10話 らしい答え

 レイセ:主人公。

     黒戸零維世であり、クリア・ノキシュでもある。

     融合者。

     契約者。

 黒崎鏡華:プロミネンスと名乗っている。

      ルビー・アグノス。

      融合者。

      契約者。

 黒竜:真名、レムリアス。

    神獣。

    レイセと契約している。

    四足移動。

    背中に羽根がある。

 黒沼直樹:ベル。

      黒羽学園高等部の数学と物理の教師。

      中等部生徒会顧問。

      融合者。

      守護者。

 黄山十夜:春日高校一年生。

      融合者。

      契約者。

 青井友介:七星学園高等部一年生。

      融合者。

      契約者。

 エウェル:クリア・ノキシュの妻。

      故人。

 リビア:元守護者。

     レイセと北の大地に旅立った。

     聖国クリアを創設した。

 ボーデン・バレット:傭兵団ラーウム所属。

           ソロのBランク冒険者だった。

           閑話に登場。

 ラトス・ミュラ:元ルピアスの将。

 クルダム・ゼロス:ノスヘルの代表。

          文官。

 セムリス・リルム:クルダムの腹心。

          文官。

 ニシエラ・ラドラルフ:クルダムの腹心。

            文官。

 フレドリック・ユルロア:ノスヘルの騎士。

             副騎士団長。

 ピナンナ・ラクトリ:ノスヘルの騎士。

           騎士団長。




 五年経った。




 今、リビアが俺の隣で寝ている。


 勘違いするな、隣のベッドだ。


 同じベッドじゃ無い。


 しかし、問題はたぶん同じベッドじゃない事だ。



 俺の心は今もエウェルに有る。


 だが、俺はリビアが好きだ。


 そして、プロミの事も好きだ。


 どうかしている。


 この事が問題の原因。


 俺の所為で不味い事に成ってしまった。






 五年間、ずっと宿屋で生活してきた。


 ある日、リビアについでだから一緒に洗いましょうか?


 と言われ、洗濯を頼んでしまった。


 そうするとリビアが部屋に入ってくるようになり、気づくと二人部屋を手配されていた。


 彼女は澄ました顔で何か問題が有ります?


 と言っていた。


 問題は無い。


 俺が問題だった。


 俺の理性に問題が出てきた。




 北は名前にはファミリーネームが付く。


 リビアにはファミリーネームが無い。


 彼女はリビア・クロトと名乗るようになった。


 良いですよね?


 と聞かれて、俺は断れなかった。


 嫌な訳はない。


 うれしい。



 しかし、彼女の精神は限界かもしれない。




 俺には相談する相手がいない。


 ベルに頼りたかったが、奴は恋愛下手だ。


 頼れるのはプロミしか思いつかなかった。


 プロミに相談するのも間違っている。


 わかっている。


 最初に相談すべきは、リビアだ。


 リビアは受け止め切れるか?


