第18話 苦戦
零維世:黒戸零維世。
レイセの現世の姿。
黒羽高校二年生。
副会長。
芸能活動をしている。
遊間:神木遊間。
SS級冒険者連合『トゥエルブ』のサブリーダー。
誰もが認める二番手。
木都宮里達三人は意識を取り戻し、別ルートでクロスグループ本社に向かう事になった。
彼女達は携帯を持っていなかった。
彼女達は身分証を隠している場所に向かってから本社に向かう。
俺達を信用してくれるらしい。
倍額で雇い返すと言ったら喜んでくれた。
灰崎はかなりいけ好かない奴らしい。
こっちが連絡できるように成れば、名刺の番号に連絡する。
それまでは接触しない。
彼女達が人質に取られても、俺達二人は助けない。
狙われてるのは俺達二人だ。
彼女達の助けが入るのは最終段階まで行ってからに成るだろう。
もしかしたら助けが必要無いかもしれない。
その時はその時だ。
俺達二人は電話を借りてどこかに連絡するという手を諦めた。
どこへ行ってもことごとく電話線が切られている。
すべての場所で先回りされていて、準備が整っていた。
ガラの悪い奴等を相手にしない為に全力で走って逃げ続けている。
零維世:「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
遊間:「フッ、フッ、フッ、フッ」
零維世:「そ、そろそろ、山梨か?」
遊間:「ああ、さっき県境を越えた」
遊間:「どんどん行くぞ」
零維世:「お前、道に詳しいな」
遊間:「自転車が趣味なんだ」
零維世:「そうか、頼りにしてる」
遊間:「知ってるのは大きい道だけだ」
隠しもしない気配が複数近づいて来ていた。
零維世:「…………」
遊間:「…………」
零維世:「迂回路は?」
遊間:「あると思うか?」
一晩中走ってきて今やっと朝に県境を越えた所だ。
この体で徹夜をすることは少ない。
だが俺も遊間もダンジョン攻略で徹夜になれている。
筈だった。
本来なら徹夜は影響しない。
本来なら。
遊間はピンピンしている。
俺が問題だった。
首輪は喉に繋がっている。
どうやら呼吸に影響しているらしい。
一度に吸い込める酸素量が少なくなってきていた。
徐々に、徐々に減っている。
体力の問題じゃなかった。
三日以内という事は、三日あるって意味じゃ無かった。
まずい。
これはかなりまずい。
実はリズミカルに呼吸して誤魔化しながら走っていた。
遊間にはまだ言ってない。
状況が酷すぎて言えなかった。
気付くのが遅すぎた。
いよいよ俺一人じゃ無理になって来た。
遊間が協力してくれなきゃ絶対無理だ。
頼みの綱はいつも自分。
そう思って生きてきた。
その考えを捨てなきゃいけない。
遊間も言っていた。
一回圧し折れろと。
俺は真面目に考えてたか?
自分の力で何とかなるって思ってなかったか?
『トゥルーオーシャン』で女性に夢を見せて貰った時に俺は学びが足りなかった。
きっとそうだ。
もっと周りを頼りにしないと。
零維世:「遊間、実は……」
遊間:「はっ!」
遊間:「呼吸だろ?」
遊間:「兄貴が気に掛ける理由がわかって来た」
遊間:「お前は俺が守ってやる」
零維世:「遊間、恩に着る」
遊間:「恩じゃ無い」
遊間:「雇われただけだ」
遊間:「そんな事より、こんな垰道で仕掛けるとは……」
遊間:「来るぞ!」
敵の気配が素早く移動してくる。
かなり速い。
エンジン音が聞こえてきた。
バイクだ。
六台。
二人乗りしているバイクが四台。
十人で来やがった。
全員ライダースーツにフルフェイスヘルメット。
二人が女性。
この二人は顔が見えないが、立ち居振る舞いに雰囲気がある。
背丈も一緒。
香月姉妹か?
道路のカーブを利用してバイクを滑らせてきやがった。
六台のバイクが次々と突っ込んで来る。
巻き込まれたら一発アウトだ。
ガードレールにバイクがぶつかり大きな音が響く。
「ガン!! ガ! ガ! ガ! ガ! ガン!! ガシャーン!!!!」
滑ったバイクにバイクが重なり引火、大きな爆発音が響き渡る。
好みのバイクだった。
勿体ない事しやがる。
お前らこんな峠で足を失くしてどうやって帰るつもりだ?
ライダースーツで歩いて帰るか?
