9話 気配

 レイセ:主人公。黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

    四足移動。

    背中に羽根がある。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 リビア:元守護者。

     レイセと北の大地に旅立った。

     聖国クリアを創設した。

 ボーデン・バレット:傭兵団ラーウム所属。

           ソロのBランク冒険者だった。

           閑話に登場。



 その後、俺達はお互いの自己紹介と自分達の状況について細かく話した。



 向こうでの当面の活動予定が決まった。


 鏡華は十夜と友介のフォロー。


 直樹は今の仕事を続ける。


 俺はリビアと北で王になる。



 直樹は悔しがっていたが、ダズがリビアの代わりをし、ダズの代わりをベルが務めているらしい。


 直樹は離れられない。



 十夜の向こうの名前は、ファガス。


 友介の向こうの名前は、コナル。



 次の『ロストエンド』開放日には五人で参加する。


 その前に生徒大会があるが、それは何とか成るだろう。


 俺達はこれからまた『ロストエンド』に行く。


 俺と鏡華、直樹が、十夜と友介の時代まで追い付かないといけない。


 この日、俺は『ロストエンド』に手を掛けた。





 ノスヘルの『ロストエンド』に着くと、リビアが駆け寄ってきた。


 リビアが待っていてくれた。


 契約者なら、『ロストエンド』に入れる。



 リビアと二人で話をする。


 リビアの分もコーヒーを頼んだ。


 リビアは匂いを嗅いで、目を輝かせている。


「これは貴方が好きな飲み物ですか?」


「そうだな」


「良い匂いです」


「慣れていないと、そのままは苦いぞ」

「砂糖とミルクを入れないと」


 彼女は何も入れずに一口飲んだ。


「本当ですね」


 そう言って笑った。


 柔らかい笑顔。




 笑顔の彼女を見て、俺の心は痛んだ。


 きっと俺がこの笑顔を曇らせる。


 俺にとって彼女は、姉であり、仕事仲間だった。


 彼女が自分の物に成る想像はしていなかった。


 彼女は俺の理想そのものだ。


 彼女はかわいい。


 愛おしい。


 少しやりすぎる所も、かわいいと思える。


 傍にいたいと言う彼女からは抗えない

 今彼女を引き寄せて、抱きしめても彼女が拒む事は無いだろう。


 何をしても彼女は拒まない。


 俺はそこまで考えて、考えるのを止めた。





 俺は一時的に、傭兵に成る事にした。


 自分で仲間を見つけ、組織を作り、雇われ、敵を倒す。


 雇われて、敵を倒すのを続ける内に人間同士の争いは無くなるだろう。


 俺が終わらせる。



 組織は十五人程になった。


 契約者はまだ俺達二人を含めて三人だが、増えるのは時間の問題だろう。


 契約者を増やす事に、罪の意識は薄い。


 俺の経験はまだ少ないが、全て話して決断させた。


 ボーデン・バレット。


 彼は逸材だ。


 彼の神獣は小さいリスの様な獣だ。


 どんぐりの代わりにいつも小さい本を持っている。


 そしてよくしゃべる。


 非常に高い分析力で行動を読んで来る。


 ボーデンは一見眼鏡を掛けた繊細そうな紳士だ。


 シリアスな彼の肩にリスが乗っているのは、すこし可笑しい。




 ちなみに、リビアの神獣は麒麟だ。


 王を選定する獣らしい。


 強大な力を持っているが、生物の殺傷を嫌う。


 リビアとは仲があまり良くないようだ。






 ここを出たら、傭兵団として初めての仕事を行う。


「ボーデンをどう思う?」


「人格的には信用できます」

「戦闘力は、まだ低いですね」

「彼は伸びて来そうです」

「ついて来られるでしょう」


「俺もそう思う」

「当面はノスヘルに雇われる、そこについて思う所は?」


「私達はまだ数合わせです」

「ノスヘルの上層部には何とも思われてないでしょう」

「どうやって勢力を拡大するのですか?」


「俺がなんとかする」

「というか、そんなに複雑な事は出来ない」

「単純に勝ち続けるだけだ」

「お前には、俺が戦っている所をまだ見せていない」

「次で解る」


「楽しみにしておきます」


 今回は、ノスヘルの隣の大都市ルピアスに攻撃を加える。


 ただの牽制。


 ノスヘル上層部はそう思っている。






 傭兵として初めての戦闘は、あっさりと始まろうとしていた。



 俺達は最前線に配置された。


 まだ戦力が読めないのだろう。


 使い捨ての位置だ。


 これは読み通り。




 ルピアスの壁の前は大きく開けている。


 そこで奴らは待ち構えていた。


