第21話 暗闇

 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。

 直樹:黒沼直樹。

    ベルの現世の姿。

    黒羽高校の数学と物理の先生。

    有名大学卒のエリート。

 十夜:黄山十夜。

    ファガスの現世の姿。

    有名大学の学生。

    香織と付き合っている。

 友介:青井友介。

    コナルの現世の姿。

    有名大学の学生。

    美月が好むものが好きになる性格。

 美月:黒戸美月。

    ニーナの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    芸能活動をしている。

    有名人。

 美弥子:篠宮美弥子。

     アリアの現世の姿。

     黒羽高校一年生。

     歌と物語にどっぷり浸かっている。

 香織:黒沢香織。

    リアンナの現世の姿。

    一流企業社員。

    十夜より年下に見える容姿。

 鏡華:黒崎鏡華。

    プロミの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    生徒会長。

    零維世と付き合っている。

 シロ:黒巣壱白の分かれた半身。

    『ロストエンド』のマスターだった。

    『能力』者部隊の元隊長。




 和馬は煙を吐き出した。


 喫煙室に灰色の気体が充満する。


 俺に軽いのを吸わせても、お前が濃いの吸ってたら意味なく無いか?


 副流煙の方が身体に悪いんじゃ無かったか?


 百枝は一本で終わりらしい。


 片付けて出て行こうとする。


 バランサー:「百枝さん、手を」


 百枝:「どうしたの?」


 百枝は手を差し出す。


 和馬は百枝の手を触っている。


 バランサー:「私が贈った指輪が見たくなりました」


 百枝:「見たくなったって、手に触りたくなっただけじゃない?」


 バランサー:「確かに、気が変わりました」


 ?


 意味がわからない。


 直樹を見る。


 首を横に小さく振る。


 そうだよな。


 わからないよな。

 


 でも、意味深だ。


 何かある。



 百枝は出て行った。

 


