第9話 死の道化師2
レイセ:レイセ・クリア・クロト・ノキシュ。
黒戸零維世。
連合国クロトと聖国クリアの王。
キシ:キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー。
死兵国プロンシキの英雄だった。
死兵使い。
仮面の男:『復讐者』。
黒巣壱白の半身。
管理者に近い存在。
非常に高い戦闘能力を持っている。
(※『ウォーターフォックス』、キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー視点です)
『静寂』を全て始末した。
現世の身分を情報交換していないチームは脆い。
連携と警戒が不十分だ。
人間を殺すのは不本意だが、犠牲無しで物語を上回れるとは思えない。
クソみたいな間違った覚悟だ。
自覚していてもやってしまう。
やれてしまう。
もう僕は人間では無いかもな。
魔物とそう変わらない。
『復讐者』:「お前を使ってやる」
『静寂』全員を仕留めた所で声を掛けられた。
まったく気配が無かった。
味方なら心強い。
キシ:「今頃ご登場か」
キシ:「打ち合わせる必要あるかい?」
もう僕は人の命を奪った。
一人でもやるつもりになり始めていた。
逆に説明が面倒だと思う。
『復讐者』:「挑発か?」
『復讐者』:「受けてやってもいいぞ」
キシ:「嫌味にだけ反応するなよ、説明は?」
『復讐者』:「人数集めは任せる」
『復讐者』:「俺はダンジョン攻略を進めておく」
『復讐者』:「攻略に邪魔が入らなければそれでいい」
キシ:「了解」
キシ:「『リーベラティーオー』が出来たら挨拶位してくれよ?」
『復讐者』:「…………、お前の働き次第だ」
キシ:「運命を超えられると思うかい?」
『復讐者』:「知るか」
『復讐者』:「お前は物語の主人公を誰に設定している?」
キシ:「ははははは」
キシ:「確信を突く一言って奴だね」
キシ:「今の僕の行動は単に物語を転がすだけかもしれないね」
『復讐者』:「全員がそうだ」
『復讐者』:「管理者を始末するまではな」
キシ:「魔物の王は殺れそうかい?」
『復讐者』:「奴の存在感にダメージを与えるイメージが出来ない」
『復讐者』:「無理だな」
キシ:「方法の見当はついている」
キシ:「あんたもだろ?」
『復讐者』:「ダメージの問題が解決してもレイセ達と共闘が必要だろう」
キシ:「それはレイセ達も同じ認識なのかい?」
『復讐者』:「この間奴等が戦ってるその場にいた」
『復讐者』:「魔物共も中々やる」
『復讐者』:「そうなる」
キシ:「ふーん、でも戦争で引き分けてから考えるんだよね?」
『復讐者』:「不本意だが流れに逆らえないだろ」
『復讐者』:「魔物の王を始末したら次はレイセだ、選定が終わる前に片を付ける」
キシ:「武器の用意は僕がする」
キシ:「僕の役目が終わってからだ」
キシ:「それでいいかい?」
『復讐者』:「酔狂な奴だな」
キシ:「あんたに言われたくないな」
『復讐者』:「俺は例外だ」
『復讐者』:「もう行く」
キシ:「連絡にはこれを使ってくれ」
僕は魔道具を投げた。
『復讐者』はマジックバッグに魔道具を収納した。
『復讐者』は夜の闇を駆けて行った。
さあ、一芝居打つか。
* *
(レイセ視点です)
ロベストロニアとゼスストが戦闘準備に入った。
やり合うつもりらしい。
人間同士の争いがもう始まろうとしている。
二国とも『フィナリスラーウム』からの連絡に応じない。
しかしこっちは攻略で手いっぱいだ。
静観するしか無かった。
静観を初めて一か月後、事態は思わぬ形で終結する。
キシ・ナトハ・ソアミ・カジャーがロベストロニアの皇帝シトレ・トゥレ・ナンドを討ち取ったらしい。
キシは英雄に返り咲いた。
そして、連合都市ゼスストは新生ロベストロニア帝国に併合された。
ロベストロニアの『静寂』と、ゼスストの『トパーズ』はキシの軍門に下った。
キシはチーム『リーベラティーオー』を立ち上げた。
ふざけたネーミングだ。
仮面の男を管理者に推し、契約解除を謳っている。
他にも奴に従うチームが出てきそうだ。
やはりキシが動いた。
それも想定の数倍早い。
あっという間に二国を手に入れやがった。
ネストロスの『マギ』が『リーベラティーオー』に接触したらしい。
おそらくそのまま『マギ』は『リーベラティーオー』に加わる。
次は氷上国家カハを引き入れるだろう。
カハも『フィナリスラーウム』からの連絡に応じない。
俺は直接訪問することにした。
* *
(キシ・ナトハ・ソアミ・カジャー視点です)
