21話 進む
(コナル視点です。)
完全に視界が潰れた。
ベルゼブブの位置がわからない。
落ち着け。
目が見えなきゃ、領域を広げればいい。
そうすれば位置が把握できる。
俺は領域を展開する。
領域の範囲は、ベルゼブブを覆うくらいでいい。
この場合、ベルゼブブも領域を展開してくるかもな。
俺が領域を維持し始めたことで、俺の目が見えていない事がバレただろ。
領域の維持が勝負になる。
ベルゼブブも後ろに下がって領域を展開した。
やっぱりだ。
そうなると思った。
俺から五メートルの位置にベルゼブブの領域がぶつかっている。
やつ本体は今どこにいるんだ?
領域は自分を中心としたドーム型が多いが、奴も同じ形の領域を展開したのか?
わからない。
わからないのがわかった。
もう位置はいい。
俺の領域に入ってきた場合に反撃する。
幸い、俺の領域は半径五メートルのドーム型だ。
その状態を維持している。
中に入ってきたら、素早く反応して、対処する。
よし。
来い!
真後ろに反応あり!
俺の後ろに回り込んで突っ込んできやがった。
俺は振り返る。
奴は両手で剣を上に構えている。
俺は真横に剣を構えた。
奴が振り下ろした剣を、俺の剣ですくい上げる。
剣と剣がぶつかる。
ふー。
防御した。
俺は自分の動きを客観視できない。
自分の腕が見えない。
そのストレスは想像以上だ。
“暴食”の最適動作に頼っている。
さらに反撃する。
そうしないと勝てない。
切られたダメージがあるが、守るだけって訳にはいかない。
そう思ったとき、奴が領域を展開した。
俺から二メートルの位置で奴が領域展開。
俺の領域は打ち消され、奴の領域に飲み込まれる。
ヤバい。
状況を把握出来ない。
俺は全力で領域を展開しているが、奴の展開の圧が上だ。
俺からは何も把握できていない。
ボーデンには大丈夫って言ったが、事情が変わった
これはヤバい。
ボーデンは武器化を解かない。
いいのか?
俺にはもう対処できない。
そろそろ攻撃してくるだろ。
次は右だ。
自然とそう思った。
俺は右から来た攻撃を剣で打ち払った。
俺は奴の領域の中だ。
俺からは何も見えていない。
だが、体が反応した。
視界の端がキラキラと輝いた様な気がした。
俺は、俺自身がどんな状態でも勝負を投げなかった。
未来を信じた。
シロさんと同じだ。
レイセと同じだ。
極限に追い込まれて、未来予知が出来るようになった。
敵の攻撃が来そうな場所が、なんとなくわかる。
次は左。
左からの攻撃を横に払う。
相手の態勢を想像する。
俺の左側にいて、右に構えた剣を右から左に払った。
俺は剣を右から左に払った。
奴の剣は、奴の体の右側だ。
俺は奴の左側を狙う。
俺は奴の左側らしき場所に突きを入れた。
奴の剣が俺の突きを下から上に払う。
奴は一歩下がって対処したみたいだ。
俺は“暴食”の性能で奴を上回っている。
位置がわかる状況では俺に有利だ。
奴もわかっている。
俺の未来予知は安定しないが、奴の位置が大まかにわかる。
奴はもう、大技に出るしかない。
ベルゼブブが剣をまた右に構えた様だ。
見えないがたぶんそうだ。
きっと、大剣が光って長く伸びているんだろう。
俺も同じことをする。
剣を光らせ、長く伸ばす。
ベルゼブブは剣を右に構えたまま俺に向かってダッシュした。
凄まじい移動速度だ。
俺には見えていないが、未来予知の感覚でわかる。
決めるつもりの攻撃。
俺は後ろにバックステップ。
結界を床と垂直に展開し、足場にする。
後ろに下がってから、前に飛んだ。
俺とベルゼブブは剣を振った。
俺とベルゼブブの光がぶつかり合って、拡散する。
目が見えていたら、きっと眩しかっただろう。
剣から放出した光がぶつかり合う。
根源から力をありったけ引き出した。
死ぬ気で出力した。
ぶつかり合う音が聞こえない。
耳もやられた。
無音だ。
剣で勝負がつかなかった。
光の放出は互角。
ベルゼブブはハイキックを繰り出す。
俺もハイキックを出す。
攻撃は相殺する。
また互角。
