6話 再会

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:通称プロミネンス。

      本名ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

 黒戸和馬:零維世の義父。

      クロスグループ代表。

 マスター:『ロストエンド』の店主。

      銀髪。

      サングラス。



 俺は『ロストエンド』の扉から手を離した。


「俺は今、ノスヘルにいる」


 現在地と経った日数を鏡華に報告する。


 お互いに把握していないと、次に向こうで会うために余計な苦労をする事になる。


「こっちで他の契約者と会う方法は無いのか?」


「有るわ」

「この店には月に一度開放日と言うのが有るのよ」

「その日は表の扉を開いても時間が停止しないわ」


「その日はいつもどうしてるんだ?」


「ナンパ待ちね」

「いつも声は掛からないけど」


「自分から声を掛けないのか?」


「私は有名なの」

「脅しみたいになるから止めたわ」

「強引に勧誘するとマスターが止めに入ってくるし」


「あのマスター何者なんだ?」


「わからない」

「貴方の方がわかりそう」


「どういう意味だ?」


「店を調べると黒戸和馬の名が出てきて調べられなくなるのよ」


「登記されているのか?」


「ええ」

「しっかりしたものよ」


「今度義父に会ったら聞いてみる」

「たぶん無駄だろうけど」


「マスターの身のこなしは異常だった」

「契約者を体術だけでさばいてたわ」

「何か特殊な訓練でもされてるんじゃないかしら」

「本人に聞いても答えないし」



「こっちにも、もっと協力者が必要だな」


「そうね」


「信用の有る立場の方が勧誘し易い、と思う」

「たぶんね」

「黒羽学園に生徒会はあるでしょ?」


「あるな」

「勧誘されてる」


「なら丁度良かった」

「貴方、生徒会長になりなさい」

「黒羽の生徒会長なら大人にも信用され易そう」

「今度私も黒羽に入るから、生徒会をやり易く変えといて」


「簡単に言うなよ」


「王に成るのよね?」


「むう」

「わかった」

「頑張ってみる」




「ノスヘルに冒険者ギルドが出来ていた」

「お前の国はどうだ?」


「こっちにも出来てるわ」

「もう、どこの町にもあるんじゃないかしら」

「人間が壁の中に閉じこもっている時代が終わるかもね」

「物語一つでこうも変わるとは思ってなかったわ」

「私も何か書こうかしら」


「じゃあ、七つの大罪、って知ってるか?」


「知ってる」

「スキルの話でしょ?」

「ステータスで見た」


「スキルって言うか、ほぼ呪いだな」

「ステータス上ではバグのような扱いだ」

「意味を調べるのに苦労した」

「お前も“怠惰”なんだろ?」


「うん」

「手を抜けない代わりに、弱点が解かる、ってやつね」


「たぶん、融合者はみんな何かしらの大罪を持っているぞ」

「俺達が思ってる以上に、転生者は多いんじゃ無いか?」


「でしょうね」

「『ロストエンド』で本を受け取っても、大罪の所為で契約まで行けないのよ」

「だから向こうで出会えない」

「出会う所まで行けない」

「私達は運が良かったわね」

「それにしても、ステータスを見れる様にした奴、かなり出来る奴ね」

「仲間にしたい」


「そうだな」

「ギルド関係者だろう」

「知り合いに成るにはランク上げないとな」


「貴方は特別扱いじゃ無いの?」


「表彰させて欲しいって言われた」

「でも断った」

「本部は中央大陸だ」

「今は北を離れられない」

「それに、こっちも実力を付けとかないと、取り込まれる」

「後回しにした方が有利になりそうだ」


「…………」

「ゆっくり策を考えていきましょう」

「とりあえず今は保留ね」



「じゃ私も行ってくる」


 鏡華は『ロストエンド』に手を掛けて離した。


「私は月と太陽の国に戻ったわ」

「改変は起こらなかったみたいね」

「今日は解散しましょ」




 俺は次の日、黒羽の生徒会室を訪ねた。



 現生徒会書記に、次の生徒会長に立候補したい旨を伝えた。


 書記は意外そうにしていた。


 それはそうだろう、俺ははぐらかしてきた。


 何故心変わりしたか聞きたそうだった。


 次の生徒会長は現書記の彼が成る予定だ。


 それが通例だ。


 生徒大会で選挙になると言う。



 普通なら、いくら黒戸和馬の息子が立候補しようと、実績のある彼が生徒会長に成るだろう。


 普通なら。


 俺は何か考えないといけない。


 人気を得る方法を。



 生徒会顧問が来た。


 若い、三十代にはまだ成っていないだろう。


 彼は、高等部で数学と物理を担当しているらしい。


 彼は今年から顧問になった。



 後で職員室に来て欲しいと呼び出された。


 彼からは、懐かしい雰囲気が漂っている。



 彼は黒沼直樹と名乗った。


 生徒会顧問の彼だ。


「では、何から話をします?」


 彼は敬語だ。


「聡明な訳だ、数学と物理の先生とは」


「貴方に聡明と思って頂けているとは、我らが王」


 彼はベルだ。


 ベルが顧問だった。


「俺が生徒会長に成るにはどうしたら良い?」


「早速ですね」

「もう少し懐かしい話をしたかったのに」


「そうか」

「ランとはどうなってる?」


「…………、彼女の気持ちには気付いていますが……」


「カーが気になるか?」


「…………、そうです、カーはランが好きみたいです」

「僕はどうすればいいでしょう?」


 あれから三百年経っている。


 三角関係にしては長く続き過ぎだ。


「お前はランが好きじゃ無いのか?」


「いえ、そういう訳では…………」