心の中で軽口を叩く。
実際は息が切れている。
消えかけのマッチになった気分だ。
バイクから飛び降りた人影からは目を離していない。
全員余裕で着地して俺達二人を取り囲んでいる。
後ろに控えた女性二人が同時に殺気を全開にする。
残りの八人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
静かに、深く息を吸い込む。
スゥーーー。
俺には二人、遊間に六人だ。
女性二人を認識できない。
消えた、殺気が大きすぎて居所がわからない。
俺担当の二人が連携してくる。
水月蹴りとハイキック。
躱せない。
水月蹴りを足で、ハイキックを腕でガードする。
二人は怯まず、水月蹴りとハイキックを入れ替えてきた。
ガードしか出来ない。
威力がある。
動作も素早い。
手練れだ。
遊間はどうしてる?
別の事を考えた瞬間、目の前にナイフが浮かんでいた。
頭を後ろに倒し、なんとか躱す。
前髪が何本か切られた。
ギリギリだ。
ヤバい。
何処から投げられたかわからなかった。
遊間:「香月姉妹から目を離すな!」
遊間:「死角に回り込んだぞ!」
遊間:「躱せよ!」
やっべ。
遊間ありがとう。
死角ね。
全く気配を感じないが、あいつが言うならいるんだろ。
連携している二人が左右から全力の掌底打ち。
かなり近い位置から放たれた。
両手で一方を抑え、もう一方を右ひざで蹴り上げた。
瞬間首をナイフが狙う。
防ぐ手立てが無い。
手も足も出ない。
どうする?
打つ手なしか?
圧し折れる前に死ぬぞ。
口でナイフに噛み付いて止めた。
流石俺。
何とかなるもんだ。
やっぱ最後に頼れるのは自分だけだな。
嘘だ。
油断した。
姉妹だった。
ナイフはもう一本あった。
左太ももに深々と突き立てやがった。
俺は長い間生きて来てこれほどモロに入れられた事は無い。
勝負を決める一手だ。
足をやられるとどうしようも無くなる。
痛みで呼吸が乱れる。
遊間:「馬鹿が!」
遊間:「何やってる!」
遊間:「俺が行くまで耐えろよ!」
すまん遊間
やっちまった。
とっさに短剣を振り回して、距離を取った。
が、左ももにはナイフが刺さったままだ。
香月姉妹を視覚の中に捉えている。
今頃捕捉できた。
痛みは我慢出来ている。
アドレナリンが全開で出てるんだろ。
俺は今興奮している。
その筈だ。
それを感じる。
俺は追い詰められてる。
冷静になれ、俺。
原因は?
何故追い詰められた?
呼吸を整える。
スゥーーー。
ハァーーー。
原因は連携してくる二人をすぐに始末しなかったからだ。
向こうは俺を殺しに来てるが、俺は相手を殺せない。
エレメント人みたいに出てきた瞬間消滅させられれば二人には勝っていた。
一つ答えが出た。
存在感にダメージを与える。
香月姉妹はそれだけでどうにか出来ないだろう。
順番に数を減らすしかない。
攻めないとたぶん耐えきれない。
俺は左ももからナイフを引き抜いた。
邪魔で動き辛い。
傷は部分融合で止血する。
痛みが残るが、出血死だけは免れる。
今まで俺は怖がっていた。
相手を殺してしまうんじゃ無いかと委縮していた。
今、集中力が増しているのを感じる。
俺は本番に強い。
その筈だ。
遊間に出来るんだ、俺もやれる。
圧し折れるのは、もっと先だ。
今じゃない。
やれるだけやる。
足の傷は深い。
全力で動けるのは数秒だけだ。
一気に行く。
体格のいい男二人が鏡合わせの様にハイキックを仕掛けてきた。
左腕で左側、右腕で右側を受け止める。
身体がガラ空きになる。
香月姉妹がナイフで刺して来る。
右足で一人の顔を蹴り上げる。
受け止めていた足を腕で押し返す。
だが左が間に合わない。
左脇腹にナイフが刺さる。
接近した姉妹の一人の腹を右で強打した。
女性は腹を抑えて蹲る。
俺は自分に刺さったナイフを放置し、連携している二人の首を部分融合の短剣で薙いだ。
綺麗に入った。
同時に二人倒れる。
たぶん殺していない。
存在感の急所に入ったから気を失ったんだ。
腹を抑えていた女性が、フルフェイスを脱いだ。
胃の中の物を外に吐き出している。
もう一人の女性もヘルメットを脱いだ。
「……」
「聞いてた通りね」
「油断できない」
「追い詰めてからが普通じゃない」
「ガッハッ!」
「ハー、ハー」
「で、どうする?」
「レミ?」
「アレを使うわ」
「……」
「わかったわ」
二人は胸ポケットからマスクを取り出した。
灰色のマスク。
二人はそれを装着した。
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