今すべきこと。


 そうだ。


 俺が今すべきことは、なんだ?


 しっかり考えろ!


 根源だ。


 根源の核を握りしめる。


 根源の核に繋がる。


 繋がる?


 根源は、根源は、意識の最終地点か?


 力を引き出すための、境地は、根源にあるのか?


 俺、そのものが、根源の核であると同時に、俺の内側にも同じものがある。


 今気づいた!


 根源は二つ。


 世界と、俺。


 根源は複数ある!


 二つ。


 二つだ。


 同一の存在。


 でかいのが二つ。


 核で繋がっている。


 融合。


 同調。


 とにかく、二つを同時に使う。


 重なるイメージだ。


 二つを重ねる。


 力を引き出す部分の大きさが二倍になる。


 思考が散った。


 そして、戻ってきた。


 すべては、根源のありように気づくため。


 俺の勘がそう言っている。


 焦点が定まる。


 ローク:「悪い、意識が飛んでしまっていた」


 サリーン:「状況に沿わないことを口走っていたわ」


 ローク:「悪い」


 サタン:「はは、辿り着いた、か?」


 ローク:「そうだな」


 ガドル:「なんの話だ?」


 ローク:「二人は見ていてくれ」


 サタン:「実は、無理な召喚で本来の実力が出せないでいる」


 ローク:「今更言い訳か?」


 サタン:「力が思うように出せない」

 サタン:「肉体が崩壊する」

 サタン:「力を引っ張り出す場所が一つだと安定しない」


 ローク:「ヒントをくれているのか?」


 サタン:「ただの愚痴だ」


 ローク:「行くぞ」


 根源を探る。


 二つの根源を繋ぐイメージ。


 引っ張りあって、重ねる。


 根源の融合。


 世界と俺は同じもの。


 世界と俺は同じ大きさ。


 世界を許容する。


 俺は世界だ。


 動きがスローモーションに見える。


 奴が拳を振り上げる。


 俺は、ハンマーを右に構える。


 奴が拳を俺の顔面に向けて振り下ろす。


 俺は奴の拳が見えている。


 拳を躱しつつ、右手のハンマーを右から左へ。


 ハンマーは奴の顔面に命中する。


 カウンターで入った。


 奴はバックステップ。


 俺は追撃する。


 左で盾を前に突き出し、ハンマーを右に構える。


 奴が左拳で突いてきた。


 俺は右のハンマーを下から上に。


 左拳が迫る前に、ハンマーで妨害する。


 同時に盾を奴の顔に押し付ける。


 そのまま近づいて、右足で蹴りを入れる。


 根源の相乗効果で力を引き出し放題だ。


 地力が上がっている。


 俺の蹴りでサタンは吹き飛び壁に激突した。


 今ので終わりだ。


 奴は致命傷だ。


 奴が立ち上がる。


 奴の体にできた亀裂から、黒い霧が吹き出ている。


 サタン:「俺の役目は終わりだ」

 サタン:「不完全な召喚しやがって、面白いのはここからだってのに」

 サタン:「消化不良だぜ」

 サタン:「じゃーな」


 サタンは黒い霧になって消えた。


 ローク:「ふー、見ていたか?」


 サリーン:「ええ」


 ガドル:「何が起こったんだ?」


 ローク:「説明が難しい」

 ローク:「イメージの流し込みをやる」

 ローク:「しばらく休憩してからな」


 俺たちはその場に座り込んだ。




(アリア視点です。)


 ん?


 座ってる。


 さっきまで反応のあった敵が消えている。


 勝った?


 ローク:「アリアとアスマか」

 ローク:「こっちは今片付いた」

 ローク:「しばらく休憩だ」


 アスマ:「悪魔を加勢無しで倒したのか?」


 ローク:「まあな」

 ローク:「根源から力を引き出し過ぎて、意識が散ってしまって焦った」


 サリーン:「こっちのセリフ」


 ガドル:「そうだぜ」


 アリア:「引き出し過ぎて、脳が壊れたってこと?」

 アリア:「よく無事だったね」


 ローク:「力の引き出し方がわかった」

 ローク:「新たな境地だ」

 ローク:「恐らく、一回ぶっ壊れないと思いつかない」


 フレド:「おお!」

 フレド:「面白そうな話だな」


 ニーナ:「オチは?」

 ニーナ:「ある?」


 リアンナ:「来たわ~」


 ファガス:「この話の流れで、オチとか無いだろ」


 ローク:「根源は二つある」


 ニーナ:「オチあるじゃん」


 ローク:「追いかけてきたのか」

 ローク:「しばらく情報交換してから、奥に向かう」

 ローク:「それで良いか?」


 アスマ:「ああ」


 根源は二つある、か。


 私達は追いつめられて実力以上が発揮されている。


 この流れは必然かも。


 皆の成長が必要な状況の可能性がある。


 私たちを陰で動かしている神たちは偶然を許容するだろうか?


 許容しないだろう。


 神はダイスを振らない。


 レイセ達が心配になってきた。


 急がないと。



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