7話 ゼェゼェ
レイセ:主人公。
黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。
融合者。
契約者。
黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。
ルビー・アグノス。
融合者。
契約者。
黒竜:真名、レムリアス。
白竜と並ぶドラゴンの頂点。
神獣。
レイセと契約。
黒沼直樹:ベル。
黒羽学園高等部の数学と物理の教師。
中等部生徒会顧問。
融合者。
守護者。
時間は少し遡る。
水曜日に、黒羽の不良のトップと呼ばれてる奴等と話をした。
不良とは名ばかりの、普通の生徒だった。
ちょっとつるむ人数が多いだけだ。
サバスの兵士達の方がガラが悪い。
七星と春日の不良に、自分たちのグループに入れと誘われているらしい。
それで他校の生徒が校内に侵入し、目立ってしまったらしい。
一番の被害者は彼等だろう。
どちらのグループにも入らなかったのは、趣味の不一致だと彼は言っていた。
とても言い難そうだった。
元々、他校は進学校でライバル同士。
仲が悪かったのも良くなかった。
まだ頻繁に勧誘に来ているようなので、次に来たら『今度の金曜日に河原に来て欲しい』と言うように頼んでおいた。
今日がその金曜日だ。
今日は二グループとも河原に来るだろう。
先に行って待っとかないと、喧嘩が始まってしまうかもしれない。
鏡華と合流し、河原に急いだ。
まだ誰も来ていなかった。
ランドセルを背負った小学生女子と真新しい制服を着た中学生男子。
河原で、二人で時間をつぶした。
鏡華は美月と同じ年だ。
きっと遠目には兄妹に見えるだろう。
俺は今何をやっているんだと思わなくもない。
だが、鏡華と話すのは楽しかった。
時間があっという間に進んだ。
十八時丁度に奴らは来た。
二グループ揃った。
高校生ばかりだ。
二グループのトップが俺に話しかけてきた。
「なんでお前がここに?」
「俺が呼び出すよう頼んだからだ」
「俺たちはこっそり活動してきた」
「お前に迷惑は掛けてなかったはずだろ?」
「十夜、抜け駆けか?」
「いや、俺たちじゃない」
「友介、お前らじゃね?」
知っている顔だった。
黄山十夜(キヤマ トオヤ)。
青井友介(アオイ ユウスケ)。
二人とも高校一年生。
疎遠になった、幼馴染だった。
十夜は七星学園。
長い髪を後ろで結んでポニーテールにしている。
背は高校1年にしては高く、百七十センチ位ある。
顔は、ちょっと美形。
髪形に違和感が無い。
性格は、頭の回転が速く、神経が細やかだ。
友介は春日高校。
さっぱりした短髪。
背は十夜より少し高く、百七十五センチ位ある。
顔は、美形と言うより、男らしい感じ。
性格は、おおらかで、少し天然なところがある。
二人とも、自然とリーダーシップを取ってしまう、頼られる性格だ。
その所為で、必然的に二人の意見は衝突してきた。
昔は三人でつるんでいた。
年下の俺が何故か二人のうちどっちの意見を採用するか、決めさせられていた。
二人の間で右往左往していた昔を思い出し、複雑な気分になって来た。
それにしても、この二人が不良のトップ同士?
違和感がある。
何かおかしい。
俺に迷惑が掛かっていないはず、とは?
活動とは?
何の話だ?
嫌な予感がする。
俺の嫌な予感はよく当たる。
「お前らの活動とは何なんだ?」
「お前、とは口の利き方が変わったな零維世」
「昔は俺たちの舎弟って感じだった癖に」
「今その話はいいだろ」
「活動とは?」
「…………」
「ついにお前に話す事に成るとはな」
「もっと先に成ると思ってた」
「勿体つけるな」
「さっさと言ってくれ」
「『美月ちゃんを影から見守る会』だ」
え?
え?
なんて?
なに?
「もう一回言ってくれ?」
「『美月ちゃんを影から見守る会』と、そう言った」
「彼女はかわいい」
「お前は兄だから気付いてないだけだ」
「相当かわいい」
「俺たちはファンクラブの様な物だ」
小学六年生に高校生のファンだと?
