5話 鋼の心


(ファガス視点です。)


 城が見えている。


 見えてから大分経つ。


 大きさが変わらない。


 見えた時は、近づいている実感があったんだが。


 見える景色に変化を感じなくなった。


 城は遠くに見えたままだ。


 また進んでいる実感が無くなった。




『マギ』は銃での攻撃を、ネストロスと交代した。


 魔銃の攻撃に使う集中力に限界が来た。


『マギ』は休んでいる。


 俺、クレタ、フィビニで盾役を熟しているが、クレタとフィビニにも限界が来ている。


 俺も、正直疲れてきた。


 俺達三人の替わりはいない。


 踏ん張るしか無い。


 俺達三人が抜かれれば、レイセとアルコルに頼る事になる。


 踏ん張っているのは俺達三人だけじゃない。


 攻撃役に徹している、『創聖』、『マギ』、ドバスカリ、クレイモア、ネストロス、アウグストラの全員もそうだ。


 全員に限界が来ていた。


 ジャド、ジーク、アリシア、ルプリレ、ニーナ、アリアもかなり動いている。


 待機している、レイセ、アルコル、シロさん、『トウェルブ』、『トパーズ』の我慢にも限界があるだろ。


 黙って見ているだけってのも辛い筈だ。




 俺は、サイクロプスのデカい棍棒を盾で受け止める。


『創聖』のロミールはドミーを武器にしている。


 ロミールはサイクロプスに攻撃する。


 サイクロプスの胸に光る突き。


 長く伸びた光が、サイクロプスの出した結界と棍棒を貫き、一撃死させる。


 サイクロプスが倒れて、出来た空間に、黒い大きな狼が入ろうとする。


 そこにネストロスのリトアニとサッサラが魔銃で攻撃する。


 黒い大きな狼の頭を吹き飛ばした。


 黒い狼の頭は再生しようとする。


 そこをドバスカリのダダンが槍で留めをさす。


 ダダンの武器はスーサルだ。


 その間、俺はミノタウロスの攻撃を盾で防いでいた。


 この一連の動作で二体。


 それだけしか倒せない。


 敵は強いが、数が多過ぎる。


 ジャドは相変わらず、単独で群れの中に突入し、回復役を仕留めて回っている。


 ジャドに敵の注視が効いている。


 勘で動いて敵を倒すのは容易じゃない。


 ニーナの声で、ハーピーの歌の効果をキャンセルし、アリアの声で敵のハーピーの頭を吹き飛ばす。


 クレイモアも魔銃を使い、ガーゴイルとワイバーンの攻撃に牽制している。


 俺達全員は敵の前衛から注視を受けている。


 狙いたい敵に照準を合わせられない。


 それはクレイモアもネストロスも同じだ。


 どう考えても、疲れるだろ?


