8話 リーダー

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 リビア:元守護者。

     レイセと北の大地に旅立った。

     聖国クリアを創設した。




 俺はエウェルを思っている。


 これは俺が死んでも変わらないはずだった。


 だが、俺には今リビアがいる。


 リビアをずっと傍に置いておきたい。


 そして、鏡華が気に成っている。


 エウェルの時は自制が利かなかった。


 今は冷静に二人を手に入れたいと考えている。


 最低だ。


 俺はきっとどちらも選べない。


 きっと答えは出ない。


 俺は何時までもこのままだろう。




 今日は日曜日。


 五人で会う。


 俺、黒崎鏡華、黒沼直樹、黄山十夜、青井友介の五人だ。


 午後一時に『ロストエンド』の近くのカフェで待ち合わせをしている。




 時間より少し前、俺は一番に着いた。


 時間通り、鏡華と直樹が来た。


 緊張しているのだろう。


 二人は無言のまま座った。


 鏡華は俺の隣。


 直樹は俺の前。


 少し遅れて十夜が来た。


 俺の隣に座った。


 無言だ。


「悪い、遅れた」


 友介だ。


 こいつは緊張していない。


「あれ?」

「どうしたんだ?」

「始めて無いのか?」


 直樹の隣に座った。



 鏡華と直樹は事情を把握している。


 十夜と友介に説明が必要だ。


 そして、十夜と友介から話を聞く。


 まだ十夜と友介からの情報が無い。


 改変の話を、こいつらは聞いていない。


「あの世界は何処かおかしい」

「ドラマが過ぎる」

「そして、あの世界で起こる事は時間の前後を無視する」

「例えば、誰かがあらかじめあの世界に行くと、向こうで会って知っていたとする」

「だが、実際にそいつが向こうで誰かに会うまで確定しない」

「会わない方に決まる可能性もある」

「たぶんドラマ性の高い方に決まる」

「決まってしまう」


 十夜が反応する。


「誰がドラマ性を判断してるんだ?」


「わからん」

「あの世界を調整している奴がいる気がするだけだ」


 やはり十夜が反応する。


「それじゃ矛盾が出るだろ」

「それはどうなる?」


「改変される」

「俺たちは認識出来ない」


 十夜がさらに反応する。


 十夜は冴えている。


 改変とは何かという質問は今更してこない。


「認識出来ないのに、なぜそう思うんだ?」


「長い間仲間を探していた私に仲間がいなかったからよ」

「向こうで死んだら存在自体無かった事に成るわ」

「おそらく改変されてるわ」



「ここからが本題だ」

「お前ら、俺らに心当たり有るか?」


 十夜は事態を認識している。


「ちょっと待て、その前に確認だ」


 友介がゴクッとつばを飲み込んだ。


 友介も認識している。


 十夜が質問を続ける。


「俺たちはまだ確定していないのか?」


「ああ、まだだ」


 十夜が深呼吸した。


「こっちの発言も向こうに影響するんだな?」


「たぶんな」


 十夜と友介は、お互いの顔を見合わせて、焦り顔だ。


「俺と友介はもう情報交換してしまった」


 お前ら仲悪かった筈じゃ無いのか?


 その可能性を見落としていた。


 十夜は質問を続けるらしい。


「順番に聞くぞ」


 友介も深呼吸した。


「お前ら何年にいた?」

「西暦みたいな物を把握しているか?」


 なるほど。


 十夜。


 やはり冴えているな。


「お前らは同じ様な時代だろう?」


「そうだな」

「俺、鏡華、直樹は似た時代だ」


 十夜はフウーと息を吸い込んだ。


「俺たちは神歴二千三百六十五年にいて、月と太陽の国にスカウトされた」

「二人共だ」


 二千三百六十五年だと?


 神と呼ばれて、二千三百六十五年か?


 生まれてからか?