 その事を含めて、誰かに聞いて欲しかった。


「リビア、起きてる?」


「はい」

「どうしました?」


「ちょっと酒を飲んで来る」

「『ロストエンド』まで行ってくる」


「わかりました」

「気を付けて」


 部屋を出ると、彼女の気配が付いてくる。



 俺が『ロストエンド』に入ると、そこで止まった。


 中にまでは、入る気がないらしい。




 俺は『ロストエンド』から手を離した。


「どう?」

「王には成れた?」


「鏡華、ちょっと話がある」

「直樹、先に『ロストエンド』を使っててくれ」


 俺は鏡華の腕を掴んだ。


 彼女の手を引いて、さっきのカフェに向かう。


「なによ?」

「どうしたの?」


「店に着いてからだ」


「わかったわ」




 店に着いた。


「で?」

「話って?」


「リビアの様子が変なんだ」

「俺の態度が煮え切らないせいだ」

「相談に乗って欲しい」

「…………言うぞ」

「ハッキリ言うと俺はお前が気に成っている」


「へー、それで?」


「この気持ちは、零維世のものだった」

「俺は同時にリビアも好きだ」

「たぶんこれは、クリアの気持ちだ」

「どうなっている?」

「融合したんじゃ無いのか?」


「私にその経験はないわ」

「でも、融合する前の感情だからじゃない?」


「俺の心はエウェルに有る」

「今も変わらない」

「それはどうなる?」


「貴方には残酷かもしれないけど」

「それは勘違いよ」

「そう思いたいだけだわ」

「時の流れは残酷なの」

「言っている事解るわよね」

「貴方は彼女を看取ったのよね?」


「ああ、幸せに逝ったはずだ」


「貴方はもうそれから二百年経った」

「気持ちが薄らいで来ているのよ」

「私にも経験があるわ」

「みんなそうなる」

「そうなるように出来ている」

「永遠に生きるという事は、その分たくさん忘れていくという事なのよ」


 俺には涙が流れなかった。


「そうか」


 そうとしか言えなかった。


「…………」


「どうしたいの?」

「貴方はどうしたいの?」


「俺は、…………」

「俺は、…………」

「俺は、三人とも手に入れたい」

「それが素直な気持ちだ」

「どう考えても最低だ」

「でもどうしてか、気持ちが矛盾しない」

「間違いだと、心の底から思えない」

「俺は、俺は、自分の感覚を信じたい」


「…………」


「…………」

「俺は、自分が思っている以上に、わがままらしい」

「自分の間違いを認められない」

「俺の思いは、俺自身で思っていた以上に大きいらしい」

「抗えそうにない」

「と、今、気付いたよ」

「鏡華、俺と向こうで結婚してくれ」

「リビアとも結婚する」

「王にはそれが許されるはずだ」

「もういい」

「それで押し通す」


「私が嫌だって言ったら?」


「ダメだ」

「認めない」

「ダメなのか?」

「いいだろ?」


「そのプロポーズでOKすると思ってるのよね?」


「思ってる」

「駆け引きする気は無い」

「OKしろ!」


「あっはははははは!」

「笑わせてくれるわね」

「いいわ」

「結婚してあげる」


「良いのか?」


「ええ、私も貴方が嫌いじゃないわ」


 嫌いじゃ無いか。


 らしい答えだ。


「お前と別れてから、五年経った」

「この五年でリビアが参ってしまっているみたいなんだ」


「貴方から話した方が良いと思うけど」


「俺から話す」

「だが、お前も会ってくれ」


「解ったわ」

「ノスヘルにいるのよね?」


「ああ、頼む」




 ノスヘルの『ロストエンド』を出た。


「リビア」

「一緒に帰ろう」


 彼女が出てきた。


「部屋に着いたら話がある」


「何の話ですか?」


 表情が強張こわばっている。


「お前は怒るかもな」


「そんな話は嫌です」


「とりあえず、部屋に帰ってからな」


「…………」

「わかりました」





 部屋に戻って、俺は全て話した。


 鏡華に話した全てだ。


 リビアは黙って話を聞いてくれた。


「別れ話かと思いました」


「それなら、とっくに別れてる」


「…………」

「それでも不安でした」


「ああ、ごめん」


「結婚するのですね?」


「ああ、間違いなく」


「それで満足してあげます」


「良かった」

「どうなるかと思った」


「どうなると思ったんですか?」


「最悪、刺されるかと思った」


「それも良いですね」


「冗談だよな?」


「当然です」

「本気にしましたか?」


「ああ、最近のお前を見ているとな」


「プレッシャーを掛けた方が良いと言われました」


「だ、誰にだ?」


「プロミネンスです」


「待て、お前ら連絡はどうしてる?」


「専用の魔道具を持っています」


「プロミに持たされたのか?」


「そうです」


 あいつ。


 何故さっきその話をしない。


 俺が話す事でプロミが気付いたのか。


 時間が前後しているんだった。


「三人で話をしようと思ってプロミを呼んだんだ」


「わかりました」


「お前ら仲良いの?」


「ええ、気が合うんです」

「当然でしょう?」


「そういうもんなのか?」




 前の戦いから他都市は攻めて来ていない。


 準備しているんだろう。


 どの都市も自分の都市を守るのに精一杯で、準備に時間が掛る。





 夜中に目が覚めた。


 気配がする。


 リビアでは無い。



 暗殺か?


 俺が目覚めたのに感づいたのか、去って行った。


 あの気配には覚えがある。





 朝になった。


 昨日宿に来ていたのは、フレドリック・ユルロアだろう。


 彼に会いに行く。


「昨日はどうしたんだ?」

「フレド」


「気付いてたか」

「流石だな」

「……フレドは止めてくれ、呼ぶならフレッドだろ」


「フレドのがしっくり来るんだ、別にいいだろ」

「それより、帰った理由は?」


「リビアさんが隣で寝ているのに気付いてビビって帰ったんだよ」


「俺よりもリビアが怖いのか?」


「ああ、怖いね」

「容赦無さそうだ」


「要件は何だったんだ?」


「あんたがいなければ楽だったんだよ」


「俺のせいにするなよ」


「クルダムか?」


「そうだ」

「俺は無理だと言ったんだが」

「断り切れなかった」


「お前、俺が報復に来たらどうするつもりだったんだ?」


「あんたは俺を殺せない」

「俺は戦力だからだ」


「戦力ね」

「まあそうだな、戦力だな」


「今の説明じゃ不満か?」


「お前、演技が下手だな」

「余裕が有り過ぎる」

「奥の手があるって言ってるのと同じだぞ」


「…………」


「追求しないでおいてやる」

「それで?」

「動きが有ったんだな?」


「ついに来る」

「ローベルだ」


「そうか」

「来るか」


「ああ」


 ローベルはノスヘルより北東の位置にある都市だ。


 ルピアスの東に当たる。


「今度の敵は強いぞ」


「そうか」

「強いか」


「問題無いって感じだな」

「自信が有るのか?」


「いや、覚悟が決まっているだけだ」

「自信は無い」


 そろそろ、ダンジョン探索者が出てくるだろう。


 ローベルにはセラリア跡地が近い、潜っている奴らがいるはずだ。


 向こうの、現実世界の人間を何人か殺す事に成りそうだ。



 王に成る為に、何人殺すことに成るのだろうか。



 俺は既に人の道を外している。


 王に成るのに、犠牲はつきものだ。


 覚悟が出来ている、なんて、言うだけなら楽なんだが。

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