第22話 光


 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。

 直樹:黒沼直樹。

    ベルの現世の姿。

    黒羽高校の数学と物理の先生。

    有名大学卒のエリート。

 十夜:黄山十夜。

    ファガスの現世の姿。

    有名大学の学生。

    香織と付き合っている。

 友介:青井友介。

    コナルの現世の姿。

    有名大学の学生。

    美月が好むものが好きになる性格。

 美月:黒戸美月。

    ニーナの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    芸能活動をしている。

    有名人。

 美弥子:篠宮美弥子。

     アリアの現世の姿。

     黒羽高校一年生。

     歌と物語にどっぷり浸かっている。

 香織:黒沢香織。

    リアンナの現世の姿。

    一流企業社員。

    十夜より年下に見える容姿。

 鏡華:黒崎鏡華。

    プロミの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    生徒会長。

    零維世と付き合っている。

 シロ:黒巣壱白の分かれた半身。

    『ロストエンド』のマスターだった。

    『能力』者部隊の元隊長。





 俺が奴なら、どうする?


 奴は勝たないといけない。


 自分の半身を取り戻し、世界の均衡を守る。


 確実に勝ちに来る。


 組み合いには来ないだろう。


 奴からは俺が見えている。


 俺からは見えていない。


 組むとその差がなくなってしまう。


 確実さを取るなら、不意打ちを続け、俺の体力を削りに来る。



 再び俺は腹を括った。


 スライドでの後退を止めた。


 さっきと同じ事をまたやる。


 奴に俺の意図は読めているだろう。


 だが関係ない。


 出来る事は一つしかない。


 カウンターを狙う事。


 それだけだ。


 まずはタイミングを合わせる。


 明後日の方向でも良い、タイミングを合わせる。


 何度殴られても起き上がり、カウンターを狙い続ける。


 徐々にアジャストしていく。


 攻撃のリズムを読む。


 出来る事はそれだけだ。


 来る。



 俺は右腕を力いっぱい振り抜いた。


 俺の顔面に拳が突き刺さる。


 俺の右腕には手ごたえが無い。


 逆に合わされてしまった。


 タイミングはどうなったかって?


 俺が振り抜くのに合わせて来やがったら、調整も何もない。


 手詰まりだ。


 顎にモロに入った。


 脳が揺さぶられ、足に力が入らない。


 右膝を付いてしまった。


 俺が奴なら、畳み掛けて来る。


 これで詰みかもな。


 そんなことが頭をよぎる。



 思考が加速する。


 他のメンバーがこの局面を打開するなら、どうしているのだろうか?


 ふと、そんな事を考えた。


 融合者には神獣がいる。


 部分融合も使える。


 こっちの世界では力が制限されるが、極限状態だとどうだろう?


 結界も使えないらしいが、他のメンバーなら、鏡華なら、どうだろう?


 俺は首にナニカ巻かれて力を制限されている。


 時間が静止していなければ、呼吸も苦しくなっている筈だ。


 今、この場所が『トゥルーオーシャン』だとしたら、俺は何らかの力を解放出来たのか?


 …………。


 

 現実世界と『トゥルーオーシャン』の違いとは?



 チリチリと光る何かが見えた気がした。



 片膝を付いて下を向いていた俺は、首を上に動かし、奴の蹴り上げを避けた。



 現実世界と『トゥルーオーシャン』の違いとは?


 特に違いは感じなかった。


 普通に呼吸出来た。



 チリチリと光るナニカが見えてきた。



 答えは出ている。


 解かりきった事だ。


 二つの世界に違いなど無い。


 あるとしたら世界の大きさと、魔物がいるかどうかだけだ。


 つまり、可能性を制限しているのは、自分自身だ。


 俺には以前、ランプがあった。


 仮面の男に持っていかれた。


 エネルギーを炎として認識する能力。


 今見えている光は何なのだろうか?


 ランプとは別のナニカが見えている。


 暗闇だが、明るい。


 キラキラと何かが瞬いている。


 俺は、俺達は、未来を信じるのだ。


 見えているのは希望の光だ。


 可能性の光を感じるのだ。


 俺にはそれが出来る。



 奴が蹴り上げた右足を俺は躱した。


 奴はそれを確認し、左足で横に蹴りを入れてきた。


 俺は頭を後ろに逸らし、避ける。


 奴が驚いているのを感じる。


 俺と奴とはもう別の存在だ。


 俺には希望の光が見える。


 奴には見えていない。


 俺は立ち上がって両腕を構えた。


 俺にはキラキラと光り輝く未来が待っている。


 それが俺の望んだ『能力』だ。


 対価は必要ない。


 俺自身が見つけ出した。



 奴は左ジャブで牽制の後、右ストレート。


 俺はカウンターを合わせる。


 二発の左に右を被せ、最後の右を左でクロスカウンター。


 三発喰らわせた。


 全部に体重が乗っている。


 奴はもう立てない。


 俺にはもう負ける未来が見えない。


 負けないと信じているからだ。


 俺は、首に巻き付いたナニカに手を掛けた。


 首と同化しているが、これを取らないといけないと本能で感じている。


 俺は引きちぎった。


 首の肉が抉れた。


 俺は首の傷を塞ぐイメージを具現化した。


 脳に強い負担が掛かる。


 あまりの頭痛に気を失った。


 



