22話 犠牲と反撃


(ベル視点です。)


 なぜだ?


 なぜ死なない?


 消滅しない?


 致命傷だった筈だ。


 逆に僕には限界が来ている。


 腕の本数を維持できない。


 僕は腕の具現化を解いた。


 腕の本数は二本。


 ランで出来た武器の本数は一本だ。


 槍を両手で持っている。


 ルシファー:「悪魔の命の数は一つとは限りません」

 ルシファー:「残念でしたね」


 ベル:「なら何度でも倒すだけです」


 ルシファー:「その体で、ですか?」


 ベル:「やるしかないんだよ」


 僕は槍を光らせて長く伸ばした。


 ルシファーも槍二本を左右の腕で持って光らせている。


 連続攻撃が来る。


 奴の右手の槍が上から下に振るわれた。


 僕は長く伸びた槍で弾く。


 弾いたら直ぐに戻す。


 奴は左の槍で突いてくる。


 僕は戻した槍を下から上に振り、突きを弾く。


 僕はまた槍を戻す。


 奴は右の槍で突いてくる。


 僕は戻した槍を下から上に振り、突きを弾く。


 一定距離からの連続攻撃。


 攻撃を次々と弾く。


 同じ様なやり取りだが、段々と速度が上がっていく。


 脳に負担がかかる。


 弾く速度を上げるために、根源から力を引き出している。


 地力は底をついた。


 根源からの力に頼る他ない。


 加速する動作のなかで、思考が定まらなくなる。


 体は自然と動いているが、思考が定まらない。


 この戦いが終わったら。


 この戦いが終わったら、どうしよう?


 コイン集めは止めにして、ランと静かに暮らすのも良い。


 疲れた。


 そうだな。


 疲れた。


 しばらく休みたい。


 レイセみたいに、ドバスカリの海岸でゆっくりしたい。


 繰り返す波の音。


 ザザー。


 ザザー。


 思考は完全に今に無い。


 だが体は動く。


 速度は今までにない速度。


 限界を超え、体が崩壊する速度だ。


 ルシファーの体は罅割れ、崩壊が始まっている。


 僕の体も、完全融合状態が解けようとしていた。


 根源はデカい。


 僕も根源を持っているようだ。


 僕もデカい。


 根源を許容できる。


 根源は核で共鳴する。


 重なる。


 なら、武器役のランの根源は?


 武器役のランの根源の核は?


 加速する思考の中で不意に思いつく。


 飛躍した論理。


 レイセはいつもこんな感じか?


 頭がどうかしている。


 三つの根源を共鳴させる。


 手からランを感じる。


 今までも、イメージの流し込みはある程度できていた。


 意識は繋がっている筈だ。


 武器が光る。


 今までとは輝き方が違う。


 僕は、輝き方が変わった武器で、ルシファーの武器を弾いた。


 ルシファーの武器が砕ける。


 ルシファーの武器をすべて砕いた。


 奴の武器はもう使えない。


 何度、どんな武器を具現化しようとも、ランの武器には勝てない。


 そのまま、攻撃を加える。


 槍で突き刺した。


 何度も。


 何度も。


 ルシファー:「見事!」


 ルシファーは黒い霧になって消えた。



 ダズ、アル、カイン、シェルミの介抱をする。


 意識が戻っていない。


 タロストとカー、ランは武器化を解いている。




 しばらく様子を見ていた。


 くたびれた。


 本当に追い詰められた。


 死ぬところだった。


 ランが手を繋いで離さない。


 同じ闘技場の反対側で、白い領域が広がっている。


 一切物音がしない。


 異様な雰囲気だ。


 まだ終わっていない。


 むしろここからだ。




 しばらくするとシェルミが意識を取り戻した。


 シェルミ:「油断した」


 ベル:「まあ、なんとかなったよ」


 シェルミ:「強くなった」


 ベル:「まあ、ね」


 カインとダズ、アルが意識を取り戻した。


 ダズ:「遅れを取った」


 ベル:「そんなときもありますよ」


 アル:「なんだあの空間は?」


 シェルミ:「恐らく、ロレアムドの領域」


 カイン:「あれを破らないとあいつは倒せない」


 シェルミ:「レイセとアルコルは空間に閉じ込められて嬲られている筈」


 カイン:「外から奴の領域を破るしかない」

 カイン:「レイセとアルコルだけでは無理だろう」


 シェルミ:「この人数で出来るかわからないけど、やるしかない」


 ベル:「どうするんです?」


 シェルミ:「領域展開を共鳴させて、領域の圧を上げる」


 ラン:「領域の共鳴?」

 ラン:「やった事ない」


 シェルミ:「それしか方法が無いのよ」


 ダズ:「とにかく領域を展開する」


 全員でそれぞれ領域を展開した。


 領域は打ち消し合う。


 混ざらない。


 そんなこと可能なのか?


