第19話 尾行

 零維世:黒戸零維世。

     レイセの現世の姿。

     黒羽高校二年生。

     副会長。

     芸能活動をしている。

 直樹:黒沼直樹。

    ベルの現世の姿。

    黒羽高校の数学と物理の先生。

    有名大学卒のエリート。

 十夜:黄山十夜。

    ファガスの現世の姿。

    有名大学の学生。

    香織と付き合っている。

 友介:青井友介。

    コナルの現世の姿。

    有名大学の学生。

    美月が好むものが好きになる性格。

 美月:黒戸美月。

    ニーナの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    芸能活動をしている。

    有名人。

 美弥子:篠宮美弥子。

     アリアの現世の姿。

     黒羽高校一年生。

     歌と物語にどっぷり浸かっている。

 香織:黒沢香織。

    リアンナの現世の姿。

    一流企業社員。

    十夜より年下に見える容姿。

 鏡華:黒崎鏡華。

    プロミの現世の姿。

    黒羽高校一年生。

    生徒会長。

    零維世と付き合っている。

 シロ:黒巣壱白の分かれた半身。

    『ロストエンド』のマスターだった。

    『能力』者部隊の元隊長。






 零維世は狙われる。



 和馬から連絡があった。


 俺は零維世に黙って彼を尾行する事にした。


 本人に伝えると、不自然さが出てしまい、護衛しているのが周囲にバレてしまう可能性がある。



 尾行を始めて数日、やはり動きがあった。


 和馬の掌の上から出られない。


 和馬を信じて良いかは依然として不明だ。


 俺は迷いを感じながら、爆発を反射板で防御した。

 


 零維世が俺とは逆方向に吹き飛んだ。


 一般人と同化していた気配が一斉に零維世を確保に動く。


 零維世は助けられない。


 敵の数が多過ぎる。


 距離も離れすぎていた。


 零維世は頼りになる奴だ。


 放っておいても自分で何とかするはずだ。


 それよりも、零維世が自由に動けるよう俺に出来る事をやる。


 爆発の瞬間、俺はそう判断した。



 車の仲間を助ける。


 そう、仲間だ。


 仲間を人質に取られると、零維世は自由に動けない。


 それを助けるのが俺の役目だ。



 俺はもう、自分の力を過信しない。


 どんなに気を張っていても回避不可能なことは起こってしまう。


 起こった後、どういう反応をするのか。


 起こらないようにするのも大切だが、それで終わりじゃない。


 一度や二度の失敗に引っ張られ、その後すべてをふいにする事は出来ない。



 諦めなければ、挽回の余地も出て来る、かもしれない。



 俺は『能力』で高速移動した後、大きく跳躍。


 天井に向かって飛び上がった車を追従する。

 


 跳ね上がった車から四人が出ようとしていたが、ドアが歪んで出られないらしい。

 

 俺に遅れて近づいてきた気配は四つ。


 おそらく敵だ。


 俺は『能力』で車を縦に両断した。


 四人が出られた。


 四人が地面に受け身を取る。


 俺の存在に驚いて、敵が散っていった。


 直樹:「シロさん、助かりました」


 シロ:「……ああ」


 友介:「いててて、殺す気は無かったようだけど、使う手が過激過ぎるだろ」


 美月:「……」

 美月:「狙いは兄貴?」


 シロ:「たぶんな」


 美月:「兄貴の気配を索敵範囲内に感じない」

 美月:「不味くない?」


 直樹:「……」

 直樹:「僕らが拘束されなきゃ、自分でなんとかする人です」


 シロ:「同意見だ」


 友介:「……」

 友介:「シロさん、携帯生きてるか?」

 友介:「俺のは死んでる」


 シロ:「ああ、メールを残りの仲間全員に一斉送信する」

 シロ:「!」

 シロ:「ダメだ、電波が来てない」


 直樹:「敵は用意が良い」

 直樹:「まずこの場を離れましょう」


 友介:「賛成」


 駐車場は地下だった。


 この階の階段は爆破された車から遠い場所にあった。


 急いでいた俺達はエレベーターを選んだ。


 エレベーターに向かう。



 二つあるエレベーターの表示は、二つ共地上四階。


 二つが同時に下に降りて来る。


 無言が続く。


 三。


 二。


 一。


 チン。


 右のエレベーターが開く。


 中身は空だった。


 俺達は乗り込んだ。


 一階を押す。


 すぐ上の階にのぼるだけだ。


 少し昇って。

 

 外に出る。


 …………。


 エレベーターの動きが止まった。


 …………。

 

 扉が開かない。

 

 不味い。


 そう思ったのと同時に、エレベーターがスウっと落ちた。


 足元に反射板を作り、天井を丸くくり抜く。


 エレベーターは地下四階まで落下、大きな音が鳴り響いた。


 友介:「こっちじゃ部分融合をうまく使えない」

 友介:「シロさんが居なきゃ切り抜けられなかった」


 美月:「……かも」

 美月:「やっかいなことになって来た」


 直樹:「とにかく建物から出ましょう」

 直樹:「数を揃えられると逃げ場が無くなります」


 俺達は外を目指す。




 数分後、建物の外に出た。


 日差しが眩しい。



 何事も無かったかのようだ。

 