鏡華を見た。
彼女も頷いている。
俺は投げた姿勢で硬直していた。
気付いたら俺は全員を投げ飛ばしていた。
ゼェゼェ、と息が切れていた。
怪我をしている奴がいるかは解らない。
「その程度の年の差が何よ」
「私と貴方なんて精神年齢がどの位離れてると思ってるのよ」
お、おお。
もう勘弁してくれ。
俺にはエウェルがいる。
リビアもいる。
さらに俺は鏡華に気が有るのか?
有るかもしれない。
彼女と話していると楽しい。
そして俺はシスコンだった。
俺の思考は停止した。
俺は素直に連れて行かれた。
警察には、『美月ちゃんを影から見守る会』に兄がキレて全員を投げ飛ばした、とは言えなかった。
みんなで口裏を合わせた。
俺達が美月に嫌われてしまう。
俺が不良達を説得していた事に成った。
厳重注意を受けていたが、そこに義父、黒戸和馬が来た。
話しはそこで有耶無耶になった。
やはり警察にも顔が利くらしい。
全員初犯な上、幸い怪我人がいなかった事から、前科が付か無かった。
記録にも残らない。
義父には、
「息子が悪さをして警察に呼ばれるのが夢だった」
とか言われてドン引きした。
義父は
相変わらず忙しい様だ。
その日はそれで終わらなかった。
その後、俺たちはもう一度集まった。
俺は『美月ちゃんを影から見守る会』を黙認すると告げた。
たから、黒羽には勧誘に来るなと交換条件を出した。
彼らは了承した。
そして帰って行った。
黄山十夜と青井友介には残って貰った。
鏡華に話があるらしい。
「貴方たち、永遠の命に興味あるかしら?」
「美月ちゃんがかわいいなら、私と趣味が合うわ」
「人を纏めるのも慣れてそう」
二人とも意味が解っていない。
そう言いながら、『ロストエンド』に向かっている。
「私達と仲間に成れば、美月ちゃんと仲良く成れるかもね」
その一言が効いてしまった。
俺が止めるのも聞かず、二人は鏡華に付いて行った。
「鏡華、大丈夫なのか?」
「見込みはあるわ」
「貴方とも気が合うでしょう?」
「それはそうだけど」
「連れて行って、見つけられたら、決まりね」
『ロストエンド』の前まで来た。
「あんな店あったか?」
「いや、知らない」
二人は『ロストエンド』を認識してしまった。
くそっ、俺が言わないと。
「お前ら、自分で選んだ自覚、あるか?」
「これは、お前らが選んでしまったんだ」
「怪しいとは思わなかったか?」
十夜が答える。
「ああ、思った」
次は友介だ。
「俺もそうだ」
「だけど零維世がいる」
お前ら、最近遊んでなかったろ?
俺の事、どう思ってたんだよ。
十夜が続ける。
「そうだな」
「またつるむぞ」
友介が同意する。
「だな」
そうか、俺か。
後悔するなよ。
「中に入れば良いのか?」
十夜が最初に『ロストエンド』に手を掛けて、離した。
「お前も行ってこい」
十夜は友介を行かせようとした。
「は?」
「十夜、怖気づいたか?」
「俺が行ってやる」
友介はやはり意味がわかっていない。
十夜は苦笑いだ。
友介が『ロストエンド』に手を掛けて、離した。
「お前、言えよ十夜」
「あれは無いだろ」
「それは零維世に言えよ」
「お前ら何年振りだ?」
十夜が答える。
「八十年位か?」
次に友介。
「俺もだ」
一応感想を聞いておくか
鏡華が気にするからな。
「どうだった?」
十夜が答える。
「それマスターにも聞かれたぞ」
「悪くは無かったな」
友介が同意する。
「まあな」
良かった。
本当に。
鏡華の顔を見た。
彼女は泣きそうだった。
俺は見ない様にした。
無理し過ぎだ。
見ていられなかった。
次の日。
土曜日。
今日も学校が有った。
気が重い。
十夜と友介を引き込んだ事。
それが気に成っていた。
もっと強く止めた方が良かったか?
