7話 もっとわかり易く

 目が覚めると涙を流していた。


 何故かしばらく止まらない。


 何か悲しい夢でも見たのか?


 覚えていない。




 この前リビアが食事しているのを見てから、何かおかしい。


 何かを思い出しそうな感覚があるが、何かわからない。


 リビアの事が好きとか、そういうんじゃない気がする。


 なんだろう?




 十一階層は九階層と同じ影が出てきた。


 拍子抜けだ。


 同じように対処できる。


 変わったのは、入るごとに階層の構造が変わるようになった事みたいだ。



 十二階層も十一階層と同じだった。


 ただし、階層が広くなっている。


 次の階層への階段が遠い。




 十三階層も十一階層と同じだ。


 だが予想通り更に広くなっている。


 とにかく時間が掛る。


 いやな予感がするのでリビアに聞いてみた。


「これ何階層まで続くんだ?」


「十九階層ですね」

「段々と広くなっていきます」

「クレストと潜っている時は、十九階層までに二週間くらいかかっていました」


 なるほど。


 リビアが文句を言わなかったのはこのためか。


 忍耐の基準が普通とは違うんだ。


 今回は食料をそんなに持ってきていない。


 いったん引き返して、二十階層まで行く気で用意するか。



 リビアとの呼吸は合ってきている。


 合ってきているが、このまま続けていても百%にはならない気がする。


 何か決め手が必要だ。


 こんな時はダズに頼りたいが、いつも通り忙しいみたいだ。


 自分たちで何とかしないといけない。



 リビアに相談してみた。


 しかしリビアはピンと来ていない。


 百%で合わせるという事のイメージが違っているようだ。


 俺も具体的なイメージを説明できない。


 違っているという感覚だけだ。



 しばらくやり取りを続けると問題点がわかってきた。


 リビアは百%で動けていない。


 運動神経が良すぎて、相手に合わす癖がついているのだ。


 やっと自分の言いたいことがわかってきた。


 合わせようとして合わせるんじゃなくて、百%同士で動いて、その結果合わないといけないのだ。


 言い回しは微妙な違いだが、実現させる難易度に大きな違いがある。


 この分だと今までリビアは合わせてくれていただけだ。


 百%で動いていない。


 リビアが起点なんだ。


 まずリビアが百%で動かないとダメだ。


 逆に合わせるのは俺の役目だ。


 無理に引き付ける役目をしようとすると、百%で動けないんじゃないかと思う。


 何にせよ根本的な見直しが必要だ。




 決めた。


 もう別々に動く。


 連携は取らない。


 とにかく二人とも百%で動く。


 それだけ。


 近くでクリアが戦っているな、という認識で良い。


 百%で動くお互いをお互いが観察し合う。


 そこから俺が近づいていく。


 徐々じょじょに。




「クリア」

「本当に別々で良いのですか?」


「問題ないよ」

「俺の事より、自分が百%で動く感覚を意識して」

「自主練の時は出来てる筈なんだから」


「百%で合わす?」

「のは、本当に意味が有るのですか?」


「俺にだって確信は無いけど…………」


「…………」

「仕方ないです」

「せっかくコンビになった事ですし、言う通りにしてあげます」


「リビア」

「ありがとう、だから」


「…………」


 リビアは向こうを向いてしまった。


「どうした?」


 彼女はそのまま答える。


「いえ」

「何でも無いです」

「ひゃ、ひゃくぱーせんとでしたね」

「気合が入りました」




 二人で荷物の分担をする。


 二十日分用意した。



 一階層から気配読みをフルに使い最短距離で進んでいく。


 リビアは気配読みが得意じゃない。


 俺の動く方向についてくる。



 別々の敵を倒しながら歪に進んでいく。



 十階層はリビアが一人でケンタウロスの影を倒した。


 おそらくこの戦いで見せた動きが、リビアの素の動きなのだろう。


 ケンタウロスを圧倒していた。




 十一階層からはフロアの構造が変化する。


 気配読みからの索敵が有効だ。


 リビアは別々に行動しつつも俺についてくる。


 俺は百%で動いている。


 リビアもは百%で動けているだろうか?




