2話 目指す先

 

(レイセ視点です)


 アルコル:「くっ!」


 シロさんのナイフがアルコルの右腕を切り裂く。


 アルコルはカタナの間合いの内側に入られ、距離を取ろうと必死だ。


 必死に後ろに下がる。


 シロさんは距離を取られないように、前に前に攻める。


 アルコルはナイフの攻撃をカタナの腹で受けて凌いでいる。


 不意にアルコルが前に出た。


 アルコルは、シロさんがナイフを持っていた右腕を、左腕で掴んだ。


 アルコルが左手に持っていた魔銃はその場に捨てている。


 シロさんは右手のナイフと左手の魔銃を手放して、左手の手刀で右腕を切り離した。


 瞬間、切り離された右腕が灰になる。


 シロさんは残った左手で、ナイフを拾った。


 ナイフを拾ったタイミングで、アルコルがカタナを右から左へ。


 シロさんは右腕を回復させつつ、後ろに下がろうとする。


 完全にアルコルの間合いだ。


 アルコルの攻撃をナイフで受けるのが難しい。


 アルコルは連続でカタナを振るう。


 振った先から斬撃が飛び、シロさんに向かう。


 シロさんはリフレクトを斜めに配置して斬撃を逸らす。


 斬撃を躱すのには近距離過ぎて無理だ。


 威力もある。


 リフレクトは斬撃を反射しては粉々に砕けている。


 アルコルの攻撃を捌くには、距離がまずい。


 更にもっと間合いを詰められれば、シロさんに有利だが。


 さっきのように内側に入れない。


 シロさんは捌き切れなくなり、斬撃を手で逸らそうとした。


 左手で斬撃を遮る。


 斬撃の角度が変わったが、左手が切り落とされた。


 アルコルは間合いを詰めた。


 シロさんの左側にハイキック。


 シロさんは肩でハイキックをもろに受けて横に吹き飛ぶ。


 シロさんは吹き飛んだまま左手を回復させようとしている。


 アルコルはシロさんに向かって斬撃を連続で飛ばした。


 シロさんは地面に転がりながら、リフレクトを展開。


 斬撃の軌道を変えようとする。


 数が多い。


 立ち上がって、ナイフで斬撃を弾く。


 斬撃は増えていく。


 ナイフ一本で防ぎ切れなくなってきた。


 シロさんは瞬間的に移動速度を上げた。


 根源からの力を使ったクロックアップ。


 俺のオーバーライドインフィニティーと同じだ。


 連続で斬撃を弾き、一瞬の間を作る。


 刹那、瞬間移動。


 アルコルの真後ろに出た。


 アルコルはスライドで振り返って、カタナを斜めに振り下ろした。


 シロさんは超速移動を維持。


 アルコルのカタナの間合いの内側に入った。


 アルコルも超速移動を使う。


 アルコルの右膝がシロさんの腹に命中した。


 シロさんは、くの字に折れ曲がる。


 シロさんはナイフを手放した。


 シロさんは左腕でアルコルの右腕を殴った。


 アルコルはカタナを地面に落とした。


 アルコルは右拳でシロさんの顔を殴った。


 シロさんは右拳でアルコルの顔を殴った。


 二人とも超速移動を維持したままだ。


 全力の殴り合いになった。


 二人が拳を振るう度に頭が上下する。


 そのまま殴り合いは、一時間程続いた。


 俺は武器化を解いて、近くで見ていた。


 二人とも、一歩も引かなかった。


 互角だ。


 二人は笑っていた。


 何がおかしいのか、俺にはわからなかった。


 二人の右拳が、同時に顔面に命中した。


 そのまま硬直。


 二人は光に包まれた。


 融合だ。


 納得したらしい。


 シロさんは融合がどうなるか理解していると言っていた。


 勝負は互角だった。


 互角と読んでいたのだろう。


 光が無くなった。


 見た目はシロさんと同じ。


 服装はアルコル。


 キシで出来たカタナを拾った。


 話始める。


 クロス:「理解出来ているか?」


 レイセ:「ああ、たぶん」


 クロス:「そうか、まあ、そうだろうな」


 レイセ:「で、どうするんだ?」


 クロス:「話は後だ、いったん休む」

 クロス:「お前も休め」


 レイセ:「嫌な予感がする」


 クロス:「さあな」

 クロス:「俺の意見をお前に話して、お前がどんな反応をするのか、俺にはわからん」

 クロス:「とにかく休め」


 レイセ:「わかったよ」

 レイセ:「ルプリレ、寝るわ」


 ルプリレ:「また?」

 ルプリレ:「起きといて下さいよ」


 レイセ:「ごめん、時間になったら起こして」


 ルプリレ:「仕方ないわねー」





