18話 お前も死んどけ
(ファガス視点です。)
アスモデウスはレイピアを構えた。
左にいるリアンナもレイピアを構えた。
右にいるリアンナもレイピアを構えた。
三人同時の突き。
二人のリアンナには反撃出来ない。
反撃したら、黒い霧になって俺に返って来る。
アスモデウスに反撃したならば、いずれかのリアンナと位置を交換される。
リアンナに反撃するのと同じ事だ。
また黒い霧に成って俺を苛む。
アスモデウスにも反撃できない。
考える時間が無いが、誰にも反撃しない方が良さそうだ。
現状では手が無い。
俺は焦らない。
三人の攻撃を躱す事を考える。
三人は俺の顔を狙って突いてきた。
三つのレイピアを、部分融合の盾で上に逸らす。
そして、一旦下がる。
様子を見る。
一見、アスモデウスに焦りは無い。
何の表情も見せず、淡々と次の動作に移る。
またレイピアを構え直した。
また、攻撃が来る。
二人のリアンナも、レイピアを構える。
同じ事の繰り返しだ。
淡々と同じ事を繰り返す。
相手が何も言って来ない。
挑発も無い。
もう一回同じ事を繰り返す。
俺はレイピアを上に逸らす。
そのあとバックステップ。
後ろに距離を取る。
アスモデウスは無言だ。
何も言って来ない。
アスモデウスの精神攻撃は、罪悪感につけこむ。
罪悪感の発生しない行動を取れば、向こうは反応できない。
そう言う事だろう。
アスモデウスの精神攻撃は強力だ。
対処出来ない。
何をやっても、裏目に出る。
なら、なにもしなければどうか?
向こうは精神攻撃のきっかけを探している。
切っ掛けが無い場合、向こうに不利になるとか、無いか?
どんな行動にも、メリットとデメリットがある。
俺が全ての攻撃をやめた時、奴はダメージを受けるのでは?
俺は俺の胸に向かって突かれたレイピアを避けなかった。
攻撃をそのまま受けた。
なんの防御もしていない。
無防備で受けた。
三つのレイピアが俺を貫いた。
致命傷だ。
生きられて、後数分。
呼吸が苦しい。
肺がダメになった。
アスモデウスは目を見開いている。
奴も胸に攻撃を受けた様だ。
血を吐いている。
俺と同じダメージを負ったみたいだ。
バカが。
余裕かまして卑怯な手を使うから、そうなる。
俺と同じ痛みなら、相当しんどい筈だ。
なんせ、生きられて後数分だからな。
リアンナ二人がレイピアを構えた。
突いて来るようだ。
無駄な事しやがって。
俺はもう躱せない。
死にかけて、最後に反撃すると思ったのか?
する訳無いだろ。
リアンナに殺されるなら、本望だ。
俺は避けない。
俺は死ぬ。
アスモデウス。
お前も死んどけ。
リアンナ二人は俺を刺した。
腹をレイピア二つが貫いた。
血が滴る。
リアンナの像は俺を抱いて消えた。
アスモデウスは更に出血している。
滴って落ちる黒い血液は、黒い霧に成って周囲に漂う。
アスモデウス:「何故、反撃しなかったのですか?」
ファガス:「リアンナは只の像だ、だが反撃すると罪悪感はどうしたって残る」
アスモデウス:「只の像と割り切れば、攻撃出来たのでは?」
ファガス:「お前、あんなにそっくりに再現して、割り切るとか無理だぞ」
アスモデウス:「引っかからなかったのは貴方が初めてです」
アスモデウス:「理屈では解っていても、心で割り切れない感情は存在します」
アスモデウス:「その感覚を、仲間に伝えて下さい」
アスモデウス:「おっと、貴方が仲間に合流出来ればですが」
ファガス:「死ぬんなら、俺を回復してから逝けよなー」
アスモデウス:「回復?」
アスモデウス:「知りませんね」
アスモデウス:「それと、限界出来なくなるだけで、死ぬのとは別なんですが」
アスモデウス:「もう会う事は無いでしょう」
アスモデウス:「恋人とお幸せに」
ファガス:「大きなお世話だ」
アスモデウスは黒い霧に成って消えた。
俺は、レイピアで突かれた傷を部分融合で塞ぐ。
根源の核を握りしめ、回復をイメージする。
仲間か。
レイセ達を先に行かせた。
他の仲間もみんなそうだろ。
俺を回復する仲間なんていない。
俺は。
俺は。
他の仲間の元に向かうか。
止血が不完全らしい。
血が垂れる。
構わない。
少しずつ前に進む。
レイセ達は奥に行った筈だ。
奥に向かう。
一歩ずつ進む。
待ってろよ。
辿り着くぞ。
待ってろよ。
ふー。
一歩が辛い。
只の一歩がこんなに大変だったっけなー?
