1話 行くしかない


(レイセ視点です。)


 五百階層を乗り越えた一か月後。


 それが魔物の王の攻略の日になった。


 一か月後を攻略日とした。


 俺達はせっせと準備を整えた。


 俺達は急いでいた。


 準備は瞬く間に終わった。


 後は気持ちの問題だ。


 無事に帰って来られるとは、到底思えない。


 皆は、自分たちが死んだ場合を想定して準備をした。


 魔物の王への攻略が失敗に終わった場合、どうなるのか?


 普通に考えると、世界は回り続ける。


 管理者になる人材が現れないだけだ。


 そうなった場合も、戦闘に参加しない人物達は生き続ける。


 皆はそう思っている。




 実際はそうじゃ無い。


 俺は、皆の行動に反してその後の準備をしなかった。


 わかっていたが準備しなかった。


 俺の替わりはいない。


 引き継げない。


 勝つしかない。


 それ以外は無い。


 俺が負けた場合、世界の可能性は閉ざされる。


 この戦いで俺達が負けた場合、世界はリセットされる。


 魔物の王が各都市を攻めて滅ぼして周るだろう。


 町の壁から出られなかった時代に逆戻りだ。


 システムは選定をやり直す。


 勝つ以外に選択肢が無い。


 出発の日を決めた時から、俺は酒を飲み続けた。


 タバコもだ。


 辞められない。


 飲まないとやっていられなかった。


 どれだけ飲んでも酔わない。


 神獣の力は関係ない。


 食欲も失せていた。


 吐き気がする。


 毎日だ。


 ナーバスになっていく俺を見て、ルプリレは笑っていた。


 貴方も神経質に成る事が有るのね、だと。


 有るわ。


 俺達が負けたら世界が滅ぶんだぞ。


 ルプリレも死ぬ事になる。


 ふー。


 ルプリレに、自信あるのかよ?


 って聞いてみた。


 無いらしい。


 無いのかよ。


 バカ臭い。


 なるようになるんじゃない?


 だと。


 ならねーよ。


 アホほど頑張っても届きそうに無いんだぞ。


 なんでこんなことになったんだか。


 いつの間にか世界を背負っている。


 支え切れるかよ。


 ふざけんなよ。


 でも、愚痴言ってもどうにもならないんだよな。


 千パーセント出すしかない。


 千五百パーセントだっけ?


 そこまで行くとどっちも同じに感じるな。


 何日ぐらいかかるんだろ?


 想像出来ない。


 一瞬だけ頑張る、じゃ、済まねーのよ。


 なんか、すげー長い時間、限界の数十倍の力を出し続けないといけないのよ。


 出来るか?


 城の中に入るまでは見ているだけらしいし。


 はー。


 耐えられるか、わかんねーな。




 瞬く間に一か月が過ぎた。


 明日の夜、出発する。


 南半球の季節は冬だ。


 夜は寒い。


 凍える様な寒さだ。


 とにかく寒い。


 俺の気持ちと一緒だわ。


 震える。




 俺は、柄にもなく緊張していた。


 こういう日は皆が訪ねて来て、緊張をほぐすものだろ?


 誰も訪ねて来なかった。


 ルプリレと二人で過ごした。


 朝起きて、酒を飲んだ。


 朝からだ。


 朝から飲んだ。


 ルプリレは隣にいて、俺の横で笑っていた。


 俺は笑えなかった。


 俺は酒を飲み続けた。


 べろべろに酔っぱらった。


 レムリアスが解毒しやがらない。


 久しぶりにべろべろに酔った。


 やっぱり、ルプリレは横で笑っていた。


 なんで余裕があるんだよ。


 ルプリレに当たりたくなった。


 ルプリレの顔を見る。


 普段と変わらない。


 いつも通りだ。


 自信、あるのか?


