第23話 死

 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。

 直樹:黒沼直樹。

    ベルの現世の姿。

    黒羽高校の数学と物理の先生。

    有名大学卒のエリート。

 十夜:黄山十夜。

    ファガスの現世の姿。

    有名大学の学生。

    香織と付き合っている。

 友介:青井友介。

    コナルの現世の姿。

    有名大学の学生。

    美月が好むものが好きになる性格。

 美月:黒戸美月。

    ニーナの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    芸能活動をしている。

    有名人。

 美弥子:篠宮美弥子。

     アリアの現世の姿。

     黒羽高校一年生。

     歌と物語にどっぷり浸かっている。

 香織:黒沢香織。

    リアンナの現世の姿。

    一流企業社員。

    十夜より年下に見える容姿。

 鏡華:黒崎鏡華。

    プロミの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    生徒会長。

    零維世と付き合っている。

 シロ:黒巣壱白の分かれた半身。

    『ロストエンド』のマスターだった。

    『能力』者部隊の元隊長。

 レミ、ミア:香月姉妹。

       灰崎正人を信奉している。

       冒険者ランクで表せばS級以上の実力。






 次の手は?


 どうする?


 何か、何か無いか?


 レミ:「諦めろ」


 ミア:「言っても無駄よ」


 俺は左手で片方の薙刀に触れる。


 ゆっくりした動作で薙刀を首から遠ざけようとするが、ビクともしない。


 ピタリと首元に固定されている。


 遊間を横目で見る。


 余裕が無さそうだ。


 やはり助けは期待できない。


 潔く負けを認めて殺されようか?


 もう何も手は残っていない。


 俺の運命はここまでだ。


 …………。


 本当にもう何も無いのか?


 まだだ、まだ終わりたくない。


 終われない。


 零維世:「助けてくれ!」

 零維世:「そうだ、俺は金持ちの息子だ」

 零維世:「好きな物が手に入る」

 零維世:「俺の味方にならないか?」


 レミの刃が俺の喉を突く。


 喉から血が垂れる。


 俺の口からは、みっともない言葉が次々と溢れ出てきた。


 俺は気付いたら土下座をしていた。


 部分融合が解けて、背中と足から血が流れ出ている。


 暖かい。


 反対に、心は冷えていっているようだ。


 呼吸が苦しい。


 痛みが酷い。


 命乞いをしている間にも、俺の命は尽きようとしていた。


 だが、俺はまだ止まれない。


 零維世:「助けてくれ」

 零維世:「助けてください」

 零維世:「何でもします」

 零維世:「どうか……」

 零維世:「どうか……」


 顔を突き合わせ笑い合うレミとミア。


 二人の勝ちが確定した。


 サディスティックな笑みを浮かべている。


 ああ、俺は殺される。


 俺は。


 俺は。


 俺はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。



 鼻水と涙で俺の顔はぐしゃぐしゃだった。


 でも、もう、心配ない。


 俺は死ぬのだから。






 俺は薙刀で何度も貫かれ、死んだ。




 ☆       ☆



 俺は薙刀を使って仰向けに寝転がらされ、何度も念入りに体を貫かれた。


 初めの内数回は痛みがあったが、そのうち反応できなくなった。


 抵抗する気も失せていた。


 遊間と心が圧し折れた時の事を話したが、そんな話は無意味だった。


 俺に次の機会は残されていない。


 そもそも、女性の管理者に夢を見せられたあの時に圧し折れている筈だったのだ。


 俺はどこかで選択を間違えた。


 俺の所為だ。


 俺が死ねば、この後どうなるのだろう?


 『フィナリスラーウム』は瓦解する、かもしれない。


 『リーベラティーオー』の勝利になるだろう。


 管理人は殺され、世界は破滅する。


 涙は流れっぱなしだ。


 情けない。


 俺はもうすぐ死ぬ。


 いや、死んでいるのか?


 痛みの感覚も、呼吸の感覚も、全て感じられない。


 消えていく。


 意識が遠のいていく。


 ……。


 俺は消えていく。


 …………。



 薄れ行く意識の端に、何か見えた気がした。



 あれは、なんだ?



 赤い。


 紅い。



 鳥?



 !



 まさか!!!!


 鏡華か!?


 

 ダメだ!!


 来るな!!


 来てはダメだ!!


 勝てない。


 勝てないんだ。


 ダメだ。


 鏡華。


 来るな。


 来るな!



 来るな!!



 意識が途切れた。


 







 話し声がする。



 鏡華:「やってくれたわね」


 レミ:「もう手遅れだわ」


 ミア:「遅すぎたのよ」


 鏡華:「遅すぎた、か」

 鏡華:「零維世、言われてるわよ」


 らしいな。


 なんだ、鏡華?


 俺が返事できそうに見えるのか?


 無理言うな。


 鏡華:「零維世、出番よ」


 無理だって。


 俺の出番は終わったんだ。


 鏡華:「さあ、立ち上がって!」


 はあ?


 お前から俺はどう見えてる?


 死んでるように見えないか?


 俺、間違ってるか?


 はぁー。


 もういいだろ。


 無理言うな。


 俺は負けたんだ。


 寝かせておいてくれ。


 鏡華:「貴方が死んだら、たぶん私も死ぬけど、いいの?」


 ああ、そうだった。


 なるほどね。


 俺が死んだら、お前も死ぬよな。


 確かに。


 それで?


 どうする?


 俺に生き返れって?


