第16話 死に方は決まっている



 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     黒戸零維世。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 プロミ:プロミネンスの略で通り名。

     本名はルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     国では現人神と扱われている。

     レイセと結婚。

 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    元プロンシキの英雄。

   『リーベラティーオー』の纏め役。

 ダズ:聖国クリアの守護者長。

    クリアの元上司。

    アリアに結婚を申し込んだが、保留にされている。

 フレド:連合国クロトの守護者長。

     ピナンナと結婚している。

 シロ:黒巣壱白の二つに分裂した一側面。

    複数の『能力』が使える。

   





(レイセ視点です。)


 女性の管理者に夢を見せられた日は、決戦の日の前日だった。


 しかし、今回は夢を見たルートと展開が変わってきている。


 夢って事にして時間を無理やり巻き戻したのだろう。


 数日巻き戻っている。


 強制的な改変だ。


 認識出来ているのも、女性の管理者の好意からだろう。


 俺達『フィナリスラーウム』に肩入れした分、『リーベラティーオー』にも何らかの調整があった筈だ。


 それで展開が変化してるんだろう。


『リーベラティーオー』の様子を探る必要がある。


 再度人工衛星を打ち上げた。


 前に打ち上げたのは『リーベラティーオー』に破壊されていた。


 切りがないのでそのままだったが、こっちの準備は済んだ。


 向こうの様子が知りたい。


 撃ち落とされるのを覚悟して、もう一度打ち上げた。



 人工衛星から得られた情報は、『リーベラティーオー』の準備が済んでいないという事だ。


 人の動きから、戦争に向けた準備の気配がしない。


 まだダンジョン攻略をしている様だ。


 前回より遅れているんじゃ無いか?


 そんな気がする。


 前回、俺は人を殺さず戦争を回避する事を決意した。


 今回は戦争そのものを回避したい。


 恐らく向こうは、戦いの始まりをどう引き伸ばそうかと考え中だろう。


 奴らに恨みはない。


 共闘するしな。


 声を掛けてやるか。


 キシに連絡しよう。


 まずは『フィナリスラーウム』内で確認を取る。



 転移装置で簡単に移動出来るから、各国の代表はまだ自国にいた。


 リモートで会議を行い、了解を得た。


 キシと直接話す許可が下りた。


 俺は電話の魔道具を手にした。


 新生ロベストロニアに連絡をする。


 新生ロベストロニアに連絡して、キシを呼び出した。



 レイセ:「キシか?」


 キシ:「ああ、久しぶり」

 キシ:「数十年ぶりだっけ?」


 かなり急な連絡だった。


 迷惑がられても仕方ないが、そんな素振りは見せない。


 余裕を見せたいんだろう。


 レイセ:「現世でこの前会ったけどな」


 キシ:「あの時ね」

 キシ:「クレラメイの時か」

 キシ:「僕の体感では数十年なんだけど」


 一回やり直している事を知られたくない。


 さっさと本題に入る。


 レイセ:「本題なんだが」


 キシ:「明日の戦争の話だろ?」


 レイセ:「お前まだ準備出来て無いだろ?」


 キシ:「うるせー」

 キシ:「関係無いだろ」


 レイセ:「一か月待ってやる」

 レイセ:「準備を整えろ」


 キシ:「へー」

 キシ:「で?」

 キシ:「交換条件は?」


 レイセ:「戦争は辞めだ」

 レイセ:「代表同士の決闘で実力を試す」


 キシ:「…………」

 キシ:「なるほど」

 キシ:「確認を取るが、たぶんそれで決まる」


 レイセ:「お前に有利だろ?」


 キシ:「人死にを出したくない君の都合でしょ?」

 キシ:「恩に着せるなよ」


 レイセ:「手札を見せたくないから、助かったと思っている筈だ」

 レイセ:「図星だろ?」


 キシ:「お互い様か」

 キシ:「その条件で文句ないよ」


 レイセ:「戦うのは、俺と仮面の男、お前とプロミとリビア」


 キシ:「組み合わせは選ばせてあげるよ」

 キシ:「僕は複数人を具現化出来るからね」


 レイセ:「余裕じゃ無いか」


 キシ:「負ける気がしない」


 レイセ:「ならこっちは、シロさんも加えて良いか?」


 キシ:「どーぞ、どーぞ」


 レイセ:「じゃーな」

 レイセ:「クズ」

 レイセ:「場所は聖都クリアの闘技場」

 レイセ:「立会人に『狂奔』を呼ぶつもりだ」


 キシ:「クズは君もだろ」

 キシ:「偉そうに」

 キシ:「立会人に『狂奔』ね」

 キシ:「了解」

 キシ:「じゃーね」


 通信が切れた。



 お互いの実力を認めたら、それでこの戦いの目的は達成される。


 無駄な血を流す意味はない。


 但し、決闘は全力でやる。


 仮面の男は強い。


 奴に追いつけたか確認しておきたい。



(キシ視点です)


 一か月後に代表同士の決闘か。


 願っても無い。


 こっちに都合が良すぎる。


 そうだった。


 正義の味方は数で押し切るって手を取れないんだったな。


 そのくらいの交渉、本来は僕からしないとダメだったか。



 僕の相手はプロミとリビアか。


 プロミはベリーと似ている。


 リビアも似ているかもしれない。


 心情としてはやりたくないな。


 普通にやったら簡単に勝ててしまう。


 女性を手にかけたくはないな。


 まー、なにか奥の手があるんだろうなー。


 自信があるんだろ。


 この二人には死んどいてもらうのが理想なんだよね。


 魔物の王を殺した後、邪魔だ。


 その方がレイセを倒しやすい。


 向こうも僕を殺そうとするかもね。


 僕はこの戦いで死ぬ気がしていた。


 僕は誰に殺されるんだろうか?