だが、鏡華の判断も正しい。
俺達には協力者が必要だ。
自分たちだけでは背負い切れない自覚が有った。
鏡華はもっと切実だったのだろう。
俺一人ではダメだったのだ。
教室に入ると、みんなが俺に注目していた。
来る途中、薄々気付いていた。
昨日の噂がもう広まっている。
普通なら、昨日の内に先生が家に訪ねて来ている筈だった。
だが、家に帰った後も呼び出しすら無かった。
義父が手を回しているのだろう。
たぶん今日も学校からは呼び出されない。
俺は黙って席に着いた。
そのまま授業を受けた。
昼休み。
みんなの緊張が解けてきた。
隣の席の長谷川さんが声を掛けてくれた。
意を決してという思いが伝わってくる。
「黒戸君、昨日不良三十人をボコボコにしたって本当なの?」
その一言で教室の時間が止まった。
クラス全員、俺に注目している。
みんなの動きが止まっているのを感じる。
「ボコボコにはしていない」
「ちょっと投げ飛ばしただけだよ」
「話せばわかるはずだったんだ」
「あいつらは不良じゃない」
「普通の奴らだった」
「気づいたら、カッとなってやってしまっていた」
「そうね、不良ってそんな言い方ないよね」
うん?
「そうなんだ」
「俺が悪かった」
「そうよ」
「黒戸君は悪くない」
「話合いをしに行ったんだもんね」
「ボコボコにしたのは単なる結果よね」
え?
話聞いてた?
ボコボコにはしていないって。
俺が悪いって。
「私、黒戸君を応援する」
何故そうなる。
いや、いや、いや、それは無いだろ。
『美月ちゃんを影から見守る会』にキレただけだぞ。
『美月ちゃんを影から見守る会』の事を警察で喋らなかったからか?
「黒戸、信じてたぞ」
いや、倉持君、何をだよ。
何故か俺は人気を得ていた。
作戦は成功だ。
だが、俺にも罪悪感はある。
そして、裏で仕組んで、ほくそ笑んでいる奴がいる。
放課後、俺はそいつの所に急いだ。
「黒沼先生はいらっしゃいますか?」
「先ほど帰られました」
あいつ!
俺の索敵から逃げられると思うなよ、ベル。
お前の気配は独特だ。
ベルは駐車場から車を出そうとしていた。
「乗って下さい」
俺は黙って車に乗り込んだ。
「運転は苦手なんです」
「着いてからでいいですか?」
「わかった」
「着いてからな」
こいつ、ちょっと笑っていやがる。
着いた。
近くの公園だった。
「お前、『美月ちゃんを影から見守る会』って知っていただろ?」
「うまくいったから良いじゃないですか」
否定しない。
「何が、我らが王、だ」
「どういう反応をするか知りたかったんですよ」
「全然言い訳に成っていないぞ」
「不良って言っていたのもお前だけだ」
「すぐ気づくと思ったんですよ」
「お前そういう奴だったか?」
「三百年経ってますからね」
おお。
「三百年経ってますからね」
「大事な事なんで二回言いました」
おお。
俺が悪い気がしてきた。
「良く普通に、僕に話しかけられましたね」
「僕たちは怒ってるんですよ」
「あの時、一言くらいかけてくれても良かったのに」
「ああ、悪かった」
「あのままだと会えないと思ったんだ」
「俺にはまだ王は務まらない」
「解ってますけどね」
「他の学校の奴らはどうしてる?」
「どうにもなっていません」
「不問です」
「義父か?」
「そうです」
「お前会った事あるか?」
「昨日家に来られました」
「お前の家にか?」
「はい、面倒を見てやってくれと言われました」
「…………」
「『ロストエンド』が出来るのに義父が関与していたらしいが知っているか?」
「ええ」
「僕も調べました」
「悪い方では無さそうですが、手回しが良すぎます」
「その方向では調べない方が良さそうです」
「そうだな」
「生徒大会はどうなると思う?」
「何らかの印象操作がされてます」
「クリアさんの圧勝でしょう」
「そうか」
「実は仲間が出来た」
「明日時間あるか?」
「今みたいなスーツはダメだぞ」
「カジュアルな奴、持ってるか?」
「大学生みたいなやつ有るか?」
「お前仕事しかしてなさそうだし」
「大丈夫です」
「年下に心配されるとは……」
「三百年に比べたら誤差だろ」
「その割には昨日、『美月ちゃんを影から見守る会』に怒ってませんでしたか?」
「…………」
「確かに」
「お前何処で見ていた?」
「河原にいましたよ」
「気配を消して」
「止めろよ」
「本当に型に嵌めるから驚きました」
「僕らを置いて探しに行った美月ちゃんは、やっぱり大事だったんだなと実感しました」
「お前言うように成ったな」
「おかげさまで」
「師匠」
「わかった」
「悪かった」
俺の負けだ。
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