 扇状に兵を配置している。



 ただの兵はそれほど強くない。


 ダンジョン五十階層まで攻略している奴は少ない。


 俺達十五人は全員五十階層を攻略している。


 中央から迷わず突っ込んだ。



 中央は、盾を持った兵が突破されない様に防御していた。


 俺は両手から部分融合の触手を長く伸ばし、左右に掻き分けた。


 兵士と兵士の間に隙間ができる。


 第一陣の防御を突き破って中に雪崩の様に入っていく。



 二陣に当たる。


 俺達十五人が先行している。


 他は付いて来られていない。


 予想外の展開なのだろう。


 俺は牽制だけで終わらせる気が無い。


 二陣の前列から後列までを光る槍を投げて突き破った。


 二陣を突き抜けた槍は都市の壁に突き刺さり、結界を粉砕した。



 威力のある攻撃が簡単に繰り出され、戦闘の空気は一変する。


 ただの小競り合いで済まないと、敵が認識しだした。




 敵の三陣目から騎兵が飛び出してきた。



 一番強い奴が出てきた。


 奴は馬を降りた。



 待ってやる。




「俺はラトス・ミュラ」

「ルピアスの将を務めている」

「お前の名は何と言う?」


「俺はゼアス」

「傭兵団、ラーウムを率いている」

「一騎打ちを申し込む、受けるか?」


「やってやる」


「お前が負けたら、降伏しろ」

「権限は有るか?」


「いらん心配だな」

「若造」


「そうか、お前を気に入った」

「仲間に成れ」


「笑わせるな」

「行くぞっ」


 奴の武器は薙刀。


 俺は槍を持っていた。


 間合いは同じ。


 奴はそう思っている。


 奴は俺から見て左から右に薙いだ。


 俺は、奴の振り終わりに合わせて前に突っ込む。


 奴は下がって対応しようとした。


 だが、間合いを読み違えている。


 俺は右手の剣で振り下ろした。


「なっ!?」


 奴はとっさに柄で受けた。


 柄で支え切れていない。


 部分融合の武器は重い。


 見た目以上の威力がある。


 奴は契約者だが、部分融合を使えていない。


 奴は俺の右を両手で支える事しか出来ない。


 俺は左手の剣を奴の首に当てた。


「降伏しろ」


「なんだと?」

「俺は負けたのか?」


「お前は見込みがある、雇ってやってもいいぞ」


「もう一度名前を教えてくれ」


「ゼアスだ」


「わかったゼアス」

「降伏する」

「お前たち!」

「わかったか?」

「降伏だ!!」


 俺は剣を消した。


「俺はお前の下につく」


「お前はついているな」

「俺はまだ始めたばかりだ」

「お前の為に宣言しといてやる」

「俺は傭兵から王になる」

「納得したか?」


「…………」


 ラトスの部下が、馬に乗って伝令に来た。


 何やら、耳打ちをしている。



 ラトスはしきりに頷ていた。


「北の十八都市には、一応の均衡があった」

「俺は均衡が破られるのを待っていた」

「今日均衡は崩れ去った」

「お前は強い」

「手加減し、人死にを出さなかった」

「十八都市の未来を、お前になら預けられる、何故かそんな気がする」

「ゼアス」

「お前は既に時代を動かした」


「大げさな奴だな」


 彼は笑っていた。


 負けたにしては、清々しい笑顔だった。


 俺も笑顔になった。





 ノスヘルはルピアスを併合した。



 ノスヘルの周辺、北の大地には十八の都市が有る。


 元は一つの国だった。


 国の名は、セラリア。


 首都セラリアは栄えていた。


 だが、突然終わりを迎えた。


 魔物の王が配下を差し向けた。


 それで終わり。


 セラリアは滅び、十八の都市に纏まりが無くなった。


 今から千年程前の話だ。






 俺はノスヘルの代表、クルダム・ゼロスに呼び出された。




 執務室に通された。


 室内には彼の腹心、セムリス・リルム、ニシエラ・ラドラルフも同席していた。


「俺は何故呼び出された?」


「貴方の素性が解りません」

「直接聞くことにしました」


 クルダムは痩身で長身、真っ直ぐ背の伸びた軍人の様な男だが、文官だ。


 セムリス、ニシエラも文官。


 セムリスとニシエラは黙って話を聞いている。


「ゼアスは偽名だ」

「名は明かさない」

「俺は南で、騎士の様な事をしていた」


「それで?」


「それだけだ」

「それ以上言う気が無い」


「貴方はラトス・ミュラに、王に成ると言ったそうですね」


「ああ、言ったな」

「何を言おうが俺の勝手だろ?」


「私にはルピアスを手に入れる気など無かった」

「わかっていたでしょう?」


「だろうな」

「笑える」


「貴様!」

「立場をわきまえろ!」


 セムリスが吠えた。


 だが無視した。


「俺は金で動く、傭兵だ」