 ルプリレ:「そろそろ起きてください」

 ルプリレ:「制限時間が迫っています」


 レイセ:「くそう、寝足りない」


 ルプリレ:「十分でしょ」

 ルプリレ:「私は起きてたのに」


 クロス:「はやくしてくれ」


 レイセ:「わかった」


 俺は寝袋から出た。


 レイセ:「で?」


 クロス:「管理者を全員始末する、というのは止めにする」


 レイセ:「おお!」


 クロス:「管理者には権利を放棄してもらう」


 レイセ:「んん?」


 クロス:「管理者の仕事は俺一人でやる」


 レイセ:「またそれか」


 クロス:「俺ならやれる」


 レイセ:「なぜそうなる」

 レイセ:「バランサー、意見は?」


 バランサー:「どうなるかはわかりません」

 バランサー:「試した事は無いのです」


 クロス:「だとよ」


 レイセ:「なぜ一人で背負いたがる?」


 クロス:「お前に言われるとはな」

 クロス:「それはお前の方だろ」


 レイセ:「俺が、なんだ?」


 クロス:「お前はどういうつもりで管理者になろうとしている?」


 レイセ:「俺は、自分以外に適任者がいないからだ」


 クロス:「自分が適任だと?」


 レイセ:「悪いか?」


 クロス:「お前には、この世界をどうしたいかという目標が無い」

 クロス:「俺にはお前は不適格だ」

 クロス:「ただ状況に流されてきただけだ」


 レイセ:「お前の言いたいことは、なんとなくわかる」


 ルプリレ:「レイセ!」

 ルプリレ:「認めてしまうの?」


 レイセ:「いや、違う」

 レイセ:「最後まで聞け」

 レイセ:「完全な状態になったお前を見て、俺がどう思ったかわかるか?」

 レイセ:「俺は勝負しても負けないな、と思った」

 レイセ:「クロス、お前じゃ世界を支えられない」

 レイセ:「その役目は、たぶん俺だ」


 クロス:「不安定なお前に負ける、か」

 クロス:「決着をつけるしか無いな」


 レイセ:「そうだ」

 レイセ:「こうなる気がしていた」


 クロス:「この状態になって確信した」

 クロス:「お前には任せられない」


 レイセ:「それは俺のセリフだ」

 レイセ:「バランサー、勝負する時間は残っているか?」


 バランサー:「おそらくは」


 レイセ:「ルプリレ、武器になってくれ」


 ルプリレ:「いいけど」

 ルプリレ:「勝てるのね?」


 レイセ:「たぶんな」


 クロス:「お前には無理だ」


 レイセ:「時間が無い」

 レイセ:「はじめていいか?」


 クロス:「ああ」


 ルプリレは剣になった。


 俺は右手の剣を前へ。


 クロスは右手のカタナを前へ。


 剣とカタナが触れた。


 瞬間剣を後ろに引く。


 引いた剣を右から左へ。


 クロスも引いたカタナを右から左へ。


 剣とカタナがぶつかり合う。


 戻す速さ、振る速さ、威力。


 どれも互角。


 今の所は。


 俺は左手を前へ。


 大きくバックステップ。


 空間から魔銃を取り出し、左手で引き金を引いた。


 連続で撃つ。


 クロスも同じ動きで魔銃を撃つ。


 弾と弾がぶつかり合う。


 速度とタイミングが読めている。


 弾に弾を当てるのは容易い。


 斬撃を同時に放つ。


 連続で放つ。


 クロスも同じ動き。


 斬撃と斬撃が打ち消し合う。


 ふん。


 まあ、こうなるか。


 俺には、目指すべき目標が無い、か。


 痛い所を突きやがる。


 確かに。


 確かにな。


 その通り。


 俺には目標が無い。


 流されてきただけだ。


 何故か?


 俺にしか出来そうにないからだ。


 何故かそんな気がしている。


 クロス、お前の実現したい世界はわかっている。


 改変の無い世界にしたいんだろう?


 言いたいことはわかる。


 その役目は俺が頑張ってやる。


 お前はもう役目を降りろ。


 後は俺が引き受ける。


 だからお前は俺には勝てない。


 それを教えてやる。


 すべて済んでからバランサーに頼めば、青子さんをどうにかできるかもしれない。


 あるいは、大迷宮攻略の見返りとか。


 番人がいるんだから、何かを守っているだろ。


 これが済んだら、ガリムと協力して大迷宮を攻略する。


 お前は青子さんと幸せに暮らせ。


 ここからが本当の全力だ。


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