20話 続ける
(ジャド視点です。)
クインが領域を展開するように促した気がした。
僕は咄嗟に領域を展開する。
ベルフェゴールは右腕を振り下ろした。
領域展開で、領域内を把握している。
僕はベルフェゴールの右拳を避けた。
奇跡的に、避けることが出来た。
ベルフェゴールは右拳から、威力の高い炎を放出した。
敵からは、決定打だったはずだ。
詰んでいた。
喰らっていたら終わっていた。
避けることが出来るタイミングじゃなかった。
ベルフェゴールも、そのつもりで炎を放出した。
奇跡的な回避。
ベルフェゴールは炎を出したあと、バックステップ。
距離を取った。
賢明な判断だ。
予想外の事態だろう。
僕は自分の感情を考える。
クインが領域展開を指示した気がした。
気がした。
気がした、だけ。
クインの幻影は、僕のイメージから出来ている。
クインの指示は、僕のひらめきなんだろう。
僕のひらめきが、ベルフェゴールの“怠惰”を上回った。
クインは領域展開を継続するように言っている。
視界の端で、彼女がそう叫んだ様な気がした。
僕は、領域展開を継続する。
領域展開は、領域内を把握するのに使っていた。
一瞬で行動範囲を覆えば事足りてきた。
長い時間、継続して領域を展開するなんて、試したことがない。
なんの意味があるんだ?
まあ、いい。
クインの幻影が見えるのは、吉兆だ。
彼女は、僕にとって都合がいい。
彼女の言う通り動いて、間違っていた試が無い。
こんな時、キシさんはなんて言うんだろう?
最近時々考える。
キシさんなら、どんな行動をしていたか。
キシさんが僕なら、領域展開を維持する。
キシさんは、クインを優先するだろう。
いや、ベリーさんか。
キシさんはベリーさんを優先する。
大抵はそうだ。
優先順位が変わったのは、キシさんが死んだときだけだ。
今、その話は関係ないか。
とにかく、クインの指示を優先する。
領域を継続して展開した事によって、ジークの動きが把握できる。
ジークは盾を構えた。
今度は自分が攻撃する気だ。
動きでわかる。
防御主体の戦闘スタイルの癖して、血の気が多い。
違う。
そうじゃない。
攻撃は僕の役目だ。
強くそう思った。
ジーク:「考えが伝わった」
ジーク:「ジャド、お前から攻撃を仕掛けるんだな?」
ジャド:「そうだ」
ジャド:「領域で伝わるみたいだ」
ジャド:「俺の意思を読み取ってくれ」
ジャド:「ここからは会話無しだ」
ジークは頷いた。
ベルフェゴール:「…………」
ベルフェゴール:「どう動くべきか……」
ベルフェゴール:「決めた!」
ベルフェゴールは領域を展開した。
僕の領域が狭まる。
ベルフェゴールの領域に押し負けている。
クインが、負けないで、と言う。
僕は領域展開を強める。
ベルフェゴールの領域を押し返す。
ベルフェゴールの圧が強い。
僕は押し負ける。
ジークが領域を展開した。
ジークの領域と、僕の領域は反発している。
二人で力を合わせないとダメだ。
クインは、頑張って、と言う。
どう頑張る?
どうする?
領域と領域が反発している。
手はあるのか?