「お前は彼女の押しが強いから、自分の気持ちがわから無くなっているんだろう」

「俺から見るとお前らは相思相愛だった」

「このままだとカーは逆に傷つくと思うぞ」


「やはりそうでしょうか?」

「頭ではわかっているんですが、少し考えてみます」


 何故か年下の俺が恋愛に口を出している。


 この不自然さも、笑い飛ばそう。



 それから少し話しをした。





「それで、どうすればいいと思う?」


「七星学園と春日高校が揉めているのは知っていますか?」


「いや、初耳だ」


「七星と春日のいざこざが黒羽まで飛び火してきてます」

「それをあなたが治めたら、たぶん貴方が生徒会長です」


 黒羽学園は大きい。


 だが、隣には同じ位の大きさの七星学園と、高等部だけの少し小さい春日高校が有った。


 どちらも名の知れた進学校だ。


「揉めているとはどういうことだ?」


「どの学校にも不良と呼ばれる生徒がいます」


「不良同士で揉めていると?」


「そうです」

「二校のトップが犬猿の仲です」


 進学校の不良か。


 めんどくさい。



「他に案は無いか?」


「無いですね」

「次の生徒大会までに人気を得る事は簡単じゃないです」

「なぜ生徒会長に成ろうと思ったんですか?」


 俺は事情を話した。


「随分不純な動機ですね」

「教師としては、余り後押し出来そうに無いです」


「まあな、俺は鏡華の言うまま動いている」


「貴方が他人の言う通り行動するとは思いませんでした」

「ダズさんだけかと思ってました」


「今度鏡華を紹介する」

「お前の連絡先を教えて貰って良いか?」


 俺たちは連絡先を交換した。


 職員室を後にする。




 俺はその後、鏡華に連絡を取った。


「そう」

「不良同士が揉めてるの」

「笑える」

「それはそうと、貴方、体は動く?」


 嫌な予感がした。


 俺の嫌な予感はよく当たる。


「不良を全部呼び出して貴方が全部倒して」

「そうすれば貴方が生徒会長よ」


 頭痛がしてきた。


 何だその展開。


 脳筋にも程がある。


 いわゆる不良ってのは、喧嘩が強いとかだけで集まっている戦闘集団じゃ無いぞ。


 誤解が酷い。


「私も立ち会うわ」

「今度の金曜日は都合が良いわ」

「金曜ね」


 どんどん決まっていく。


 異論を差し挟む余地は無さそうだった。



 待て、どうやって不良を呼び出すんだ?


 聞こうと思ったら電話が切れた。



 やれやれ、どうなる事やら。




 昨日は土曜日だった。


 次の金曜日まで、まだ時間が有る。


 出来る事をやろう。



 今日一日は体を動かすのに使う。


 不良を全部型に嵌めるなら、一応やっとかないとな。


 馬鹿馬鹿しい気もするが、手を抜かない。


 ダンジョン一階層を攻略した時の様にダッシュを延々とやり続けた。




 次の日。


 月曜日。


 ベルこと黒沼先生に会いに行った。


「今週の金曜日に不良を全員呼び出して、型に嵌める」


「…………」

「本気ですか?」

「冗談じゃ無く?」


「本気らしい」


 彼は笑い出した。


 俺も笑いそうだ。


「鏡華さんの案ですよね?」


「そうだ」


「面白い方ですね」

「今度会うのが楽しみになってきました」

「真面目な話、怪我をさせてはいけませんよ」

「制圧するだけにして下さいね」

「補導はされるでしょうね」

「怪我をさせるとその後がより面倒になります」


「え?」

「補導されるのは確定なのか?」


「ですね」

「確定です」

「僕が通報しますから」

「教師ですので」


「…………」

「融通の利かない奴め」


「仕事です」

「ですが、貴方はたぶんお咎め無しでしょう」

「黒戸和馬の息子ですしね」

「一回目の補導です」

「記録は残らないでしょう」

「記録に残るほどの事をしたら、生徒大会で逆に不利になります」

「うまくやって下さい」

「しかし、力で解決するか」

「その発想は無かった」




 美術部の部室を訪ねた。


 俺は美術部に入る。


 勉強は『ロストエンド』があるから大丈夫だろう。


 俺は絵を描きたい。


 部員に挨拶をしてその日は帰った。






 日常は進み、問題の金曜日が来た。


 朝からランニングをして学校に向かった。



 朝、席に座ると声を掛けられた。


 隣の席の長谷川さんだ。


「黒戸君、今日朝走ってた?」


「ああ、見てたのか?」

「声を掛けてくれても良かったのに」


「私も声を掛けようと思ったんだけど、速くて追いつけなかった」


 部活の朝練で見かけたらしい。


 話しを聞いていた倉持君が加わって来た。


「俺も見た」

「俺は剣道部だけど、あのスピードはないわ」

「速すぎる」

「何か運動してるのか?」


「いや、別に」


「してないのか?」

「マジか」

「俺は剣道で全国三位だが、あれは無いって思ったぞ」

「どのくらいの距離走ってるんだ?」


「今は家から学校を一周して帰っている」


「お前、家は商店街の近くじゃ無かったか?」


「そうだけど?」


 往復三十キロ位だ。


「…………」


「…………」


 黙るなよ。

 何か言ってくれ。


「黒戸、お前陸上部に入れ」

「応援するぞ」


「私も応援するわ」


「いや、俺は美術部に入ったんだ」


「運動部ですら無いの?」

「うそでしょ」


「うそだろ」

「勿体ない」


「そうよ、勿体ないわ」


 お前ら仲良いな。


 付き合ってしまえ。




 俺は今日不良達をどうするか、本気で悩んでいた。




 長谷川さんと倉持くんとの会話は上の空だった。

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