 出来るのか?


 闘技場の扉が開く。


 見知った顔が揃っている。


 ファガス:「休む暇が無いな」


 コナル:「だわ」


 アスマ:「レイセが休んで無いからダメだろ」


 ローク:「むしろこっからだ」


 リアンナ:「回復は必要無いみたいね~」


 アリア:「やっと辿り着いた」


 ニーナ:「一曲披露しようかな?」


 ジャド:「まだ戦いが続いていて安心しました」


 ジーク:「魔道具に反応が無いから焦った」


 アリシア:「あの白いのが原因か」


 ボーデン:「管理者の介入は無いようですね」


 フレド:「だな」


 ニーナ:「それはもういいって」


 ベル:「リアンナ、ニーナ、アリア」


 ラン:「来たんだ」


 ダズ:「あの白い領域を消し去る」

 ダズ:「協力してくれ」




(レイセ視点です。)


 二十連撃まで耐えられるようになった。


 白い領域の外が騒がしい気がする。


 いや、音は全く聞こえないが。


 気配がするような。


 しないような。


 まあ、いい。


 とにかく次の攻撃に備える。


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」

 ロレアムド:「状況が動く」

 ロレアムド:「面白くなってきた」


 白い領域を別の白い領域が押し返す。


 俺とアルコルは別の白い領域に飲み込まれた。


 見知った感覚だ。


 仲間だ。


 仲間の領域。


 俺は自分の領域を解いた。


 アルコルも解いただろう。


 領域から意識が流れ込んでくる。


 みんなの戦いの経験が受け渡される。


 みんな、無理したな。


 もうボロボロか?


 俺はまだやる。


 こっからだ。


 根源の使い方が解った。


 領域の使い方も。


 俺はみんなの白い領域に同調した。


 アルコルもやっている。


 ロレアムドは人型に戻っている。


 領域を展開していない仲間がいる。


 カインとシェルミだ。


 カイン:「レイセ、聞け」

 カイン:「ロレアムドは死なない」

 カイン:「命のストックを無数に持っている」

 カイン:「俺とシェルミがロレアムドと同化して、命を一つに戻す」


 シェルミ:「ロレアムドが長命種に実験をしていたのは、弱点になりえるから」

 シェルミ:「私たちは隙を伺っていた」

 シェルミ:「隙なんてなかったけど」

 シェルミ:「私達は自分たちだけでやるつもりだった」

 シェルミ:「私たちは生まれた時からロレアムドの分身だった」

 シェルミ:「そういう役目だった」

 シェルミ:「私たちの役目を果たす」

 シェルミ:「私たちの役目は、この連鎖を終わらせる者に力を授ける事」


 ロレアムド:「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」

 ロレアムド:「命が一つに戻るのが弱体化だと思ったか?」

 ロレアムド:「弱点が増えれば力は増大する」

 ロレアムド:「お前たちの絶望は変わらない」


 レイセ:「まて!」


 シェルミ:「ダメよ!」


 カイン:「さらばだ!」


 カインとシェルミは光になって飛翔し、ロレアムドに突き刺さった。


 ロレアムドの体には変化が無い。


 ロレアムドは俺たちの領域の中にいる。


 アルコル:「再開だ!」


 アルコルはロレアムドに向かって斬撃を放った。


 ロレアムドが斬撃を上に弾く。


 ロレアムドが剣を右に構える。


 ロレアムドが剣を右から左へ。


 巨大な斬撃が凄まじいスピードで放たれる。


 レイセ:「みんな、下がれ!」


 仲間たちは領域を維持しながら、闘技場の端まで後退した。


 アルコルはロレアムドの斬撃を躱せず、刀で斬撃を打ち払った。


 二つに割れた斬撃が、闘技場の端に飛んでいく。


 無限潜行(オーバーライド・インフィニティー)。


 俺は、俺たちは根源からの力の引き出し方がわかった。


 仲間たちの意識から受け取った。


 七つの大罪の乗り越え方も。


 カインとシェルミを無駄にしない。


 ここで勝負をつける。


 一気に行く。


 結界を足場に空中を走って、超スピードで移動する。


 俺は振り上げた剣を振り下ろした。


 剣は特殊な光を放っている。


 ルプリレの光だ。


 俺の全力をロレアムドは剣で受けた。


 ロレアムドの腕が折れた。


 腕力が通用する。


 このまま行く。


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