 俺はリビアとの距離を縮めつつある。


 ちょっと邪魔するよ。


 ってなかたちで、俺の動線とリビアの動線が重なり合う。


 俺担当の魔物とリビア担当の魔物がかち合う。


 リビアが引き付け役をやっていないので魔物の攻撃対象はまちまちだ。


 非常にやりにくい。


 だが動きは百%で、連携は取らない。


 これを続ける。




 十四階層までは同じように邪魔し合いながら進んだ。


 十五階層でそれは起こった。


 俺の魔物が邪魔になったリビアが、二体とも倒そうと注視を使った。


 俺は無視して自分に近い所にいる魔物を倒した。


 二人とも全力で動いていた。


 これだ、この感じ。


 リビアにも伝わっていれば良いが。



「クリア!」

「感覚がわかりました、何が百%で動く、ですか!」

「これじゃ私は百二十%です!」

「もっとわかり易くお願いします!」


「リビア、%は百を超えない、百%ってのは、限界ってイメージだよ」


「そうです、限界のイメージ!」

「先にその表現を使って欲しかったです」


「えー?」

「俺が悪いの?」


「そうです」

「言葉足らずなクリアが悪いです」


 言い分に理不尽さを感じるけど、伝わったらしい。


 これで完璧だ。




 十九階層までは楽勝で行けた。



 二十階層は団子が二十個刺さった櫛団子の様な構造になっている。


 楕円形のホールに一本まっすぐに通路が通っている。


 楕円形のホールが二十個ある。


 そんな構造だ。


 楕円形の中に今までよりもう一回り大きい、角の生えた影が七人パーティーを組んで待っている。


 各楕円形に、一パーティーずついるらしい。


 同時に七人という波を二十回も超える、まぐれの通用しないタフな階層だ。




 だが躊躇ためらわずに進んだ。


 今、リビアとは息が合っている。


 行けるだろう。




 リビアが注視を使って七人を全力で引き付ける。


 敵の盾持ちも注視を使えるようだ。


 俺の視線が注視を使った剣盾持ちに吸い込まれる。


 俺は仕方なく剣盾持ちから処理する。


 リビアの動きが良い。


 リビアは剣盾持ちに視線を合わせたまま、槍持ちの懐に入り、処理した。


 俺も剣盾持ちにとどめをさした。


 残り五人。

 

 メイス盾持ちが注視を使う。


 俺達の視線はメイス盾持ちに集中する。


 俺は弓が邪魔なので弓を処理しに行く。


 視線は弓持ちに合わせられない。


 気配を読んで移動する。


 弓持ちはリビアを標的にしている。


 リビアはメイス盾持ちを相手にしながら大剣使いも引き付け、なおかつ魔法タイプを牽制している。


 その間に俺は弓を始末した。


 リビアの剣が魔法タイプを切り裂いた。


 魔法タイプは弱っている。


 俺が魔法タイプを処理し、リビアは大剣使いの間合いの内側に入り込む。


 リビアが大剣使いにとどめをさしたのと、俺がメイス盾持ちにとどめをさしたのは同時だった。


 これで七人。



 やっと七人。



 これがあと十九回続く。


 やっぱりタフな階層だ。




 俺たち二人は流れるような動きで、次々と敵を倒し、残り十九回の波を乗り越えた。




 十一階層から二十階層まで一か月かかっていない。


 リビアのおかげだ。



 食料はまだ残っているが、いったん戻る事にする。


 俺のよくわからない主張にリビアはよく付き合ってくれたなと思う。



 ダンジョンを出ると、夜だった。


 二人食堂で食べた。


 俺は大盛りカツカレー。


 リビアはコロッケとクリームシチューの定食。


 食堂のおねーさんとは、二人とも顔なじみだ。


 リビアは、ライスを大盛りにして貰っていた。


 席に着く。


「リビア、結構食べるね」


 おっと、つい必要無い事言ってしまった。


「む」

「クリア、今何か嫌な話、始めました?」


 ヤバい。


 眉間に皺が出来ている。


 ごまかせるか?


「え?」

「そう?」

「それだけ食べて太らないって反則だろ、って話だけど」


 思っている事を言うだけだ。


 何も難しいことは無かった。



 リビアは笑顔だ。


 満面の笑み。


 機嫌が直ったみたいだ。


 良かった。


「クリアから見て、太って無いと?」


「当り前だよ」

「誰が見てもそう言うよ」


「ふふ」

「悪い気しませんね」

「おねーさんから、一つコロッケをあげましょう」


 コロッケが一つ手に入った。


「カツカレー、少し食べる?」


「良いのですか?」


「コロッケのお返しだよ」


 俺は、カツ二切れをリビアのライスの皿に乗せて、ルーをかけた。


 戦闘以外の連携も順調だ。


 楽しい。



 明日は一日休みだ。


 リビアは休みの日には何をして過ごすのだろう。

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