 プロミか?


 リビアか?


 違うな。


 死に方は決まっている。


 引き換えに、プロミかリビアのどちらかには死んでもらう。


 たぶんそうなるだろう。


 嫌になるな。



(レイセ視点です。)


 フレド:「おい、『狂奔』には確認取れてるんだよな?」


 レイセ:「広報担当のラドセスさんは、たぶん大丈夫でしょ、って言ってたな」


 フレド:「確定してないのかよ」

 フレド:「不味く無いか?」


 レイセ;「この一か月の内に確定させる」

 レイセ:「迷宮都市に確認を取りに行く」

 レイセ:「心配するな」


 フレド:「…………」

 フレド:「俺も行って良いか?」


 レイセ:「構わないが、どうした?」


 フレド:「予定が一か月伸びた所為で暇だ」

 フレド:「『狂奔』に興味あるしな」


 ダズ:「なら俺も行きたい」

 ダズ:「俺も暇だ」


 レイセ:「力の融合は出来る様になったのか?」

 レイセ:「それによる」


 ダズ:「持続時間はお前程じゃ無いが、そこそこ行けるぞ」


 フレド:「俺もまあまあかな」

 フレド:「この後、シロさんと手合わせする」

 フレド:「お前、意見くれよ」


 レイセ:「シロさんとか、面白そうだ」


 フレド:「だろ?」

 フレド:「奥の手の訓練相手になって貰う」


 ダズ:「俺も行っていいか?」


 フレド:「俺の実力に震えろ」


 ダズ:「言うなー」


 フレド:「面白くなってきた」


 三人で訓練場に向かう。


 シロさんが準備運動している。


 シロ:「準備出来てるぞ」


 フレド:「ちょっと待ってくれ」

 フレド:「俺も準備運動をするよ」


 シロ:「さっさと頼む」


 フレド:「ヘイヘイ」

 フレド:「急かすなよ」


 フレドは十分間準備運動した。


 短い気もするが、キシに連絡する前は身体を動かしていたそうだ。


 問題無いらしい。


 武器は木刀。


 奥の手の確認だからな。


 シロさんの能力に未来視が増えた。


 コンマ数秒先の最適手を閃き続けるらしい。


 持続時間は無限だ。


 フレドの奥の手は未来予知だ。


 能力を使用している時点から、相手の三十分先までが流れで見え続けるらしい。


 神獣はサトリ。


 神獣の能力だ。


 一日中使う事は出来ない。


 体調にも影響されるらしいが、使える回数に制限がある。


 この未来予知は、七つの大罪の”嫉妬”と原理が同じだ。


 相手の癖から、動きの流れを予想する。


 無敵じゃない。


 本人は予知ではなく、見切り、と言っている。


 似たようなもんだ。


 一回の集中で詰みまで持っていけなきゃ、無駄になる。


 使用するのに極度の集中が必要だ。


 再使用までに時間が掛る。


 但し、対人戦では無類の強さだろう。


 以前俺と対立した時は、俺との実力差が大きく、予知できても勝てなかったらしい。


 予知を使っても勝ち筋が見えなかったらしい。


 最適手を維持できなければ大番狂わせは起こり難い。


 フレドは未来予知を使うと視線に出てしまう。


 その癖は矯正できないらしい。


 癖の強い奥の手だ。



 試合が始まった。


 試合は終始、フレド優勢。


 仮面の男とシロさんの勝負の行方を占う一戦だ。


 仮面の男はこっちの動きを読んで来る。


 フレドの見切りに近い。


 その見切りに、シロさんの希望の光が通用するのか、だ。


 結論を言うと、フレドはシロさんを詰みに持っていけなった。


 フレドの見切りは持続時間が短い。


 それだけじゃ無い。


 フレドの見切りに無い動きを、シロさんは取っているらしい。


 理屈に合う。


 シロさんは、シロさん自身の経験に無い動きを行っている。


 癖から流れを読めなくて当たり前だ。


 魔物の王と戦った時、シロさんには文字通り盾になって貰った。


 仮面の男と戦う時にも盾になって貰う。


 それでやっと五分五分の戦いが成立する。


 恐らくだが。


 俺と仮面の男の戦いは何とかなる、筈だ。


 プロミとリビアが心配だ。


 奥の手があるから心配ない、と。


 その一点張りだった。


 教えてくれない。


 考えても仕方が無い。


 身体を動かす。


 迷宮都市に行くぞ。



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