6話 コンビ

 槍を受け取った。


 柄は壁の外の世界の特別硬い樹で、刃は魔物の骨を削ったもので出来ている。


 全体的に軽くなっている。


 重量じゃなく、鋭さでダメージを与えるように作ってある。


 使いやすそうな良い槍だ。


 応対してくれた店員は大分頑張ってくれたようだ。



 早速試すために、ダンジョンに潜った。



 十階層を再戦だ。



 ダズから十一階層に潜る許可が下りない。


 手を抜くと無気力になるので、必然的に十階層に戻ってきた。


 最近調子が良い。




 ケンタウロスの影を連続で倒し続けた。




 ダンジョンに潜っている間に案内人七人で話し合いをしたらしい。


 コンビの組みなおしだそうだ。



 ダズとトアスのコンビが解消。


 トアスは、ソロだったタロストとコンビを組む。


 トアスは弟子のクレストをタロストと育てるらしい。



 ダズはソロになる。


 そして、ダズは俺とリビアの面倒を見るらしい。


 俺とリビアがコンビを組む。



 タロストの紹介は省く、クレストも今はどうでも良い。


 リビアの話が重要だ。


 リビアは案内人候補生だ。


 一応俺と同じ案内人候補生。


 リビアとはまだ話したことも無い。


 食堂で見かけた事がある。


 真面目そうな年上の女性だ。


 武器は剣と盾らしい。


 十人いたら九人は美人と言うだろう。


 あとの一人は特殊な病気じゃないだろうか。



 明日からコンビだと言われても困る。


 何話して良いかわからない。


 ダズは、困っている俺を見て笑っている。


 全く笑い事じゃない。




 リビアはトアスの弟子なので、今回の話には不満があるらしかった。


 それは当然だ。


 リビアは今いる候補生の中で一番優秀らしい。


 プライドは大事だ。



 納得するために、俺と一対一で試合をすることになった。


 勝手に決められても困るが断れない。




 朝から近くの訓練場に集まった。


 来たのはリビア、ダズ、ジグ爺だ。


 ジグ爺が立会人だ。


 ジグ爺は案内人のまとめ役だ。




 本当にやるのかと問いたい。


 真面目そうだから、俺が適当に負けて終わりには出来ないんだろうな。


 手を抜くと無気力になるんだった。


 全力しかないな。




 お互い、練習用の武器を構えた。


「始め」


 掛け声と同時にリビアの突きが来る。


 間合いの内側に入られないよう、下がって対応する。


 下がってすぐに牽制を入れる。


 ずるずる下がらされるとジリ貧だ。


 牽制を、盾を使って防がれた。


 リビアは左手に盾、右手に剣を持っている。


 盾が俺を向くよう、俺を中心に左回りに移動してくる。


 防御主体なのだろう。


 俺に剣を持った方に回り込まれないよう立ち回ってくる。


 こっちが突きを入れると、槍を下げたタイミングで切り込んでくる。


 盾と剣を使った連続攻撃。


 動きが伸びやかで、キレがある。


 相当運動神経が良いのだろう。


 動作の一つ一つに華を感じる。


 攻撃に対して、牽制を入れるものの、後退させられている。




 間合いに入られないよう後退と牽制を続けている。


 正直苦しい。


 連続攻撃に隙が無い。


 間合いの内側に入られて一撃貰うのは時間の問題だ。



 そう思った時、連続攻撃の違和感に気づいた。




 あの連続攻撃さっきもやっていなかったか?