ベルフェゴールの圧が強い。
負けそうだ。
負けたくない。
そう思った。
ジークの領域からも、負けたくないという気持ちを感じる。
そうだ。
同じ気持ち。
負けたくない。
負けられない。
同じ気持ちと感じた。
その事実が、領域を同調させる。
領域と領域が混ざり合う。
二つの領域が共鳴し、より強い領域になる。
僕たちの領域は一つになり、ベルフェゴールの領域を押し返した。
僕はベルフェゴールに向かって踏み込んだ。
ベルフェゴールは、僕たちの領域の中にいる。
僕は右腕を振った。
右から左へ。
ベルフェゴールも右腕を振った。
右から左へ。
二人とも、左わき腹に攻撃を受けた。
どんなに弱点を突くのが上手くても、これは躱せない。
僕がダメージを受ける事前提なら、ベルフェゴールに攻撃が通る。
そう考えた。
ジークも了承している。
左わき腹に触れた右拳から、魔法を最大限で放出する。
ぶっ壊れてもいい。
この一撃で倒す。
ベルフェゴールも同じ気持ちだろう。
全属性魔法を全力で出力した。
僕もベルフェゴールの炎を受けている。
ベルフェゴールは動けない。
ジークがベルフェゴールの右側に移動する。
ジークは力を溜めている。
ベルフェゴールは動けない。
ジークはベルフェゴールの右わき腹に蹴りを入れた。
ベルフェゴールは、僕への攻撃をキャンセルして、ジークに反撃する。
ベルフェゴールはショートアッパーをジークに放つ。
ショートアッパーは当たる。
ジークは上に吹き飛んだ。
ベルフェゴールは、至近距離から僕の魔法を受けたままだ。
ベルフェゴールは、横に吹き飛んだ。
領域は継続している。
ジークは気を失っていない。
瞬間移動して、ベルフェゴールの飛んだ先に行く。
ベルフェゴールの首にハイキックを繰り出す。
ベルフェゴールは腕でガードしようとした。
同じタイミングでジークも瞬間移動してきた。
ベルフェゴールをはさんで僕と逆側にでて、ハイキックを繰り出す。
ベルフェゴールは両腕でガード。
ベルフェゴールの腕が折れた。
思い切り反動をつけて、二人で膝蹴を放つ。
二人の膝蹴りは、ベルフェゴールの顔面に入った。
ベルフェゴールの首が折れる。
ベルフェゴールは吹き飛んだ。
もう、起き上がれないだろう。
勝った。
ふう。
ベルフェゴールは倒れたまま、領域を展開した。
領域は僕たち二人を範囲内に入れる。
そして、そのまま黒い霧になって消えた。
僕たち二人はぎょっとした。
勝ったと思い込んでいたからだ。
してやられた。
領域で物理干渉出来ていたら、致命傷だった。
とにかく、終わった。
僕は大の字になって、その場に寝転がった。
クインが喜んでいるのが見える。
アリシアは武器化を解いた。
ジークと抱き合っている。
あーーーー。
疲れたー。
てか、わき腹が痛い。
致命傷じゃないか?
どうするんだよ。
もう動けないぞ。
そう思っていたら、声が聞こえる。
ファガスの声だ。
他も聞こえる。
助かった、か?
僕は気を失った。
(レイセ視点です。)
そうか、わかった。
領域を同調させる。
領域を共鳴させれば、出力が上がって、ロレアムドの領域を押し返せる筈だ。
やった事ないが、できるだろう。
アルコルと意識を同調させる。
うーん。
無理か。
アルコルの意識は特殊だからなー。
同じこと考えるのなんて不可能だわ。
それに、俺は領域をこれ以上広げられない。
アルコルまで領域を広げられない。
アルコルと領域を同調させるなら、アルコルまで近づかないと無理だ。
物理的にも無理だ。
しかし、手がない。
今は十二連撃まで耐えられるようになった。
耐えられる、って言うか、死なないだけだけど。
腕が折れてしまうのは変わっていない。
出来ることが何もない。
耐えるだけだ。
これがもし、何らかの物語の一部なら、作者はどう解決するんだ?
落としどころは?
考えて書いているのか?
考えろ、俺。
これがもし、作り話なら、どう解決する?
それが答えだ。
もしかして、もう詰んでいるのか?
俺の予想じゃ、俺たちが本当にピンチになったら、管理者が手助けしてくれるはずなんだが。
まだか?
もう無理だぞ。
なんで出てこないんだよ。
どうにもならないぞ。
どうなっている。
門の開け方を教える癖に、今、この時の切り抜け方は教えないのか?
ギリギリなんだって!
もう無理なんだって!
ふーーー。
落ち着け。
思考が投げやりになっていた。
手は無い。
無いという事実から目を逸らすな。
自分たちにしかどうにもできない。
とにかく耐える。
耐えるしかない。
耐え続ける。
希望なんて考えるな。
ただ耐えることを考えろ。
活路を考える事が、耐えることの妨げになっている。
次はそろそろ十三連撃になるだろ。
それを耐えないとダメなんだ。
出来るだけ動作を最適化させ、両腕を長く維持する。
ただ耐える事に特化する。
考えるな、俺。
感じるな、俺。
暗闇を受け入れろ。
その先に何もなくても、俺は続ける。
続ける。
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