4話 心眼


(レイセ視点です。)


 聖国クリアとメロイリスの二グループが俺達本陣から離れた。


 離れたがまだ目の届く範囲だ。


 ダズが大声を出しているのを感じる。


 何を話しているかまでは聞こえない。


 内容は解る。


 説得するんだろ?


 わかっていた。


 だからこの二グループを担当にした。


 この二グループは、説得はするが手を抜かない。


 全力で戦うだろう。


 複雑な立ち位置。


 辛い役目だがやって貰う。


 カインとシェルミは任せる。






 うっすらだが魔物の王の城が見えてきた。


 うっすらだ。


 城がバカでかいから見えるだけだ。


 まだまだ距離がある。


 しかし、見えてきた。


 俺達は進んでいる。


 少しずつだが。


 前に進んでいる。


 進んでいる実感を得た。


 俺達の士気は揚がる。


 空元気だが、無いよりマシだ。




 俺達は増強剤を追加している。


 もう三本目だ。


 クレタ、ファガス、フィビニが踏ん張っている。


 この三人の負担が大きいが替わりはいない。


 この三人が抜かれれば、俺とアルコルが替わる。


 ジャドも疲弊している。


 ジークとアリシアもだ。


 ジャドは一旦本陣中央に戻った。


 ルプリレはジャドの治療をしている。


 リアンナはダズの影にいる。


 リアンナは影から影に瞬間移動出来る。


 だがリアンナに頼れない。


 魔物の王の配下は強い。


 目を話せないだろ。


 リアンナは来ない。


 ニーナとアリアも限界だ。


 声が枯れて来ては、ルプリレに回復を受けている。


 ルプリレも忙しい。


 俺とアルコルは我慢の限界だ。


 はー。


 落ち着け。


 まだ始まったばかりだ。


 解っていた事だ。


 仕方ない。


 このまま行く。




(コナル視点です。)


 依然としてユノルドが注視を使っている。


 強力だ。


 視線がユノルドに固定されて離れない。


 ギルバドとキトレルに視線を合わせられない。


 ボーデンは注視に影響を受けていない。


 ぺセシュもだ。


 どうにか注視を外せないか?


 なぜ俺やフレドの注視を外さない?


 ボーデン:「理由は説明出来ません」


 聞く前に答えやがった。


 心が読めているのか?


 俺が考えを巡らせている間も、レイが周りの魔物を矢で射って排除して回っている。


 フーーーー。


 やるしか無いのか?


 キトレルがぺセシュに槍を連続で投げた。


 空間を飛び越え、ぺセシュの真後ろ、右側、左側に出た。


 フレドとアストが防御。


 ぺセシュも自分で防御する。


 ボーデンはカウンターで魔銃を撃つ。


 キトレルの頭が吹き飛ぶ。


 キトレルは防御しない。


 こいつら三人は魔銃を防御しない。


 効いていない。


 だから防御しない。


 一瞬攻撃の手が止まるだけだ。


 その一瞬で、ユノルドに近づく。


 俺、グリスタ、シド、シャレット、ラトスはユノルドの間合いに踏み込んだ。


 同時にギルバドの間合い四メートルに踏み込んだ事になる。


 ここからだ。


 万象のクリムゲル、絶空のエルハンドラ、天城のサルバトスを始めて倒した時、レイセはどう動いた?