『トパーズ』のリーダー、ロークがベリーと戦っている。
寡黙な男、ローク。
彼は『トパーズ』一の戦闘能力だ。
そしてリーダーでもある。
ベリーは互角の勝負を演じている。
ベリーは演じているだけだ。
実力はベリー方が上。
ベリー。
プロミネンスと似ている。
違う、プロミネンスがベリーに似てるんだ。
ローク:「……、強い」
ベリー:「貴方の方こそ」
ローク:「…………」
ニック:「ロークと互角だと!?」
ニック:「キシ、あんたはベリーより強いんだよな?」
ニックは『トパーズ』の主要メンバーだ。
メンバー同士で出た意見を、事実を元に纏める調整役。
キシ:「まあね」
共に完全融合したロークとベリーは勝負に出る。
ロークは棍を操る。
ベリーは片手剣の二刀流。
ロークが棍で連続の突き。
おそらく全力の突きだ。
ベリーは両手の剣で必死に撃ち落とす。
ベリーは徐々に間合いを詰めていく。
ロークはことごとくを防がれ、下がるしかない。
訓練場の端に追い込まれていく。
焦りが棍捌きに乱れを生じさせる。
ベリーは左片手剣で棍を押しのけ、大きく一歩踏み込んだ。
ロークが棍を諦め別の武器に切り替えようと判断した時には、ベリーの右片手剣がロークの首にピタリと止まっていた。
ベリー:「私の方が上ね」
場が静まり返る。
フレア:「貴方はソロって噂だったんだけど……」
フレアは『トパーズ』の広報担当。
『トパーズ』はいつも開放日に全員顔を出している。
が、交渉は全て彼女が行っていた。
僕も何度か話した事がある。
状況を俯瞰し、不足を補う発言をする。
今回も疑問点を口にした。
ベリーは『ウォーターフォックス』のメンバーだ。
メンバーは十五人。
彼女はサブリーダー。
サブリーダーは他に二人。
他のサブリーダーはベリーと同程度の実力だ。
キシ:「噂はあくまで噂に過ぎないよ」
キシ:「表に出ていたのが僕一人だっただけさ」
この訓練には、『トパーズ』、『静寂』、『ウォーターフォックス』が参加している。
ダンジョン攻略を行うにあたって、互いの実力を確認したいとの申し出だ。
この話は『トパーズ』から提案があった。
『静寂』は十九人全員を僕が操作している。
『トパーズ』は気が付いていない。
フレア:「サリーン、納得した?」
サリーン:「……、うん」
サリーン:「キシさんが三チームの纏め役ね」
サリーン:「納得した」
きっとサリーンが合同訓練をチームに提案したのだろう。
もしかしたら僕の演技に不自然なところがあったのかもしれない。
勘の鋭い女性だ。
要注意。
ローク:「……、『静寂』の意見は?」
サイフェ:「『静寂』に異論は無いぜ」
サイフェ:「内乱でキシの実力は見させてもらった」
サイフェはロベストロニア帝国の騎士団長だった男だ。
『静寂』の纏め役を務めていた。
当然彼は死んでいる。
僕が彼の脳から記憶を読み取って言いそうな事を喋らせている。
違和感は無い筈だ。
死兵には必要ないが、心臓を動かし、呼吸と瞬きをさせている。
死と生への冒涜。
自分の行いに反吐が出そうだ。
自分の好みと適性が僕くらい食い違っている人間は他にいないだろう。
気分が沈み込む。
きっと顔色が悪い筈だ。
ジュリット:「ロベストロニアは良い気候ね」
アイアリ:「そうねー」
アイアリ:「ピクニックとか行きたいね」
ベリー:「でも少し肌寒くなって来たわよ」
ジュリットとアイアリも『ウォーターフォックス』のサブリーダーだ。
ジュリットはムードメーカー。
アイアリは大人しく引っ込み思案、実は負けず嫌い。
ベリーもシャイだがそう見えない様に振る舞う。
僕が言葉に詰まると会話を始める。
天気の話をしているが内容はノー天気だ。
場が和む。
ヘストン:「ピクニックも良いが、食事はどうだった?」
ジュリット:「美味しかった」
ジュリット:「昼食は『トパーズ』が用意してくれたのよね?」
マリブ:「わしの洋食屋で出しとるメニューを提供させてもらった」
マリブ:「気に入って頂けて何よりじゃい」
ヘストンは『静寂』の主要メンバー。
皇帝と仲が良かったが戦争には反対だった、そういう設定だ。
彼も死兵。
僕はこの和やかな雰囲気を続けたかった。
話題を提供した。
マリブは『トパーズ』の主要メンバーの一人だ。
現世では頑固爺。
洋食屋をやってる。
かなりの人気店だ。
簡単に調べがついた。
彼は一旦気に入ると、とことん良くしてくれる。
彼を裏切るのは心が痛む。
だが僕の計画は上手く行きそうだ。
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