 バランサー:「起きてください」


 シロ:「和馬か、俺はどうなった?」


 バランサー:「気を失ったのです」

 バランサー:「ですが、試練は終わっていません」


 シロ:「……、次の試練は何だ?」


 バランサー:「私に一撃入れてみてください」


 シロ:「それが試練か?」


 バランサー:「そうです」


 シロ:「手加減は無い」

 シロ:「全力を出す」


 バランサー:「どうぞ」


 俺は刀を具現化し、斬撃を飛ばす。


 和馬は器用に躱す。


 俺は躱された斬撃を反射板で反射させ和馬を狙う。


 やはり和馬は躱す。


 その間に間合いが詰まった。


 俺はキラキラと輝く未来に従って刀を振り下ろした。


 和馬は右腕でガードする。


 俺はカットを使い、切断をイメージする。


 キン、と金属音がして刀が折れた。


 バランサー:「どれほどの未来予知でも、予測出来ているに過ぎない」

 バランサー:「管理者に到達する力ではない」


 シロ:「なるほど」

 シロ:「俺は俺の役目がわかった」

 シロ:「訓練は終了か?」


 バランサー:「ええ」

 バランサー:「お疲れ様です」


 シロ:「戻してくれ、シャワーを浴びたい」




 空間が収縮し、明るさを取り戻す。


 『ロストエンド』に戻って来た。



 シロ:「俺の他は誰が試練をクリアしたんだ?」


 鏡華:「私よ」


 シロ:「愛だな」


 美月:「そんなセリフ、良く照れないね」


 シロ:「誤解するな」

 シロ:「俺のセリフじゃない」

 シロ:「和馬が言っていたセリフだ」

 シロ:「すべての答えは愛にある、らしい」


 直樹:「確かに言っていました」


 友介:「そんな事言ってたか?」


 百枝:「喫煙所の話ね」


 美月:「そのセリフが重要なの?」


 シロ:「たぶんな」

 シロ:「鏡華、何か思いつく事は?」


 鏡華:「あるわ」

 鏡華:「私の右耳にピアスがあるでしょ?」


 美弥子:「あるね」

 美弥子:「つまり?」


 鏡華:「零維世の左耳にもピアスがある」


 香織:「赤いピアス?」


 鏡華:「その通り」


 直樹:「鏡華のは黒」

 直樹:「部分融合か」


 十夜:「試練を突破するとどうなるんだ?」


 シロ:「個人差がある」

 シロ:「どうなんだ?」


 鏡華:「内緒」

 鏡華:「でも、訓練のおかげでピアスから居場所を感知できそう」


 美月:「愛ね」


 鏡華:「まーね」


 友介:「俺達はしばらく出番なしかもな」


 美弥子:「そうかも」



 

 ☆          ☆



 青い髪がレミ、赤い髪がミアか。


 二人は灰色のマスクをした。


 レミが剣と盾、ミアが弓を構える。


 部分融合が完全に使えていた。


 マスクに秘密が有りそうだ。


 俺は傷が酷くて満足に歩けない。


 弓は躱すんじゃ無く、弾くしかない。


 詰んでいるな。


 こういう場合、遊間に期待したいが、見た感じ無理そうだ。


 やるだけやってみるか。


 最後の力を振り絞る。


 俺は右手に剣、左手に盾を具現化させた。


 レミが右手の剣を振り降ろす。


 左手の盾で受け止める。


 盾で防いだタイミングで矢が飛んでくる。


 右の剣で弾く。


 弾いたタイミングで、右手に斬撃。


 手首から先を切り落とされた。


 瞬間手首から先を部分融合で剣にする。


 右で全力の突きを放つ。


 弓を持ったミアを光の突きで狙う。


 ミアは弓を手放し、大盾を創り出して防御した。


 俺は左手の盾を槍に変化させ、レミを牽制する。


 槍で盾を押し出し、距離を取る。


 レミは右手の剣をハンマーに変化させ、槍に打ち付けた。


 衝撃で槍が明後日の方向に飛ばされる。


 レミはそのまま突進し、俺の左肩にハンマーを振り下ろした。


 俺の左肩はぐしゃりと潰れた。


 左腕が上がらない。


 右腕を振り回し、レミを遠ざける。


 左肩からの出血が止まらない。


 部分融合でどうにかなる潰れ方ではない。


 足の痛みも酷い。


 俺は痛みで膝を付いてしまった。


 

 レミ:「勝負あったわね」


 ミア:「油断しない!」


 レミ:「そうね」

 レミ:「まだわからない」


 零維世:「はぁー、油断しろよ」

 零維世:「どう見ても動けないだろ?」


 ミア:「何故部分融合が使えるの?」

 ミア:「呼吸はどうしてるの?」


 零維世:「どうだろうな?」

 零維世:「どう思う?」


 レミ:「……、時間稼ぎか?」

 レミ:「その意味は?」


 零維世:「……、さあな?」

 零維世:「別にいつでもいいぞ、かかって来い」


 レミとミアは薙刀を振り下ろした。


 俺は結界を多重展開。


 防いだ瞬間、瞬間移動し、二人の真後ろへ移動。


 双剣で二人の首を払った。



 零維世:「クッソーー!!!!!!」


 二人は霧化して攻撃を回避。


 俺は薙刀を喉元に突き付けられた。


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