第20話 喫煙室
零維世:黒戸零維世。
レイセの現世の姿。
黒羽高校二年生。
副会長。
芸能活動をしている。
直樹:黒沼直樹。
ベルの現世の姿。
黒羽高校の数学と物理の先生。
有名大学卒のエリート。
十夜:黄山十夜。
ファガスの現世の姿。
有名大学の学生。
香織と付き合っている。
友介:青井友介。
コナルの現世の姿。
有名大学の学生。
美月が好むものが好きになる性格。
美月:黒戸美月。
ニーナの現世の姿。
黒羽高校一年生。
芸能活動をしている。
有名人。
美弥子:篠宮美弥子。
アリアの現世の姿。
黒羽高校一年生。
歌と物語にどっぷり浸かっている。
香織:黒沢香織。
リアンナの現世の姿。
一流企業社員。
十夜より年下に見える容姿。
鏡華:黒崎鏡華。
プロミの現世の姿。
黒羽高校一年生。
生徒会長。
零維世と付き合っている。
シロ:黒巣壱白の分かれた半身。
『ロストエンド』のマスターだった。
『能力』者部隊の元隊長。
ホテルに入ると三人が俺を心配そうに見ていた。
直樹:「どうなりました?」
シロ:「何かされたみたいだ」
シロ:「この首に巻き付いてる何かが『能力』を減衰させている」
友介:「……」
友介:「物理的なダメージは無かったんだな?」
シロ:「まーな」
シロ:「心配させて悪い、油断した」
友介:「誰にだって油断はあるからな」
友介:「責められないな」
美月:「今使える『能力』について説明して」
シロ:「敵は追って来ないみたいだし、ちょっと座って話そう」
ホテルのロビー。
テーブルセットに四人で座って話をする。
俺は使える『能力』について説明した。
俺は説明を終えた。
直樹:「そろそろじゃ無いですか?」
美月:「たぶんね」
俺達が入って来た正面扉が開く。
大理石のロビーに、コツコツと革靴で歩く音が響く。
煩い音じゃない。
何故か静な印象を受ける。
上品な音だった。
コツ。
コツ。
和馬:「お待たせしました」
美月:「お父さんて人を待たせた事あったっけ?」
友介:「そういうジョークなんだろ」
友介:「タイミング良すぎ」
直樹:「予想通りで笑えます」
シロ:「和馬、少し話を聞かせてくれ」
シロ:「今どうなってる?」
和馬:「貴方は相変わらずですね」
和馬:「素直に答えを教えても良いですが、教育役として質問をしましょう」
和馬:「貴方の推理は?」
シロ:「お前は義父として息子を守っていた」
シロ:「零維世に手を出すという事は、お前に喧嘩を売るのと同じ事だ」
シロ:「お前の敵対グループが組んで、クロスに妨害を仕掛けてるんだろ?」
シロ:「敵は賭けに出てる筈だ」
シロ:「お前は俺達のとばっちりだが、俺達と組んで後続を断たないといけない」
和馬:「正解です」
和馬:「この後、貴方と一戦交えてお灸をすえる計画でしたが、必要なさそうですね」
和馬:「失敗の後も戦意を忘れていない」
和馬:「貴方はすぐに諦めますからね」
シロ:「うるさい」
シロ:「俺は諦めた事なんてない」
シロ:「諦めて捨て鉢になった馬鹿も全て取り戻す」
和馬:「期待しています」
友介:「落ち着けるなら、まず何か食べる物用意して貰えない?」
直樹:「いいですね」
直樹:「お昼ご飯がまだでした」
和馬:「食堂に案内します」
和馬:「このホテルは中華がお薦めです」
美月:「辛いの食べたいなー」
和馬:「ふふ、ここは四川風です」
友介:「ハズさないなー」
直樹:「美月の発言で改変が起こったのでは?」
シロ:「さあな」
シロ:「今の一言で改変されてたらどうしようもないぞ」
和馬:「手品はネタがバレるとつまらないですよ」
俺達は中華料理を堪能した。
食事中に得た情報は少ない。
俺の推理は正解で、それ以上は自分達で調べろ、と。
クロスグループは妨害からの回復に全力を使っているらしい。
動けるのは和馬だけ、らしい。
和馬は自分個人が攻撃を受けていないので、個人で動けない。
それが和馬の理屈だ。
但し、ホテルを安全地帯として提供してくれる。
敵とは情報戦のみを行っているらしい。
物理的な勝負になると、クロスが圧勝する。
クロスは、目には目を、の反応しかしないと敵はわかっているらしい。
つまり、ホテルには手を出して来ない。
来れない、と言い換えよう。
そして、仲間との連絡も手伝ってくれる。
さらに、これが最も意外だったが、俺達の力を引き出すコツを教えてくれる事に成った。
大盤振る舞いだ。
食後しばらく休憩し、和馬が声を掛けてきた。
目的地は地下に有るらしい。
五人でエレベーターに乗り込む。
和馬はエレベーターの表示パネルの下にある蓋の鍵を開けた。
蓋の下にはレバーがあった。
和馬はレバーをグイと下に押し込んだ。
ガコン、と音が鳴り、エレベーターが横にスライドする。
しばらく横にスライドした後、今度は降下する。