 俺はルプリレを抱き寄せて、寝てしまった。




 起きたら夕方になっていた。


 ルプリレがいない。


 家の中には、普段より気配が多かった。


 ファガス:「レイセ、そろそろ準備しろよ」


 レイセ:「行きたく無いわー」


 フレド:「だな」


 ダズ:「俺だって嫌だぞ」


 コナル:「で?」


 レイセ:「行くけどさー」


 ベル:「さっさと着替えてください」


 ボーデン:「ルプリレに呼び出されて来てみれば」


 バルド:「まだそんな事言っとるのか?」


 レイセ:「わかったよ」

 レイセ:「着替える」

 レイセ:「訓練場で待っていてくれ」


 シロ:「先に行ってるぞ」


 皆は訓練場に移動した。




 レイセ:「ルプリレ!」


 ルプリレ:「いるから」

 ルプリレ:「なに?」


 レイセ:「どうなると思う?」


 ルプリレ:「なるようになるんじゃない?」


 レイセ:「おまえ、そればっかり」


 ルプリレ:「私に当たる気ですか?」


 レイセ:「なにかヤル気が出る事言ってくれ」


 ルプリレ:「貴方が負けると、私は死ぬでしょうね」


 レイセ:「はー、緊張する」


 ルプリレ:「ヤル気出なかった?」


 レイセ:「緊張感が増しただけだわ」


 ルプリレ:「わがままなのよ」

 ルプリレ:「貴方の、力の源って、何?」


 レイセ:「なんだろ?」


 ルプリレ:「最後まで意地張りなさいよねー」

 ルプリレ:「なに?」


 レイセ:「意地?」


 ルプリレ:「そう、意地」


 レイセ:「どういう意味?」


 ルプリレ:「カッコつけてみて」


 レイセ:「えー」


 ルプリレ:「えー、じゃない」

 ルプリレ:「私を幸せにする気あるの?」


 レイセ:「ある」


 ルプリレ:「じゃー、カッコつけて見て」


 レイセ:「お前を幸せにする」


 ルプリレ:「絶対よ?」


 レイセ:「ああ」


 ルプリレ:「あやしい」


 レイセ:「頑張る」


 ルプリレ:「結果、残してくださいね」


 レイセ:「ああああああ、わかっている」


 ルプリレ:「ヤル気、でた?」


 レイセ:「でた、かも」


 ルプリレ:「ほんとかよ」


 レイセ:「出たって」

 レイセ:「やるしかない」


 ルプリレに相談した俺が馬鹿だった。


 やるしかないって、わかっただけだわ。


 そうだな。


 やるしかない。


 ここまで長かったんだ。


 ここでへこたれてどうする。


 どうあろうと、最後までやり遂げる。


 気力を振り絞る。


 俺は限界以上を出すのに慣れている。


 だよな?


 慣れているよな?


 どう考えても慣れているだろ。


 今回は更に、もっと、を出すんだろ?


 いつもの事か。


 気にする必要無いか。


 いつもの事だから。


 やってやるわ。


 ルプリレにカッコつけろって言われたし。


 良いとこ見せてやるか。




 俺とルプリレは訓練場に顔を出した。


 時間通り。


 全員揃っていた。


 俺達が最後だ。


 今更特に言う事は無い。


 皆は黙って、準備する。


 全員が、増強剤を打っていた。


 知覚系統の性能が向上する薬だ。


 副作用がある。


 効力は七十二時間ほど。


 効力が切れると、倦怠感が出る。


 効力が切れた時にまた打つ事になる。


 連続使用すると、倦怠感がどんどん膨れ上がる。


 皆の様子に躊躇いは無い。


 俺も一本打つ。


 無理のし所だ。


 全員の覚悟が決まっている。


 俺達は移動を開始する。




 迷宮都市から走って移動する。


 計画の始めの頃は神獣に乗って移動するつもりだった。


 それはもう無理だ。


 敵が強すぎる。


 完全融合した状態で移動しないといけない。


 神獣単体で行動させるには、敵が強すぎて無理だ。


 はじめから全力を出す。




 四時間程全力で走った頃、敵が見えてきた。


 見渡す限りの敵の群れ。


 まだ魔物の王の城は見えない。


 敵が見えたと感じた頃に、何かが迫っている気配がした。


 レイセ:「ジーク!」


 出所のわからないレーザーの様な光の攻撃を、ジークが防ぐ。


 敵が先に撃ってきやがった。


 ジークは結界を数十出して、アリシアで出来た盾で防いだ。


 予想通り。


 凄まじい威力だ。


 爆音で他は何も聞こえない。


 レーザーの様な光は、数十秒間続いた。


 遠くに見えていた敵はすぐそこまで迫って来ていた。


 敵の先頭が瞬間移動して来る。


 赤黒いスケルトンが数十体目の前に出現した。


 武装したスケルトンをハンマーで粉砕する。


 ダズ:「レイセとアルコルに敵を近づけるな!」


 アルコルはキシのカタナの能力を使って、死兵を創り出した。


 そのままアルコルは敵に向かって斬撃を飛ばす。


 狙いは定かじゃない。


 単なる牽制だ。


 フレド:「アルコル!」


 アルコル:「わかっている」

 アルコル:「時間稼ぎだ」

 アルコル:「温存するさ」


 レイセ:「陣形を!」


 リアンナ:「速く!」


 ぺセシュ:「やるぞ!」


 ニーナが歌い出す。


 スケルトンの頭が吹き飛んだ。




 戦いは始まった。







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