 それを思い出す。


 レイセは万象と絶空を捌いて、そのまま倒した。


 同じ事をやってやる。


 レイセに出来るんだ。


 俺にも出来る。


 その筈だ。


 根源の核を握りしめる。


 二千パーセント出してやる。


 ギルバドは右に構えた。


 射程二十メートルの払いが来る。


 こいつは俺が何とかしてやる。


 コナル:「ギルバドは俺が抑える!」

 コナル:「ユノルドに攻撃を続けろ!」


 キトレルも投げる体勢に入る。


 ユノルドはグリスタの剣を上に、シドの斧を左に、シャレットのハンマーを上に、ラトスの薙刀を下に逸らす。


 ユノルドのガントレットはボロボロだ。


 俺は、ギルバドが右から左に払った攻撃を剣で上に逸らす。


 そのままの流れで、キトレルに斬りかかる。


 キトレルは槍を投げるのをキャンセルして防御。


 俺の剣を上に弾く。


 俺は二倍速で動いた。


 だがまだだ。


 まだ足りない。


 レイセに届かない。


 コナル:「ぺセシュ!」

 コナル:「回復頼むぞ!」


 ぺセシュ:「わかってんだよ!」

 ぺセシュ:「さっさとやれ!」

 ぺセシュ:「バカ!!」


 バカは余計だ。


 ギルバドは右に構える。


 俺も右に構える。


 グリスタは右から左に払った。


 ユノルドはガントレットで下から上に払う。


 シドは斧で上から下に振り下ろした。


 ユノルドはガントレットで防御。


 シドはユノルドの右腕を切り落とした。


 シャレットがハンマーを左から右に振るう。


 ユノルドは左腕で防御。


 ユノルドの左腕が折れた。


 ラトスが薙刀で突く。


 ユノルドの喉を貫いた。


 ギルバドが右から左に振るう。


 俺はギルバドの剣を上に払いあげ、ギルバドに剣撃を浴びせた。


 キトレルが連続で槍を投げた。


 槍は空間を飛び越え、ぺセシュへ。


 フレドがリフレクトを使い、槍を防御。


 反射した槍を更に反射させ、そのまま数倍の速さで送り返す。


 キトレルを槍が貫く。


 ギルバドに斬撃を浴びせたと同時にレイの矢が届く。


 レイの矢がギルバドに連続で突き刺さる。


 ボーデンとぺセシュが魔銃で発砲。


 キトレルの頭が吹き飛ぶ。


 ギルバドは右に構えた。


 間髪入れずに左に薙ぎ払い。


 俺達は防御出来ずに切られた。


 前衛が全員致命傷だ。


 ぺセシュが範囲回復を使う。


 はー。


 やっぱこうなるか。


 俺達前衛はなんとかバックステップ。


 ギルバド、キトレル、ユノルドは回復した。


 くああー。


 しぶとい。


 耐久力があり過ぎるだろ。


 倒せるのか?


 どうするんだよ。


 ギルバド:「は、良いな、いい気分だ」


 コナル:「さっきまで無言だったのに突然話し出すなよ!」


 ギルバド:「全力でやってやる!」


 キトレルとユノルドは剣になってギルバトが装備する。


 武器化しやがった。


 二刀流。


 恐らく、切られたら一撃死する。


 回復は意味を成さない。


 ギルバド:「回復役の女を殺せばいい、そうだな?」


 フレド:「今のお前に切られたら一撃で死ぬだろ」

 フレド:「ぺセシュを狙う意味はない」


 コナル:「ボーデン!」


 ボーデン:「解りました」


 ボーデンが武器化した。


 剣だ。


 俺も二刀流で戦う。


 コナル:「みんな、俺がやる」

 コナル:「周りの魔物を下がらせろ」


 ギルバドは指を鳴らした。


 フレド:「見切りが切れた」

 フレド:「あんたが頼りだ」


 コナル:「心配するなよ」

 コナル:「やれるさ」


 魔物共が俺達を避けて空間を作る。




 ギルバドは右手の剣を右に、左手の剣を上に構えた。


 俺は両腕を下げた。


 距離は十メートル。


 ギルバドが右足で蹴って前へ。


 俺は動かなかった。


 ギルバドが右手を左へ。


 左手を下へ。


 俺は左手の剣で奴の右を抑え、右の剣で奴の振り下ろしを防ぐ。


 完璧に防いだ。


 押し合いになる。


 武器の強度は同等だ。


 あとは腕力の勝負。


 根源から力をありったけ引き出す。


 ギリギリ。


 ギリギリ。


 ギルバドが地面をズズズと滑る。


 ギルバドを押し出す。


 同じ態勢のまま、俺は更に二歩進んだ。


 ギルバドが二歩進む。


 俺がまた二歩押し返す。


 ギリギリ。


 俺は更に二歩進む。


 ギルバドは押し返せない。


 俺は力を振り絞った。


 更に力を込める。


 五千パーセントは出した。


 瞬間的に力を増大させた。


 目の前が暗くなる。


 俺は無我夢中で瞬発力を出した。


 ギルバドの両腕を跳ね上げる。


 ギルバドの全面がガラ空きになる。


 俺にはもう見えていない。


 全力で両手を交差させる。


 連続でだ。


 手の感覚が無い。


 勘で切った。


 暴食の最適動作に頼る。


 連続攻撃だ。


 ブン、ブン、と振り回す。


 振る。


 振る。


 感覚が無い。


 わからない。


 たぶん剣を振っている。


 振る、振る。


 振る、振る。


 どうだ?


 ギルバドは?


 俺は更に振る。


 更に力を振り絞る。


 振る。


 振る。


 不意に腕を掴まれた。


 フレド:「もう済んだぜ」


 コナル:「ん?」

 コナル:「何か言ったか?」

 コナル:「良く聞こえない」


 フレド:「あんたはギルバドの魔石を粉々にした」

 フレド:「キトレルとユノルドも砕けた」


 コナル:「?」

 コナル:「砕けた?」


 フレド:「そうだ」


 コナル:「勝ったのか?」


 フレド:「そうだ」


 コナル:「良く聞こえない」

 コナル:「目が見えない」

 コナル:「ぺセシュ、回復を」


 ぺセシュ:「さっきからやってるんだよ!」

 ぺセシュ:「コナル!」

 ぺセシュ:「無理し過ぎだ!」

 ぺセシュ:「気をしっかり持て!」

 ぺセシュ:「戻って来い!」


 おお!


 今度は聞こえた!


 戻って来いって、なんだよ!


 何処にも行かねーわ!


 コナル:「ぺセシュ!」

 コナル:「聞こえた!」

 コナル:「お前うるせーわ!」


 ぺセシュ:「うるせーのはお前だ、バカ!!」


 バカは余計だ。


 笑わすなよ。


 いい気分だ。


 俺は気を失った。


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