 建物の外は路地だ。


 建物の外は通常通りの世界。


 サテライトで周囲を見回している。


 周りの動きに不自然さは感じない。


 念のため仲間に確認する。


 シロ:「俺には気配を察知する技能はまだ無い」

 シロ:「周囲の気配をどう捉えてるんだ?」


 直樹:「違和感は無いですが、気配は消す事や隠す事が出来ますから警戒は解けないですね」


 友介:「早く目的地を決めて移動しよう」

 友介:「たぶん時間が無い」


 美月:「敵は大掛かりだからお父さんの力を借りないと無理じゃない?」


 直樹:「中立の立場を守るのでは?」


 シロ:「……」

 シロ:「難しい所だが、奴は親としても振る舞ってるんだろ?」


 美月:「うん」


 シロ:「なら、力を貸してくれる可能性はある」


 美月:「でしょ?」


 嬉しそうに笑いやがって。


 青子を思い出す。


 友介が照れてやがる。


 直樹は二人を微笑ましそうに見ている。


 懐かしい感覚だ。


 友介:「決まったな」

 友介:「近くにクロスグループのホテルがあった筈だ」

 友介:「そこに向かおう」


 建物の前から移動を開始した。


 仲間の携帯が故障しているのに加えて電波障害もある為、俺のサテライトで案内する。

 

 周囲に人が多い、走らずに移動する。


 すれ違う人々に、美月が注目されている。



 美月は白いワンピースに黒いサングラス。


 帽子は被っていない。


 長いストレートな髪を隠していない。


 周りには誰だか完全にバレてるな。


 シロ:「もう少し服装を工夫出来ないか?」


 美月:「収録の後、着替えずに来たからしょうがないよ」

 美月:「荷物は車に置いてきたし」


 シロ:「どんどん集まって来てる」

 シロ:「声を掛けられても立ち止まるなよ」


 美月:「人が集まる理由は私だけの所為じゃ無いけどね」


 シロ:「?」

 シロ:「なんの事だ?」


 友介:「自分の容姿を忘れて無いか、って事」


 直樹:「黒戸美月の音楽グループと思われているのでは?」


 友介:「そんな感じだな」

 友介:「俺も見られてる」


 直樹:「僕もですよ」


 シロ:「お前らのは見られてる内に入らない」

 シロ:「気にするな」


 美月:「よく尾行できたね」


 シロ:「お陰で距離を取り過ぎて助けられなかった」

 シロ:「根本的に向いてない」


 直樹:「確かに」

 直樹:「笑える」


 友介:「っは」


 シロ:「うるせ」

 シロ:「笑ってんじゃねー」


 美月:「私も尾行向いて無いわー」


 友介:「まったくもってその通り」


 直樹:「そういうの余所でやって貰えます?」


 会話しながら歩いてると、突然声を掛けられた。


 握手して欲しいらしい。


 俺は握手した。


 シロのファン:「ありがとうございます」


 シロ:「なんでまた俺と握手なんて?」


 シロのファン:「美月さんがバンド結成したんじゃないんですか?」

 シロのファン:「噂になってますよ、良かったらお名前教えてください」


 シロ:「黒巣壱白だ」


 ファンは去って行った。


 美月:「声を掛けられても立ち止まらないんじゃなかったの?」


 直樹:「自分が握手を求められなかった事についてコメントは?」


 友介:「うあー」

 友介:「性格悪い」


 美月:「腹立つ」


 シロ:「……、立ち止まって済まない」


 美月:「……」


 友介:「……」


 直樹:「……」


 シロ:「なんだよ」

 シロ:「黙るなよ」


 直樹:「ヤスさんよりモテそうな人がいるとは」


 友介:「ヤスさんは計算だけど、シロさんは天然だからな」

 友介:「破壊力が違う」


 美月:「シロさん、歌は得意?」

 美月:「楽器は?」


 シロ:「声楽は少し」

 シロ:「楽器はピアノとヴァイオリンだな」


 友介:「スペックがヤバい」


 直樹:「美月より人気出るんじゃないですか?」


 美月:「確かに」


 シロ:「金に成るならやるぞ、貯金が減るばっかりで困ってるんだ」



 その後、美月が握手を求められる場面が何度かあったが、無事にホテルの前まで到着した。

 

 美月が先頭で、直樹、友介の順で中に入った。


 俺は最後。


 右手で扉に手を掛けた瞬間、左横から何かが飛んできた。


 とっさに左手を使って、『能力』で切断する。


 が、二つに分かれた何かは、空中を滑るように移動し、俺の首に吸い付いた。


 やられた。


 油断した。


 首に巻き付いた何かは、首と同化しやがった。


 目の前がブラックアウトする。


 視界が狭まっている。


 サテライトが二つしか使えない。


 スライドは使える。


 カットは無理そうだ。


 リフレクトも出ない。


 俺は敵が畳み掛けて来るのを警戒し、急いで建物の中に入った。


 『能力』が制限された。


 和馬の出方次第では、戦闘になるかもしれない。


 戦いは、『能力』や部分融合でするものじゃ無いって事を教えてやるか。

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