 無理言うな。


 鏡華:「さあ、いつまで寝てるの?」

 鏡華:「立って!」


 鏡華は泣いていた。

 

 ああ、気付かなかった。


 お前、泣いてたのか。


 莫迦かよ。


 俺が死ぬくらいの事、覚悟しとけよ。


 ああ、そうかよ。


 お前の事、泣かせたのか。


 そうか。


 そうだな。


 泣くよな。


 俺だって、泣くわ。


 悪かった。


 泣かせて、悪かった。


 待っててくれ。


 今起きる。


 起きるよ。


 待ってろ。


 待ってろよ。


 俺は起きる。


 息が止まってたらしい。

 

 呼吸をすると、空気が薄い。


 息苦しい。


 ハァー。


 ハァー。


 ハァー。


 ハ、ハ、ァハアッ、ハーハー。


 ハァー。


 スゥー。


 ハァー。


 レミとミアが呼吸に気付いて三歩づつ後ずさるのを感じた。


 俺は左手を動かし、首に巻かれたナニカを握りしめた。


 ゆっくり力を込めていく。


 首の肉ごとナニカを引きちぎった。


 普通なら致命傷だ。


 俺は意識を集中する。


 首の傷が回復する。


 俺は左手に体重を掛けた。


 ゆっくり、ゆっくり、上体を起こしていく。


 俺は完全に起き上がった。


 零維世:「ハァー、ハァー」

 零維世:「鏡華、悪い」

 零維世:「待たせたな」


 鏡華:「そう、それで良いの」


 鏡華は泣きながら、笑った。


 右手を見る。


 手首から先が有る。


 銃弾で撃たれた傷は残っている。


 薙刀で刺された傷が無くなっていた。


 どういうことだ?


 レミ:「あの状態から起き上がるなんて!」


 ミア:「レミ、どうする?」


 鏡華:「たぶん精神攻撃だわ!」

 鏡華:「夢を見せられてる」

 鏡華:「零維世、心当たりは?」


 零維世:「ある」

 零維世:「あの二人は特殊なマスクをしている」

 零維世:「目に見えないガスが噴出してるのかも」


 鏡華:「対処法は?」


 零維世:「呼吸しなければいい」

 零維世:「出来るよな?」

 零維世:「お前強くなってるし」

 零維世:「ちなみに俺はしばらく呼吸しなくて大丈夫だ」

 零維世:「十分吸った」


 鏡華:「ふふ、呼吸ね、さっき出来る様になったばかりよ」

 鏡華:「この世界も向こうの世界と変わらない」

 鏡華:「向こうで出来ることはこっちでも出来る」


 零維世:「そうだな、俺も気付いたらそうなっていた」

 零維世:「じゃー、余裕だな」


 鏡華:「そうね」


 レミ:「チッ、やるしかない」


 ミア:「……」


 レミ:「ミア、どうしたの?」


 ミア:「やっぱりちょっと待って」

 ミア:「あの状態から持ち直したのよ?」


 レミ:「灰崎様が言ってた通りになった?」


 ミア:「そうよ」

 ミア:「もし仮に、『夢幻』を破って来るようなら、私達は敵わない」



 二人が踵を返そうとしたその時、大きな、紫色をした影が視界に滑り込んできた。


 禍々しさを漂わせた、大きな狗。


 大きさはレムリアスと同じくらいか?


 狗を追いかけて、大男が姿を現した。


 レミ:「な、『処刑人』エクスキューショナー!」


 ミア:「嘘、嘘よね?」


 大男:「お前らは用済みらしい、……、やれ」


 紫の狗は二人を大きな顎で咥えて呑み込んだ。


 二人に逃げる暇は無かった。


 すべては一瞬で過ぎ去っていく。



 男は、黒い詰襟を着て、サングラスを掛けた大男だ。


 男の身長は二メートル以上。


 外国人でもこれほどの体格は見た事が無い。


 連れている神獣は、狗。


 レムリアスから流れて来る情報によると、かなり強い奴らしい。


 感情が薄く、マシーンの様に正確でパワフルに動き続ける。


 男の方も似たような感じがする。


 『処刑人』エクスキューショナー


 呼び名から察するに、敵対勢力が雇った殺し屋ってとこだろう。


 単独行動をしている怪物。


 仲間に引き入れたいが、おそらく無理だろう。


 殺しを仕事にしている奴が仲間に成るとは思えない。




 空気が一変した。


 鏡華も俺も、敵を押し切るムードだった。


 だが、こいつにその流れを断たれた。


 こいつはかなり強い。


 二人でどうにかなるのか?


 零維世:「おい!」

 零維世:「遊間!」

 零維世:「まだか?」


 遊間:「見たらわかるだろ!」

 遊間:「時間の問題だ」

 遊間:「お前、ちょっとは手伝えよ!!」


 零維世:「うるさい!」

 零維世:「ヤバいのが出た!」

 零維世:「さっきの二人よりだぞ!!」


 遊間:「それは笑える」

 遊間:「お前、もう一回死ぬかもな!」


 零維世:「とにかく、早くしてくれよ!」


 遊間:「休憩させろよなー」


 鏡華:「彼、頼りになるの?」


 零維世:「間違いなく」


 大男は大剣を具現化させた。


 具現化させた剣はバカでかい。


 普通に考えて、振り回すには大きすぎる。


 普通に考えたらだが。


 こいつはたぶん普通じゃない。


 大男:「行くぞ」


 踏み込みが深い。


 俺と奴との間隔は、奴の間合いだ。

 

 バカでかい剣の間合い。


 俺は大盾ではなく、奴と同じような大きさの大剣で迎え撃つ。




 部分融合で出来た巨大な剣が、空中でぶつかり合い粉々に砕けた。


 鐘を鳴らしたような大きな金属音が鳴り響く。

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