第12話 奥の手

 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     黒戸零維世。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

 リビア:聖国クリアの元代表。

     レイセと結婚している。

 ニーナ:ニーナ・アイマー。

     黒戸美月と融合した。

 アリア:アリア・アランテ。

     篠宮美弥子と融合した。

     ニーナとは幼馴染。

 プロミ:プロミネンスの略で通り名。

     本名はルビー・アグノス。

     黒崎鏡華。

     月と太陽の国アウグストラの女王。

     国では現人神と扱われている。

 コナル:青井友介。

     連合国クロトの戦闘顧問。

     黒戸美月が気になる。

 ファガス:黄山十夜。

      海洋国家ドバスカリの重要処。

      リアンナと結婚した。

 ベル:黒沼直樹。

    聖国クリアの守護者長の纏め役。

    ランと結婚した。

    物理と数学の教師。

 カー:聖国クリアの守護者長。

    ベル、ラン、とは兄妹同然で育った。

    琥珀聖。

    魔法タイプ。

 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    死兵国プロンシキの英雄だった。

    死兵使い。

 ネロ:氷上国家カハの王。

    『ディープフォレスト』のリーダー。

    文武に優れたカリスマ。






 (キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー視点です)

 

 強い!


 彼の初手で瞬間移動を模倣出来た時は勝てるかも、と思ったんだが……。


 ”傲慢”と”憤怒”を使っても武器の扱いで互角。


 瞬間移動で揺さぶれないとは……。


 そして、瞼を閉じて呼吸を止めている。


 彼の立ち回りで”嫉妬”の予測に使える情報が無い。


 彼は戦闘が始まった時から瞼と呼吸に気を付けていた。


 単に隙を意識してのものだけじゃ無い。


 どうやら七つの大罪を全て持っているとバレている。


 だから最初から警戒していたんだ。


 レイセ、読みが鋭い。


 レイセは”怠惰”を持っている。


 有名だ。


 ”怠惰”の性能勝負になるまでに決めに来る気じゃ無いか?


 いや、既に”怠惰”の性能で負けて、隙を見破られているのか?


 運命に選ばれた奴はこれほどか?


 このままでは負ける。


 確実だ。


 予定を変更してでも勝ちに行く!



 *    *



(レイセ視点です)



 奴は瞬間移動した。


 だが後ろに飛びやがった。


 向かって来ない。


 狙いがわからない。


 次で決まる筈だった。


 なかなかの勝負勘だ。


 何を仕掛けるつもりだ?


 今さら弓で削って来るってのはないだろ。


 何かある筈だ。



 奴は武器の具現化を解いた。


 素手だ。


 奴は喋り出した。


 キシ:「僕一人では勝てそうにないね」


 レイセ:「降参するのか?」


 キシ:「まさか、奥の手を出す」


 レイセ:「正々堂々と宣言か」

 レイセ:「何を企んでいる?」


 キシ:「ふふ」

 キシ:「管理者に問いたい」

 キシ:「三人を出しても問題無いよね?」


 バランサー:「貴方の力で実現しているなら、貴方一人という事に成る」


 青年:「はは」

 青年:「面白くなってきた」

 青年:「レイセ、最悪死なない様にしろよ」


 バランサー:「助言するなら権限を制限しますよ?」


 青年:「……、わかった」



 キシはパチンと指を鳴らした。


 瞬間、三人の女性がキシの前に立っていた。


 ベリー:「面白くなってきた」


 ジュリット:「そう?」

 ジュリット:「面倒なだけじゃない?」


 アイアリ:「た、楽しい!」


 キシ:「彼女たちは『ウォーターフォックス』のサブリーダーだよ」


 ファガスとコナルが駆け寄ろうとする。


 レイセ:「お前ら待て!」

 レイセ:「俺の負けになる」

 レイセ:「あれはきっと人間じゃ無い」


 バランサー:「勝負は今も公正です」


 ベリー:「私はベリー、プロミネンスによろしく言っといて貰える?」


 ジュリット:「私はジュリット、斥候って言ってるのにいつも盾役させられる」


 アイアリ:「私はアイアリ、自己紹介で愚痴るんだ……」


 レイセ:「この三人はキシが具現化してるんだ!」

 レイセ:「勝負はこれからだ!」


 キシ:「勝負になるかな?」


 ファガス:「ふざけんな!」

 ファガス:「生きてるようにしか見えないぞ!」


 ベル:「確かに」

 ベル:「生き物の気配がしています」


 カー:「心臓が動いてるように感じるけど……」


 アリア:「全て奴の妄想なの?」


 ニーナ:「不味いんじゃない?」


 コナル:「ああ、不味い」

 コナル:「特に、出たり消えたりが自由だ」

 コナル:「瞬間移動と変わらない」


 キシ:「ハンデをあげようか?」


 レイセ:「……、彼女たちを出してから異常な汗をかいてるぞ」


 キシ:「…………、使いたくない手なんだ」


 レイセ:「なら使うなよ」


 キシ:「勝たないといけないからね」


 レイセ:「始めよう」


 キシ:「そうだね」




 来る。


 素早い!


 ジュリットが大盾を構えて突進してくる。


 続いてベリーが盾の死角から飛び出してきた。


 ベリーは二刀流。


 連続攻撃が来る!


 右足で大盾を蹴り出そうとした時に注視が来る。


 存在感が高まり、意識がジュリットに持っていかれる。


 勘でベリーの連続攻撃を耐える。


 攻撃が重くて正確だ。


 キシとそう変わらない。


 捌き切れない。


 気が付くと、右腕にアイアリの鞭が巻き付いている。


 ジュリットは盾をグイグイ押し付けて来る。


 もの凄い力だ!