 盾で槍をいなしてからの払い、突き、振り下ろし。



 見た気がする。


 連続攻撃にはパターンがあるようだ。


 種類も多くない。


 キレのある動きに翻弄ほんろうされていた。




 読めた。


 振り上げるのを読んで同じタイミングで槍を追従させる。


 突きの後は振り下ろしと読めているので余計な気を使わない。


 振り下ろそうと体重を掛けた時には首にピタリと刃が当たっていた。


 動きが読めていると教える前に隙を突けた。


 運が良かった。


 勝った。


「勝負ありですね」

「リビアさん納得が行きましたか?」

「彼は頼りになりますよ」


「悔しいですが、仕方ありませんね」

「クリア、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく」


「ダズ、彼は何なんでしょう?」

「彼の様なタイプは初めてです」


「俺も驚いています」

「リビアに勝つとは思いませんでした」


「彼に引っ張られて、リビアも飛躍してくれると助かるのですが」

「ダズ、あとは任せますよ」

「今日は良い物が見られました」

「私はやることが有りますのでこれで失礼します」





「はい、どーもー、えーそんな訳でこれから三人でやっていくわけですけども」


 なんだその出だし、漫才師か。


 ダズにやる気が感じられない。


 いつもか。


「言っておく」

「俺の育成の方針は、『自主性に任せる』だ」


 育成とは名ばかりだな。


「冗談はさておき、本当にどうしたい?」

「何か意見は?」


 意見と言われても難しいな。


「リビアは何階層まで進んでいるんだ?」


「二十二階層ですが」


 倍以上差があるのか。


「俺が十階層までしか進んでないから、十一階層から付き合ってほしいけど、でも、連携できるかな?」

「二人とも全力を出している状態で合わせられないと、コンビの意味が無いと思うんだ」


「どうせなら一階層から合わせていくというのはどうでしょう?」

「十階層までならそんなに時間はかかりませんよ」


 お、結構やる気出してくれるんだな。


 その案乗った。


「じゃあ一階層から頼む」

「ダズもそれでいいか?」


「いい様にしてくれ」


 命の恩人はいつも通りだな。



 一階層からやり直す前に二人に言っておくことがある。


 無気力症状の事だ。



 そんな症状聞いたことが無いというのが二人共通の反応だ。


 ただダンジョンに潜るペースは俺に合わせてくれるらしい。


 手を抜いたかどうかは完全に俺の主観だからな。


 それしかやりようもない。


 申し訳無いが合わせて貰う。




 一階層から改めて始める。


 俺は槍、リビアは剣と盾。


 俺が攻撃役、リビアが引き付け役だ。


 俺がリビアの動きに合わせる事で連携が成立する。


 起点はリビアだ。



 一階層は泥ゴーレム。


 リビアが盾で泥ゴーレムの攻撃を防ぎ、俺が横から槍で攻撃する。


 リビアだけで倒せるから、防御に徹してくれている。


 問題ないな。


 念のため音を出して泥ゴーレムを湧かせたが問題なかった。



 二階層は一回り大きくなった泥ゴーレム。


 問題ない。


 一階層と同じように対応出来た。



 三階層は泥ゴーレムが石の棍棒を持っている。


 問題ない。


 むしろ余裕が有りすぎて全力で動きにくい。



 四階層から泥ゴーレムの武器が増える。


 何というか、楽だ。


 リビアが俺の分まで敵を引き付けてくれるから、攻撃に専念できる。


 この階層からの盾持ちの敵は脅威だったが、それももう終わりだ。


 二人とも全力で動いているので、倒すスピードが前と段違いだ。



 あっという間に五階層。


 火を飛ばしてくるゴーレムが出てくる。


 殲滅スピードが段違いなので、四階層と同じだ。


 楽。


 このままだと無気力症状が出てしまうんじゃないかと心配になる。




 まあ、予想通りだ。


 本番は影が出てくる六階層からだ。


 だが時間が来た。


 今日はここまでだ。




 もう夜になっていたので食堂で一緒に食べた。


 疲れているので無理に会話しない。


 しかし、リビアは嬉しそうに食べるな。


 女性が嬉しそうに食べているのを見るのは癒される。


 初めて知った。




 次の日は朝からダンジョンに潜った。


 一階層から五階層までを最短コースで進む。




 着いた。


 六階層。


 ここからだ。



 影はリビアが攻撃を引き付けるように立ち回っているのを理解しているようだ。


 時々こっちに攻撃が来る。


 リビアは存在感を上げて注目させることが出来るらしい。


 だんだんとこちらに攻撃が来なくなった。


 槍が影に突き刺さる。


 やはり楽だ。


 もう七階層に進んでもいいだろう。


 動きとしては二人とも七割くらいの動きが出来ているんじゃないだろうか。


 始めたばかりにしては上出来だろう。



 七階層。


 影が一回り大きい。


 でもやることは同じだ。


 同じように対処できる。


 だんだんと呼吸が合ってきているように思う。



 八階層。


 フロアが一室しかない。


 二日分の携帯食を用意してきた。


 あと二日はここで過ごす。


 二人だと問題なく対処できる。


 合わせる事だけに集中する。



 食事休憩以外はぶっ続けで動き続けた。


 睡眠も取っていない。


 合わせるには体力よりも集中力がいると解ってきた。


 あと想像力も。


 今はまだ、お互いの動きを予想しないといけない。


 予想しないでも動けるようになるのが理想だろう。


 そこまでもっていくにはどうすれば良いだろうか?



 一日の休みを挟んで九階層。


 更に一回り大きくなった影。



 ここも二日ぶっ続けで動き続けた。


 リビアは文句を言わず付き合ってくれている。


 手を抜けないというのが伝わっているだろうか?


 反対に緩いと感じているのだろうか?


 動きからは不満を感じない。


 たぶん大丈夫。


 やっていけている。



 一日休みを挟んでついに十階層。


 ケンタウロスの影だ。



 リビアが引き付け、俺が横から槍で攻撃する。


 他の影と同じだ。


 他の影よりデカくて隙が少ないが、それだけ。


 二人だとたいした脅威じゃない。


 囲まれないし手堅く対処できる。



 ケンタウロスの影が出現しては消えていく。


 ここも二日続けた。



 あれだけ時間のかかった十階層分を一週間でクリアした。



 これなら十一階層も大丈夫か?

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