 おそらく鏡華が付けた年号だ。



 鏡華を見た。


「私たちは今二千三百五年よ」

「私の年がバレそう」


 彼女は笑っている。


「どこの町のダンジョンを攻略したの?」


「俺はガルゲセナ」


 十夜だ。


「カラドナシュだ」


 友介だ。


「まだ、時間がある」

「私が部下にスカウトに行かせるわ」

「ついていたわね」



「ちなみに直樹、お前は何時から俺に気付いていたんだ?」


「昨年度の二月頃です」

「生徒会顧問は偶然でした」


「お前が勧誘に来させていたのか?」


「そうです」


 何か飲んで落ち着こう。


 まだ話は残っている。




 コーヒーを飲んだ。


 みんな落ち着いて来たみたいだ。


 十夜と友介の問題が残っているが、ここで焦っても仕方がない。


 鏡華が何とかしてくれるはずだ。


「話を続けて良いか?」


「ああ、大丈夫だ」


 友介が答えた。


「お前ら、ステータスは確認したか?」

「“七つの大罪”あったろ?」

「一応確認しときたい」


「色欲だ」


 十夜が答えた。


「俺は暴食」


 次は友介。


「僕は傲慢でした」


 直樹だ。


「私も言っとくか、怠惰よ」


 鏡華だ。


「俺も怠惰だった」

「やっぱり、融合者は必ず持っているようだな」


「このスキルの所為でえらい苦労したぞ」


 十夜だ。


「自制心は人それぞれですからね」


「流石、傲慢」

「上から目線」


「事実と傲慢は違いますよ」


「主観的事実をみんなに話すのは傲慢だろ?」

「まあいい」

「把握した」

「話を変える」



 みんなが俺を見た。


「鏡華、人数を集めようと思った理由は?」


「人数が集まらないと交渉出来ないのよ」


「何のだ?」


「あの世界について、もっとよく知っている奴らがいるのよ」

「そこから情報を得る為よ」

「私だって、途中参加みたいなものなの」

「長くいる奴らに聞いた方が、たぶん近道だわ」

「戦闘能力は私や貴方位で頭打ちになってる筈」

「後は貴方の嫌いな経験に頼る事に成る」

「人数を集められる事自体が信用に成るの」



「あの世界で先人達は何をやってるんだ?」


「自分達でダンジョン攻略を続けてるわ」


「ダンジョンにはまだ何か役割が有るのか?」


「わからないわ」

「でも時々、マスターが聞いてくるのよ」

「今、何層まで攻略しましたか? って」


 マスターは革表紙の分厚い本の記録を全部把握している筈だ。


 態と聞いてきているのは明白だ。


「マスターはダンジョン攻略をさせたがっているわ」


 そうだろうな。


「…………」


「先人達というのは、あの掲示板に有ったチームとかクランで合っていますか?」


「ええ、そうよ」


「何故、他のチームに入らなかったんです?」

「その方が近道だったでしょう?」


「マスターの願いを叶えると、契約が解除されると思っているチームが多いわ」

「永遠に生きると決めた事から逃げようとしてる」

「私の目指す所と違うわ」


「お前の目指す所とは?」


「マスターの願いを叶えて、『ロストエンド』を辞めさせる事」


 確かに、意図的に契約者を作り出すのは悪だ。


 辞めさせるのが正しい行為と言えるだろう。


 しかし、それはあくまでも俺達の価値観から考えての話だ。


 マスターも、問題ある行為とわかって行っている筈。


 何事にも理由が有る。


 誰かの正義は、別の誰かには悪となる場合がある。


 まずは、理由を知らなければならない。


「そして、私はあの世界で永遠に生きるわ」


「…………」


「私は女王にして現人神」

「責任があるわ」

「たぶんマスターには簡単に話せない目的がある」

「意図的に契約者を作って、人格融合をさせている」

「目的が有るはずだわ」


「鏡華、俺も同じことを考えていた」

「まず理由を知ることが必要だ」


「最終的に、辞めさせると、俺たちもどちらかの世界を選ぶ事に成る気がするんだが……」

「俺達はどうする?」


「…………」


「…………」


「…………」


「マスターの本当の目的を聞き出してから決めたら良いわ」

「私達の当面の目標はマスターの願いを叶える事としましょう」

「貴方達にも考える時間が必要でしょう?」


「そうだな、まだ決められない」

「時間をくれ」

「みんなそれで良いか?」


「わかりました」

「考えておきます」


「ああ、それで良い」


「いや、時間は必要ない」

「俺は向こうの世界に残る」


「な?!」

「友介、それで良いのか?」


「向こうの世界で契約した時、帰れると思ってなかった」

「俺は向こうの世界で生き続ける事を選んでいる」

「すでに決断した後だ」

「もう後には戻れない」

「家族の顔をもう一度見られただけで十分だ」


 あの時の俺は、友介とは状況が違う。


 直樹や、十夜は帰れると薄々解っていたのだろう。


 友介、お前良く決断出来たな。


「私たちもチームを作るわ」

「リーダーは零維世がやって」

「私はリーダーってガラじゃないわ」


 俺だってそうだ。


「チーム名は考えてきたわ」

「『フィナリスアートルム』」


「何故ラテン語なんです?」


「なんとなく?」


 お前なんでわかるんだ、直樹。


「意味は?」


「最後の黒」


 黒。


 黒か。


 うーん。


 黒は俺の色だ。


 しかし、チームを俺一色にするのは間違っている気がするな。


「最後ってのは良い」

「でも、黒は止めてくれ」

「別の色が良い」


「せっかく考えて来たのに」

「貴方のチームなのに、良いの?」


「ああ、みんなでやる、みんなのチームにしたい」


「そう」

「それも、そうね」

「黒だと、貴方が全部を背負う事に成ってた」

「ごめん」

「じゃあ、何色が良いの?」


「色縛りは決定なのか?」

「まあ、色でも良いけど……」

「灰色が良いな」

「俺が黒だから、みんなで薄めてくれ」

「あとこれ言いたいんだけど」


「白にも黒にも染まらない、グレイ」


 友介!