 押し返すだけで一歩も動けない!


 左だけでベリーの連続攻撃は捌けない。


 左側に腕をもう一本追加して凌ぐ。


 右足で盾を何とか押し返し、右側に腕を追加。


 追加した腕で鞭を引っ張り返す。


 キシ、キシは何処だ?


 見失った。


 瞬間移動か?


 気配を読む。


 たぶん後ろだ。


 俺は瞬間移動出来ない。


 注視が効いている。


 左腕二本で連続攻撃を捌きながら、大盾を壁にして蹴り上がり、一回転。


 キシの突きが俺のいた場所を通過する。


 俺は鞭でアイアリに引き寄せられる。


 アイアリに近寄ったおかげで鞭がほどけた。


 鞭が巻き付いていた右腕がズタズタだ。


 ジュリットの注視が効いたまま、アイアリに攻撃を仕掛ける。


 注視の所為でアイアリに意識を向ける事が出来ない。


 勘に頼るしかない。


 右腕二本を使って大剣を振り抜く。


 見えないが振り回したら当たるだろ。


 キシが盾で難なく守る。


 俺は左腕二本で大盾を構え、ベリーの連続攻撃を防ぐ。


 アイアリが大剣を横に払ってくる。


 注視がキシへ切り替わる。


 背後からジュリットが槍で突いてくる。


 くっ! 


 捌き切れない。


 蜃気楼化し、突きと払いを透過。


 ベリーを見失った。


 不味い。


 先に仕掛けるしかない!


 俺は大きく踏み込んだ。


 床に罅が入る。


 ハンマーを最大限まで重くし、右から左に払った。


 全力だ!


 キシの盾を粉砕し、キシの首を払った。


 ゴキリと手ごたえがあった。


 キシの右腕の剣は、俺の胸を突き刺していた。


 蜃気楼化は意味を成さない。


 ベリーが武器に成っている。


 レイセ:「ゴハッ……」


 キシは両手で首を直している。


 キシ:「引き分けだね」


 コナル:「レイセ!」


 皆は心配そうだ。


 レイセ:「大丈夫だ、回復した」


 手加減されていた。


 奴は七つの大罪を使っていない。


 サブリーダー達も瞬間移動を使って来なかった。


 その上、奴は『ディープフォレスト』を操ったままだ。


 遊ばれた。


 処理能力が人間離れしている。


 バランサー:「引き分けです」

 バランサー:「私がキシを監視します」

 バランサー:「貴方はレイセの監視を」


 青年:「了解」

 青年:「ああー、やっぱこうなったかー」

 青年:「宿で休んでいけ」

 青年:「案内する」


 俺達は青年の管理者に案内され宿に移動した。




 広い部屋に着いた。


 俺は備え付けのリクライニングに深く座り込んだ。


 皆はベッドやソファーに腰を下ろした。


 レイセ:「あんたは俺達の安全を保障してくれるんだな?」


 青年:「そうだ」

 青年:「俺がこっちに来たのはお前に死なれると困るからだ」

 青年:「全力で守ってやるぞ」


 レイセ:「ふぅーーー」

 レイセ:「皆、一息ついてくれ」


 ベル:「まさかあれほどとは……」


 ファガス:「勝負は引き分けだが……」


 コナル:「実力は向こうが上だ」


 ニーナ:「兄貴!」

 ニーナ:「サブリーダーの強さはどれくらいなの?」


 アリア:「そうね、分析が必要」


 レイセ:「キシとそう変わらない」

 レイセ:「奴の具現化能力は桁外れだ」


 カー:「気に成る点が一つあるね」


 ファガス:「キシがアイアリを守った事だろ?」


 カー:「そう」

 カー:「単なる具現化した像なら守る必要は無いよね?」


 青年:「ふ、良く見てるな」


 コナル:「ヒントはいらない」

 コナル:「俺達に対する侮辱だぞ」


 青年:「俺はお前らに死なれると困る」

 青年:「独り言くらい許せよな」

 青年:「ここからも俺の独り言だ」

 青年:「誓いを守れば具現化効果が高まる」

 青年:「どっかの子供がそんな事してたなー」


 カー:「僕の事みたいだ」


 青年:「どうだったかな?」


 レイセ:「礼は言わないぞ」


 青年:「悔しいのはわかるが、もっと勝つことに貪欲になれ」

 青年:「負けるぞ」

 青年:「バランサーから念話で注意されちまった」

 青年:「俺は霊体化して部屋にいる」

 青年:「休め」


 青年は消えた。


 ファガス:「奴が奥の手にしていた理由がわかった」


 コナル:「たぶんだけどな」


 ベル:「操ってる対象を使い捨てに出来ないんでしょうね」


 レイセ:「仲間を見捨てた時に何らかのペナルティーがある、かもな」


 ニーナ:「そうね」

 ニーナ:「可能性は高い、かもね」


 アリア:「思い込みに足を掬われるかも、でしょ?」


 レイセ:「ああ、あいつはそれが異常に上手い」


 カー:「あー、お風呂に入ってリラックスしたいね」


 ベル:「ふ」

 ベル:「カー、お先にどうぞ」


 カー:「ありがとう」

 カー:「みんな、いいかい?」


 カーの容姿は子供だ。


 なのに発想がなんだか年寄りだ。


 俺は風呂に入りたがる子供を見た事が無い。


 偏見かもだが。




 皆は笑みを浮かべた。


 同じ感想の様だ。



 戦争の前に奴の実力がわかった。


 事態を前向きにとらえ、この夜を過ごす。


 英気を養う。



 明日は朝一番にカハを離れる。



 明日から忙しくなる。


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