ふー。
ふー。
必ず辿り着く!
(フレド視点です。)
階段の下に気配がある。
魔道具にはファガスと表示されている。
見えた。
ファガスだ。
おい!
ちょっと待て!
その状態で階段は無理だ!
その場で待機しろ!
もう進むな!
階段を転げ落ちるぞ!
フレド:「リアンナ!!」
リアンナはファガスの影に入った。
ファガスは階段を転がって行った。
ニーナが瞬間移動して受け止める。
ニーナが階段の踊り場に移動させた。
フレド:「ファガス、意識はあるか?」
ファガス:「あるぞ」
フレド:「あんな状態で階段は無理だぞ」
ファガス:「下に向かうつもりはなかった」
ファガス:「這ってでも上に向かうつもりだった」
ファガス:「レイセ達に追いつくぞ」
フレド:「ああ、気持ちは解るが、先に『トパーズ』の様子を見に行く」
ファガス:「そうか、わかった」
フレド:「あんた、大丈夫か?」
ファガス:「大丈夫」
リアンナ:「聴覚がダメね」
リアンナ:「唇を読んで話してるだけ」
リアンナ:「聞こえてないわ」
ニーナ:「どうする?」
ニーナ:「本人はヤル気みたいだけど」
ファガス:「行くに決まってるだろ」
リアンナ:「休ませたいんだけど」
ファガス:「ダメだ」
リアンナ:「もーーーー」
フレド:「連れて行くのは決定な」
フレド:「ニーナ、音魔法で回復出来ないか?」
リアンナ:「お願い」
ニーナ:「やってみるね」
ファガス:「頼む」
ニーナが歌を歌い。
リアンナが回復魔法を使う。
ファガスの回復は数分に及んだ。
ファガスは回復した。
ニーナが領域展開し、リアンナがそれに同調した。
その結果、ファガスの聴覚が戻った。
領域の同調による、影響力の向上。
及び、イメージの伝達によって、ファガスの聴力は戻った。
領域展開での意思疎通。
今まで試した事が無かったが、有効らしい。
悪魔は死ぬ間際に遺言を残す。
七つの大罪を乗り越えたイメージの伝達が必要らしい。
恐らく、レイセ達は苦戦している。
戦いは長期戦だ。
俺達もそこに加わる。
その時に、イメージの伝達が必要だ。
そもそも、領域の同調なんて、したことが無い筈だ。
俺達が教えないといけない。
急がないとな。
後数分休憩したら、階段の上に向かう。
アリア達も移動を始めた。
俺達も後を追う。
(レイセ視点です。)
ロレアムドから連撃が来る様になった。
少しずつ攻撃の数が増えて、今は十一連撃だ。
六連撃まで耐えられるようになった。
が、後の攻撃は、折れた腕で無理やり耐えている。
俺の成長よりも、攻撃の手が厳しい。
次は奴の攻撃を七発迄耐える。
そこから先は奇跡に頼るしかない。
腕が折れたら、腕を追加して耐えてきた。
ギリギリだ。
威力が高過ぎる。
攻撃の切っ掛けが無い。
常に不意打ちだ。
慣れるのなんて不可能だ。
七発迄防げる様になったら頑張っているだろう。
俺は頑張っている。
頑張っている、が、状況は変わらない。
他に手は無いのか?
考えようとするが、思考は定まらない。
考えている内に、次の攻撃が来る。
一発目。
右手で上に払う。
二発目。
左手で受け止める。
三発目。
右腕で下に払う。
四発目。
左手で受け止める。
五発目。
左手で受け止める。
六発目。
左手で受け止めるが、左手が折れる。
七発目。
右手で右に払うが右腕が折れる。
八発目。
部分融合で右腕を造り、武器を持ち替えて、左に払う。
九発目。
左に部分融合で腕を造り、盾を持ち替えて、防ぐ。
十発目。
部分融合で作った左腕で防ぐが、腕が折れる。
十一発目。
部分融合で作った右腕で攻撃を弾く。
部分融合の腕は折れる。
この繰り返し。
耐え切れない。
だが諦めない。
何処かに隙がある筈だ。
耐える。
耐えて勝機を探る。
心は折れない。
まだやれる。
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