「他の都市にはもう目を付けられているだろう」

「次は攻められる」

「俺を雇い続けろ」

「それしか存続の手は無いぞ」


「雇い主を脅すか…………」

「貴方に王の器があると?」


「知らん」

「試している最中だ」

「お前たちに選択肢は無いはずだ」


「そうですね」

「ルピアスを簡単に落とした貴方を使い続けるしかなさそうです」

「不本意ですが」


「金はしっかり出せよ」

「他に雇われるぞ」


「…………」

「仕方ありません、騎士団長と会っておいて下さい」


「わかった」

「ラトス達は自由に使わせてもらう」

「もう俺の部下だ」


「…………」

「隣の部屋に三人待たせています」


「わかった」

「迎えに行く」



 部屋の前でリビアとボーデンが待機していた。


「リビア」

「予想通りだ」


「わかりました」




 隣の部屋に入る。


 ルピアスからはこの三人が俺の部下になる。


 ラトス・ミュラ以外は初顔合わせに成る。


「ラトス」

「この二人は?」


「俺の部下だった」

「俺がお前に雇われると話したら付いてきた」


「契約者か…………」


 エイリル・ノムト。


 プルム・クロー。


 二人はそう名乗った。


 二人は無言で俺をじっと観察している。


 他に会話は無い。


「この二人は俺に付いてきた」

「お前の実力を疑っている」


「だろうな」

「これから騎士団長と会う」

「付いて来い」


 それで解るだろう。


 じゃなきゃ使えない。


「そこの奴」

「騎士団長は何処にいる?」


「訓練場にいます」

「この建物を出て右の建屋です」





 月と太陽の国で俺が訓練した建物ほどではないが、十分な広さの訓練場だった。


 中に入る。



 騎士団長は直に解った。


 気配を隠していない。


「あんたが騎士団長で間違いないか?」


「いや、俺は騎士団長じゃ無い」

「俺はフレドリック・ユルロアだ」

「騎士団長は彼女、ピナンナ・ラクトリだ」


 彼女はペコリと頭を下げた。


 意外だ。


 自分で試す気かと思ったが。


 俺の勘が外れるのは珍しい。


 楽しくなってきた。


「では、フレドリック、お前が相手してくれるのか?」


「ああ、そうだ」


 笑っている。


 気が合いそうだ。


 リビア、ボーデン、ラトス、エイリル、プルムは黙っている。


 フレドリックが気配を全開にした。


 本気でやる気らしい。


 ますます気が合いそうだ。


 俺も気配消しを解いた。


「ちょ、ちょっと待て、何の気配だ?」


「何がだ?」


「お前の神獣を聞いてるんだ」


「俺の神獣は黒竜だ」


「黒竜だと!」

「ふざけるな!」

「黒竜が人間に懐くか!」


『レムリアス、姿を現せ』


『いいのか?』

『久しぶりだな』


『大人しくしていてくれよ』


『わかった』


 黒竜が姿を現した。


 リビアとボーデン以外は絶句している。


「黒竜だろう?」


「ああ、マジで黒竜だな」

「俺は止めだ」

「彼女が相手をする」


「お前それでいいのか?」


「いい、俺は納得した」


 面白い奴だ。


「まったく貴方は直に気が変わる」


「まて、ピナンナ俺は悪くない」

「黒竜だぞ」

「黒竜に選ばれてるんだぞ」


「解っていますが、誰かが実力を試さないといけないと、気張ってたのは貴方でしょう?」

「仕方がありません」

「私が試します」


 彼女も気配消しを解いた。


 気配はフレドリックと同じ位だ。


「武器はどうします?」


「自分で出す」

「刃は潰しておく」

「それで良いか?」


「?」

「自分で出す?」

「まあ良いでしょう」

「わかりました」


 彼女は剣と盾を装備している。


 昔のリビアの様だ。


 彼女は剣を振り降ろした。


 盾で受ける。


 俺は右の剣で突きを放つ。


 彼女は剣で弾いた。


 俺は右、左、右と剣で連続攻撃を加える。


 彼女は盾で防いだ。


 更に下から切り上げた。


 彼女は剣で弾く。


 彼女の息が上がってきた。


 俺の武器が重いせいだろう。


 俺は三歩下がって槍で突いた。


 剣と盾を消し、槍に持ち替えた。


 彼女は出所のわからない武器に気付く余裕も無い。


 彼女は自分の間合いに持ち込めない。


 彼女は盾で防御する。


 彼女には重い攻撃だ。


 防ぐ事しか出来ない。


 更に俺は大きくバックステップして、矢を放つ。


 彼女は盾で受けた。


 矢が盾に突き刺さる。


 矢を連続で放つ。


 盾で受けるのがやっとだ。


 彼女は武器を捨てた。


 降参らしい。

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