「おい、言うなよ」

「くそ、それで、灰色はラテン語でなんて言うんだ?」


「何個かありますが、ラーウムが良いんじゃないでしょうか?」


「じゃあ『フィナリスラーウム』な」


 名前はもういいか。


「それで、なんで俺がリーダーなんだ?」


「私より格上の神獣に選ばれた人をリーダーにと決めてたの」

「たぶん、黒竜より上は無いわ」


「黒竜ってあれか?」

「ドラゴンの頂点、白竜と並ぶ、最古の神獣」


「そうよ」

「それよ」


「マジでか」


「お前凄いな、零維世」


 直樹、十夜、友介の神獣が何か知りたいが、後で良いだろ。


「こいつはもう色々やらかしてるし、私は補佐に徹する事にする」


「零維世は何をやらかしたんだ?」


「『最初の冒険者』は読んだ?」

「彼が「クリア・ノキシュ」よ」


「は?」


 は?


 じゃねーよ。


 俺は真面目に書いたぞ。


「俺はあれに感動して外の世界に出たんだ」


「俺もだ、騎士に頼らなかったのもその影響だ」


「あれは俺の創作だ」

「自分の名前をそのまま使ったのは不味かったな」


「そういう問題じゃありませんよ」


 下心丸出しで描いた。


 その分だけ気持ちが乗っていた気がするが…………。


「王都でだけ読まれる筈だったんだが…………」


「俺たちは金に困らないな」


「なんでだ?」


「ノキシュ商会はお前の物じゃ無いのか?」


「ノキシュ商会は今も有るって事か?」


「ガルゲセナまで売り込みに来てたぞ」


「私兵団を持っている商会はあそこだけだ」


「まだ続いているとは思わなかったな」

「私兵団は俺が作ったんだ」


「…………」


「…………」


「その話は僕も今知りました」

「案内人辞めたのに私兵団を作ったんですか?」


「案内人の経験が活きたんだ」

「ついていた、ぼろ儲けだった」


「ちょっと殴っていいです?」


 俺たちの幸せな生活の詳細を、俺は語る気はない。


 俺だけの、俺たちだけのものだ。



 というか、言えなかった。


 直樹に本気で殴られそうだ。


 リビアには正直に話そう。



 ノキシュ商会が今も有るなら、今度訪ねてみるか。


 俺の事が伝わっているなら力に成ってくれるかも。



「活動資金は鏡華に頼ってくれ」

「女王で現人神だ」

「月と太陽の国のな」


「マジでか」


「さっきのはそういう事か、俺たちはお前にスカウトされたのか」


「続けるぞ」

「こいつは馬鹿みたいな宮殿を持っている」


「馬鹿とは何よ」

「失礼な」

「二百年も食っちゃ寝させてあげたのに」


「二百年間ひたすら武器を振り続けるのが食っちゃ寝で済むか」


「それで強くなったんですか?」


「そうよ」

「手合わせは一回しかしてないわ」

「全部の武器を自由に使えるように成らないといけないって言うから、剣を出してって言ったのよ」

「そしたらこいつ、一回目で神獣との部分融合で剣を出したのよ」


「部分融合でですか?」


「なんだ?」

「部分融合って」


「結界みたいに、何もない所から出すのでは無くて、神獣の一部を上乗せするんです」

「僕はまだ出来ません、リビアさんがやっているのを見ただけです」


「今左腕がほとんど黒竜で出来ているんだが…………」


「なにそれ?」

「今聞いた」


「この前、聖都クリアを襲ってきた魔物の王の配下を倒すのに、左腕を犠牲にしたのは言ったか?」


「知らないわよ」


「まあ、いい、防御出来そうに無い攻撃を出して来たから、左腕を囮にして隙を誘ったんだ」


「それで?」


「左腕が消滅した瞬間、左腕からブレードを出して奴を貫いた」


「…………」


「今はブレードを腕に変えて生活している」


「指は動くの?」


「動く」

「黒いだけだ」


「直樹さん、どう思う?」


「キツイですね」

「理解出来ない」


「そうよね」

「私もそう思う」


「何故出来ると思ったんです?」


 まだ続けるのかその話。


 もういいだろ。


「俺は黒竜に剣の出し方を聞いたんだ、奴は自分と一心同体だと言った」

「奴のブレードが腕から生えていると思えと言われた」

「そして、腕から剣が生えていると思えと言われた」

「手に剣を持っているのより、手、自体が剣の方がイメージし易い」


「い、今何か出せる?」


「ナイフで良いか?」


「良いわ」


 手にナイフを出した。


「出たわね」


「出ましたね」


 十夜と友介はキョトンとしている。


「消すぞ」


 ナイフは消えた。


「結界は無理だぞ」

「試した」


「俺は部分融合とやらしか出来ない」

「この前着ていた鎧は黒竜を全身に覆うイメージだった」

「部分と言わず、全身出来る」


「…………」


「…………」


「鏡華さんも部分融合出来るんですよね?」


「私はこっちでは出せないわ」


「零維世、俺達も出来る様に成るか?」


「成るだろ」


「俺が出来るんだ、お前達も出来るだろ」


「…………」


「…………」


「…………」


「やっぱり、零維世がリーダー(導き手)だ」

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