 三人無言でタバコを吸った。


 けだるい時間が流れる。


 …………。



 最後の意図はわからなかった。




 喫煙室から出ると周囲が騒がしい。


 全員揃った様だ。


 鏡華:「状況を説明して」


 直樹:「では、僕が」


 バランサー:「私はしばらく席を外します」

 バランサー:「今後の手筈は百枝さんに話してあります」

 バランサー:「仕上げになったらまた来ますよ」

 バランサー:「それでは」


 直樹は、鏡華、美弥子、十夜、香織に事情を説明する。


 瑠璃と百枝も一緒に説明を聞いた。


 鏡華:「シロさん、この先どうするつもり?」


 シロ:「和馬はまだ情報を全て話していない」

 シロ:「これは奴と長年接してきた俺の勘だ」

 シロ:「話さないのには理由が有る」

 シロ:「理由は、実力不足という事だろうな」


 十夜:「力を引き出してくれる、ってのは必要に迫られてって事か」


 シロ:「まあな」

 シロ:「次に何をすれば良いかは……」


 美弥子:「百枝さんかしら?」


 シロ:「そうなる」


 百枝:「その前に、何か飲んで落ち着いて」

 百枝:「出来れば他に何かつまんだ方が良いわ」


 美月:「理由を聞いても良いの?」


 百枝:「端的に言うと、止まった時の中でハードな訓練を行ってもらう」

 百枝:「不眠で」


 友介:「不眠好きだなー」


 百枝:「追い詰められなきゃ、扉は開かない」


 瑠璃:「シロ以外では誰か一人がクリア出来れば上等よ」

 瑠璃:「そういう難易度」


 シロ:「俺の扱いが謎だ」


 香織:「すべてが物語なら、貴方は必然じゃない」

 香織:「そんな事も解らないの?」


 十夜:「香織、言い方悪いよ」


 香織:「はっ」

 香織:「そうね、ごめんなさい」


 シロ:「気にするな」

 シロ:「……」

 シロ:「必然か、そうかもな」


 鏡華:「今この空間は時間が静止してるのね?」


 百枝:「ええ」

 百枝:「そうよ」


 鏡華:「なら焦っても仕方ないか」

 鏡華:「コーヒー頂いて良いかしら?」


 瑠璃:「いいわよ」

 瑠璃:「みんな、自由に注文してね」


 友介:「なら、俺はアイスコーヒーとミックスサンド」


 直樹:「さっき食べたとこでしょ」

 直樹:「僕はウーロン茶を」


 十夜:「ホテルにいたんだよな?」

 十夜:「何食べたんだ?」

 十夜:「俺はホット」


 シロ:「中華料理だ」

 シロ:「四川風」

 シロ:「辛くてうまかった」

 シロ:「俺もホット頼む」


 十夜:「中華か」

 十夜:「最高級なんだろ?」

 十夜:「想像付かないな」


 香織:「今度行く?」


 十夜は頷いて返す。


 香織は優しく笑い返す。


 美弥子:「美月、麻婆豆腐食べたでしょ?」

 美弥子:「私はミルクとタマゴサンド」


 美月:「うん」

 美月:「食べた」

 美月:「美味しかった」

 美月:「今度は三人で行きたいね」

 美月:「私は水下さい」


 鏡華:「麻婆豆腐かー」

 鏡華:「いいなー」

 鏡華:「辛いのが食べたい気分だわ」


 百枝:「同じのが出せるけど?」

 百枝:「食べる?」


 鏡華:「食べる!」

 鏡華:「ライスも下さい」

 鏡華:「もしかして、ここで作って無いの?」


 百枝:「なら麻婆丼でいい?」

 百枝:「奥のマイクに注文すると、カウンターに出現するのよ」


 香織:「便利すぎる」

 香織:「私は水とカルボナーラで」


 シロ:「そうだっけか?」

 シロ:「情報を抜かれたから覚えがない」


 瑠璃:「一人で喫茶店回すのは無理じゃない?」


 シロ:「出来ても飲み物だけか」


 瑠璃:「そうそう」


 十夜:「ならもう少し追加しよう」

 十夜:「マグロの握りセットお願いします」


 友介:「俺も、カツ丼追加で」


 美月:「太るよ?」


 友介:「……、カツ丼キャンセルします」


 美弥子:「相変わらずの力関係」


 鏡華:「零維世は食べてないんでしょうね」


 シロ:「たぶんな」


 十夜:「だな」


 友介:「俺達は自分にできる事するだけだぞ」


 香織:「まーね」


 美弥子:「そーそー」


 美月:「兄貴の分まで寛ごう」


 鏡華:「それは何か違くない?」



 食事が終わった。


 次は訓練とやらだ。



 百枝:「始めるわよ」

 百枝:「いい?」


 皆が頷く。


 百枝は、指をパチンと鳴らした。


 『ロストエンド』の室内がどんどんと広がっていく。

 

 本棚や机が周囲に吸い込まれていく。


 空間はさらに広がり、辺りは暗くなる。


 俺の隣には、十夜が居たが、今は確認できない。


 おそらく空間は無限に広がり、一人一人が分断された。


 真っ暗で、何も見えない空間に取り残された。


 何が始まるのだろうか?


 百枝:「そいつに勝利して」


 

 鋭い殺気を感じる。


 来る。


 殺気の来る方向をガード。


 右腕に拳が当たる感覚。


 衝撃は二連続。


 素早い衝撃が右腕を貫く。


 ボクシングか?


 ならば、次はストレート?


 見えない敵の攻撃は重い。


 ストレートをガードすると数発で左腕がダメになる。


 左腕を温存したい。


 勘を頼りに、敵の右ストレートを俺の右側に避ける。


 避けたと錯覚した瞬間、俺の顎を衝撃が突き上げる。


 敵の左のショートアッパーらしい。


 予想出来る筈が無い。


 躱すのは不可能だ。


 綺麗に入ってしまった。


 寝転がるととどめを刺される。


 一瞬飛んだ意識を、足に集中する。


 三歩ほど後退しながら、踏みとどまる。


 暗闇の空間だ。


 どこに立っているか、視覚で確認できない。


 何もかも、全ては自分の感覚に頼るしかない。



 大きな殺気。


 体重の乗った攻撃だろう。


 勘で顎付近をガードする。


 敵の右足を左腕でガードした。


 敵はやはり人型らしい。


 俺の『能力』は制限されているが、触れた対象の思考を読むことが出来る。


 今奴の右足に触れている。


 思考を読んだ。


 敵から流れ出て来る思考は、俺だ。


 敵は、俺だった。


 奴には俺が見えている。


 違いはそれだけ。


 行動パターンから、抱えている思いまで、全て俺自身だ。


 今使える『能力』に至るまで、全く同じだろう。


 俺は、俺は勝たないといけない。


 奴の右足を両手で掴み、スライドで奴に向かって高速移動する。


 奴は左足を起点に後ろにスライドする。


 俺の考えが奴に読まれている。


 押し込んで寝技に持ち込むのは無理だ。


 掴んだ足を捻り、右足を破壊しようとする。


 捻ろうとしたと同時に奴は飛び上がって左足で俺の頭を狙ってくる。


 俺は右腕で防御。


 奴の右足を俺の左腕だけで固定できなくなり、離すしかなくなった。


 奴の気配が無くなる。


 組み合った時に、俺の視界が潰れているのがバレたんだろう。


 距離を取って不意を突いてくる様だ。


 静寂。


 鳩尾を下から突き上げられた。


 三歩後退。


 左頬に強い衝撃。


 奥歯が二本折れた。


 意識が飛ぶ。


 何をされたかわからなかった。


 殺気が無い。


 読めない。


 相手が俺なんだ。


 殺気くらい消せる。


 もう一撃貰うと、たぶん詰みだ。


 留めを貰って立てなくなる。


 不眠不休の戦いだと?


 そんなに長引く訳が無い。


 ここが正念場だ。


 仕方が無い。


 無様だが、時間を稼ぐ。


 俺は全速力で後ろにスライドする。


 真っ暗闇で感覚が麻痺しているが、下がっている筈だ。


 そして、奴から俺が見えてるなら、追ってきている。


 奴から俺は丸見えだ。


 奴がやってきたように不意打ちで仕留める事は出来ない。


 奴の位置も解らない。


 カウンターしか選択肢が無い。


 そして、その事はバレバレだ。


 バレバレだが選択肢が無い。


 やるしかない。


 全く気配の無い、俺自身に、それを上回るカウンターを仕掛ける。


 腹を括る。



 俺は静止した。


 間髪入れず、俺は顎に強い衝撃を感じ、後ろに吹き飛んだ。



 カウンター?


 出来る訳無い。


 なすすべが無かった。


 勝てる気が全くしない。


 心が折れそうだが、続ける。

 

 俺はまだ死んでいない。


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