第13話 なら殺すのか?

 レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。

     連合国クロトと聖国クリアの王。

     融合者。

 キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。

    死兵国プロンシキの元英雄。

    融合者。

 アリシア:レイセの孫。

      チーム『悠久の旅人』所属。

      自分より強い男性と結婚したい。

 ジーク:聖国クリアの守護者。

     レイセに見込まれ、兵士から守護者に抜擢された。

     盾使い。

 バルド:バルド・ゼード。

     クリアを育てた爺。

     『悠久の旅人』所属。

     バランサーと知り合い。

 コナル:青井友介。

     連合国クロトの戦闘顧問。

     黒戸美月が気になる。

 ベル:黒沼直樹。

    聖国クリアの守護者長の纏め役。

    ランと結婚した。

    物理と数学の教師。

 フレド:フレドリック・ユルロア。

     通称フレド。

     連合国クロトの守護者の纏め役。

     契約者。







 俺達は予定道りに朝一番でカハを離れた。


 青年の管理者はあれから一切姿を現さなかった。

 


 連合国クロトに着いた俺達は転送装置を使い、聖都クリアに戻った。


 『フィナリスラーウム』関係国のダンジョン攻略を急がないといけない。


 仮面の男『復讐者』と『ウォーターフォックス』キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。


 二人が組んでいる事の確認は出来なかったが、キシの脅威は増した。


 ダンジョン攻略にピリピリした雰囲気が漂いだした。


 仮面の男もダンジョン攻略しているだろう。


 仮面の男の戦闘能力は抜きん出ている。


 かなり効率よく攻略を進めるだろう。


 俺達は人数が多い分攻略の必要なダンジョンの数も多い。


 攻略の効率は負けているかもしれない。



 あれから『リーベラティーオー』の情報は入って来ない。


 お互いに情報を漏らさないよう注意している。


 相手の動きを想像するしかない。


 目に見えない戦い。


 そう、これは戦いだ。


 その先に戦争が待っている。


 その時までに攻略を終えないと詰んでしまう。



 俺は単独でキシに勝てない。


 おそらく仮面の男『復讐者』にも単独では勝てない。


 仲間の協力が不可欠だ。


 ダンジョンに潜らない日は複数人対複数人で訓練を行った。




 ダンジョン攻略という戦いは三十四年に及んだ。


 