名のある悪魔と互角とは。
俺は強くなった。
ハイキックが相殺された反動で、俺とベルゼブブはお互いに後ろに吹き飛んだ。
ベルゼブブの動きは止まらない。
後ろに吹き飛んだあと、俺のすぐ横に未来予知の反応がある。
ベルゼブブの動きは極端に加速している。
瞬間移動と大して変わらない。
が、瞬間移動は出る場所が先にわかってしまう。
超高速で移動したほうが隙が少ない。
奴の移動は超高速。
威力じゃなく、速度の勝負に切り替えやがった。
さすがは蠅の王だ。
右から左への払いを弾く。
上から下への振り下ろしを弾く。
奥から前に向かっての突きを弾く。
全方位から次々と攻撃が来る。
俺はすべて弾いた。
俺は奴に追いつこうとして、また力を根源から引き出した。
力の引き出しには、リスクが伴う。
五感が次々と潰れている。
そろそろ思考に影響が出る。
それでもやるしかない。
俺はニーナの事を考えた。
ベルゼブブの攻撃に対して、自然と体が動く。
思考せずとも体は動く。
俺の思考はニーナに向かう。
黒戸美月。
恐らく、もう会えない。
俺の命は尽きようとしている。
美月ちゃんを初めて見た時の気持ちを思い出した。
彼女のやさしさを思い出した。
これで終わる。
ここで終わる。
ふー。
集中する。
ああ、世界は俺と同じ大きさだ。
不意に思いつく。
根源の核にばかり気が行っていた。
根源の凄さは、その大きさにある。
凄まじくデカい。
世界そのものの概念だからだ。
デカい。
初めて感じた時は気が狂うと思った。
今、俺の気が狂っているのかどうかわからないが、思う。
俺の核とそれを取り巻く大きさは、根源と同じだ。
そして、核で繋がっている。
根源はデカいが、俺だってデカい。
青井友介もデカい。
コナルもデカい。
世界を許容できる。
俺はベルゼブブの連続攻撃をすべて弾いた。
力の引き出し方がわかった。
俺は世界を許容できる。
今更わかったって、もう体はボロボロだ。
俺は超スピードと最適動作、未来予知でベルゼブブと互角に打ち合った。
次第に俺の速度が上回る。
ベルゼブブは不死身だ。
ボーデンで出来た剣で切っても死なない。
だが関係ない。
力の使い方が解った俺は、全力で出力した。
ベルゼブブを殺す。
俺はベルゼブブに攻撃を叩き込んだ。
何度も。
何度も。
連続で叩き込んだ。
ベルゼブブの動きが止まった。
動きが遅い。
遅くなった。
俺より先に限界が来たんだろう。
俺はベルゼブブに留めをさす。
俺の触感でわかる。
ベルゼブブに留目をさした。
ベルゼブブが何か言ったような気がした。
音が聞こえない。
目も見えない。
悪いな。
もう、わからないんだ。
ボーデンが武器化を解いたようだ。
右手から武器の感覚が消えた。
何か言われているようだ。
音の圧を感じる。
次はレイセだな。
あいつを助けてやる。
きっと苦戦している。
間に合えばいいが。
行くぞ。
行くぞ。
通路の奥だ。
進む。
足の感覚がよくわからない。
立っている。
と、思う。
進む。
ゆっくりと。
ゆっくりと進む。
不意に、抱きつかれた。
知っている感触だ。
やわらかい。
ニーナだ。
美月ちゃんだ。
やわらかいけど、力が入りすぎている。
ちょっと痛い。
なに?
痛いんだけど?
泣いているのか?
なんで?
どうなっている?
俺は進みたいんだけど?
しょうがない、俺も会いたかった。
抱きしめてやるか。
俺は美月ちゃんを抱きしめた。
しばらくそうしていた。
美月ちゃんの力は変わらない。
ちょっと痛い。
ふー。
領域展開する。
一瞬だけ走らせる。
ああ。
他にも結構いるじゃない。
なんなの?
どうなってるの?
リアンナが回復してくれているのか?
それだけいるなら、俺が行かなくていいかも。
レイセなら、俺が行かなくても大丈夫だろ。
はーあ。
そんな訳にもいかないか。
俺はまだやらないといけない事があるらしい。
しょうがねーなー。
やるさ。
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