通常のエレベーターより足に掛かる重力が軽い。
相当なスピードで降下している。
バランサー:「そろそろです」
和馬がそう言うと途端に減速する。
減速の所為で慣性が足に掛かる。
俺でさえ膝をつきそうだ。
シロ:「まだか?」
バランサー:「あと五秒です」
五秒後、足への負荷が消えた。
一瞬の静止。
チン。
扉が開く。
エレベーターの扉が開いたが、前を何かが塞いでいた。
和馬は塞いでいる何かを前にズラす。
前にスライドさせると、自動で横に滑って移動し、視界が開ける。
見た事ある空間だ。
この空間で何時間過ごしたか。
『ロストエンド』だった。
長月瑠璃と樹百枝が出迎える。
瑠璃:「久しぶり」
瑠璃:「調子はどう?」
シロ:「失敗続きで参ってる」
シロ:「今日は優し目に応対してくれ」
瑠璃:「ふふ」
瑠璃:「わかった」
瑠璃:「優し目ね」
友介:「まえから聞こうと思ってたけど、二人の関係って今どうなってるんだ?」
シロ:「どうともなってない」
瑠璃:「付き合ってるわ」
美月:「うあーー」
直樹は無言で友介の頭を叩いた。
シロ:「誤解するな」
シロ:「別れた半身をどうにか出来たら考えるって返事しただけだ」
瑠璃:「考える余地が出たんなら、恋人は確定じゃない」
瑠璃:「絶対よ」
百枝:「瑠璃は成長したわよね」
百枝:「どっかのバカは相変わらずだけど」
シロ:「伝説のリーダーにバカって言うなよ」
百枝:「そんなことより」
バランサー:「ハニー、ただいま」
百枝:「おかえり、ダーリン」
二人は抱き合っている。
抱擁が長い。
……。
長い。
……。
長い。
直樹:「ゴホン」
直樹:「そろそろ、本題に入って頂けますか?」
二人は抱き合うのを止めた。
そして見つめ合い、また抱き合おうとするので、俺と友介で引き剥がした。
バランサー:「一週間ぶりに会ったんですよ!」
バランサー:「いいでしょう?」
百枝:「そうよ!」
百枝:「彼の仕事を増やさないで!」
友介:「えー!?」
友介:「ご、ごめんなさい?」
美月:「謝らなくていいから」
美月:「で?」
美月:「仲間への連絡は?」
瑠璃:「ヤスとトキが動いてくれてる」
百枝:「すぐにここに来るわ」
シロ:「しばらくここで時間を潰すのか?」
バランサー:「そうなります」
シロ:「タバコくれ」
バランサー:「私も付き合います」
直樹:「偶には僕もご一緒しますよ」
百枝:「じゃあ、私も行こうかな」
四人が喫煙室に移動した。
美月:「何が良いんだか」
友介:「同感」
瑠璃:「口寂しいなら、私がいるのに……」
美月、友介:「…………」
喫煙室には独特の雰囲気がある。
直樹が付いてきたのはそれが理由だろう。
和馬はたぶん情報を出してくれる。
だから付き合うと言ってくれた。
百枝は補足してくれるかもな。
和馬は手に持ったカバンからタバコとライターを出した。
俺は和馬からライターとタバコ一本を受け取った。
タバコはニコチン一ミリグラム。
市販の比較的健康的なのだ。
身体を気遣ってくれている。
ライターは高級品だ。
タバコを咥えて火を付ける。
タバコの先が赤く燃える。
俺は深く息を吸い込んだ。
スゥー。
吐く。
ハァー。
直樹も和馬に貰って吸っている。
百枝は自分のを出した。
和馬は葉巻を出して吸っている。
バランサー:「まだ、上手く呼吸出来るようですね」
まだ、まだね。
早速ヒントだ。
どうやらこの首に巻き付いたナニカは呼吸に影響するらしい。
直樹と目が合った。
意味が通じたらしい。
聡い。
良い感じだ。
シロ:「ふ、ああ、まだ何ともない」
直樹:「クロスグループに噛み付くとは剛毅ですね」
バランサー:「全くです、それだけに予想外でした」
百枝:「カウンターが成立するのに三日だっけ?」
百枝:「たったそれだけの為によくやるわ」
なるほど。
三日間か。
三日耐えれば妨害は無くなると。
直樹を見る。
彼は頷いた。
まだ行けるか?
もう少し情報が欲しい。
シロ:「零維世を捕捉出来ているのか?」
直球だ。
無事を確かめたい。
バランサー:「捕捉は出来ていません」
バランサー:「死んではいないようです」
シロ:「捕捉できていないのに、死んでないと解るのか?」
バランサー:「わかります」
バランサー:「絶対に死んでいません」
バランサー:「神に誓って」
シロ:「茶化すな」
シロ:「なら、どうやって助ければいい?」
バランサー:「答えは愛にあります」
バランサー:「いついかなる時も、愛が答えです」
百枝:「……」
シロ:「……」
直樹:「……」
愛。
抽象的過ぎる。
後で解かるヒントとかクソの役にも立たない。
スゥー。
ハァー。
もう少し粘る。
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