 *     *




 聖王歴三十四年、新生ロベストロニア帝国が魔道国家ネストロスへ宣戦布告を行った。


 ついに『リーベラティーオー』と『フィナリスラーウム』の戦争が始まる。


 仕掛けたのは『リーベラティーオー』からだが、『フィナリスラーウム』は関係国のダンジョン攻略をほぼ終えていた。


 ダンジョン攻略による競争はおそらく引き分けだ。


 運命は既定路線を外れない。


 二大勢力は全力同士のぶつかり合いになる。




 *     *




 宣戦布告を受けたが、開戦までまだ日数がある。



 俺はジークを集中的に鍛えていた。



 ここ数年のジークは急成長している。


 アリシアの存在が良い影響を及ぼしている。


 俺が発破をかけた事が実は重圧になっていたが、その重圧をアリシアの存在が跳ね除けた。



 人数の関係上ジークも戦争に参加してもらう。


 俺はジークの仕上げを急いでいる自覚があった。


 俺はジークを盾役に仕向けた。


 ジークには適正があった。


 集団戦に於いて盾役の存在は非常に重要だ。


 ジークは自ら望んで盾特化で訓練していた。


 俺が渡した盾は無駄にならなかった。



 ジーク:「瞬間移動に頼る癖が抜けて来たな」


 アリシア:「うるさいわね」

 アリシア:「なんで貴方が私を評価するのよ」


 ジーク:「事実だろ」

 ジーク:「話しかけちゃダメか?」


 アリシア:「……」

 アリシア:「しょうがないわね」

 アリシア:「他に言いたい事は?」


 ジーク:「夕飯をどこかで一緒に食べないか?」


 アリシア:「戦闘に関する事を聞きたかったんですけど……」


 ジーク:「返事は?」


 アリシア:「行っても良いけど……」

 アリシア:「この私相手に自信満々なのが腹立つ」


 ジーク:「ああ、だろうな」

 ジーク:「断られると思ってた」

 ジーク:「駆け引き出来なかった」


 アリシア:「……」

 アリシア:「レイセ」

 アリシア:「ジークに何か言った?」


 レイセ:「内緒だ」


 アリシア:「もう~」

 アリシア:「腹立つ!」


 レイセ:「ジークは仕上がった」

 レイセ:「お前も認めてしまっただろ?」


 アリシア:「どうかな」


 レイセ:「この戦い、死ぬなら盾役からだ」

 レイセ:「アリシア、そんな態度で後悔するなよ」


 アリシア:「…………」


 バルド:「……、準備はどうなっとるんじゃ?」


 レイセ:「食料や装備に関してはほとんど片付いた」

 レイセ:「後は気持ちの問題だ」


 バルド:「気持ちか……」

 バルド:「対人戦出来るかじゃな」


 レイセ:「向こうは兵士が少ないからまだましかもな」


 バルド:「『ウォーターフォックス』キシか」

 バルド:「まさかあいつが『リーベラティーオー』を組織するとは……」


 レイセ:「知り合いなのか!?」

 レイセ:「初めて聞いたぞ!」


 バルド:「わしは無駄に年食ってる訳じゃ無いぞ」


 レイセ:「なんの情報でも良い!」

 レイセ:「知ってる事を話してくれ!」


 バルド:「うるさい!」

 バルド:「声がデカい!」

 バルド:「ただの噂じゃ」


 レイセ:「で?」


 バルド:「そんな大した話じゃないぞ。じゃったらとっくに話しとる」

 バルド:「昔『ウォーターフォックス』は十五人位の小規模チームじゃった」

 バルド:「『ウォーターフォックス』はサブリーダーの統率力で保たれていたと噂されておった」

 バルド:「キシは伝達役扱いじゃった」


 レイセ:「あの異常な処理能力は?」


 バルド:「当時奴は目立つ存在じゃ無かったんじゃ」

 バルド:「チーム人数を増やしたくても増やせない」

 バルド:「維持できない」

 バルド:「当時どのチームもそれに悩んでいた」

 バルド:「奴も例外じゃない筈じゃ」

 バルド:「ある時、奴はチームを抜けた」

 バルド:「ふらふらと他のチームに入っては、抜けて別のチームに行った」

 バルド:「奴はそれを繰り返した」

 バルド:「奴が『ウォーターフォックス』の悪口を言いふらしとるのは有名じゃった」

 バルド:「そして奴はおそらく一度諦めた」

 バルド:「こっちの世界に来なくなった」


 レイセ:「なるほどな」

 レイセ:「キシがいない間にチームがどうにかなったんだろ?」


 バルド:「この辺りまで聞いたら予想つくか?」

 バルド:「だが最後まで聞いとけ」

 バルド:「たぶん奴はチームが崩壊したのを噂で聞かされたんじゃ」

 バルド:「その所為で未来が確定した」

 バルド:「改変しようとしても無理だったんじゃろう」

 バルド:「そして一人で『ウォーターフォックス』を名乗り出した」


 レイセ:「ベリー、ジュリット、アイアリは過去の亡霊か」

 レイセ:「『復讐者』に加担したくなる訳だ」

 レイセ:「奴の後悔が本物なら」

 レイセ:「奴は命を投げ出すつもりだろ」


 コナル:「黙って聞いてたら勝手な奴だな」


 レイセ:「奴は処理能力が優れてるだけのただの人間だ」

 レイセ:「俺も馬鹿な事してしまうから、あんまり笑えないな」


 コナル:「弱気な事言ってんじゃねー!」

 コナル:「しっかりしろよな!」


 レイセ:「これから他国とやり合うからな」

 レイセ:「変な気分になってた」

 レイセ:「悪い」


 ベル:「王がそんなだと士気にかかわります」


 レイセ:「愚痴るくらいは良いだろ?」

 レイセ:「ぶっちゃけ殺しをしたく無いんだよ!」


 フレド:「らしくねーぜ」

 フレド:「そうだな」

 フレド:「俺も嫌だ!」

 フレド:「止めるか!?」


 レイセ:「俺達が負けたら管理者が死んで世界が崩壊する」

 レイセ:「止められない」


 フレド:「なら殺すのか?」

 フレド:「お前はどうしたいんだよ?」


 レイセ:「らしい事言いやがって」

 レイセ:「なら俺のわがままに付き合ってもらうぞ」

 レイセ:「戦争で誰も殺さずに引き分けを狙いに行く」


 フレド:「調子出て来たな」

 フレド:「心配させやがるぜ」


 俺は開戦前に指示を変更した。


 殺さない。


 甘くてもだ。

 


 殺せば殺すほど慣れてしまう。


 そんな予感があった。



 殺しは悲しみを連鎖させる。


 魔物の王も出来れば殺したくない。

 


 俺達で全てを終わらせるにはきっとそれが必要だ。


 また間違える所だった。



 俺は自分に言い聞かせるように、皆を説得した。


 『マギ』『トパーズ』『静寂』、この中の何チームをキシが操ってるかわからない。


 契約解除派なら聞く耳を持たないかもしれない。


 それでも俺は諦めない。


 戦争中に説得してみる。


 やれるだけやる。


 そう決めた。




 俺は俺のわがままで仲間が死ぬことを考える。


 仲間が死ぬ。


 その可能性がある。


 俺が増やしたかも。



 みんなは俺が守ってやらなきゃ判断できない訳じゃ無い。


 そう思おう。


 それも信頼だ。

 


 俺は俺なりに考えているつもりだった。


 でも違和感はあった。


 王だからとそれに甘えていたのかもしれない。


 自国の為に他を犠牲にする考えが正しいと思い込んでいた。


 間違っていた。


 気付くのがギリギリだった。



 俺は仲間に助けられた。


 俺には仲間がいる。


 絶対に忘れてはいけない。


 絶対だ。


 


 三日後、ロベストロニア帝国からのネストロス防衛戦が始まった。


 

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