 だがやるしかない。


 そうだ、俺の気合を見せるんだったな。


 俺はこっからだ。





 夕日が沈みかけていた。


 何回目の夕日か。


 もうわからない。


 ガーゴイルとワイバーンの間に、男が浮かんでいた。


 気付くとそこに男が浮かんでいた。


 結界を足場にしていない。


 遠くで宙に浮いている。


 レイセ:「ケルス!」


 ケルス:「貴方達に朗報です」

 ケルス:「我が同胞が倒されました」

 ケルス:「早々に私の出番が来てしまいました」

 ケルス:「この試練を超えて見せてください」

 ケルス:「期待しています」


 陰気な男がぼそぼそと声を出す。


 小さい、嫌な声だ。


 だが不思議と遠くまで聞こえる。


 執事服を着た男は、手を上にあげた。


 男の掌の上に火球が出来る。


 巨大な火球だ。


 男が下げている左手の掌にも火球が出来る。


 青い、暗い炎。


 男は右手を振り下ろした。


 飛んでくる。


 速さはそれほどでもない。


 だが魔物の数が多く、火球の大きさからして躱す事は不可能だ。


 男は遠い。


 火球の飛ぶ斜線上にいた魔物は巻き込まれ、燃え尽きる。


 凄まじい威力だ。


 シェルミとカインは、レーザーを出すときに魔物を移動させていた。


 こいつは違う。


 仲間を何とも思っていない。


 非情さと比例して、威力が高そうだ。


 今、ジークとアリシアは休んでいる。


 二人を動かす訳にはいかない。


 レイセ:「ファガス!!」


 ファガス:「ああ!」

 ファガス:「やってやる!」

 ファガス:「レイセ、お前の信頼にこたえてやる!」

 ファガス:「お前、ちゃんと見とけよ!」


 レイセ:「は、俺が出ても良いんだぞ」


 ファガス:「うるせい」

 ファガス:「お前の出番は残しといてやる」


 レイセ:「ホントに頼むぞー」


 俺は結界を最大数展開。


 俺は同時に灰色の空間を展開。


 最大出力だ。


 全力を出す。


 俺の盾はドレファで出来ている。


 耐えてくれよ。


 頼むぞ。


 ケルス担当の『トウェルブ』と『トパーズ』が結界を足場にして、空中を駆けようとする。


 ケルスを追いかける気だ。


 ファガス:「ダメだ、俺の空間から出るな!」

 ファガス:「嫌な予感がする」

 ファガス:「そこで待機だ!!」


『トウェルブ』と『トパーズ』は一旦追跡を止めて空中で待機した。


 まだ俺の空間から出ていない。


 ケルスの火球が俺の結界に触れた。


 結界が砕ける。


 砕けた瞬間、ガラスを金属で引っ掻く様な、不快な音がする。


 ギュイーーーー!!!!


 音が周囲に響き渡る。


 音にはイメージが乗っている。


 死を連想させるイメージ。


 精神干渉系の魔法だ。


 恐らく、色欲しか耐える事が出来ない。


 火球が結界を粉砕する毎に、死のイメージが強まる。


 同時に火球の威力も少し落ちている。


 結界を粉砕する毎に音が大きく聞こえる。


 死のイメージはどんどん強まる。


 ニーナとアリアも蹲っている。


 歌で音を相殺出来ない。


 音を聞いた魔物も苦しんでいる。


 ケルスは、左手に作った火球を投げた。


 同時に右に火球を用意している。


 連続で投げる気だ。


 俺は自分が展開した空間を強め、仲間を守る。


 俺は正気を保っている。


 空間で心を共有させる。


 空間の威力を更に強める。


 一発目の火球が俺の結界を全て粉砕した。


 盾で防ぐ。


 身体は燃えなかった。


 精神にダメージが直接届く。


 俺の心は燃やされている。


 俺が屈すると、そのイメージが、共有している空間に伝わる。


 俺達は精神で出来ている。


 俺が燃えた事を許容すると、仲間も燃え尽きる。


 絶対に燃え尽きないイメージを持たなくてはダメだ。


 一発目の火球が消滅した。


 耐えた。


 俺は急いで結界を最大数展開。


 二発目に備える。


 二発目が来た。


 死のイメージが響き渡る。


 意識が朦朧としてきた。


 昔を思い出しそうになる。


 今だ。


 今に気持ちを留めるのだ。




 ケルスは火球を連続で投げた。


 三発目。


 四発目。


 周囲の魔物が燃え出す。


 五発目。


 六発目。


 かなり広範囲の魔物が燃え尽きた。


 七発目。


 俺は全て耐えた。


 ケルスの額に汗が滴る。


 連続攻撃に合間が出来る。


 ケルスは更に投げた。


 八発目。


 九発目。


 十発目。


 俺とケルスの間にいた魔物が全て燃え尽きた。


 広い空間が出来ていた。


 ケルスは攻撃を辞めて後退していく。


 ケルス:「は、は、は、は、は、は!」


 ケルスは笑いながら後退する。





 フーーーー。


 耐えきった。


 ファガス:「レイセ、見てたか?」


 レイセ:「ああ、お前が耐え切れ無かったら、全員死んでいたな」

 レイセ:「助かった」

 レイセ:「お前、心が何で出来ているんだ?」

 レイセ:「ちょっと信じられないぞ」


 ファガス:「そうだろう、そうだろう」


 レイセ:「お前じゃ無きゃダメだった」

 レイセ:「ジークじゃ無理だ」


 ファガス:「そうだろう、そうだろう」

 ファガス:「真面目な話、コナル達がギルバド達三人を倒したんだろ?」


 アルコル:「その様だ」


 ファガス:「負けていられ無いだろ?」


 レイセ:「そうだな」


 ルプリレ:「ファガス、体調は?」


 ファガス:「疲れてるよ」

 ファガス:「皆もだろ?」


 ルプリレ:「そうね」


 レイセ:「俺はまだなんとも無い」


 ファガス:「お前はじっとしとけ」


 レイセ:「お前、アレに耐えてなんでピンピンしているんだ?」

 レイセ:「マジで信じられない」


 バカが。


 空元気だ。


 俺にはお前の存在の方が信じられないわ。


 気を失いそうだ。


 お前の友達やるのは楽じゃない。


 こいつ、考えた事無いんだろうなー。


 期待に応えられて良かったよ。


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